白地ちゃんねる2


小説

1:えころ :

2017/05/28 (Sun) 19:13:11

奇をてらったイロモノ駄文が多め。読みづらかったり状況が把握しにくいのはご愛嬌。
2:えころ :

2017/05/28 (Sun) 19:37:24

アルルと寝ルル

ここは田中の家。そしてそこにいるのはアルル。アルルの目的は田中と寝る(一夜を共にする)事!

「今日は田中と寝るもん!」

そーっと田中の部屋の扉を開けるアルル! 田中、熟睡中!

「そろーり……、そろーり……」

わざわざ忍足を口に出すアルル! 漫画的表現である! そして、田中の布団の前までついたアルル!

「……よし」

布団を剥がして田中の横で寝ようとすると、何とそこには!
田中の臀部(ケツ付近)には携帯型ジェット機(飛行機についてるアレ)が装着されていた!
ジェット気流に乗るように寝たまま宙に浮き上がり、そのまま窓ガラスをカチ割ってどこかへ飛んで行ってしまった!
呆然とするアルル! しかし、田中はもうそこにはおらず、一人寂しく一夜を過ごした! こうして一日目が終了!

二日目! 深夜! また田中の部屋の前にやってきたアルル!

「今日こそは……、田中と寝るんだい!」

やる気満々のアルルには悪いが、部屋の扉はオートロックが設置され、解錠できない!

「こうなったらっ! じゅげむで扉を破壊してやる! じゅげむっ!」

アルルがじゅげむの呪文を唱えたすでにその時!
じゅげむ じゅげむ ごこうの すりきれ かいじゃりすいぎょの すいぎょうまつ うんらいまつ ふうらいまつ
くうねるところに すむところ やぶらこうじの ぶらこうじ ぱいぽぱいぽの しゅうりんがん
しゅうりんがんの ぐうりんだい ぐうりんだいの ぽんぽこぴいの ぽんぽこなあの ちょうきゅうめいの ちょうすけ
がアルルの後ろに出現していた!

「よくもオレ様をこんなところに呼び出してくれたな……、小娘」

アルルは突然後ろから声をかけられて、恐怖のあまり背筋が凍って動けなくなっていた!

「冥土の土産に教えてやる! 俺様の名を呼んだものは黄泉の国に送る事にしているのだ!」

パチンと指を鳴らすと、そこにまばゆい光を放つ空間の裂け目が出現! 吸い込まれるアルル!

「幸せに暮らせえええええええい! わあっはっはっは!」

こうしてアルルはじゅげむ (略) ちょうすけに黄泉の国(あの世)へ送られ、田中と寝ることはできなかった!
二日目終了!

そして三日目! 命からがら黄泉の国から現世へ逃げ帰ってきたアルルは田中と寝る事に命をかけていた!

「き、今日こそ……田中と寝てやる!」

扉のノブを回すと……開いている! やっと田中に会える! 嬉し涙を浮かべながら、扉を開くアルル!

だが、しかーし!

「待っていたぞ! アルル!」

そこには田中はおらず、邪悪な笑みを浮かべながらやけに目をギラつかせた倉山恭子が待ち構えていた!

「田中君の家にお前が入っていくのを何度も目撃した……。そこでここで待っていれば来ると思っていたのだ!」

アルルは天国から地獄へと突き落とされたような気分に陥っていた!

「分かっているな? お前の遺体を売れば、私は大金持ちになれるのだ! 大人しく氏ねええええええええい!」

アルルを捕まえて殺そうと凄まじい速度で迫って来る倉山恭子!

「わああああああああああ! 助けてえええええええええ!」

こうしてアルルは倉山に一晩中追いかけ回され、結局田中とは寝られず仕舞いであった!

おしまい
3:えころ :

2017/05/31 (Wed) 21:48:49

フラワリング一郎

俺の名前は田中一郎。人間ではなく……花だ。
花になった経緯を語らせてくれ。俺は倉山に背後からぶん殴られて意識を失ったんだ。
そして目が覚めたら土の中に埋まっていて必死で地上に出ようとしたらこうなっていた。
何を言ってるか分からないって? そんな事言ったら(俺の存在意義が)おしまいだ。
最初は動けないためひどく退屈していたんだが、こうしていると何だかそれも悪くないように感じる。
土は適温だし、陽の光は暖かいし、すげー気持ちいい。でも雨や風は勘弁だけどな。

そんな生活に慣れてきたある日。空がとんでもない色になっているので一雨来ると思い、眠っていた。

「うわー! 天からヴゼルが降ってくるぞ! みんな、逃げろ!」

その声に気づいた俺は目を覚ました。
ヴゼルは世界を破滅に導く悪い魔神だ。しかし、降ってくるとはどういう事だ?

俺がふと空を見上げると何と大量の雨粒となったヴゼルが降り注いでいた!

「ふははははは! これぞ我が世界破滅計画の一つ、ホーリージャッジレイニングだ!」

そしてヴゼル達は物理法則を無視するかのように意思を持って好きな場所へ降り注ぐ!

「蛮族どもよ、朽ち果てるがいい!」

ふざけやがって……。そんなもん俺が許すか!

「そこまでだ! ヴゼル! 俺が相手になる!」

俺は天に向かって大声で叫んだ(叫べるのかよ)!

「ほう、この声は確か田中一郎とかいうガキだったな」

ヴゼル達は一斉に動きを止めた。側から見るとすげーキモいんだけど。

「だが貴様、一体どこにいるのだ? 姿が見当たらないが……」

キョロキョロあちらこちらを見回して俺を探すヴゼルども。

「ここだよここ!」

俺がもう一度叫ぶと、ヴゼルどもは一斉にこっちに注目した。こっちみんな、気持ち悪い。

「貴様、何故植物になっているのだ?」

こいつにだけはそんな事聞かれたくねえな……。

「訳ありなんだよ」

ヴゼルどもは不敵な笑みを浮かべて俺の元へまっすぐ向かってきた!

「まぁいい。動けないところをすぐに仕留めてやる! 消えろ!」

や、やべぇ! 向かってきた! 逃げたいが植物状態では無理だ!

「ぐわあああああああ!」

……終わった。いや、まだ意識がある。俺は生きていた。
ゆっくり目を開けると何と俺に向かってきたはずのヴゼルどもが土の中へ吸い込まれていく!

「こ、これは一体……」

俺が疑問に思っているのをよそに仲間がやられた他のヴゼルどもはパニクっていた。

「き、貴様!一体何をしたのだ!?」

俺は全身に力がみなぎって来るのを感じた。俺は植物だから水分(ヴゼル)を吸収できるんだ!

「へへへ、どうやらお前の分身を吸収したおかげでパワーアップできたようだぜ」

ヴゼルどもはひどく悔しそうな顔をしていた。

「ぬうう! こしゃくな! それならさっさと貴様以外の場所を破壊して……!」
「そうはさせるか! 喰らえ、ホーリージャッジメンタルフラッシュ!!」

俺から放たれたでかくて黄色い光がヴゼルどもを包み込んで世界を明るく照らす!

「ほええええええええ! 溶けるぅぅぅぅぅぅぅ!」

そして、ヴゼルどもは一滴残らず蒸発していった。

「へへ……。やったぞ! 俺が世界を救ったんだふぐぇ!!」

ヴゼルが消えて大喜びで走ってきたクソガキに踏んづけられた俺はそのまま力なく死んでしまった……。

おしまい
4:えころ :

2017/06/01 (Thu) 18:24:36

サタンの就活

私はサタン。現在は日本のよくある市営団地に住んでいる。しかし、私は現在深刻な状況に頭を抱えている。
それは……職につけない事! つまり無職である事だ!
遺跡に住んでいた頃に持っていた財宝を全て売り払ったが、それでも生活費は底をついている。
この部屋の賃金でさえ払えないような状態にまで陥っていた。
私も頑張ってはいるが、何しろ履歴書を見ただけで即お祈りされる始末。
やはりこの日本では私が生きていく場所などないのか……。

いや、日本だけとは限らない。他の国に行けばひどい差別を受け、精神もろともすり減ってしまうだろう。
それを考えればこの国では好奇の目で見られる事はあっても差別される事まではないのが唯一の救いだ。
とは言え、金銭がなければ生活が成り立たぬのも事実。
一時は王とまで呼ばれた私にとって現在の凋落ぶりは耐え難いものもある。

そろそろ現実に打ち勝たねばならない。次が最後の会社だ。有限会社ドクマムシ。聞いたこともない零細企業だ
だが、私に選り好みする資格などない。ともかく金さえ稼げれば何でもやるつもりだ。
そして、会社は……賃貸物件と思われる2階建の建物の中にあった。
会社と言われなければ通り過ぎてしまうほど目立たない建物だ。
私はとりあえず、インターホンをチン、と鳴らして応対を待つ。30秒ほど後、扉が開いた瞬間……。

「氏ねええええええええええ!!」

中から出てきた女が私めがけて爆弾を放り投げてきた!
咄嗟に私はそれを交わし、爆弾は近くにあったゴミ捨て場で音を立ててゴミを爆散させた!
唖然とする私の前で女は次に銃口を私の胸に押し付けてきた!私が何をしたと言うんだ!

「お前が無能だから……アルルの遺体が売れなかったろうが!!」

私は心底来るんじゃなかったと後悔していたが、金を稼がなければいけないという現実の手前、贅沢は言ってられない。

「何の話ですか!? とりあえず、落ち着いてください。あなたは大きな誤解をなさっている」

それを聞いた女は銃口を私の体から離し、訝しげにこんな事を聞いてきた。

「覚えていないというのか? あんな遺跡に住んでおきながら……別人という事はあり得まい!」

私はとりあえずカバンから履歴書を取り出して女に差し出した。

「私はそんな場所で生活などしてません。とりあえず、これを御受け取り下さい」

すると女は力強く私の手から履歴書を奪い取った! なんて豪快な! 破けたら大変だ!
女は奪い取った履歴書をまじまじと見て、ぼそぼそつぶやいていた。

「ほー……、そこら辺の団地で人間社会に溶け込んで生活を送ってるのかい」
「はい。よろしければこれから面談などを……」

女は私の足元に思いっきり履歴書を叩きつけた! 何が不満だったんだ!

「よくも履歴書にこんな虚偽の記述を書いて持って来てくれたな……」

女が私を睨みつけてまだ猜疑心を解かないので必死に弁解した。

「本当です! 私はただ働きたいだけなんです! 人間社会で細々と暮らしたいだけなんです!」

それを聞いた女はしばらく考え込んだ後、口元を少し歪めて、採用通知の紙を手渡して来た。

「気に入った、お前を採用しよう。そしてこれは私の名刺だ。ありがたく受け取っておけ!」

「あ、ありがとうございます!」

何だかよく分からんが、とりあえず私は受かったのだ!ようやく社会人の一員になれるのだ!
私はルンルン気分で帰宅中にふと、こんな言葉を口にしてしまった。

「これで私も人間社会の一員だ! バリバリやるぜぇぇぇぇぇぇ!」

その瞬間、上から見た事もないような大きさのドッスンが私の頭上に落下し、私は圧死した。
先週、別の会社で私と同時に受けて採用された川越とかいう男もこんな事を口にしていた。
しかし、翌日になって事故で即死していた事を電気屋のテレビでニュースを見て知った。
この言葉は呪いの言葉だったのだ。しかし後悔したところで私の人生が返ってくる事はなかった。

おしまい
5:えころ :

2017/07/13 (Thu) 23:30:20

ビーストボール

ここはヴォエットモンスターの世界。
ヴォエットモンスター縮めてヴォエモンは草むらを歩いていると飛び出す害獣です。
この害獣研究の第一人者ゴーキド博士はついにヴォエモンを捕獲するビーストボールを開発したのです。
物語はここから始まります。

ゴーキド博士が草むらを歩くとヴォエモンが出現!
デビルひでです!

「おじさん死んじくり~」

ゴーキド博士に襲いかかるデビルひで!

「まま、そう焦んないでよ」

ゴーキド博士はビーストボールをデビルひでの股間に向けて全力投球!

「こいつは(いら)ないです……逝って、どうぞ」

ビーストボールはクッソ汚い音声を垂れ流し、デビルひでの股間に着弾!
すると凄まじい音を立ててデビルひでを爆破! 爆殺が完了!

「あーいくぅ……」

デビルひでは昇天する際に悔い改めて普通のひでにフォルムチェンジ!
その瞬間、天から閻魔王・葛城煉が降臨! ひでをしばきに来たようです

「おじさんはねぇ、君みたいな可愛いねぇ、子の死に顔が大好きなんだよ!」
「ああああもうやだああああ!!」

ひでを無事昇天させた刹那、ゴーキド博士はレアヴォエモンと遭遇! ワールドオブ遠野です!!

「良い体してるねぇ! どおりでねえ!」

ワールドオブ遠野はゴーキド博士を見るなり、逃げようとしましたが、時既に遅し!
博士の手からビーストボールが放たれ、サーッ! と粉末状の何かを噴出しながらワールドオブ遠野に一直線!

「う、羽毛……」

粉末状の何かを嗅いでよろける遠野にビーストボール、とどめの一撃!

「お前の事が好きだったんだよ!」

こうしてワールドオブ遠野はビーストボールの中へ収納され、ゴーキド博士は最初のヴォエモンを手にしたのでした。

おしまい
6:えころ :

2017/12/30 (Sat) 22:35:28

フェンス・オブ・ガイア

この男は三国太一。雷門中学サッカー部ゴールキーパーである。
しかし化身(スタンド)の猛攻を受け、全くシュートが止められないザルGKである。
DFも雑魚だが、サッカーはゲームの性質上、キーパーが矢面に立たされる事が多い。

「憎き化身……! 化身など消滅すれば……!」

そう、化身である。こいつはサッカー選手の能力を飛躍的にアップさせる特殊な力。

ちょっとここで回想に入る。敵が化身を発動!

「くらえ! これが俺様の化身だァ!」

バッシュウウウウウン!! シュートが三国目掛けて一直線!
棒立ちのディフェンス!! 三国、シュートを止める構えに入る!

「やらせるか! でぇやぁぁぁぁ、フェンスッ、オブゥ、ガァイアアーッ!!」

ゴールネットの前に飛び出した巨大な岩壁がシュートを防ごうとするが……。

「ぐわぁぁぁぁぁ!!」

化身を持たない三国に止められるシュートではなく、虚しくボールがネットに突き刺さる。

「フン、この程度か。がっかりだな」

捨て台詞を吐いて目の前を去っていく化身使い。己の無力を呪う三国。

「俺が好きなのはサッカーだ。なのに俺は何をやってんだ!」

日々の試合を振り返り、悔しさがにじむ三国は地面を拳で叩いて叫ぶ。

「こんなものはサッカーじゃないだろう!!」
「その通りだ」

三国は目の前に出現した謎の存在に目を奪われた。

「あんたは……?」
「私は魔神ヴゼル。蛮族どもを滅ぼしにこの地へやってきた」

頭のおかしい男の言葉に三国はもう全てがどうでも良くなった。

「ふっ、そうかい。なら好きにやってくれ。俺はもうこんな世界うんざりだ」
「貴様は絶望の最中にいるようだ。私はそういう心根は嫌いではない」
「だったら何だ。どうせ俺はクソザコブロッコリーさ」
「貴様に私の力を授けよう。その力でこの世界のサッカーとやらを滅ぼすのだ」
「力? 化身か?」

魔神という男はフッと笑い、三国の額に手を置いた。その瞬間、三国太一はもうこの世の住人ではなくなっていた。

翌日!!

「三国先輩! おはようございます!」
「何だ貴様は」
「えっ? 俺ですよ! 松風天馬です!」

後輩でありながら、化身まで使い、大活躍する少年。三国が自分を卑下する理由でもある少年だ。

「なるほど。そういうことか、まぁ化身だかなんだか知らんが私の力を見せてやる」
「えっ?」
「おい貴様、私にその化身シュートとやらを打ってこい。それで全てが分かる」

天馬は何言ってんだこの人みたいな顔をしていたが、渋々それに承諾した。

「じゃ、行きますよ!」
「早くしろ、私とて時間は無駄にしたくないのだ」

松風天馬の化身が発現!! 魔神ペガサスアーク!!

「ほう……、私と同じ肩書きを持つ者が存在するとはな……」
「うおおおおお!! ジャスティスウィング!!」

強烈な突風のようなシュートが三国(ヴゼル)目掛けて一直線!!

「風属性の攻撃か……しかし無駄だ! ホーリージャッジライトニング!!」

ヴゼルの手から放たれた消滅のエネルギー波がボールを消し飛ばし、ゴールを守る!!

「ふっ、たわいもない……」
「すげー! 三国先輩! 今の技、何ですか!?」

駆けつける天馬にヴゼルはこんな事を宣言する。

「私がこの世界をもらう。そして勝利は常に私のものだ」
「そうはさせねぇぜ、ヴゼル」

その声とともに色黒で何やらガラの悪い少年が近づいてきた。

「貴様は田中一郎か……、こんなところまでやって来るとはな」
「え? 三国先輩の知り合いですか?」
「騙されんな、その三国って男はヴゼルってのに乗っ取られてんだ」
「ええーっ!? だからさっきから何か変なんですか!?」

ヴゼルはフッと田中を鼻で笑い、こう言い放つ!

「ならばサッカーでこの私と対決だ。貴様が私からゴールを奪えたらこいつの体を返そう」

何でよりにもよって三国先輩の体なんだと思う松風天馬。

「いいだろう、お前も仲間が取られてあいつ許せねえよな?」

田中の問いに少し戸惑う松風天馬。

(別にあのままでもいいんだけどな)

「いくぜヴゼル!! 今度こそてめえを完全に打ち負かしてやる!」
「来いクソガキ! 貴様の攻撃などすべてぶっ滅ぼしてくれる!!」

田中の超絶シュート!! アルティメットサイキックストリーム!!

「うおらぁぁぁ!! くたばれヴゼル!!」
「フン、その程度で私を殺そうとは……! 片腹が痛いぞ!!」

デスシャイニングイレイザー!!
ヴゼルの手から放たれた強力な閃光弾がピッチそのものを消し飛ばす!!

「おい、ピッチを消しちまったら勝負にならねーだろが! てめえの反則負けじゃい!」
「黙れ蛮族が! こうなればもう球蹴りなど不要だ! 直接貴様を滅ぼしてくれる!!」
「上等だ! かかってこいや!!」

松風天馬は思った。

(これもうサッカーじゃねえな)

結局二人の勝負はそのまま終わり、ヴゼルが三国を捨てたため、三国は元に戻った。
この事件以来、三国達は普通のサッカーに勤しみ、普通に優勝したという。

めでたし、めでたし
7:えころ :

2018/01/08 (Mon) 13:00:59

ウルトラワープライド する先輩

ここはポニ島にあるガチ(ホモ)りんの祭壇。そこにはウルトラホールと呼ばれる異世界に繋がる裂け目が開いていた。
そしてここにやってきた男は田所浩二。
ウルトラビースト(UB)と呼ばれる異世界に生息するポケモンの捕獲に乗り出した男である。

「俺がたくさんUBを捕まえてやるから見とけよ見とけよ~」

伝説のポケモンルナアーラの背中に海パン一丁(イキのいい海パン野郎)で飛び乗り、いざウルトラホールへ!
ウルトラホールにはオレンジの輪とビリビリの障害物、そして異空間に通じるホールの3つが点在している。
オレンジの輪を取るとスタミナが上昇し、ルナアーラの飛行速度が上がる。
逆にビリビリの障害物に当たるとスタミナが減少し、ルナアーラの飛行速度が下がる。

異空間に繋がるホールは4種類あり、普通のホール、周囲に輪が1つあるホール、2つあるホール。
そして輪が2つあり、凄まじい光を放つホールである。このホールは伝説のポケモンが比較的出現しやすい。

ちなみに距離が短いと障害物が少なく、オレンジの輪が多いが、普通のホールしかない。
距離が長くなるにつれて障害物が増え、オレンジの輪が減り、輪のあるホールも増えていく。
だがそれはルナアーラのスタミナも減っていく事を意味しており、最低まで減るとホールに吸い込まれやすくなる。

うまく障害物にぶつからないようにして、目当てのホールに入り、ポケモンを捕獲する事が目的である!

「ホールの色によって出るポケモンの種類が決まってんだよね。それ一番言われてるから」

そして、ウルトラワープライド開始! (なんだこのミニゲーム!?)

「行きますよ~。行きますよ~。イクイク……」

オレンジの輪を潜ってルナアーラはスイスイ先へ進んでいく。

「フゥー! 気持ちイイ~」

進むにつれて、ホールや障害物なども登場!

「スライドパッドで操作して、操作してホラホラホラホラ」

初期設定だと操作が(クッソむずい)ジャイロセンサーになっている。
なので、操作しやすいスライドパッドに切り替えて(いく)。

「そうですねぇ……やっぱり僕が狙うUBは王道を征く……、テッカグヤですか」

理想を駄弁って余所見していた田所とルナアーラは障害物に激突!

「オォン! ちょっとビリビリきてんよ~」

ウルトラホールはカーブになる道もあり、曲がり角での油断は命取りである(まぁ油断しなくても理不尽な事あるけど)。
ルナアーラの速度が低下するが、すぐ先にあったオレンジの輪を取って持ち直す。

「なかなか白いホールが出ない……出なくない?」

UBは白色のホールから出現するとの目撃情報から、田所はこのホールに入る事を目的としている。
言ってるそばから目の前に白いホールが出現!

「すっげえ白くなってる。(他のと比べて)はっきりわかんだね」

田所はそのままルナアーラとともに白いホールへ突撃!

「オッス、お願いしま~す」

田所が着いたのは水色の鉱物が点在し、周辺が白い砂で覆われた幻想的な砂漠であった。

「え、なにここは……」

目撃情報と違う場所に着いたことに戸惑うも、田所はとりあえず奥に進んでいく。

「ったくしょうがねえなあ(悟空)、ほら行くど~」

ゴツゴツ荒れた地面をバンバドロ、重たい鉱物の塊をカイリキー(♂)を駆使して進む。
最後に大きな岩の壁を押していくと、その先には、優雅に佇むUBがいた。しかし、その姿はまるで……。

「ゴキブリィ!!」

そう、白いゴキブリのようなポケモンが田所の目の前にいた。目が合ったまま立ち止まる。

「クゥーン……」

しかし、向こうも動かない。田所は一歩一歩UBににじり寄るが、それでも微動だにしない。

(なんでこんなに静かなんですかね……?)

そう考えていた次の瞬間、UBは田所の存在に特段の汚れを感じたのか、凄まじい速度で走り始め、逃げて行ってしまった。
取り残される田所。もうそこには誰もいない。

「あっ、ダメみたいですね……」

渋々入って来たウルトラホールへ戻って、またワープライドを再開するのだった。

おしまい
8:えころ :

2018/01/22 (Mon) 00:54:21

あやとりするヴゼル

※この小説は適当に書かれており、内容は全くのデタラメです。要注意。

私は宇佐見蓮子。京都にある大学で超弦理論を研究してるの!

「さぁ、今日もやるわよ!」

私が研究室に入るといつもは見かけない男が座っていた。教授の知り合いかしら?

「あ、こんにちは……」
「小娘、ここは何だ?」

挨拶をした途端、食い気味でそう聞かれたのでとってもびっくりした。

「え!? な、何だって……。ここは大学の研究室ですけれど」
「そうか。気に入った」

何が何だかさっぱり分からないけど、卒業論文を書かないと……。

「おい」
「ひっ! な、何ですか?」

私が席に座ろうとした瞬間、男は席から立ち上がった。

「貴様はここで何をしようとしている?」
「え、論文を書こうと……」

男は私に近づいてきた。

「論文だと?」
「は、はい……。超弦理論がテーマで……」

男は私の目の前で立ち止まり、顔をしかめている。

「貴様はそれを実証できるのか?」
「えっ……」
「私は蛮族の科学の研究とやらをチラと覗いたが、実証こそ科学の全てだと蛮人は言っていたぞ」

な、何を言ってるのかしら。

「貴様の研究成果もその実証性に基づくものかどうか、と聞いているんだ」
「いえ、超弦理論は仮説であって実証科学の部類にはまだ入りません」
「そうか、仮説か。蛮族の科学とやらには実証が困難なものもあるのだな」

蛮族蛮族って、さっきから何言ってるのかしら。まずはこの人の事を……。

「私は魔神ヴゼル。この世界を破滅に導くためにはるばるやって来たのだ」
「えっ、ヴ、ヴゼルさん……、世界を破滅……」

不審者? でも教授の周りには変わった人も多いからなぁ……。

「ひもだか何だか知らんがそれを見せろ。私を満足させる事ができれば帰ってやる」
「まずアインシュタインの相対性理論と量子力学を結びつけるための量子重力理論というのが……」
「ひもはどうした、ひもは」

この人、もしかして物理学は専門ではない? いや、私の説明が悪いのか……。

「ひもというのは限りなく小さい粒子が連なった状態の事で、それには閉じたひもと開いたひもが……」
「あやとりでもするか?」

私は呆れて席に座ろうとした瞬間、男はとんでもない事を始めた。
何とあやとりのひもを限りなく薄くし、それをあっという間に研究室中に張り巡らせたのだ。

「これなら解説できるだろ、早くしろ」
「えっと、重力は……」
「私の力で消滅させた。つまり、この空間は無重力だ」

あ、私の体が浮いてる……。

「今人工知能とやらがブームになってるのと同じようにこの理論にも波がある」

研究室に張り巡らされた細いひもが波を立てて不規則に動き始める。
ひもが私の体に触れた瞬間、一気に私の体に絡みつき、縛り上げてくる。

「ひぎぃっ? な、何がどうなってるの!?」
「貴様を今からカラビ・ヤウ多様体のように縛り上げてやる」
「意味がわからないんだけど!」

私の左脚が上の方向へ、右脚が下の方向へ引っ張り上げられる。イタタタ!

「なかなかポテトチップスのように曲がらんな、人体ぐらい超能力で……ふんぬ!」

私の体は何故か千切れないひもに縛られた挙句、腕や脚があらぬ方向へ曲げられていた。

「ふう、骨を一度限界まで細くすれば良かったか、手間取ったがこれでいいだろう」

何で私、この状態で生きてるんだろう? しかも痛くないし……。

「しまった……、ここから先どうすればいいか分からん……」

え? ちょっ、ちょっとま…。

「すまない小娘、荒療治にはなるが、今から元に戻してやる」

重力が元に戻り、紐で縛られた私の体は凄まじい衝撃を受けて地面に墜落する。
凄まじい激痛が走り、そのまま私は気を失った。

「う、うーん……」

目を覚ますと、あの男はいなかった。時計も部屋に入ってきた時と同じ時間を示していた。

「ゆ、夢……? でも時間が経っていない……」

首を傾げて、論文を書く作業に戻る私……。

その頃、現代の公園にて……。

「田中一郎、私は新しい必殺技を編み出した。あやとりでな」
「何言ってんだお前? あやとりとかのび太かよ」
「貴様はのび太を0点と見ているが、それは違う。のび太は蛮族でありながら、ひもで全てを解決しようとしたのだ」

ヴゼルはあやとりを始めた。

「たった一本の紐で無数の空間を作り出す……。つまりこれだ」

あみじゃがのような形をしたプルプル揺れている作品を完成させたヴゼル。

「これを作品ナンバー01『大宇宙』と名付けよう。どう思う?」
「何で揺れてんだこれ」
「それは素粒子の種類に対応して揺れることの表現だ」

田中一郎の頭が大爆発を起こした。

「やっべ、死ぬかと思ったわ……」
「まぁつまり、超弦理論とやらは普段知覚できないような次元の影響を受け、振動するという事だろう」

揺れ続けるひもを眺めるヴゼル。

「なぁ、お前ここに何しに来たんだ? 悪さしに来たんじゃねーのか?」
「そうだった……ここを滅ぼしに来たんだった。早速やるか」
「その必要はない」

ヴゼルがもう一人現れた。

「何だ貴様は」
「さっき貴様が重力と時間を消したことによる次元の乱れでワープライドしてきた別時間軸の私だ」
「そうか、帰れ」
「断る。ムカついたから貴様を消滅させてやる」

ヴゼルは田中をチラと見る。

「おい、こいつ何とかしろ」
「いや俺に言われても……」
「もう一人の私よ、大した知識もなく物理学の実験に首を突っ込んだことが全ての間違いだったのだ、許せ」
「許さぬ、消えろ」

もう一人のヴゼルが放った閃光弾であやとりヴゼルは消滅した。

「全く……知識を度外視すると痛い目に遭う事がこれでよく分かったな? 蛮族よ」
「うん、俺は最初から何も分からねーからどうでもいいよ」
「そうか」

ヴゼルと田中はそのまま二人で仲良くスパゲッティを食べましたとさ。

めでたし、めでたし

「鼻からスパゲッティ……食えよ」
「できるぞ、ふんぬ!」

鼻から吸って口に戻してそれを咀嚼するヴゼル。

「ほっしゃん。かよこいつ」

おしまい
9:えころ :

2018/02/19 (Mon) 01:29:08

フランの反抗期

ここは紅魔館。無駄に大きい洋館の地下では変な翼を生やした一人の悪魔が眠っている。

「レミィやめちくり〜」

はっと自分の寝言で目を覚ますフラン。

「……夢か」

しかし、目覚めたところで彼女には何もやる事がない。
扉を破壊して外へ出る事もできるが、姉のレミリアに釘を刺されていた。

『フラン、よく聞きなさい。あなたは外に出ちゃいけない身なのよ』
『どうして?』
『外にはね、紫外線って言う恐ろしい放射線があってね。それを30分も浴び続けるとドロドロに溶けてしまうのよ』
『ええっ!? お姉様は大丈夫なの!?』
『大丈夫なわけないわ。だから咲夜に外の事は全て任せてるのよ』

もちろんこれはレミリアのついた大嘘なのだが、フランはこの嘘を信じ込まされていた。

「私は何でここにいるんだっけ……、お姉様は外の景色を毎日眺めてるのに……」

フランには一つの感情がわき上がっていた。

「ずるい! あいつばっかり! きっと隠れて良いもの食べてるに違いないよ!」

フランは扉を破壊した! 反抗期到来!

「私がこうしてるのも、全てあいつがこの館を取り仕切っているからだ! なら私がこの館の主になってやる!」

急いでフランのもとへ駆けつけてきた咲夜。

「妹様!? 退屈なのは分かりますが、館を荒らす事だけは……」
「そんな生っちょろい事じゃないわ! 私が紅魔館の主人になるのよ!」

咲夜はそれを聞いてすごく驚いた。

「ええっ? 妹様が主人に!? 何故そのようなことを……!?」
「そんなの決まってるじゃない! 今のこの館の仕組みを作ったのはアイツよ!」

フランは咲夜に対して指を立てて宣言する。

「そんなもんぶっ壊しちゃえばいいのよ! 破壊が人の形をしているのが私フランドールよ!」
「そう、言いたい放題言ってくれるわね……」

その声とともにゆっくりレミリアが現れる。

「出たな! 紅魔館は私のものだ!」
「ふふっ……、嫌な夢でも見たのかしら? この館の扱いも知らないあなたに務まるものじゃないのよ」

姉妹喧嘩が始まりそうな雰囲気に慌てる咲夜。

「お嬢様……。ここで妹様に暴れてもらっては困りますわ……。うまく説得しないと……」
「分かっているわ、そんな事。何年この子の姉をやってると思っているの?」
「支配から逃れるために逆に私が支配してしまえばいいのよ! 咲夜、あなたもいつまでそいつの言いなりなの?」

レミリアはため息をついた。

「“そいつ”じゃなくて、お姉様でしょ……。咲夜は別に私の言いなりじゃないわ」
「ええ、妹様。私は私の意思でお嬢様に仕えているのです。決して支配されているわけではありませんよ」
「じゃあ何で私だけこんな場所にいなきゃいけないわけ? おかしいのよ、まずそこが!」

レミリアはフランとの距離を詰めていく。

「いい? あなたは生まれつき体が弱いのよ。あなたは私のたった一人の妹で、いなくなっちゃ困るのよ」
「弱くなんかないよ! お姉様ばかり強い風にしてるけどさ、本当は私に負けるのが怖いだけだ!」

レミリアは咲夜を一瞥し、合図を出す。咲夜は一礼して、二人から離れていく。

「ええ、そうね。私はあなたに負けるのが怖いのかも知れないわ」
「ほらやっぱり! 臭いものにはフタって事でしょ!」

レミリアはフランへ歩み寄り、目の前で立ち止まる。

「な、何……」
「フラン、たまには二人で食事でもしましょうか」

レミリアはフランをそっと抱きしめる。

「お、お姉様……」
「怖い夢でも見たんでしょう? 私が守ってあげるから、ね」

フランはレミリアに腹パンをかました。

「ふぐぅ!!」
「お嬢様!?」
「ふっふっふ、どう? 強いでしょ? さぁ分かったら、紅魔館を渡しなさい!」

レミリアは笑っている。

「ふふふ……ふっふっふ……」
「何が面白いの……げふぁっ!!」

レミリアのストレートがフランの鳩尾にクリーンヒット!! うずくまるフラン。

「選択肢をあげる。このまま私と戦って負けるか、素直に食事を取るか」
「どっ……、どっちも呑めない条件だわ……!」

レミリアは鼻で笑ってこう続ける。

「選べないならあなたはご飯が食べられないわよ」
「うるさい! 食べ物で釣ろうと思っても無駄! 私が主人になればそんなもの……!」

と、その時、凄まじい爆音が館内に響き渡るとともに、大きな揺れがレミリア達を襲う。

「な、何事!?」
「お嬢様、これはおそらく何者かが建物自体を狙って襲撃を行なっているものだと思われます!」
「何ですって!?」

『聞けい蛮族ども! 私は魔神ヴゼル! この世界を滅ぼしにはるばるやって来たのだ!』

知らぬ男の声に恐怖と怒りが混ざった表情を浮かべるレミリア。

「咲夜……、私達も応戦を……!」

レミリアの横を駆け抜け、飛び出していくフラン!

「妹様!?」
「何してるの! いくらあなたでも危ないわ!」

二人の呼びかけを無視して突っ切っていくフラン!

「咲夜! 何で止めないの!」
「も、申し訳ありません……。ですが、妹様の顔を見て…」

外に出て魔神と対峙するフラン。

「ほう、中にどのような者がいるかと思えば貴様のような小娘とはな……」
「あなた、悪い人でしょ! やっつけるわ!」

魔神は笑みを浮かべる。

「ふん、小娘風情が私に敵うと思うのか……、消えろ!!」
「どっかーん!!」

魔神の中心にあったコアが握り潰され、粉々に砕け散る。

「ひでぶっ!!」

そのまま魔神は跡形もなく消滅した。

「妹様!!」

咲夜とレミリアも駆けつけてきた。

「敵はどこ!? まさかあなた一人で……!」

フランはドヤ顔でレミリアに向かって指をさす。

「紫外線なんか怖くないし! 敵もやっつけられるし!」
「そうね、紫外線は嘘だったわ」

三人が笑っている横で破壊された瓦礫から紅魔館に入っていく一人の人物。

「金目のものがありそうな建物ね。火事場泥棒ってわけじゃないけど、何か盗んでいきましょ」

中に入ろうとした女は気怠げな少女とばったり遭遇する。

「お客さん? 悪いけど、ここは勝手口じゃないのよね」

女は少女にピストルを向けた。

「そんなんじゃねえ! 金目のものを寄越せるだけ寄越せ! さもなくばお前の脳天を……」
「面白そうなおもちゃ!」

女が振り返るとそこにはフラン達がいた。

「なっ、何だガキども……。死にたくなけりゃ、金を……」
「バーン!!」

フランは女のコアを握り潰し、女を木っ端微塵に破壊する。

「こらこらフラン、食べてもいい人間を粉々にしちゃダメでしょ」
「あーあ……、そこら中、返り血や肉片だらけ……。掃除が大変ねえ」

少女達は笑いながら、建物の中へと入っていった。
一方、門番をやっていた一人の少女は爆撃を受けた衝撃で気を失っていた。

「ねえお姉様、1日ぐらい主人やらせてよ。さっきので分かったでしょ」
「ダメよ、分別のない子にやらせるわけにはいかない」
「じゃあ、私がやるってのはどうでしょう!」

レミリアは名乗り出た赤い髪の悪魔を一瞥して、フランにこう告げた。

「じゃあフランはこいつの面倒を見れる? 私は毎日見てるのよ、オムツも代えられないんだから」

それを聞いて表情が固まるフラン。

「えっ、オムツなんては……ふぐっ!」

咲夜に口を押さえられる赤い髪の悪魔。

「や、やだ……。そこまでしたくない……」
「でしょ? 諦めるのが賢明ってものよ」

最後に不名誉な濡れ衣を着せられた小悪魔であった。

おしまい
10:えころ :

2018/05/05 (Sat) 23:13:12

ポプピピ霖倶楽部

僕は森近霖之助。半妖である。
幻想郷の賢者、八雲紫から幻想郷に侵入するおそれのある2人の監視を命じられた。
ついに僕は今まで知る由もなかった外の世界へ旅立つ事ができる。期待に胸を膨らませて飛び込んだのは良かったが……。

「ポプ子! あれをやるわよ!」
「ハイッ!」
「チェスト! 竹書房ゥ゛ゥ゛リャァ゛ァ゛ァ゛イ゛!!」

何だこれは……、たまげたなぁ……。
巨大化した少女が友人と思しきもう1人の少女を抱えて振り回し、巨大な建築物を破壊していた。
いや、何かの見間違いだ。紫は外の世界と称して悪夢へ僕を送り込んだのだ。間違いない。
そう思ってから目を瞑るが、2人の少女の声は止まらない。

「誤チェストにごわす」
「またにごわすか!」

チェストって何だ……。まさかさっきの破壊活動の事か? クソッ、夢なら早く覚めろ……。
誰かがこちらに向かって歩いてくる。目を開けると……。

「えいえい!」

ぶふぉぉっ!? 何だ、いきなり殴られたぞ?

「怒った?」
「ダメだよポプちん知らない人にそれやっちゃ」
「だって私のおばあちゃんの飼い犬に顔が似てんだもん」

意味が分からなすぎる。何でそんな理由でちょっかいを出されなきゃならないんだ。

「えいえい!」
「ぶぐぅぶぉあっ!?」

またやられた。しかも力が強くて痛い。
なるほど……、これは確かに幻想郷に入ってこられたら困る子達だ。特にこの小さい子は……。

「誰が小さい子だぶっころされてェンカオ゛ォ゛ッ!?」

心の中まで読まれている。恐ろしい、この子は妖怪サトリのような力まで持つというのか……。

「本当にうちの子が申し訳ありません……、この子、愛を知らなくて……」

背の高い子が小さい子の頭を掴んで下げる。
何だろう。謝られても理解が追いつかない事が多すぎて何も感じない。

そうして2人はそのまま去って行った……。
……本当にあんな子達の監視をしなくちゃいけないのか?
外の世界へ抱いてきた憧れや夢のようなものがどんどん色褪せていく
もしかしたらあの子達だけじゃなくて外の世界そのものが狂ってるのかもしれない。
いや、それはない。もしあの子達と同じ性質を持つ人間ばかりならそもそも社会は成り立たない。
やはりあの子達……、それもあの小さい子は特に危険だ。
うまい話には裏があるものだ……。紫からもう少し詳しく話を聞けばよかったか……。

とりあえず紫にもらった住所まで足を運ぶ。幸い目を覚ました場所からそこまで距離は遠くない。
最初に見たものが衝撃的だったので、何とも言えない気分だったが……。
ん? 距離は遠くない……、遠くない……。嫌な予感が頭をよぎる。まさかその賃貸物件に……、まさか……。
しばらく歩いているとさっき出会った2人の背中が見えた。
しかも歩いて行くのは僕の賃貸物件がある方向……。

「さてはストーカーだなオメー」

いつの間に僕の後ろに小さい子が回り込んでいた。

「さっき殴られた事、根に持ってるのか?」

背の高い子が前から歩いてくる。

「い、いや……、根に持ってないよ。たまたま僕の家がこの近くにあるってだけで……」
「家ェ?」

うっかり口を滑らせてしまった。この子達に居所を突き止められたら何をされるか分かったものじゃない。
しかし、そうでも言わなければ変に疑われて何をされるか分かったものでもない。

「ピピ美ちゃん、こんな人今まで見た事あった?」
「ないな」
「さ、最近引っ越してきたんだ! 本当だ! だからここにも土地勘とかなくて……」

2人がしばらく黙った後、急に肩に何かがのしかかるような感覚を覚えた。
……どうやら小さい子が僕の肩を掴んでぶら下がっているようだ。体重がかかっていて、痛い。

「頑張れや」

そう言って小さい子は肩から手を放し、僕の元から去っていく。
頑張れる気がしない……というよりもう幻想郷に帰りたい……。

その後2人は僕の住む所とは違う方向へ曲がって行ったので住む所は離れているようだ。
それだけが救いだが……。正直もう関わりたくない。それに僕の目的がもし2人に知られたりしたら……想像もしたくない。

とにかくもう考えるのはやめよう。今は休む事の方が大事だ。
僕は建物の一番端にある部屋の扉を開け、中に入る。中は綺麗だが、気になるものがいっぱいだ。
外でも見慣れないものはたくさんあったが、あの2人と出くわしたおかげでそれどころじゃなかった。
今こうしてあの2人を忘れ、好奇心を剥き出しにできるのはようやく僕の心が晴れた証拠だ。

その時、僕の部屋の壁から何やら衝突音が鳴り響く。
隣人のイタズラだろうか。しかし、僕の部屋は端にあるので、その隣に部屋などあるはずもない。
外の世界にもその類の輩はいるのかも知れないが、何しろ得体が知れない。
声を押し殺して音もなく部屋を出て、外の様子を確認しに行くと……。
そこには僕の部屋が位置する壁にひたすら体当たりをかます小さい子がいた。
目が合ったので、とりあえず声をかけてみた

「……何してんの?」
「タックルの練習、そこサブカルクソ女が住んでる部屋だから」

意味が分からない。サブカルクソ女とは誰の事だ?
この部屋は僕が入る前にその女が暮らしていたという事なのか……。

「それなら他にしてくれ。少なくともそこは僕の部屋の壁なんだよ」

他にしろという言い方も変だが、これ以上僕の平穏を邪魔されるのはごめんだ。

「ア゛ァ゛!? ……奴はすでにここから立ち退いていたのか」

何の恨みがあったんだ、一体……。

「悪かったな、じゃあ、私はこれで……」

初めて詫びの言葉を入れられた。案外まともなところもあるのか……?
疲れすぎて怒る気にもならない僕はそのまま部屋へ戻った。

果たして、霖之助は2人とうまくやっているのか!? 乞うご期待!

動画を停止させる2人。

「何だこれ」
「絶対流行らんわ」

おしまい
11:えころ :

2019/05/11 (Sat) 00:45:27

"止まるんじゃねぇぞ"

私は魔神ヴゼル。私は今ある問題に頭を抱えていた。
それは世界中からカタカナのヴ表記がなくなってしまうという事だ!
これから私は魔神ブゼルと名乗らなくてはいけなくなってしまう!

早速区役所に行き、改名の手続きを申し出た。すると職員が私にタブレット端末を手渡してきた。
タブレット端末には"改名君 Ver2.1"というアプリケーションが立ち上がっていた。
ふざけ腐ったアニメーションが流れた後、スタートと表示されたので、早速タップする。

「キミの職業を教えてごらんよ」

入力画面が表示されたので、"魔神"と入力する。

「キミの出身を教えてごらんよ」

"天上界"と入力する。

「オッケー! キミにあった名前を検索してるからちょっと待ってね!」

妙になれなれしい音声ガイドに苛つきながらも、結果が出るのを待つ。

一呼吸置くと、すぐにまた音声が流れた。

「じゃーん! これがキミの新しい名前だよ!」

画面にはでかでかと"イナシクサ"と表示されていた。

「んなっ……!」

その後、すぐにアプリは落ちて、ホーム画面に戻ってしまった。
職員があっけにとられる私の前まで歩いてきた。

「おめでとうございます。イナシクサ様。改名の手続きが完了いたしました」
「待て! 待て待て! ふざけてるのか!」

私は当然異議を申し立てる。

「もう一度だ! イナシクサなんて名乗れるか!」

アイコンをタップしてアプリを立ち上げようとするが、開かない。

「イナシクサ様、再度改名を希望でしたら、3年後に承ります」
「ふざけるな! 今すぐだ! それに私はイナシクサではない!」
「お引き取り願います。イナシクサ様」

騒いでいた私はそのまま警備員に連れられて区役所の外に出されてしまった。

「ぐぅ……! 私は魔神……! くそ! イナシクサしか思い出せん!」
「おお、イナシクサじゃねーか」

後ろからかけられた声に振り向くと田中一郎がいた。

「田中一郎……」
「改名したんだろ、おめでとさん」
「私は……本意ではない。こんなふざけた名前……」
「そうか? 流行のアニメみたいな名前でいいじゃん」

田中は理不尽に心が折れた私に優しい言葉をかけてくれた。

「……こんな名前では世界を破滅に導けん。私はもうおしまいだ」
「まぁ気を落とすなよ、それなら新しい夢を見つければいいじゃねーか」
「夢だと?」
「ちょうどサタンの就職祝いもかねてお前の改名祝いとしゃれ込もうじゃねーか!」

田中一郎に連れられて安い回転寿司チェーン店にやってきた。

「おおイナシクサに田中、すまないな。安い店で祝いなんて」
「いいじゃねーかどうせお前金なんてそんな持ってねーんだから」
「おいイナシクサ、お前は当然いなり食うだろ?」
「私はいなりは好きではない」

けっと田中はそっぽを向いてサーモンを取り食べ始めた。
私とサタンもそれぞれ好きな皿を取って食べ始めた。

「職を見つけた後は何かやる事あんのかサタン?」
「ああそうだな、私は作家になりたいとも思っている。世間に名を知らしめるためにな」
「ふーん」
「イナシクサはまだ世界を破滅させるつもりなのか?」
「分からぬ。私は目的を見失った。今の私にはもう虚無しか残っていない」
「そのうち見つけりゃいいだろ、サタンだって職を見つけたんだから」

そんな時いきなり轟音とともに地響きが田中達を襲った!

「何だ!?」

『聞け蛮族ども! 私は魔神ヴゼル! 貴様らを滅ぼしてくれるわ!』

「どういう事だ? イナシクサはここにいるってのに!」
「どうするイナシクサ、お前はアイデンティティを失ったまま、ヤツに滅ぼされるか?」

サタンの問いに私はこう返した。

「ふざけるな! 私のまがい物に好き勝手などさせるか! 見ていろ!」

私は魔神ヴゼルの前まで躍り出た!

「ほう、私にそっくりなのがこの地にいるとはな。だが、そんな事は無関係だ!」
「貴様が何者かなど知らぬ。しかしこの地を好き勝手する役目はこの私にある!」
「笑止! ホーリージャッジライトニングゥゥゥゥ!!」

目の前に私が使っていた技が迫ってくる!

「くだらん! デッド・スター・ムーン・アセンション!」
「何……! この地にいた者がこれほどの力とは……! ぐわああああああ!!」

ヴゼルは私の放った巨大な閃光を受け、そのまま散り散りに消滅した。

「さらばヴゼル……、過去の私と同じ力を持つ者よ……」
「イナシクサ! イナシクサ!」

どこからか喝采が湧き上がる。それは田中達やこの地にいる蛮族どもの声援だった。

「やったじゃないかイナシクサ、お前はこの世界を救ったのだ」
「そうだな、少しは見直したぜ。お前の事も」

私はふと田中やサタンの後ろに最後の力を振り絞ろうとするヴゼルの姿を見た。

「貴様ら! 後ろだ!」

急いで田中達を吹き飛ばすと、瞬時に放たれたヴゼルの一撃は私の胸に突き刺さった。

「イナシクサ…………!」
「ぐふぅっ!!」

私はそのまま倒れ込んだ。

「おい、嘘だろ! しっかりしろイナシクサ!」
「救急車だ!」

慌てふためく二人を私は静かな声で制止する。

「…………もう遅い……、いいのだこれで……、私は満足だ…………」
「何言ってんだよ! てめえらしくもねえ事言ってんじゃねえ!」
「そうだ! まだお前の目標は見つかってないじゃないか!」

私はふっと微笑んだ。

「…………私の目標はお前たちに託す、どうか私を忘れないでくれ、ただこれだけだ…………」
「イナシクサ! おい! 目を開けろ!」
「分かった……お前との約束、必ず果たそう」

こうしてサタンはイナシクサの事を手記に書き、それを自費出版したが、売れなかった。
原因はイナシクサを知るものが少ない事、そして内容が意味不明であったからだ。
後にイナシクサは天上界からこの事を知り、激昂。世界を再び破滅に導くため、アルル達の時代を襲撃。
『極・魔導物語』の完成である。
しかしこの『極・魔道物語』も内容があまりに突拍子もなく、稚拙なので売れなかった。

「働いて稼いだ金で一発当てようと作家を志したのに一向に売れん!」

私は自宅で山積みになった自著を眺めて絶望する。

「あぁどうすれば……」

部屋のチャイムがなり、私は応答する。高校卒業間近の田中とイナシクサだった。

「おいサタン、遊びに来たぜ」
「何だこの大量の本は。まさか貴様の本じゃなかろうな」
「田中とイナシクサ……。私はダメだ、職を見つけ夢を追いかけ、頓挫した…………」
「そんな事より3年経ったから私は改名しに行く、素晴らしい名前にするつもりだ」
「こいつそればっかり言ってるんだぜ、見つけた目的しょぼすぎるだろ」
「変わってないな、お前たちは……」
「どん底のままなのはお前も一緒だろ?」

私はふっと笑った。

「そうだな、だけど私は諦めないさ。それが未来を歩くという事だろう?」
「ダメダメ作家がたどる末路はどうなるもんかねえ」
「サタンの心配より貴様も将来を心配するべきではないか?」
「うっせーな、YouTuberになって一発当てりゃ余裕だっつーの」

イナシクサはその答えにあきれていた。

3人は笑いながら、新たに夢を追いかけ止まらない道を歩く事を決意する一方、こいつは違った。

「アルルの遺体を売って大金持ちになったと思ったら、とんでもなく退屈な日常になったわね」

倉山は無趣味だった故、親しき友人もそこまでおらず、日々時間を持て余す生活を送っていた。

「こんな事なら、まだ大金を求めて必死こいてたのが幸福だったようにも感じるわ」

だが倉山は目の前に積んであるお金を見てその発言を即座に撤回した。

「ま、そんな事どうでもいっか♪ 私にはこんな素晴らしい自由があるしね!」

こうして倉山は今日もまた停滞した日々を送るのであった。

めでたし、めでたし
12:えころ :

2019/07/13 (Sat) 23:52:18

田中一郎、異世界へ行く

極・魔導物語の主人公である田中一郎の家。物語はここから始まる。

「……」

田中は今日も仮病を使い、学校を休んでいた。

「うぜえ、何にもねえ毎日にうんざりだ……」

田中は刺激を求めていた。しかし、その実やる気がなく霞んだ日々を過ごしていたのだった。

「なんかさあ、こう……。どっかのラノベみてーに異世界に行けたらなって……」

独り言を言って鼻で笑う田中の前に神が現れた。名はヴゼルという。

「私が叶えよう」
「何だお前? どっから入ってきた? 泥棒か?」

田中は咄嗟に床に転がっていたコミック雑誌で不審者を撃退しようとするが、雑誌は神の指先ひとつで跡形もなく消え去った。

「これから貴様をある世界へと飛ばす、そこはこことは常識や慣習が何もかも違う世界だ」
「おい待てよ、俺は別にそんなこと頼んでねーし、俺の少年ジャンプどこやった?」
「さっきまで貴様がぼやいていたことだろう、さっさと行ってこい」

田中が座っていた床に突如謎の魔法陣が浮かび上がる。

「うお! マジかよ! 俺これでどっかに飛ばされるわけか! めんどくせえ!」
「喜んでるのか呆れてるのかよく分からんやつだ」

神の言葉はそれを最後に、田中は魔法陣から放たれたまばゆい光とともに姿を消していく……。
田中が消え去った後、勢いよく田中の母が刃物を持って部屋に入り込んできた。

「一郎! 今日こそ学校に行かなきゃこれで切りつけるからね……ってきゃああああ!!」

母は部屋に入るなり見知らぬ男の姿を見て悲鳴をあげてしまった。

「おい貴様、物騒な言葉を吐いて入ってきたかと思えば私を見てその反応はないだろう」
「あるに決まってんだろダボ! サツだ! サツを呼んでやるぞ! しばし待ってろ!」
「警察を呼ばれても捕まるのは貴様のような気がするがな、では私はこれで」

神はそのまま消えてしまい、母は目の前で起きた状況に頭が整理できていなかった。
そして田中一郎はアルル達がいる魔導世界にやってきていたのだった。

「んだよこの田舎、異世界っつったらRPGみてーな中世ヨーロッパの街並みを再現した世界じゃねーのか?」
「おーい!」

誰かが大声を出して田中の前まで走り寄ってくる。

「あ?」

飛びかかってくる少女を田中は華麗に避け、少女はそのままどっしーんと地面に体を打ってしまった。

「おい大丈夫か、怪我はねーか? 今バンソーコー貼ってやるからな」

少女は起き上がって猛烈に抗議した。

「キミが避けるからでしょお!」
「いやあんな迫って来られたら誰だってそーすんだろ」
「ま、いいや……。ボク、アルル! キミの名前を聞かせてよ!」

田中はこの女は初めて会った相手なら人懐こい犬のように飛びかかるビッチだと理解した。

「アルルか、別名ペンギンビッチだな。俺の名前は大スターのマイケル・ジャクソンだ、よろしく」
「変な別名つけないでよ! それにその名前も絶対偽名でしょ!」

田中は面倒臭そうに頭をかきはじめる。

「んだよ、めんどくせーなー、お前マイケルとか知らねーだろ?」
「知らないけどキミの言葉の節々にふざけてるのが伝わってくるもん」

田中はため息をついて、アルルにこう宣言する。

「チェンジ」
「何が!?」
「あのな、これは俺の見てる夢なんだよ、だからな、明晰夢みてーに内容をガラッと変えようと思ったわけよ」

アルルはため息をついた。

「無理だよ、これ夢じゃないもん」
「ああ!? 夢じゃなかったらこのふざけた状況は一体何なんだよ!?」
「ふざけてるのはキミの頭だよ」

田中は自分の頭を思いっきり殴ってそのままその場にうずくまった。

「ちょっ、何してんの!?」
「……ダメだこれ、夢じゃねえ」
「だから言ったじゃん」

田中はこの世界から脱出できるのか!? 続く!!(多分)
13:えころ :

2019/07/14 (Sun) 02:04:40

田中一郎、異世界へ行く2

~前回までのあらすじ~
田中一郎は自堕落な日々を過ごしていたが、突如出現した不審者に異世界へ送られてしまった!
以上!!

田中は頭を抱えながら、この世界で最初に出会ったアルルに介抱されていた。

「頭がいてえ、こんな世界に来たからこうなるんだ、ちくしょう……」
「どの世界に行ってもそうなってたよ、はい、ヒーリング」

回復魔法で田中の頭痛が取れたはずだが、一向に解消しない……フリをしていた。

「どれだけ強く殴ったのさ? もう3回もかけたんだよ?」
「知らねーよ、お前のかける魔法とやらがただのおまじないなんじゃねーのか」

アルルをからかう事で内心ほくそ笑む田中であったが、そんな二人の前にいきなり変な少年が現れた。

「おいアルル、お前どうしてそんなやつに魔力を恵んでやってるんだ!?」
「あ? 誰だこいつ? お前の彼氏か?」

アルルは必死に首を振って否定する。

「ち、がーう! これはシェゾ! ただのヘンタイだよ!!」
「おい、これって何だ! しかも俺はヘンタイじゃねえ! そんな失礼なお前を今日こそ奪ってやるぜ!」

田中はふっと笑ってアルルにこう告げた。

「おうおう、お盛んなこって。彼氏からこんなに求められるなんてお前は幸せ者じゃねーか、あー羨ましい」

アルルはジト目で田中をにらんでいた。

「ねえ、もしかして頭痛はとっくのとうに治ってたんだよね? ボクを騙してたんだね?」
「は? そんなもん騙されるお前が悪……」

アルルは手から炎を繰り出し、それを田中目掛けて投げつけた!

「ファイヤー!!」
「うお!?」

田中は咄嗟にそれを避け、地面に激突した炎はパチパチと音を立てて燃え盛っていた。

「いきなり何すんだこのビッチ!!」
「黙らないともう一発行くよ!?」

シェゾはアルルに指をさして言い放った。

「はっはっは! アルル、そんなやくざ者に構ってる暇があるなら、魔導の修練でも積んだらどうだ!」
「余計なお世話だよ! べー!」
「ふっ、お前の魔力は本当に素晴らしいのに、本人が道楽者じゃあ宝の持ち腐れってもんだぜ、また来るからな」
「もう来なくていいよ!」

捨て台詞を吐いて去っていくシェゾをにらみ続けるアルル。

「なあまた来るってさ、お前モテモテじゃん」
「はあ……、あんなのにモテたって全然嬉しくないから……」

頭に?を浮かべる田中にアルルはこう説明した。

「あのね、キミの嫌いな女の子に何回もしつこくプロポーズされたらどう思う?」

田中は想像する……。

(あ? どうした揚げ餃子、太った地蔵みてーにぼーっとして……)
(やべえあたいマジで田中の事好きになったわ、結婚してくれ)
(は? お前ついに頭のネジまでぶっ飛んだのか?)
(田中ぁ~、好き好き結婚結婚ちゅっちゅっちゅ~)

田中は背筋が凍った。

「ね? 分かるでしょ?」
「いや分かるけど、あのお兄ちゃんはそんな感じじゃねーだろ、汚い要素どこにもないし」

アルルは頭に?を浮かべた。

「汚い要素? キミの友達に汚い女の子なんているの……?」
「いやいい、今のは忘れてくれ。思い出したくない」

アルルは何となく察して話を切り上げた。

「そうだよね、じゃあボクのお家に行こうよ! お腹すいてるでしょ?」
「いや待て、お前相手ぐらい選べよ」
「えっ相手? いきなり何の話? もしかしてボクと戦いたいの?」

アルルは田中の発言が理解できていないようだった。

「お前さ、歳いくつよ?」
「16だよ」

田中はこの時神に言われた言葉を思い出した。

(こことは常識や慣習が何も違う世界だ)
(つまりこいつはそんな歳にもなってアレの知識が皆無って事か? それって色々やばくねーか?)

「ねえ、もしかしてお腹とか空いてない……?」
「いやまあ、腹は減ってんだけどよ、そのー何だ? お前と密室で二人きりだとなーんかなあって」

アルルは首をかしげる。

「えっ? 今も二人きりでしょ? 何か問題があるの?」
「いやいやだからなあ、分かるだろ? 言わなくてもさあ! お前そういうの意識しねーの?」

アルルはイラついていた。

「わかんないよ、じれったい……。キミはもしかしてボクの事が嫌いなの?」
「いやなんでそうなるんだよ! 俺はお前とそこまで行くのはだな……!」

アルルは立ち上がって歩き始めてしまった。

「もういいよ、ボク一人で帰るから。キミはどこかで適当に食べててよ」
「あっおい!! ったく何でこうなんだよ、めんどくせえ……」

田中はフラれてしまった! 続く!!(多分)
14:えころ :

2019/07/15 (Mon) 23:00:12

田中一郎、異世界へ行く3

~前回までのあらすじ~
田中はアルルにフラれてしまい、一人ぼっちになった!
以上!!

田中はアルルに置き去りにされた後、彼女が住んでいる村を見て回って思ったことがあった。

「ここ冒険者ギルドなくね? つーか普通にモンスターっぽいやつが商人やってるしどーなってんだ?」

―――回想。

「げげっ、何で村にモンスターがいんだよ!? しかも商売人の真似事なんかしやがって!」
「もももはモンスターじゃないの~、なんか買っていくの~?」

田中はもももという亀みたいなモンスターに吐き捨てるように答えた。

「けっ、金なんざ持ってるわけねーだろ。ただでよこせよ」
「冷やかしなら帰って欲しいの~」

田中が不満そうな表情を浮かべながら、もももを後にすると……。

「お客さ~ん、私の~、歌を~、聴いていきませんか~」

鳥の翼のようなものを生やした少女の声は聴くに耐えなかった。

「なあ、お前そんなんで金が取れると思ってんのか?」
「お金は~、いりませ~ん~」
「うん、騒音で苦情が来るレベルだからやめとけお前」
「何を言ってるのか~、分かり~ませ~ん~」

田中はため息をついた。

「もう黙れお前」

―――回想終了。

「他にも骨やらナスなんかが動いてたし、この世界の村はモンスターに占拠されてんのかよ……」
「占拠なんかされてないぞ!」

蝙蝠の翼のようなものを生やした中華服の少女が話しかけてきた。

「ハロウィンパーティーっすか?」
「何だ、ハロウィンパーティーって?」

田中は心底うんざりした表情で吐き捨てた。

「あのなあ、モンスターやらがうじゃうじゃいるからってコスプレまでして共存しようとすんな!」
「コスプレって何だ?」

ダメだこいつと田中はため息をついた。

「お前には人間としてのプライドがねーのか? それともこんな場所じゃあ捨てざるを得ないって事か!?」
「うーん、あたしは正確には人間じゃないんだよ。ドラゴンと人間のハーフで……」
「そうか、お前は大脳に改造手術を施され今までそう思い込んで生きてきたわけか、かわいそうに」
「うが!? 何言ってるかよくわかんないけどすごく失礼な事言ってるだろお前!」

田中は首を横に振った。

「どうせ意味が分からないなら理解しなくてもいいだろ、ろくな事ねーし」
「ふーん、まあお前があたしを人間だと思ってるって事ぐらいは分かるよ、それなら見ておけ!」

少女は深く息を吸い込んで、思いっきり火を吐き出した。

「うお!?」
「どうだ! 今のがファイアーブレスだよ!」

田中は拍手をした。

「すげー芸だな、それを体得するのに、何年修行を積んだんだ?」
「え? 物心ついた時からできるよ?」

田中は感心した。

「へ~、すげえなお前、天才じゃん!」
「えっへへ~、そうかな~」

褒められて嬉しそうにする少女に手を振って別れる田中。

「すげーな……、そういやあのアルルってビッチも手から炎出してたし、もしかしたら俺にもできるんじゃね?」

田中はポケットからマッチの箱を取り出し、一本擦って火をつけ、口にくわえた!

「あぢぢぢぢ! できるか馬鹿野郎!」

舌を火傷しかけた田中はその瞬間、この世界を理解したような気になっていた。

「そうか……、ここは手品師を養成する世界だったのか」

(そんなやくざ者に構ってる暇があるなら、魔導の修練でも積んだらどうだ!)

「つまりあの兄ちゃんはすげー手品が使えるかも、もし俺が使えるようになったら尻高に見せつけてやる!」

田中は無事に手品を習得できるのか!? 続く!!(多分)
15:えころ :

2019/07/16 (Tue) 21:01:43

田中一郎、異世界へ行く4

~前回までのあらすじ~
田中はここが手品師を養成する世界だと気付いてしまった!!(ただの勘違い)
以上!!

「あの兄ちゃん取っ捕まえて手品のいろはを教えてもらおうじゃねーか!」

田中は目をギラつかせながら、村の中を探し回ったが、全然見つからなかった。

「うーん、やっぱ全然見つからねーなあ、どこほっつき歩いてんだあの兄ちゃん」

田中はアルルが言っていた一言を思い出した。

(これはシェゾ! ただのヘンタイだよ!!)

「変態野郎! 女湯の覗きなんかしてねーで、俺の前に出てこいやぁ!!」
「あら、シェゾがそんな事を……!? やはり救いようのない変態だったという事ね」

田中の前に現れたのは金髪の魔女のような格好をした少女だった。

「あ? 何だお前、変態兄ちゃんの知り合いか? なら連絡取る手段あんだろ、教えてくれ」
「さぁ……? わたくしはそこまであのヘンタイと手紙交わすほど仲が良いわけでもありませんし」

(しまった、ここ携帯ねえじゃん……)

田中は少女の答えを聞いて残念な事実に気づいてしまった。

「ところであなたはあのヘンタイに何かご用ですの? それならアルルさんを頼ってみては?」
「あ? あのビッチなら兄ちゃんの居場所が分かるってのか?」
「び、ビッチって……くすくすくす、おほん。そうですね、アルルさんは強力なヘンタイホイホイですから」

田中は頭をかいていた。

「いや実はさ、俺あいつとケンカしちゃってさ、ちょっと頼みづらいんだよなあ」
「それは困りましたわねえ、それなら人がなかなか立ち寄らないような洞窟等に潜んでるかもしれませんわ」
「洞窟って蝙蝠かよ……、まあそれで手品のインスピレーションが働いてるならいいのかもしれねえなあ」

少女は首を傾げた。

「手品? "魔導"の事をおっしゃってるのかしら?」
「そうそう、なんか口から炎吹いたり、手から出したりする奴だよ! あれ俺もやりてえんだ!」

少女は少し口元を歪めて、田中を静かに見つめていた。

「な、何だよ? 俺の顔にゴミか何かでもくっついてるのか?」
「見た感じ、あなたから魔力は全然感じませんが、あなたはそれを使いたいとおっしゃるのでしょう?」
「は? 魔力? レベルの高い手品を使うにはそんなの必要なのか?」

田中はこの時木田だったら喜びそうだと思ったが、すぐにその思考を切り捨てた。

「そこで、この魔法薬を飲んでいただければ、魔力が湯水の如く湧き出てきますよ!」

少女は自分の懐から怪しい液体の入った瓶を取り出し、田中に見せつけた。

「何だこれ、カルト商売か? まあいい、試しに一杯飲んでやろうじゃねえか」
「ダメですわ! ちゃんと対価を払っていただかないとお渡しできません!」
「いいだろ? お前ガキンチョなんだからそんな阿漕な商売してんじゃねーよ」

瓶を取り上げようとする田中に向かって箒を突き出して振り払おうとする少女。

「おやめなさい! あなたみたいな落ちこぼれは魔力を身につけるにも結局それで解決するしかないのよ!」
「誰が落ちこぼれだゴルァ!! 不良なめてんじゃねーぞませたメスガキが!!」

しつこく食い下がる田中に向かってついに攻撃を繰り出す少女。

「メテオォォォ!!」
「は? いきなり何言って……」

口に出した次の瞬間、空から小隕石が田中目掛けて突っ込んできた!

「うおおお!?」

田中はすんでのところでそれをかわした。

「はぁはぁ……、どうです!? まだやりますの!?」
「すげえ……」

田中の少女を見る目が変わっていた。

「お前は炎なんてレベルじゃなくて隕石を落とせるのか!!」
「え、ええまぁ……。」

田中は少女にこう宣言した。

「金が必要なんだろ!? それなら掻き集めて持ってくるからここで待っていてくれ!」
「え、ええそりゃ当然……、は?」

田中は少女が声をかける前に走り去って行ってしまった。

「ちょっ、ちょっと!? 魔力はあっても使い方が……、ダメだこりゃ」

人の話もろくすっぽ聞かない男に薬を売っていいものかどうか悩む少女であった! 続く!!(多分)

「というか、そんな大金集めるなんて何してくるか分からないわね、関わり合いになりたくないわ」
16:えころ :

2019/07/20 (Sat) 00:10:49

田中一郎、異世界へ行く5

~前回までのあらすじ~
田中は魔法使いのカッコをした少女から魔法薬を売ってもらうため、大金をかき集める事を決心したのであった!
以上!!

村の中をとぼとぼ歩く田中。

「はー……、つってもこんなよく分からんモンスターだらけのとこで金持ちなんてどーやって探しゃいいんだ?」

ふと田中の目にある人物が目に留まった。
バブルを引きずったような露出度の高い女性、つまり明らかに金持ってそうな匂いがプンプンする人そのものであった。

「いやいや流石に俺も女からカツアゲするなんてわけにゃいかねーしなあ」

とは言え、金がなけりゃあの少女から相手にしてもらえないのも事実だ。

「しゃあねえ、覚悟しなおばさん! スーパーサイキック……!」
「鉄拳制裁!!」
「おっぶえっ!?」

女性は身を翻して田中の腹部に正拳突きをお見舞いし、田中を返り討ちにした!

「ふん、あんたが何者か知らないけどこの私に手を出そうものなら、容赦はしなくってよ」
「つ……、つええ……! 格闘でこの俺が負けるなんて……!」

それを聞いた女性は高笑いをした。

「おーっほっほっほ! この格闘女王ルルー様に喧嘩を吹っかけるなんて100万光年早くってよ!」
「そりゃ距離だよ、おばさん……、ぐふっ!!」

田中は蹴りを入れられた。

「失礼ね、私はまだ18よ! おばさんおばさん言われる筋合いなんかないわよ!」
「わ、分かったからもう攻撃しないでくれ……」

ルルーはふぅ、とため息をついた。

「そういやあんた、何でいきなり襲いかかってきたわけ? もしかして目的はレイプ?」
「い、いや、あんたが金持ってそうだったんでつい……」

ルルーは田中の身なりを見て訝しげな顔をした。

「自信満々に襲ってくるところからして、あんた食べるに困っているようにも見えないけど……?」
「大金が必要なんだよ! それがありゃあ俺も知り合いをあっと驚かすような手品を使う事ができるんだ!」

ルルーはその言葉を聞いて呆れたような顔をしていた。

「あの魔女見習いにそそのかされて、まんまと高額で魔法薬を買う約束をしてきたってわけね、やめておきなさい」
「何でだよ! あの力使えたら絶対面白いじゃんか!」

ルルーは首を横に振った。

「あんた、魔導の才能ないでしょ。そんな奴が魔力なんか身につけたって全く無駄よ。諦めなさい」
「そんなのやってみなきゃ分からねーじゃねーか! あんたに何が分かるってんだ!」

ルルーはため息をついて田中を指差してこう告げた。

「大して努力もせず魔法薬だけ飲んで魔法が使えるようになるならみんなそれだけ飲んでるわよ」
「飲んでるかもしれ……」

田中はそこまで言いかけて言葉に詰まった。
ルルーは田中に襲われた時、彼と同じ格闘で田中を返り討ちにしたからだ。

「そう、私は確かにあんたの見立て通り、お金持ってるけど、そんなもの飲んでないのよ」
「じゃ、じゃあ……、俺の手品を使うという目論見は……」
「全てご破算ってわけね、分かったらバカな事考えてないでまじめに生き抜く術でも考えなさいな」

それだけ言うとルルーはさっさと田中の前から去って行ってしまった。

「どうすりゃいいんだよ……、俺何も持たずにこんな世界に来たんだぞ……」

田中は絶望に暮れていた。

「こんな事なら、最初からあのビッチについて行って飯でも食ってイチャラブしてりゃ良かったぜ……」

田中は自分の愚かさを笑いながら、虚しく沈んでいく夕日の前で膝をついてしまった。

果たして田中に救いはあるのか!? 続く!!(多分)
17:えころ :

2019/07/20 (Sat) 03:21:22

田中一郎、異世界へ行く6

~前回までのあらすじ~
田中はルルーに殴られた挙句、魔導が使えない事実を突きつけられ、絶望に暮れていた!
以上!!

「……はぁ」
「ぐっぐっぐ~♪」

落ち込む田中の横に黄色のうさぎみたいなモンスターが座っていた。

「……またモンスターか、お前はいいよなぁ」
「ぐ?」

言葉が通じるか分からないモンスターに自分を語り始める田中。

「俺さ、こことは違う世界から来たんだよ。変な奴に無理やり連れて来させられてな」
「ぐぐぐ」

モンスターは田中の話を黙って聞いていた。

「そんでさ、いろんな奴に会って俺も夢みてーなの持ったけど……結局ダメでこの有様さ」
「……」
「俺、どうしたらいいのかな……」

田中がモンスターを見ると、すっかり眠ってしまっていた。

「はっ、そうだよな……、お前には関係のない話だったな……」

と、田中が立ち去ろうとすると遠くから大声で誰かを探す声が聞こえてくる。

「カーくーん! おーい!」

アルルの声だった。田中は一瞬、その声の方に向かおうとしたが、すぐに足を止めた。
”カーくん“というのはどう考えても男の名前だろう。つまりアルルには仲良しの男がいるのだ。

「ははっ、ほんとバカみてーだ……、なーに期待してんだかよう……」

その時、寝ていたモンスターが目を覚まし、声がする方へと向かっていく。

「あー! カーくん! もう暗くなるのにどこで遊んでたの?」

アルルと合流したモンスターは嬉しそうに鳴いていた。カーくんとはどうやらあのモンスターのようだった。

「な、何だよ。ペットだったのか……あれ。まぁそうだよな、こんだけモンスターいりゃぺットぐらいな……」

田中はホッと安心している自分に気がついて赤面した。
束の間、アルルはカーくんというペットとともにその場を走り去ってしまう。

(まずい……、あいつを引き止めなきゃ俺は……!)

田中は勇気を振り絞ってアルルを追いかけようとした……、その時だった。

「アルルにカーバンクルちゃん! 2人揃って帰る前に、私のスイートルームへ寄らないか?」

長身で長いマントに翼をつけた変な男が現れた。見るからに魔法が使えそうで、しかも大物感がある男だ。
男が少女と親しげに何かを話しているように見えた田中は立ち止まってしまった。

「……何だよ、あいつにはあの男やヘンタイお兄さんがいるじゃねえか……」

田中は失望の色を浮かべ、アルル達に背を向けて歩き出した。

「あいつは、ただ男の扱いに慣れてるだけなんだよ、だから俺の事だってきっと何とも……」

田中は言いかけて妙にひっかかった。

「何で俺、あのビッチの事なんか気にしてんだ……? あいつがいなきゃ俺はダメだからか?」

いや違う、問題はそこではない。

(あいつが他の男と仲良くしてるのを見るとなんか無性に腹が立つっつーか……)

田中は覚悟を決めて、アルル達の元へと一直線にかけていく!

「うおおおおおらあああああっ!!」
「えっ!? キミは……!!」

アルルが驚いているのを無視して大男に摑みかかろうとする田中だったが……。
男はふん、と田中を一瞥するとそれを優雅にかわし、田中はそのまま地面にずざざーっと転んでしまった。

「うぅ……」
「何だ貴様は、いきなりこのサタン様に突進してくるとは」
「大丈夫!?」

アルルはサタンと名乗った男を無視して田中に駆け寄ってきた。

「お前……、どうして……」
「それはこっちが聞きたいよ、キミこそ今までどこで何してたの?」
「お、おいアルル……、この薄汚い小僧とどんな関係なのだ!? 私は何も知らないぞ!?」

慌てるサタンにアルルはこう返した。

「この人、知らない世界から飛ばされてきて困ってるみたいなんだ」
「ふん、そんなの私の知った事か! いきなり私に襲いかかる不届き者など助ける義理もない!」

アルルは呆れた顔で田中にヒーリングをかける。

「別にサタンに助けてなんて頼んでないから……」
「アルル……、お前はどうしてこんな俺に……」

アルルは少し笑ってこう返した。

「なんとなく、キミに懐かしい感じを覚えたんだよね、一目見て……」

それを聞いたサタンは凄まじい剣幕で田中をにらみつけていた。

「アルルが、我がフィアンセが……、こんな小僧に……」

サタンは田中めがけて猛スピードで突っ込んでいく!

「さっき私を襲おうとしたな! これはその礼だ! 有り難く受け取……」

突如サタンの頭上に青白い閃光が放たれ、サタンはそのまま地面にドスンと激突した。
カーバンクルは思った。こんな短時間でどいつも地面に激突しすぎだろ、と。

「貴様……、闇の魔導師!!」

サタンの後ろから静かにあのお兄ちゃんが歩いてくる。田中は確信した。

(アルルさんは強力なヘンタイホイホイですから)

やっぱりビッチには(サタン含めて)ヘンタイが付き物だと。

「何やってんだサタン、そいつはただのやくざ者だ。チンピラ相手に本気出してどうする」
「黙れ! この小僧は私のフィアンセを奪おうとしたのだ。しかも私に襲いかかってきてまでな!」

アルルははぁ、とため息をついた。カーバンクルも呆れていた。
シェゾはふっと笑った。

「アルルは俺が奪う! お前はルルーと仲良く食事でもしているんだな!」

(何だよこいつら……)

田中も2人の喧嘩を見てドン引きしていた。

「おいそこのチンピラ! お前はアルルが欲しいのか? いらないならすぐに引き下がるんだな!」
「ふん、こんな奴がアルルに釣り合うわけなかろう、たとえ欲していようが決して渡すものか!」

(なんだろう、このくだらねえ喧嘩、どっかでこんなのと似たような状況になったな)

田中は思い出す……。

(おい白地、お前最近田中と妙に仲が良いじゃないか、もしかして狙ってるんじゃないだろうな)
(はぁ!? 田中君が久しぶりに真面目に学校に来たから、勉強教えてるだけだよ!)
(勉強なら俺が教える。ついでに夜の方もな)

田中は呆れると同時に怒りが込み上げてきた。こんなくだらねー事思い出させやがって。

「どうでもいいわくだらねえ! お前ら揃いも揃って馬鹿丸出しじゃねーか!」
「そうだそうだ! 2人とも鬱陶しいからさっさと帰ってよ! くだらない喧嘩にボク達を巻き込まないでよ!」

サタンは言い返した。

「巻き込むも何も原因はその小僧だ! アルルから離れろ!」
「同感だ! そいつがアルルの全てを奪うかもしれんから、その前に俺がいただこう!」
「ぐっぐっぐー!!」

鬱陶しくなったカーバンクルは2人めがけて巨大なビームを発射した!
避ける暇もなく爆発に巻き込まれた2人はそのままどこかへと吹き飛ばされてしまった。

「やな感じー!!」
「いや俺らそんなキャラじゃねーだろ!!」

遠くからそんな声が聞こえてきたが、とりあえず無視することにした田中。

「す、すげえなそいつ……。見かけによらずつええじゃん……」
「ぐっぐっぐ!」

ドヤ顔でポーズを決めるカーバンクル。

「あはは……、そんな事よりキミ、これからどうするの?行くあてもないんでしょ?」
「まあないっちゃないけど……」

アルルは苦笑いしながらこう返した。

「キミが嫌じゃなければ、ボクの家に泊めてあげてもいいよ……?」

カーバンクルは照れ臭そうにするアルルの横で煎餅をボリボリ食べている。

「……ああ、是非そうさせて……」

カーバンクルは田中めがけてビームを発射し、田中も吹き飛ばしてしまった!

「あっ……、こらカー君! なんて事するんだよ!」
「ぐっ!!」

カーバンクルは両手でバツのポーズを取った。アルルは呆れて結局、そのまま帰ってしまった。

田中はどこまで吹っ飛ばされたのか!? 続く!!(多分)
18:えころ :

2019/07/20 (Sat) 20:59:10

こいしフレンズ

ここはジャパリパーク! 今パークはとんでもない危機に瀕していた!
それは大悪魔キュルルシファーによる進行進撃侵略作戦により、パークは焦土と化していたからだ!

「ぐはははは! 愚かなフレンズどもよ! 我が力の前にひれ伏し、愚民どもの見世物となるがいい!」

パークで自由に暮らしていたフレンズは次々と捕縛され、ルシファー軍率いる新勢力により、奴隷の扱いを受けていた!
というのはこいしが書いた小説であり、さとりにも見せたが、二秒で捨てられてしまった。

「小説って難しいなー」

こいしはふらふらとそこら辺を歩いていると、華麗に空を舞い、せっせとなにかを書いている女の子を目撃!

「うーん、どこもかしこも変わった様子なく、面白い記事が書けなさそう……」

こいしは女の子の背後にさっと回り込み、ひざかっくんをぶちかました!

「おほぉ!?」

不意を打たれた女の子は驚いた拍子で地面に倒れ伏してしまった。

「へ、変な声出しちゃったけど……、何今の!?」

女の子は辺りをキョロキョロ見回したが、誰もいない。
こいしは根に持っていた。

"心の読めないサトリなんてただの雑魚ですね"

「ぶ、不気味すぎる……、早く帰ろう……」

立ち上がった瞬間、さらにひざかっくんをお見舞いするッ!!

「ひぎぃっ!?」

女の子は恐怖のあまり、その場で失神してしまった。
すっきりしたこいしはルンルン気分で人里に降りていくと、メッシュの髪の女の子が悪戯をしているのを目撃した。

「クックック、ここはいつもあのババアがバイクで走り抜ける道……、こうして狭い道にロープを張れば……」

メッシュの髪の女の子は高笑いした。

「すっかり転んで大惨事ってわけだ! はっはっは、最低にくだらないねー!!」

と、噂をすればバイクで走ってくる女性が一人。彼女こそいたずらのターゲットとなる人物だろう。

「お、きたきた……、転べ転べ」

しかしバイクに乗った女性は何事もなく、そこを通過して行った。

「んなっ……!?」

少女が慌てて道に出て、ロープを確認するとなんとロープは何者かに切断されていた。

「ば、バカな!? こんな一瞬で誰がロープを切断したんだ!?」

慌てふためく少女を尻目にスタスタと横を通り過ぎていくこいし。
特にいく場所も決めてなかった彼女はとりあえずミラクルじゃない方の神社に向かう事にした。
神社に着くと、1人の巫女がだるそうにホウキで境内を掃除していた。

「はー、こんなクソ暑い時に掃除とかやめたくなるわね……」

こいしは巫女の耳元にふっと息を吹きかけた。

「あっひぃぃぃん……」

変な声を出して力を抜いた彼女はホウキを地面に落としてしまった。

「な、何よ今の! 誰も見てないけどこっ恥ずかしい!」

少女はキョロキョロと辺りを見るが、誰もいない。しかし、心当たりはあるようだった。

「この仕業は、サトリの妹ね! 出てきなさい!」
「目の前にいるじゃん」

ぎょっとする巫女。

「な、何の用!? 構って欲しくて来たってわけ?」
「まあそんなとこ」

こいしはそのまま勝手に巫女が使っている生活スペースに入り込んでいく。

「あ、こら待ちなさい。冷蔵庫の中のもの勝手に食べたら怒るわよ!」

急いで後を追う巫女。
こいしがとりあえずは茶の間で大人しくしているようなので、お茶を出す事にした。

「はい、これ飲んで話したらさっさと帰りなさい」
「せわしいな、どうせ暇でしょ?」

巫女はあんたに言われたくないわよと返した。

「たーのしー事を探してるんだけど、どっかにないかなって」
「楽しい事? まあ弾幕勝負くらいなら受けて立つわよ」

こいしは首を横に振った。

「でっかいテーマパークみたいなのを幻想郷に作るんだよ、そこにいれば毎日退屈しなさそうだもん」
「でもあんたどこにいたって一人で馬鹿騒ぎするだけで誰も付き合ってくれないでしょ」

こいしは少しむっとした。

「いいんだよ、お姉ちゃんは嫌われ者だし、私だって無理して誰かと仲良くする必要ないし」
「じゃあどうして私にわざわざ相談なんかしに来るのよ、楽しい事くらい一人で見つければいいじゃない」

こいしは少し困った顔をした。

「そりゃ私一人でやれることはほぼやり尽くしたから、退屈になったんだよ」
「退屈になったからって急に人の前に現れて驚かさない事、心臓に悪いんだから」
「弾幕勝負だってほぼ命がけなのに?」

それとこれとは話が別、と巫女は突っ込んだ。

「そうねえ、できるかは知らないけど友達でも作れば? そうすりゃ退屈しないんじゃない?」
「私を感じることができるのなんて小さい子だけ、やれる事も限られてる」

巫女は困った顔をした。

「あんた白蓮のとこで世話になってるでしょ、そこの妖怪どもと気が合いそうなのでも見つければいいじゃない」
「別にいない」

即答されてため息をつく巫女。

「はぁ、妖怪の友達探しなんて受け付けてないわよ、力になれなくて悪いけど、帰ってちょうだい」

追い返されたこいしはまた、行くあてもなくふらふら彷徨っていると……。
うさ耳をつけた少女がそそくさと人里を出て行くのを目撃!

「うさぎのフレンズだー!」
「へ、うさぎのフレンズ?」

少女には自分の姿が見えているようだった。

「もしかして私の姿見えてる?」
「まぁ、多少は……、ぼんやりとだけど」

こいしは少女の手を掴んだ。

「ひゃああっ!?」
「お友達になりましょ!!」

少女は戸惑いつつも、とりあえず小さく頷いた。

「あなたお名前は?」
「鈴仙……、でも優曇華院とかイナバとも呼ばれてる……」
「名前が3つもあるとかすごーい!」
「いや名前は鈴仙で、ほか二つは……」

その後二人はよく屋台でおでんを食べる仲になりましたとさ、めでたしめでたし

こいしが書いた小説の内容が前より落ち着いた内容になっているのを見て微笑むさとり。

「あの子、最近何か嬉しそうね、いい事でもあったのかしら」
19:えころ :

2019/07/21 (Sun) 00:33:13

田中一郎、異世界へ行く7

~前回までのあらすじ~
田中はアルルの家に泊めてもらおうとしたがカーバンクルにぶっ飛ばされた!
以上!!

翌朝。田中は森林の樹木の枝に引っかかって気絶していた。

「っつっ!! どこだ…ここは、のわああああ!?」

目が覚めてつい態勢を崩し、そのまま茂みへと落ちてしまった。

「あだだだだ、ダブルで負傷するとかやってらんねえわもう……」
「ふんふふん、ふーん、あら、あなたは……」

ケツを強打し、しばらく動けないでいる田中の前に昨日会った魔法使いの少女が現れた。

「あ、お前はあの時のガキンチョ……」
「ふむふむ、どうやら大金を盗もうとしたのがバレ、こんな村の外れの森まで逃げ、窮していると言ったところかしら」

田中はため息をついて否定した。

「ちげーよ、あのビッチと一緒にいたモンスターに吹き飛ばされて、ここで気を失ってたんだよ」
「なるほど、アルルさんと仲直りしようとして、カーバンクルにぶっ飛ばされたわけですね」

魔法使いの少女は田中に薬を差し出した。

「あ? もしかして今更俺を憐れんで魔法薬をくれるってのか?」
「いえ、回復薬ですわ。 あなた色々なところを怪我してるでしょう?」

田中は回復薬を受け取り、痛みに耐えながらゆっくり口に運んだ。

「まあそれの代金は余裕ができた頃にでも払ってくださいな、それじゃ」
「お、おい……、ちょっと聞きたい事あんだけどよ」

少女は振り返って再び田中のところまでやって来た。

「俺、めちゃくちゃ強いおば……いや女の人にさ、手品の才能ねーって言われたんだよ」
「ふむ、それで?」
「お前さ……、もしかして俺がアホなの知っててからかったんじゃねーだろうな?」

少女は鼻歌を歌いながら明後日の方向を向いた。

「さあて、何の事かしら。人の話も聞かず大金を集めようとして失敗した話までは聞けませんわ、ごめんあそばせ!」

少女はそのまま森の中を駆けて行ってしまった。

「あ、待てこらガキ!」

田中は追おうとしたが、やめた。こんな森で迷子になったりしたら流石にやばい。命に関わるだろう。
それに一応は回復薬を譲ってくれた恩人でもある。

「やれやれ、結局は俺が悪いって事だ……」

田中は痛みを抑えながら、村へと続く道を歩いていく。

「そういやあの野郎、どうして俺をこんな世界に飛ばしたりしたんだ、しかも何も持たせねーで」

田中は部屋に急に現れた男について思い出す。

「あいつはこの世界について何を知っているんだ……、そこら辺詳しく……」

田中は自分が人の話を聞かない男だとつくづく思い知って自嘲した。

「はー、このままじゃ俺こんな世界で生きていける気がしねー、弱いし手品も使えないし、俺は何ができんだ?」

(真面目に生き抜く術でも考えなさいな)

「あのおばさんのところへ行こう! あの人はきっと格闘のプロだ! 俺は強くなりたいッ」

かくして、その後この世界にグラップラーイチローとして名声を欲しいままにする男が誕生する……。
はずもなく、田中は痛みこそ和らいだが、空腹でマジでぶっ倒れそうな状態であった。

「はあはあ、遠いな……、どんだけ歩いてんだよ俺……、全然つかねえぞ……」

そんな彼の前を陽気に通り過ぎていく魚がいた。

魚は手足が生えており、地上でえら呼吸をしているという何とも言えぬ出で立ちであった。
だが田中はこの気持ち悪い生物がもはや食い物にしか見えなくなっていた。

「食わなきゃ俺は死ぬッッ!! 神に感謝の心を捧げ、いただきますッッ!!」

ぐわっと魚のようなものに襲いかかる田中。

「ぎょぎょっ!? なんだお前! あいっでえええええええ!?」

かじりついた田中だったが口の中に生臭さと路上にぶち撒かれた反吐のような味が染み渡ってきた!!

「まずいッ! お前、食い物失格ッッ!!」
「ぎょぼ! 失礼すぎるぜお前!! 勝手にかじりついて怪我させといて吐くセリフがそれかよ!」

田中は空腹から己の中にかけられたリミッターが外れていくのを感じていた。
すると、どうだろう。生い茂る草木が全てサラダバーに見えてくるではないか。

「ここら辺にも食べ物が……、食わざるを得ない!!」

ムシャムシャと辺り一面に生えた雑草を喰らい始める田中。魚のような生き物はそれを見て……。

「想像以上に危ないやつだぜ、関わらないようにしとこ……」

その頃魔法使いの少女は……。

「あら、間違えてあの方に副作用のある魔法薬を飲ませてしまいましたわ……、どうしましょう」

田中が不安になった彼女はとりあえず来た道を戻り、探す事にした。

「落ちこぼれの方〜、聞こえたら返事してくださーい!」
「うぬ、さっきの小娘か?」

え、と田中の姿を見て顔が青ざめる少女。
田中はさっきの2倍ほどの身長になり、筋肉が膨張し、もはや原型をとどめていなかったからだ。

「ぐははは! 心地いい気分じゃい、今のワシであればこの世界の支配者として君臨する事もできようぞ!」

誰この人…とあまりの変質ぶりにドン引きしていた。

田中は果たして元に戻れるのか!! 続く!!(多分)
20:えころ :

2019/07/21 (Sun) 13:08:01

田中一郎、異世界へ行く8

~前回までのあらすじ~
田中がでっかくなっちゃった!!
以上!!

「ぐふふふ……、パワーが漲って溢れんばかりじゃ……、どれ小娘、一つワシの技を受けてみい」
「へっ? あなたはもしかしてあの落ちこぼれの人ですか……!?」

田中のような何かは力強く拳を振り上げた。

「いかにも。そして小娘、ワシの力量を知った上で、この村々に住む生きとし生けるものにこう伝えて回れィ!!」
「ひっ……!!」
「超絶究極魔人イッチロウが爆誕したという事実をなァ!! うごぉぉらぁぁああああッ」

カオス・マッシブ・インパクトォ!!
地面に向かって叩きつけられた正拳は大地を裂き、木々を根本から粉砕する!!
もちろん根本を絶たれたいくつかの樹木はバランスを崩して次々になぎ倒されていく、圧倒的なパワー!!

「きゃああああああああああ!!」

恐怖のあまり、少女はその場から一目散に逃げていく!

「待てい小娘ッ、村に行くのであればワシも同行する! この地を手中に収め、衆愚に我が名を響かせるためになぁ!」

ドスドスと箒に乗って逃げる少女の後をついてくる怪生物。

「じょ、冗談じゃありませんわ……、あんな怪物、私の手には負えない……!」

少女はアルルの家に到着し、ドアを必死で叩いた!

「アルルさん! いるんでしょう!! いたら出てきてくださいな!!」

アルルは眠そうにドアを開けて出てきた。

「ん~どうしたのウィッチ。キミがボクの家に来るなんて珍し……」

その時、村の入り口から大きな悲鳴が響いた。すでに怪物田中が村に向かって進行してきているからだ!!

「何を驚く事があるか……! この村にはすでに異形の者が複数存在するではないか!」
「何あれ!?」

アルルもその姿を目撃し、一気に目が覚めたようだった。

「うぬらにワシを頂点の存在として受け入れさせるため、さらなる力を目に焼き付けさせようぞ!! はああああッ」

デストロイ・バイオレンス・ラッシュ!!
怪物から放たれる無数の突きが村に敷き詰められたタイルを軽々と粉砕!!
弾丸のように飛び散った瓦礫が近辺の民家を容赦なく破壊する!!

「逃げろぉぉぉ!!」
「助けてくれええええ!!」

怪物田中は逃げ惑う生き物たちに絶望的な宣言を下した。

「ぐはははは!! どこに逃げるつもりだ! この地は全て我が支配下に置かれる!」

怪物田中は軽々とジャンプし、民衆の前に立ちはだかる!!

「ならば、うぬらはこのワシを崇め、日々を過ごす以外に生きる道などないのだ!!」
「そこまでだ!!」

アルルが怪物の前に躍り出た。怪物はアルルを見て不敵な笑みを浮かべ、こう告げた。

「笑わせるでない、今のワシにとってうぬのような小娘など街灯に集り、力尽きるだけの羽虫と何ら変わらぬ!!」
「言ったな! 絶対やっつけてやる!!」

果たしてアルルは怪物をやっつけ、村を守れるのか!! 続く!!(多分)
21:えころ :

2019/07/22 (Mon) 18:26:15

田中一郎、異世界へ行く9

~前回までのあらすじ~
怪物田中一郎vsアルル!! ファイッ!!
以上!!

「ファイヤー!!」

怪物田中は軽い手刀でそれを切り裂き、防御ッ!! 同時に飛び散った火の粉が民衆に降りかかるッ!!

「あちあちっ!!」
「大丈夫!? みんな……」

アルルが振り返ろうとした瞬間、怪物田中の一撃が繰り出されるッ!!

「余所見をするなど半ば勝負のサジを投げたようなものッ! その小さな身体で受け切れィ!!」

巨大な掌が高速でアルルにクリーンヒット!! アルルはそのまま吹き飛ぶッ!!

「ぐわあっ!!」

アルルが吹っ飛んでいく横でウィッチが前に出て、呪文を放つ!

「メテオォォォォ!!」

ウィッチは怪物めがけて隕石をぶつけようとするが、しかし!!

「こんな石ころ屁でもないわ、むしろうぬの首を絞める結果となるぞ! ほぉれィ!!」

怪物田中は隕石をデコピンで粉砕!! 破砕した岩石片が村民を襲う!!

「ぎゃあああ、痛いィィィ!!」

戦意喪失してその場に膝をつけるウィッチに不敵な笑みを浮かべる怪物田中。

「その程度か? クックック、これはもう我が願望が正しいものであることを証明したものじゃのう」
「まだ早いぜ、デカブツ」

怪物の背後に現れ、斬りつける変態魔導師!!

「アレイアード!!」
「むぅん、まあだ小うるさい羽虫がいたとはな……、おなごの前でいい格好をしようというわけだな?」

シェゾは驚いた。攻撃は通ったが、かすり傷程度のダメージしかなかったからだ。

「こうなったら全力でケリつけるぜ! ダイアキュ……!!」

強化呪文を唱えている間に闇の剣を平手で振り払い、唖然とするシェゾに蹴りを入れて吹き飛ばす怪物田中。

「うぐふぅ、サンダーストーム!!」

諦めず、呪文を放つ魔導師。
怪物田中に襲いかかる落雷だが、何とこれを指先の一点に集め、一直線に放出したッ!!
放たれた落雷の光線は村の入り口から出口までを焼き尽くし、焼かれた地面は煙を立てて黒ずんでいた。

「次はどうする、全てワシが受け切ってみせようぞ!! ぐはははは!!」
「何なんだこの怪物は……、どうしてこんな奴が現れた……」
「わたくしのせいですわ……」

シェゾはウィッチの方を向く。

「わたくしが……間違えて魔法薬を飲ませたために落ちこぼれの方はこんな……」

落ちこぼれという言葉を聞いてシェゾはたいそう驚いた。

「なっ、これがあのチンピラなのか!? 信じられん!!」
「お別れ話はそこまでかな、ならばフィニッシュといこうぞ! ワシの奥義を目にして散るがいいィィィ!!」

怪物田中に鋭い蹴りを浴びせ、殴りまくる女性が一人!!

「る、ルルー!! 無駄だ、そいつには魔導がほぼ効かない!」
「黙ってなさい、まさか昨日会ったのがこんな馬鹿な存在になっていたとはね……」
「なるほど、昨日はワシの自業自得とはいえ、よくも返り討ちにしてくれたなッ! 礼をくれてやるッ!!」

怪物田中は構え、ルルーに対してラッシュを繰り出す!!

「我が力を受けよッ!! そしてワシがうぬを遥かに超えた存在であることを改めて知らしめようぞ!!」

怪物のラッシュがルルーの身体を捉えようとするが、それを一つ一つ交わしていくルルー。

「力は確かにこの私をも上回るでしょうけど……、肝心のオツムはそのまんまのようね!」

怪物田中の顔面に蹴りをお見舞いし、そこからさらに容赦なく連打をお見舞いする!

「女王乱舞!!」

ルルーの攻撃に怪物が押されているように見え、希望を持ち始めた村民だったが……目前の怪物は甘くなかった!!
次の瞬間に怪物はルルーの足を摘み上げ、放り投げてしまっていたからだ!!

「ククク……、例えワシの頭がどうであろうとうぬの攻撃が効かなければ話は別だ、それを学習するのだなッ!!」
「あたしが相手だ!!」

中華風の少女が口からものすごい火炎を吐き、怪物田中の全身を焼き尽くそうとするが……ッ。
怪物田中はそれを腕に纏わせ、少女をぶっ飛ばした!!
フゥーと息を吐き、腕に纏わせた炎を吹き消す怪物田中。

「これで最後かな? まだいるなら相手するが……どうする?」

怪物田中は周囲を見回すが、誰一人として前に繰り出そうとする者はいなかった。

「そこまでだ怪物、まだ私が残っている。アルルやみんなを傷つけた事、地獄の底で後悔させてやろう!」

サタンが現れた!!

「ほぉう、それでは最終ラウンドと洒落込もうか……」

サタンと怪物田中の一騎打ち!! 勝つのはどっちだ!! 続く!!(多分)
22:えころ :

2019/07/22 (Mon) 20:36:21

田中一郎、異世界へ行く10

~前回までのあらすじ~
暴れん坊怪物田中vsサタン ファイナルファイッ!!
以上!!

「サタン様……、全てはわたくしのせいですわ……、魔法薬が……」

サタンはウィッチを見てふっと微笑んだ。

「それは違うぞウィッチ、あれは魔法薬が直接的な原因ではない」
「えっ……、何か別の理由があるとおっしゃいますの……!?」
「私の見立てだが、あいつはおそらく誰かに操られているのだ」

怪物田中はサタンをにらむ。

「何をぐちゃぐちゃ喋っておる。とっととかかってこんか」
「貴様はあの小僧本人ではないだろう、何が目的だ!」

怪物田中は口の端を歪めて笑う。

「ぐはははは!! 何を言うか、ワシは昨日ここで散々な思いをし、その鬱憤ばらしに地上侵略をしようというだけだ!」
「記憶を共有しているだけだ!! 貴様はあくまでその小僧の体を媒体とし、好き勝手しているだけだろう!!」
「くどい! 御託に付き合っている暇などないわ!! くたばれぇい!!」

怪物田中の手刀がサタンに振り下ろされようとしたまさにその時、

「じゅげむ!!」

大爆発が怪物田中を襲い、視界を遮った!!

「さすがアルル、我がフィアンセだ。これでとりあえず敵の視界は奪えたぞ!」
「ぐぬぅ、くだらぬ小細工を……、消えろォ!!」

怪物田中が高速で腕を振り回し、霧払いする頃には村の住民やアルル達はすっかりいなくなってしまっていた。

「ヌッ!?」

怪物は自分の身体にある異変を感じていた。

「ちぃっ、活動時間の限界が来おったか……、仕方あるまい……」

怪物田中はみるみるうちに元の田中の姿に戻り、その場に倒れ伏した!

「今だ!! あいつを捕らえろ!!」

隠れていた村民達は一斉に倒れた田中を取り囲み、大きな十字架に体を縛りつけていく!

「ねえ、あの人……、本当に悪い人だったのかな……」

アルルはウィッチやサタンの方を見た。

「サタン様、さっきの話は本当ですの? 記憶がどうとか……」

サタンは頷いた。

「この世界を破滅に導こうとした魔神がいるらしい、名をヴゼルという」
「……聞いたこともない名前ですわね」
「ヴゼルは人の体を乗っ取り、戦闘能力を増強させる代わりに悪意を猛烈に増加させる特殊能力を持っているのだ」

ウィッチはそこまで言われてなんとなく理解した。

「じゃああの方はその魔神によってこの世界へやってきた……、という事ですの?」
「おそらくな、しかし今のはヤバかった……、奴に時間制限がなければ私でも相当骨が折れる相手だっただろう」

アルルは苦笑いしながら、重くこう返した。

「サタンでも勝てなかったって事だね……」
「勝てる! 頑張ればいけた! 私は無敵だぞアルル!」

ウィッチはため息をつき、アルルも首を横に振った。

黙って話を聞いていたシェゾが割って入ってきた。

「……そんな事より、あいつをこのまま放っておくわけにはいかん。始末するんだろサタン」
「そうなるな……」
「ダメだよ!」

サタンはアルルの言葉を聞き、首を傾げた。

「何故だ、あやつを放っておけばいずれ大きな被害が出る事は確実だ、ならそうするしかないだろう」
「同感だ、またあんなのに変身されたら俺だってもたない。気の毒だがそうするほかにない」
「あの人は悪くないじゃん! 悪いのはあの人に取り付いて好き勝手するヴゼルって魔神なんでしょ!?」

ウィッチも言葉を濁した。

「アルルさんの気持ちはわかります。ですが、あれだけのパニックを起こした人を野放しにするなんてできませんわ」
「アルルがやつの事をどう思ってるのかは知らんがこれは村の平穏のためだ、割り切るしかない」

サタンはアルルの肩を叩いた。

「もう奴の事は忘れろ、みんなを危険な目に遭わせる存在は早めに取り除かなければならない、いいな」

アルルは言い返す言葉が見つからなかった。その様子を始終眺めていたヴゼル。

(このサタンという男……、私の事を知っていたのか。しかし何故だ、この世界に私の事を記した文献などないはずだが)

田中は村の住民から始末されてしまうのか!! 続く!!(多分)
23:えころ :

2019/07/24 (Wed) 18:31:08

倉山vs万札

倉山が街中を歩いていると、妙な音が耳に届いてきた。
倉山は気になって、建物の隙間に体を押し込み、向かい側の様子を見る。
何という事だろう、大量の万札がリンリンリンシャンシャンシャン♪と規則正しい位置で舞っているではないか。
万札どもが倉山に気づいたのか、一斉に動きを止め、警戒態勢に入る。

「貴様見たな、この一万円札の優雅なる舞を……」
「ええ、見たわ。何でお金が動いてるのかまでは理解に苦しむけどね」

一万円札はクルクルと回転し始めた。

「ふん、たかだか紙切れと思うなよ。我々をただ使い捨てる人間どもに復讐する機会を狙っていたのだ」
「使われるのは当然でしょう、お金なんだから。そんな事よりお金がどうやって人間に復讐するのか気になるところね」

一万円札は高速回転をしながら、倉山に急接近ッ!! 倉山、それを回避ッ!!

「ほう、今の一撃を回避するとはな、だがこの量相手ならどうかな?」

見ると大量の一万円札がヒラヒラ宙を舞い、倉山を捉えていた!!
倉山はピストルを取り出し発砲するが、自在に動く万札どもには一発も当たらない!!

「はっはっは、無駄だ! それ、この人間を仕留めるのだッ!!」

万札が大量に倉山に高速回転して襲ってくるッ!! 倉山はそれを避け続けるが……。

「そこだ!! もらったァァァ! 必殺ビルビルカッター!!」

万札は倉山の半身をスッパリ切断し、勝鬨をあげた!!

「どうだ人間め、これが我らの力だ! これならば地上の者共を殺戮するのもさぞ容易かろう!!」

その時、万札の一枚が気づいた。

「おい、さっき仕留めたあの人間の上半身がどこにも……」

言いかけた万札は怪物と化した倉山に破り捨てられたッ!!

「ふっふっふ、地上を侵略だと? それはこの私を倒してから抜かす事だな!!」
「なっ、貴様……!! こうなったら細切れに刻んでやる!! 者共かかれい!!」

倉山は大笑いした。

「ヒャアッハッハッハ!! なぁにがビルビルだ紙くずどもが! 貴様らなどこうしてくれるわッ!!」

クレイジー恭子、ビリビリラッシュ!! 倉山は万札を一枚一枚両腕を振り回し、破き捨てていくッ!!

「ふん、紙切れごときがくだらない野望を持つのが間違いなのよ、生まれてきた場所から出直してきなさい」

倉山は落ちていた下半身を拾い上げ、それをドッキングしていたところ、不良少年田中がやってきた。

「げ、倉山……。ん? 破れた万札があちこちに転がってるじゃねーか! ……もしかしてお前のか?」
「いや、私のじゃないわ。それにしてももったないないわね、誰がこんな事したのかしらね」

田中は倉山にある提案をした。

「そんじゃあこれ銀行に持ってこうぜ! 新札と取り替えてもらって山分けだぜ!」
「え? そんなんできるの? じゃあ拾ってこうかしらね」

こうして田中と倉山は仲良く、破れた紙幣を拾い集め、銀行で換金してもらいましたとさ、めでたしめでたし
24:えころ :

2019/07/25 (Thu) 19:55:27

田中一郎、異世界へ行く11

~前回までのあらすじ~
田中は無事元に戻ったが、暴れた代償として処刑される事になってしまった!!
以上!!

アルルは俯きながら田中が拘束された場所へと向かっていた。

―――回想。

「私はヴゼルの調査をする、お前達は村の修繕、警備に取り掛かってくれ」

サタンの命令に質問をするシェゾ。

「警備って何だ? あのチンピラみたいに見慣れない奴は村に通すなって事か?」
「そうだ、もしヴゼルが我々に取り憑けるならとっくにそうしているだろう、だがそれがないということは……」
「もともとこの世界にいた者に取り憑く可能性は低い、という事ですわね」

サタンは頷いた。

「まあヴゼルの奴がどんな手段を講じてくるか分からないが警戒は強めておこう、村民達も同意するはずだ」

ルルーや中華風の少女もやってきた。

「サタン様、そのヴゼルとやらをどこで知られたのですか?」

サタンは深刻そうな表情を浮かべ、語り始めた。

「……数日前のことだ」

私はウィッシュにアルルと幸せな生活を築いているか確かめるため、ウィッシュに占ってもらう事にしたのだ。

「そんな馬鹿な目的でおばあちゃんから未来を占ってもらおうとしないでくださいな」
「まあ話を聞いてくれウィッチ、大事なのはここからだ」

ウィッシュは水晶玉に未来を映したが、そこには衝撃的な映像が広がっていた。
なんと村の者達が全員死に絶え、私一人だけが悲嘆に暮れながら、永遠を過ごす絶望的な状態だったのだ!

「はぁ!? ウィッシュのばあさん、随分悪趣味な幻覚を見せてくれるじゃねえか!」
「シェゾ! おばあちゃんがそんなものサタン様に見せるわけないでしょ! きっと事実なんですわ!」

これは何の冗談だ? とウィッシュに聞き、仕方なく近い未来を占ってもらった。
するとどこの者かも分からぬ異形の者が村を襲い、破壊しているではないか。

「異形のものって……、さっきのチンピラの方ですね?」
「さっきの小僧だけではない、何十人という人間があのような怪物と化し、村を襲いに来るのだ」
「そいつらは全員共通してこの世界の人間じゃあねえって事だな」

夢でも見させられたのかと思い、ウィッシュにこいつらは何だと聞くと、彼女はこう返した。

『この者達は"ヴゼル"という魔神に姿を変えられ、内に秘めた欲望を増幅させているのではないかと思います』

そいつの目的は何だ!? と私がウィッシュに尋ねると、

『詳しい目的は分かりませんが、根本的にこの世界の破壊を目論んでいるのではないか……と』

「おばあちゃん……」
「話はここまでだ、私もそのヴゼルが何者かは知らんが、あの恐ろしい光景、そんな未来になる前に奴を討ちたいのだ」

全員、沈黙していた。誰一人として正体不明の恐怖に立ち向かう勇気を持てずにいたからだ。
しばらくして、サタンが話を切り上げた。

「とにかく、この世界に未曾有の脅威が迫っている事だけは忘れないでくれ。あの小僧の処分も早めに済ませよう」

―――回想終了。

「あの人を助けなきゃ……!」

アルルはついに田中の捕らえられている丘の上までやって来た。
十字架に縛り付けられた田中の横で二人の見張りが気怠げに突っ立っていた。

「なあこんなクソ暑い時にこのやべーガキを俺ら二人で見張るってありえなくね?」
「しょうがないだろ、俺らはこんな事ぐらいでしか役に立てないんだから」

見張りの一人が腹の虫を鳴らした。

「腹減ったなあ、なんか持ってくりゃ良かったぜ」
「俺も何も持ってきてねえからなあ、どうすっかな」

アルルが見張りの前までやってきた。

「ねえ、お腹空いてるんでしょ? ボクが代わりにやるから、何か食べてきなよ!」
「お、あんたこのやべーのと戦ってた娘? もしかしてサタン様に頼まれたのかい?」
「そいつは助かるなあ、そんじゃあお言葉に甘えて食べに行こうぜ!」

見張り二人はすさすさと素早く村の方まで帰っていった。

「よし、今のうちに……」

果たしてアルルは田中を助ける事ができるのか!? 続く!!(多分)
25:えころ :

2019/07/25 (Thu) 21:03:37

田中一郎、異世界へ行く12

~前回までのあらすじ~
アルルは田中を救おうとしていた!!
以上!!

アルルが田中を縛った縄を切ろうとすると、後ろから声をかけられた。

「そいつをどうするつもりだ、アルル」
「……シェゾ」

シェゾはアルルに近づいてくる。

「お前の様子がどうにも怪しかったんで、つけてきてみれば、やっぱりこういうことか」
「……別にキミはボクがどんな状態だろうと付きまとってくるじゃん」

シェゾは闇の剣をアルルに向けた。

「う、うるさい! とにかく、そいつから離れろ! なんならそいつは今ここで俺がトドメ刺してやる!」
「シェゾも聞いたでしょ? ヴゼルって魔神が悪い話……」
「聞いたがそれがどうした、そいつにヴゼルが取り憑いてない保障なんてないんだぞ」

アルルは田中を縛った縄を切り解いた!

「なっ……、正気かお前! こいつの息の根を止めなけりゃ、サタンはともかく村中の人達を敵に回す事になるんだぞ!」
「例えそうなってもボクはこの人を見殺しにできない! 何とか元の世界に帰してあげるんだよ!」

シェゾは頭をかいてから、怒鳴った。

「バカかお前は! そいつが元の世界に戻る事より、そのヴゼルってのを何とかするのが先だろうが!」
「ボク達の力だけでどうにかなる相手じゃなかったらどうするんだよ!」
「そ、それは……」
「サタンの話が本当ならボク達はそのヴゼルに命を奪われてるんでしょ? ボク達だけじゃ無理な相手なんだよ!」

二人の言い争いを聞きつけたのか、ウィッチがやってきた。

「アルルさん……、まあ! どうしてその方の拘束を解いてらっしゃるの? すぐ元に……!」
「ウィッチも聞いて! この人ならボク達を何とかできる可能性があるかもしれないんだ!」

はあ? と二人はアルルに抗議した。

「お前が何考えてるのか知らんが、そいつは一度ヴゼルに操られた身なんだぞ! 何ができようが危険が多すぎる!」
「アルルさん、その方は魔導さえろくに使えずルルーさんにもボコボコにされるのよ? 正直何の役にも……」

とその時、田中が揉めている声を聞いて目を覚ました!

「う、うーん……」
「アルル、ウィッチ! そいつから今すぐ離れろ! こいつは俺が切り捨てる!」

田中に向かって突っ込んでいくシェゾッ! 田中は無事で済むのか!? 続く!!(多分)
26:えころ :

2019/07/25 (Thu) 22:09:14

田中一郎、異世界へ行く13

~前回までのあらすじ~
田中、目覚めたら変態に襲われる!
以上!!

田中は目覚めるやいなや、急激に青ざめた顔をし、なんとッ!!

「うぶぇ、気持ち悪……、ヴォエ! うぉぼろおおおげええええッ、ぐうぉえッ!!」

土や草や虫の死骸など、ありとあらゆるお見せできないものをぶちまけるッ!!
思わず吐瀉物がかかるまいと離れるシェゾ!!
悲鳴を上げながら遠くへ走り去るウィッチ!!
さすがにこれは近づくまいとすぐ離れるアルル!!

「ハァハァ……、げええ、何だよこれ……、俺は一体何をやってんだよ……!」
「それはこっちの台詞だ! おまえ一体何を食ってんだよ!!」

異様な匂いに吐き気を催した3人は田中からどんどん離れていく。

「お、おい待ってくれ……。俺は本当に何も知らないんだ……、これだって悪夢なんだ」
「うるせえよ! 悪夢を見てるのはこっちだっての! おいアルル、これなんとかしろ!」
「なんとかって言われても無理だよ……。とりあえずこの場を離れよう……」
「そうですわね……、この匂いを嗅いでいたらなんだかわたくしまで……うぷっ!」
「やめろ吐くな! ええい、ウィッチ! 村まで帰るぞ!」

ウィッチを連れて村まで帰っていくシェゾ。
鼻をつまみながら引きつった笑いを浮かべてアルルが田中の応対をする。

「どりあえずギミはどうずるの? ごんなどごろにいでも飢え死ぬだけだよね?」
「なあ俺は本当に何も知らないんだ、こんなのだって俺のだって信じたくねえんだよう」
「ぞうだね、でもベドまみれのギミが言っでも説得力皆無なんじゃないがなあ?」

田中はさすがにぶち切れた。

「おまえなあ! 俺が訳も分からずゲロまみれになってるのを見て少しは憐れみの心を持てよ!」
「ど、どりあえずだねえ……、服を持っでぐるがらぞれ着で、ボグにづいで来でぐれるがなあ」
「そのしゃべり方やめろホント、また吹き出しそうになっからよ、色々とな」

田中はそこら辺の池の水で体を洗い、アルルが持ってきた服を着て、話を聞くことにした。

「う、まだ少し匂うねえ……」
「うるせえなあ! 俺だって好きであんなもんぶち撒いたんじゃねえんだよ!」

苦笑いしながら、アルルは田中が怪物になったこと、そしてヴゼルのことを伝えた。

「俺が怪物化して村を襲った? そんでその仕業がヴゼルとかいう魔神? 意味が分からん」
「とにかくね、キミはもうボクの村には入れないんだ……。どこかに隠れて過ごさないと……」

田中はマジかよ……と絶望した。

「何なんだよそのヴゼルって……、ふざけんじゃねえよ俺に何の恨みがあるってんだ……」
「ところで、キミってどこからどうやってこの世界に来たのかな?」
「あ?」
「ヴゼルは見知らぬ人を怪物化する……、つまりキミがやってきたのにも関係あるかと思って」

田中は思い出して、怒りの表情を浮かべた。

「そうだ! 変な野郎がわけもなく俺をこの世界に送り込んだんだよ!」
「その野郎ってどんな人だった? もしかしたらそれこそヴゼルかもしれないんだ!」

田中は男の外見を思い出そうとするが、どうにも思い出せない。

「すまねえ、そこまでは覚えてねえ。けどそいつが俺をこの世界に送り込んだのは間違いねえ」
「……キミを送り込んで操っているのにも何か条件があると思うんだ」

条件?と田中は首を傾げた。

「キミはこの世界に来てすぐそうなったわけじゃないでしょ? 何かきっかけがあると思うんだ」
「きっかけねえ……、まあ死にそうになってたってことぐらいか?」

アルルはそれだよ、と田中を指さした。

「は? 何でそんなことで俺が操られなきゃいけねーんだよ」
「そんなのボクにだって分からない、何しろヴゼルはボクもよく知らないから……」

田中はしらけたような顔をした。

「キミの話を信じてくれる人がいれば、みんな誤解が解けると思うんだけどなあ」
「無理だろ、俺がめちゃくちゃやったのが事実なら誰も俺を受け入れねえよ」
「サタンを説得しよう!」

田中はアルルに言い寄る大男のことだと理解したが、首を横に振った。

「無理だろそれ、あいつ俺のこと嫌いだし、俺を始末するメリットのがでけーじゃん」
「それをさせないのがボクだよ、それにサタンの言うことなら村の人も少しは信じるはず」

田中はどうかねえ……と頭を抱えていた。

次々と起こるアクシデントに頭がパンク気味の田中! 平穏は訪れるのか!! 続く!!(多分)
27:えころ :

2019/07/27 (Sat) 12:28:45

田中一郎、異世界へ行く14

~前回までのあらすじ~
田中はアルルによって助けられた!!
以上!!

アルルと田中のところへシェゾがサタンを連れて戻ってきた。

「アルル、そいつは世界に災厄を招きかねん存在だ。いくら我がフィアンセでも勝手な真似は許さんぞ」
「お前には気の毒だがそいつにはどうしても死んでもらわねばならん、分かったらそこをどけ」

アルルは2人にはっきりと宣言した。

「それがダメなんだよ」
「何だと?」
「この人の話を聞いて確信したんだ、ヴゼルはこの人が命を落としそうになれば操れるって事をね」

サタンは怪訝そうな顔をしていた。

「そんなものその小僧が助かりたいがために吐いた出まかせだろう、信用できるか」
「この人がそんな気の利いたデタラメを言えるほど賢そうに見える?」

田中がそれを聞いてキレた。

「どういう意味だコラァ!!」

サタンは困惑した表情を浮かべていた。

「確かに見えないが……」
「否定はできんな」
「ぶっ殺すぞてめえら!!」

サタンは田中の前へ進んでいく。

「しかしそれなら、さっさと始末すればいいだけの話。すぐに楽にして……」
「ふーん、そう、やれば?」

アルルから出た意外な一言に驚く一同。

「別にヴゼルがまた現れてサタンもやられちゃってもいいって言うならボクは止めないよ」
「あ、アルル……」

立ち止まるサタン。
田中は内心イラっとしてはいたが、その言葉がサタン達を止めるためのハッタリだという事に気がついていた。

「アルル、もしお前の言う事が事実ならこいつは爆弾って事か!? 無碍にもできないと?」

アルルは頷いた。

「この人の命を奪うことで喜ぶのはむしろヴゼルだとボクは思うよ」

ヴゼルはイライラしていた。

(チッ、この小娘め……。私の野望の邪魔になるであろうとは思っていたが、これほどまでとはな……)

「しかし、そんな事を言っても村人は到底納得はしないだろう。始末する以外どうしろと言うのだ」
「この人を元の世界に帰してあげる事が重要だよ。下手にここで命を落とされたらそれこそヴゼルの思う壺だよ」

サタンは渋い顔をしながら、こう告げた。

「……とりあえず、村人達には始末を終えたと報告してくる。だが小僧、私は貴様を信用しない。それを忘れるなよ」

サタンは村の方へ飛び去っていった。

「あ、おいサタン! はぁ……」

シェゾは不満そうな顔をしてこう告げた。

「そいつが元の世界に戻れる方法がないか調べてみる。言っとくがこれは俺達のためだからな、勘違いするなよ」

去っていくシェゾを見てつぶやく田中。

「ツンデレばっかじゃねーか」
「とにかく助かって良かったねえ、ボクの話を聞いてくれなきゃキミ、やられてたんだよ」

田中はため息をついた。

「奴らは俺の話は聞かねーだろうが、お前の話は絶対聞くだろ、助かったのはお前のおかげさ……ありがとよ」
「えへへ、どういたしまして!」

田中はひとまず助かったが、無事帰る事はできるのか!! 続く!!(多分)
28:えころ :

2019/08/02 (Fri) 23:49:51

こいしvsフラン

ここは紅魔館。ふらふらと現れたこいしは、爆睡する門番の横を通り抜け、中へと侵入!
そのまま掃除をしているメイドや本を読む少女の横を通り抜け、地下へと潜入する!
そして怪しい子供部屋を見つけたこいしはそこを自分の秘密基地にする事に決め、中へと入る!

ギィーと音を立てて扉が開いたので、中にいた悪魔は扉の方を見る。
しかし、そこには誰もおらず、悪魔は幽霊でも入ってきたのかと思った。
だが幽霊ではない、よく感覚を研ぎ澄ませば歩いている音がするからだ。

「誰ー?」

悪魔は足音に対して呼びかけるが、返事は返ってこない…それどころか。ポスっと悪魔のベッドの上に座り込み、そのまま停止してしまった。
悪魔はすかさずベッドに飛び込んだ!

「えいっ!」

しかしこいしはそれをとっさに回避!

「ちぇー、避けないでよ」

その瞬間、悪魔は脇の辺りがものすごいこそばゆさに襲われた!

「きゃははは! くすぐったい! やめてやめてー!」

しかし、こいしは一向に悪魔をくすぐるのをやめないので、怒った悪魔が能力を使ってベッドを破壊する!

「どっかーん!!」

さすがのこいしもベッドを破壊された衝撃で、吹っ飛んで壁に激突! 吐血するッ!!
騒ぎを聞きつけたメイドがすっ飛んできた!

「妹様! 暴れるのはあれほどやめろと……!」
「違うよ咲夜、私の部屋に変なのが入り込んで来てイタズラするんだもん」

咲夜と呼ばれたメイドは悪魔の部屋の中を見渡すが無残に壊されたベッド、凹んだ壁以外異変は見つからなかった。

「妹様、変なのとはどういった……?」
「分かんない、お化けみたいなのだけど、私にも見えないんだよ!」

硬直する咲夜に襲いかかる激痛! それは尻ッ! 緩んだケツに一撃! 大打撃!!

「ハヴォッ!?」

強烈な一撃に咲夜はそのまま昇天し、倒れてしまった!

「咲夜!?」

フッと発砲した銃口の煙を吹き消すように組んだ両手の指に息を吹くこいし。

「ちょっと! 咲夜は関係ないでしょ! 何で攻撃するのよ!」

戦闘態勢に入る悪魔。迎撃の構えを取るこいし。

「くらえっ!」

禁忌「レーヴァテイン」! 一本の巨大な炎の剣がこいしめがけて放たれるも、これを回避!
しかし振り回された所から新たな炎の球が複数生まれ、こいしを包み込むッ!

「無駄だもーん」

本能「イドの解放」!! ハートの塊を複数生み出し、炎の球にぶつけ、相殺する!!

「やるじゃない……!」

悪魔が次の攻撃を放とうとしたその瞬間、こいしの攻撃が発動!!
抑制「スーパーエゴ」!! ハートの塊が大量に出現し、悪魔めがけて襲いかかる!
しかし悪魔は不敵な笑みを浮かべ、切り札を放つ!!

「もう手加減は抜きね、ゲームセットの準備はいいかしら?」

秘弾「そして誰もいなくなるか?」!! 悪魔の姿が一瞬にして消え、不規則に現れる弾幕がこいしを狙う!!

「こっちも容赦はしないけどな~」

「嫌われ者のフィロソフィ」!! こいしが薔薇の花弁と化し、出現する弾幕を次々と撃ち落としていく!!
ここでようやく紅魔館の主レミリアが帰宅! 一抹の不安を覚え、部屋に行くと既に時遅し! 地獄の様相を呈する!!

「フラン! 何をしているの! 今すぐやめないと本気で怒……んのぶッ!!」

こいしとフランの弾幕を同時に被弾し、レミリア、本気で怒る前に撃沈ッ!!
しばらくして……。

「ハァハァ……」
「ぜーぜー……」

壊れた部屋に疲れ切った2人。そして地面に転がっている咲夜とレミリア。

「も、もうダメ……、げんかーい」

フランはばったりと倒れてそのまま眠ってしまった。
いつもフラフラしてるこいしだが、この時は更に千鳥足になり、転がっていた2人に蹴つまずいて、そのまま地面に激突!
勝負は引き分けとなった!!

翌朝(つっても暗い室内なのでぶっちゃけ関係なし)!!
フランは目を覚ますと、咲夜とレミリアの横にもう1人見慣れない少女が寝ているのを目撃した。

「この人が悪い人……、目を覚ます前にやっつけないと……」

フランはこいしの核を探って破壊しようとするが、できない。いやそもそも核が存在しないのだ。

「え、何これ……、こんな事って……?」

その時、こいしが目覚め、ふらふらと立ち上がった。

「いったぁ、頭打ったみたい……、帰ろ」
「待ちなさい!」

フランがこいしに抱きつき、逃げるのを制止する。

「あなたどうしてここに来たの? 何が目的?」
「ここを秘密基地にしようと思っただけよ」

フランは首を傾げた。

「こんなところよりいい場所なんていっぱいあるんじゃないの?」
「ここお城みたいだし、秘密の部屋があるって面白そうだなって」

フランは首を横に振った。

「つまんないよここ、私物心ついた時からずっとここにいるんだよ」
「勿体ないなあ、そんなら色々私が案内したげよっか。もっとも私はもう飽きてるけど」

フランは目を輝かせて、こいしの手を掴む。

「ほんと!? じゃあ案内してよ!」
「うん」

ふとその時、背後から殺気を感じるフラン。

「フラン、ついにあなた幻覚まで見えるようになったのね……、こんなに暴れるまで……」

レミリアが真顔でフランに迫ってくるので気まずくなったこいしはその場を脱走!!

「あっ、ちょっと待ってよう、ひいっ!?」

レミリアに掴まれたフランの悲鳴を聞いた後、紅魔館から出る。
外はうだるような暑さでいつにも増してフラフラ帰宅するこいしであった。

おしまい

「あらこいし、いつの間に帰ってたのって……死んでる!?」

熱中症にやられる妖怪であった。めでたし、めでたし
29:えころ :

2019/08/03 (Sat) 02:14:34

田中一郎、異世界へ行く15

~前回までのあらすじ~
シェゾとサタンはツンデレだった!
以上!!

ヴゼルは苛立ちを感じていた。

(このクズみたいな小僧なら簡単にくたばると思ったが、この小娘が邪魔だな……)
(私自身はこの世界には干渉できないが、別世界から掃いて捨てるほどいるクズな若者……)
(そいつらをこの世界に送り込み、破壊のための道具として扱う事でこの世界をめちゃくちゃにしようと思ったのにな)

田中はアルルに黙ってついて行っている。

(その実験体の1人であるこいつがこの小娘に守られるとは想定外だ……)
(一度この小僧を捨てて、別のクズを拾ってくるか…、いやもうちょっとだけ待ってみるか)

「そういえばさ、ヴゼルの存在を知ったのはウィッチのおばあちゃんなんだよ」
「ウィッチってあの魔女みたいな格好したガキか? そいつのばあさんがどうしたんだよ」

アルルは立ち止まってサタンの話を田中に話した。

「この世界の奴らが死に絶える? その俺を送り込んだかも知れねえヴゼルって野郎のせいでか?」
「うん、だからさ、もう少し詳しく聞いてみようかなって」

田中はしらけた顔をしていた。

「そのばあさんがどんな予言をしたか知らねーけどそんなやべーやつをどうにかする手段までは考えてねーんだろ?」
「え、そりゃまあ……」

ため息をついて首を横に振る田中。

「だったらいくら予言してヴゼルの事を知ろうが無駄じゃねーか、俺でも勝てる気がしねえ」
「そんな事ないよバカ!」

田中はアルルを睨む。

「そうやって諦めてるからキミはここに飛ばされたんだよ! キミをなめてかかる人なんて1人もいなかったんだよ!」
「なっ……、てめえ! いくら恩人だからって好き勝手言うのは我慢ならねーぞ!」

アルルは田中に詰め寄ってこう宣言した。

「単刀直入に言うよ、キミもヴゼルを倒すのに協力して」
「はぁ!? お前俺の話聞いてただろ! 異世界チートみてーな神通力をもらったような輩でも何でもねーんだぞ!?」

アルルは首を傾げた。

「異世界チーズ? なにそれおいしいの?」
「はぁ……、ともかく俺は何の戦力にもならねー役立たずってこった。戻せるなら早く元の世界に帰らせてくれ」

アルルはそっぽを向いた。

「ダメだね、そんな意気地なし。たとえ帰れたとしても帰すわけにはいかないよ」
「ああ!? てめえ、さっきまで俺を帰すとか抜かしてたじゃねーか! 左脳がぶっ壊れたのか!?」

アルルは顔を下に向けてこう返した。

「……キミだけが助かってボク達がいなくなるなんてそんなの嫌だからだよ」
「なんだただの嫉妬かよ」

ふっと笑う田中の手をアルルは握った。

「それに、もしキミがその異世界チーズを食べればヴゼルを倒せるかも知れないじゃん!」

田中は赤面してアルルの手を振りほどいた!

「なにわけのわかんねえ事抜かしてんだてめえ! そんなのあるわけねーだろ!」
「とにかくボク達で無理ならキミもいた方がいい、話はそれだけだよ」

ダメだこいつと田中は照れ臭さを隠しながらアルルに握られた手を眺めていた。
そしてアルルと田中はウィッシュの住む塔までやってきた。

「確かここにいるみたいなんだ」
「おいまさかそのばあさんはこの最上階に住んでるとかほざくんじゃねーだろうな?」
「そうだけど?」

田中は踵を返して去ろうとする。

「ちょ、ちょっとどこ行くんだよ!?」
「くだらねーからお前1人で行ってこい。俺はこれ以上振り回されて疲れるのはごめんだ」

アルルは田中を引き止めた。

「ダメだよ、キミがいないとボク1人で会っても意味ないんだってば!」
「バカ言ってんじゃねえ、どうせそのばあさんも俺が暴れた事ぐらい知ってんだろ? 警戒されるに決まってらあ」

そこにウィッチがやって来る。

「はわわぁ、アルルさん! 何してらっしゃるんですか! おばあちゃんに……、むぐっ!!」

アルルはウィッチの口を押さえつけ黙らせる。その隙を狙って走り去る田中!

「あ! バカ! どこに行くんだよ!」
「うっせー! 俺は安全な場所探してそこでしばらく過ごすつもりだ! あーばよ!」

怒りの表情を浮かべるアルルに状況が理解できず、あわあわするウィッチ。

田中は何がしたいのか!! 続く!!(多分)
30:えころ :

2019/08/03 (Sat) 12:13:12

田中一郎、異世界へ行く16

~前回までのあらすじ~
田中はアルルの思惑に逆らい、勝手な行動に出た!
以上!!

田中はアルルと一緒にいると妙な照れ臭さに慣れないため、1人になって頭を冷やすことにしたのだった。

(ほぉう、まさかこの小僧自らあの小娘から離れるとはな……、くくく、こいつはやはりバカだな)

「チッ、俺とした事があんなビッチにドギマギするなんて……、どうかしてんのか」

しかし考えてみればそれも当然だ。何しろ田中は女の子から全くモテない。
尻高のように容姿もそれなりで中身が良いわけでもなく、増田のように落ち着いていて漢気があるわけでもない。
西村はヘタレだが田中より場の空気が読めて悪目立ちする事もない。
田中はぎゃあぎゃあ喚いているかと思えばそれも他人に合わせることはなく、ただ1人で強がっているだけ。
そんな田中に積極的に詰め寄って来る女の子、しかもそれもかなり可愛い子なのだから慣れないのだって無理はない。

「まあ揚げ餃子はごめんだけどな……」
「いたぞ! あのガキだ!」

声に振り返ると田中を始末するため、武装した村人達であった。

「あの魔王の顔を見て怪しいと思ったが、はっきりしたな! 奴を始末するぞ!」

村人達は田中めがけて一斉に突っ込んできた!

(フフフ……、いいぞやるのだ愚民ども。こいつがくたばれば私も自由に……)

「やっべ、逃げなきゃ!」

田中は逃げようとするが、足に毒矢を撃たれ、その場に倒れこむ!

「なんだあの怪物状態じゃなけりゃてんで弱いぜこいつ」
「サタンにどんなホラを吹いたのか知らんが、仕留めりゃ俺らが村の英雄だからな、ははは」

田中の頭を掴んでサバイバルナイフを取り出す村人。

「最後に言いたい事はあるか、小僧」
「……てめえら、こんな事したらヴゼルが……」

村人は大笑いした。

「ぎゃははは! ヴゼルってのはお前を怪物に変えたご主人様の事かい? 心配いらねえよ、ここで終わるんだからな」

毒にやられて意識が朦朧とする田中。
その時、村人めがけて巨大隕石が墜落し、その衝撃で田中も吹っ飛ばされた!!

「ぐああああっ……!!」

地面を転がり、全身を打撲する田中。彼は一体何回負傷しなければならないのだろうか。

「アルルさん、その方がヴゼルに乗っ取られる前に解毒と手当を!!」
「もちろん! それにしてもやりすぎだよウィッチ~……」

轟音を聞きつけた村人の仲間達が一斉に駆けつけて来る!
それを察したウィッチとアルルは田中を抱えて茂みの中へと隠れた!

「おい、仲間がやられてるぞ、ちくしょう! あの怪物め、また復活しやがったのか!?」
「きっとまた村に向かってるのかもしれねえ、とりあえず戻るぞ!」

村人が戻っていくのを見るとほっとするアルルとウィッチ。

「……すまねえ、俺って奴は本当に死んだ方がいいのかもしれねえ……」
「本当どうしようもないおバカさん、こんな方がヴゼル攻略の鍵になるなんて信じられませんわ」

ウィッチのついた悪態に怒る余裕もなくただ苦笑いする田中。

「でもおばあちゃんの言う事が嘘だとも思えませんし、この方が命を落とすのはまずい事なのかもしれないわね」
「さっきの村人を見て分かったでしょ? キミは命を狙われてる身なんだよ、勝手な行動は謹んでね」

田中は自分の無力を呪いながら、静かに頷いた。
そして夕暮れ時、田中にご飯を食べさせ、体力を回復させた後、ウィッシュの住む塔を登る事にした。

「なあお前ホウキで飛べるだろ? それで頂上まで運んでくれよ」
「ダメですわ、そんな事したらおばあちゃんに怒られますもの」
「もう覚悟決めて行くよ。もしかして不甲斐なさすぎて腰まで抜けちゃってるの?」

アルルの挑発に田中は頰を叩いて気合を入れ直した。

「しゃーねーな、行ってやるよ。そんでヴゼルを倒してさっさと元の世界に帰ってやる!」

アルルとウィッチはため息をついてから、塔に入って行く。

(ふん、まあそのウィッシュとやらが私について何か知っているのであれば聞いておく価値はあるな)

田中達はヴゼル攻略の鍵を掴む事ができるのか!? 続く!!(多分)
31:えころ :

2019/08/09 (Fri) 18:25:59

ヴゼル様とちきう

私は魔神ヴゼル。私の愛する惑星、ちきうが蛮族どもの環境汚染によって滅亡寸前らしい。
許せぬ、全てぶっ滅ぼしてクリーンにしてくれるわ!!
というわけで、私は天上界駅から銀河鉄道に乗って、ちきうを目指すことにする。
駅弁をもしゃもしゃ食いながらゆったり過ごしていると、突然電車が停止した。

「何事だ?」

どよめく車内に車掌の声が響き渡る。

「えー、ただいまちきう行きの当列車でありますが、残念ながら運行を停止させていただきます」

何だと!?

「ちきうを超危険な巨大生物が闊歩しているとの情報あり、列車は引き返します」
「ふざけるな、下ろせ! 私はどうしてもちきうに行かなければならんのだ!」

車掌が私の前までやってきて、身分証の提示を求める。
私は自身の財布からそれを出して渡すと、しばらく無言になった後、それを返してきた。

「いいのですかヴゼル様、いくらあなたと言えども危険の多い惑星へ向かう事は賢い選択ではありませんぞ」
「どうでもいい、その巨大生物とやらを滅ぼせばちきうは私のものだからな」
「待てヴゼル、私も行こう」

車掌の後ろから懐かしい顔が見えた。古くからの友人、イナシクサだ。

「おおイナシクサ、お前も私と一緒に来てくれるのか」
「うむ、それに私は万が一のためにちきうを取り返すための武装兵器を持ってきている、心配はいるまい」

私は改めて車掌に向き直る。

「というわけだ、私とイナシクサの二人で向かう」

車掌はお気をつけて、と頭を下げて我々を列車から下ろした。
目の前は広大な宇宙空間が広がっており、はるか先に目的のちきうが見える。

「あれがちきうか……、見た目はほとんど変わらないようだが」
「何でもいい、巨大生物とやらを始末し、ちきうを我が手中に収める、行くぞ」

イナシクサは頷き、私に同行する。40光年ぐらい歩くと、目の前に見知らぬ女が佇んでいた。

「何だ貴様は、ここで何をしている」

私が声をかけると、女は私の方を見て、こう告げた。

「いえ、ヴゼル様。お話は聞いております。どうしても行かれるつもりなのですね?」
「くどい、私はどうしたって行くぞ。止まらないからな」
「私も同じだ。ちきうを我々の手で浄化する!」

女は我々の硬い意志を見て、折れたのかしぶしぶ道を開けた。

「何なのだどいつもこいつも。たかだかビッグな生物ごときに何を腑抜ける事があろうか」
「わからぬ、しかし我々の目的はただ一つ。行く以外にあるまい」

私は頷き、更に30光年ぐらい歩くとついにたどり着いた。青きちきうへと。

「外観は変わらぬが、……とりあえず近づいてみるか」
「待てイナシクサ。何だこの匂いは」

強烈な悪臭。匂いをほとんど感じない存在だとしても近寄る事さえないだろう腐敗した死の匂い。
私の鼻はそれを感じ取っている。

「むっ、臭い! これはどうした事か、惑星外にまで匂いが広がるなど、一体どれだけの汚染なのだ!?」

私は凝視してぎょっとした。

「イナシクサ、よくみると蠢いているぞ! ちきうの球形を覆い尽くすかのように何かが蠢いている!」
「ま、まさかこいつが巨大生物なのか!?」

何と巨大生物とは、ちきうの外観に化け、覆い尽くしていた存在だったのだ!

「なんと禍々しい……、今すぐ息の根を止めてくれよう! ホーリージャッジライトニング!!」

私は巨大生物に向けて攻撃を放つが、体表面を僅かに焼くだけで、ダメージを受けていない!

「か、硬いぞ!!」

攻撃に気がついた生物は体色を変化させ、綺麗な青からおどろおどろしい赤へと変化!
そして巨大な触手をニュッと伸ばし、我々めがけてぶちかましてきた!

「避けろっ!!」

私とイナシクサは散り散りになりながらも、それを回避。巨大生物は暴れることをやめず、我々を狙い続ける!

「ヴゼル、こういう時のための切り札だ。この蛮族殲滅ロケットランチャーで一気にとどめ刺す」

イナシクサはロケットランチャーを取り出し、貯め打ちを始める。

「うむ、その間この私が囮になろう。こっちだ!」

私は効かないと知りつつ、攻撃を放ち、巨大生物の意識を向ける。
巨大生物の熾烈な猛追が私を疲弊させる頃、ついにイナシクサ渾身の一撃が放たれる!!

「発射ァ!!」

ズドォーンと大きな音を立て、弾丸が巨大生物に命中!
弾丸はズブズブとおぞましい音を立てながら、飲み込まれていってしまう。

「ま、まさか効いてないのか……!?」

私が戦慄すると、イナシクサは私の方を向き、微笑む。

「よく見るのだヴゼルよ、巨大生物の体表面が朽ちていっているのを……」

巨大生物は私ですら聞いたことのない不愉快な音を立てて、どんどんちきうから剥がれ、姿を失っていく。
そしてしばらく待つと、巨大生物が覆っていたちきうはまるで生き物すら住んでいないような廃惑星と化していた。
我々は着陸し、大地から巨大生物の正体と思しきとある手紙を見つける。

"私は永遠の命を得るための薬を開発したつもりでいたが、失敗した。"
"薬を飲んだものは周囲の者と一体化し、どこまでも巨大化する呪いの薬だったのだ。"
"もうちきうはおしまいだ。あれを止める手立てなどない。じきに私も……。"

「つまりあれは蛮族が犯した罪のために生まれた副産物だったというわけか」
「その代償としてちきうはこんな不毛なものとなってしまった。どうするヴゼル」

私はイナシクサに振り返り、宣言した。

「決まっている、ちきうを再建するのだ。そしてそこに我々の仲間も呼び、ここを第二の故郷とするのだ」

イナシクサは頷き、早速我々はちきうに恵みをもたらした。
しばらくして、ちきうは潤いを取り戻し、草木が芽生え、さまざまな生物が命を紡ぐまでになっていた。

「このままの形が良い、これならば我々が安心して過ごせるというもの」
「ボク、アルル!」

振り返ると一人の少女が我々の前にいた。

「何だ貴様は、なぜ人間が生まれている?」
「おいヴゼル、こいつだけじゃないみたいだぞ……」

気がつくと、蛮族のような者共が相次いで現れ、我々を取り囲んでくる。

「消えろォォ!!」

私は消滅弾を放ち、消し去るが、無数に湧いて出てくる。

イナシクサはハッとある事に気がついた。

「ヴゼル! 内部だ! おそらくこの惑星は内部に至るまであの巨大生物に侵略されていたのだ!」
「何だと……! つまり我々が滅ぼしたのは外殻の奴らの一部に過ぎなかったということか!?」

イナシクサは私を引っ張り、叫んだ!

「急ごうヴゼル! ここは最初から手遅れだったのだ! このままでは我々もこいつらに吸収されてしまう!」
「ぐっ……! これは!!」

私の足は地面から伸びてきた触手が絡まってきている……!
しかもわらわらと湧き出た蛮族どもが形を崩し、我々に覆いかぶさってきた!

「うわあああああ!!」

かくして、ヴゼルとイナシクサは姿を消したが、その事は誰も知る由はない。

おしまい
32:えころ :

2019/08/10 (Sat) 02:22:12

田中一郎、異世界へ行く17

~前回までのあらすじ~
田中達はウィッシュが待つ塔へと潜入!!
以上!!

塔の2階。まだまだ序の口だと言うのに、足を止めて女の子の足を引っ張る情けない男が一人。

「なあ、疲れたよ。休憩しようぜ」
「アルルさん、アレを」

アルルは田中のケツをファイヤーで焼く!!

「あぢぢぢぢっ!! 何しやがる!!」
「まだまだ元気だね〜、じゃ、行こっか」

田中は怒りの形相を浮かべていた。

「お前らさあ、誰のおかげで世界の危機を救えると思ってんだ!? ええ!?」
「その救世主さんがわたくし達の足を引っ張る役立たずでは話にならないんですのよ」

ウィッチの正論にぐぬぬ……と怒りを堪える田中。田中のケツをヒーリングした後、先に進む一行。
塔とは言ってもやたら内部が入り組んでおり、まるでダンジョンである。

「なあ、こんな場所人が訪れていいのか? おもてなしの心がなさすぎるだろ」
「そもそも半端者じゃあおばあちゃんに会う事すらできないのですから、これぐらい当然ですわ」

田中は髪の毛をかきながら、ウィッチの言葉を否定する。

「ちげーだろ、こんな迷路みてーに入り組んでる場所に住んでるって相当な変人じゃねーか」

ウィッチは田中をキッとにらみ、ホウキの柄を顎にグリグリ押し付けてきた。

「あなたみたいなチンピラにおばあちゃんを侮辱する資格はありませんわ、言葉に気をつける事ね!」
「まあまあ、ケンカはやめようよウィッチ……、この人だってこうしてついてきてくれてる事だしさ」

ウィッチはホウキを戻し、そっぽを向いて先へ進んでいく。こぉのクソガキィと田中は怒りの炎を燃やしていた。

「ウィッチもキミの事を完全に信じてるわけじゃないから、……なるべく穏やかに、ね?」

田中は舌打ちして、ウィッチの後をついていく。気苦労の多いアルルがかわいそうである。
そんな3人の後をつけてくる変態が一人。

「何でキミまでここにいるのかな」

振り返り、ジト目で変態に声をかけるアルル。

「ふん、俺だってウィッシュのばあさんに用があるだけさ」

ウィッチと田中もシェゾの声に足を止め、振り返る。

「用事? もしかしてキミもボク達と同じ事考えてたりするの?」

シェゾはふっと笑い、高らかに宣言した。

「決まっている! 俺はウィッシュの全てをもらいに来たのさ!」

苦笑いするアルル。ドン引きする田中とウィッチ。

「キミの守備範囲がどこまで広いか知らないけど、落ち着いて相手を選んだ方がいいと思うな」
「はぁ……、もう帰ってくださいな」

シェゾは田中達に歩み寄ってくる。

「アルルとウィッチ、お前ら2人にそいつを任せておけん、俺も同行してやる」
「いいよ別に、キミの力を借りなくてもボク達で何とかするから」

シェゾは田中をにらみつける。

「お前を帰す方法が見つかったわけではないが、それまで俺は変な動きをしないか見張っておきたいしな」
「変な動きをするのはシェゾでしょ?」
「くすくすくす」

アルルとウィッチにからかわれて、ふっとカッコつけるシェゾ。

「こいつが一番やばいってのに、そんなくだらん事を気にするお前らだからこそ、心配なんだよ」
「どうして保護者目線なんですの、偉そうに」

田中は思った。

(やべえ、俺このお兄さん来たら空気になってんじゃん……、どうしよ)

田中の存在感が薄れていく中、シェゾが仲間になる!! 続く!!(多分)
33:えころ :

2019/08/10 (Sat) 11:13:47

田中一郎、異世界へ行く18

~前回までのあらすじ~
田中、変態お兄さんの加入で存在感が薄れる!!
以上!!

結局、途中の謎解きや番人は3人の力で解決し、田中は特にやる事なし!!
しかもただくっついているだけなのに疲労感マシマシ!! 最上階につく頃には喋る事もままならない!!

「……」
「おーい大丈夫ー? 生きてるー?」

アルルの問いかけにも答える元気のない田中。

「まぁヴゼルが現れんということは生きてるんだろう、多分」
「不甲斐なさすぎですわ、これじゃあおばあちゃんに会わせても意味ないんじゃないかしら」

3人はウィッシュがいる部屋の扉を開き、中へと入るが……。

「!?」
「ウィッシュがいないぞ!」

田中はそれを聞いてバタンとぶっ倒れる!

「あ! 大丈夫!?」

急いで田中を支えるアルルだったが、田中はぐーぐーいびきをかいて寝ているだけだった。

「しかし、なぜウィッシュはいないんだ? 頻繁に外出するようなやつじゃないだろ」
「さあ? 考えられるとしたら、きっとサタン様に呼ばれてどこかへ出かけているとか……」

アルルはさっき村人達が田中を襲った事を思い出し、嫌な予感がしていた。

「……サタンが村人達から迫害を受けてるかもしれないね、もしかしたらそこに……」

シェゾもアルルの言葉を聞いて不穏な表情を浮かべた。

「そんな、おばあちゃんは何も悪くないわ! 悪いのはヴゼル……」
「ウィッチ、ヴゼルなんてものを信じない連中が声を上げているのかもしれん、急いだ方がいいな」

シェゾは来た道を引き返し、ウィッチも部屋の窓を開けて飛び立って行く!

アルルは眠る田中を膝枕し、不安に駆られていた。床で寝ろ床で。

(ほう、あのサタンとかいう魔王が衆愚からの信頼を失ったようだな、ふふふ)

一方、サタン。

「お前達もこれを見れば分かる、世界が破滅してしまうかもしれないんだぞ!」

ウィッシュの持っている水晶玉を指差すサタンだったが、村人達は言うことを聞かない。

「聞いたところによると、あの怪物小僧が自由になっていて村民もやられていたそうじゃないか」
「そのばあさんが魔術のエキスパートなのは俺らだって知ってるさ、でもな……」

村民はサタンに向けて剣を構える。

「あんたがヴゼルなんてデタラメを作り出し、この村に混乱をもたらした可能性も否定はできないんだよ」
「私が何のためにあんな小僧を怪物に変えて村を襲わせるのだ!」

剣を持った村人はサタンに詰め寄る。

「じゃあなぜあの小僧を始末したと嘘をついたんだ? 生かしておく理由なんかないだろう?」
「そうだぜ、息の根を止められないってのは最初から俺達を騙すための茶番だったんじゃねーのか」

サタンの前にウィッシュが出てきて、説明した。

「あの者を殺める事は愚かな選択です。それこそヴゼルが再誕し、甚大な被害をもたらす結果になります」
「うるせえ!」

サタンはウィッシュを抱えて村人の攻撃を回避する!

「それならあの小僧をお前らは死ぬまで抱えておくつもりかよ? また怪物に変身してるかもしれねえのにか?」

そこにシェゾがやってくる。

「やめろお前ら、サタン達の言ってる事は事実だ。あのチンピラを始末する理由だってねえだろ」
「変態小僧か、てめえもこのホラ吹き魔王の肩を持つのか?」

シェゾは呆れて田中と一緒にいた事を説明した。

「というわけだ、こちらが何もしなければ特に奴が怪物に変わることもない、そこだけは安心しろ」

村人はそれでも警戒を解かない。

「そんなものお前らを欺いているだけだろ、しかも始末しない理由にもなってねえよ」
「欺く必要もあるまい、あれだけ強力なら俺だってすぐ奴にやられてもうここにはいないさ」

シェゾの言葉を聞いて返答に困る村人。

「闇の魔導師の言葉を信じられぬならあの小僧がお前らの平穏を脅かす事はないとこのサタンが約束する」
「お前の言うことはもっと信じられねえよ! ……チッ、まぁいい」

村人は武器を納めて、サタン達から離れて行く。

「もし今度あんなのが現れたら、その時こそお前らがそのヴゼルとグルだと確信するからな、覚えておけよ」
「そのヴゼルが現れたらお前達もおしまいなのだぞ……」

去って行く村人を見てサタンがそう呟いているとウィッチもやってきた。

「おばあちゃん! 大丈夫でしたか!」
「ええ、大丈夫ですよ、ウィッチ」

とはいえ、村人達から警戒されたままのサタン達! また怪物は現れるのか!! 続く!!(多分)
34:えころ :

2019/08/13 (Tue) 00:55:41

田中一郎、異世界へ行く19

~前回までのあらすじ~
田中、ぐっすり!! サタン、村人からガッカリ!!
以上!!

怪物田中、再誕する。えー、繰り返す。怪物田中、再誕する。
アルルの上で膝枕されていた田中は急に飛び起き、不気味な笑みを浮かべる。

「ど、どうしたの!? 急に……」
「小娘、随分手間をかけさせてくれたな。貴様と再び2人きりになれるのを待っていたのだ」

この口調は明らかに田中のものではない、と察するアルル。

「もしかしてキミが……、諸悪の根源魔神ヴゼル!!」
「ふん、私が誰かなどもうどうでも良い、貴様がくたばればもうこの世界も私のものなのだからな」

ヴゼルは田中の拳に焔を纏わせ、アルルめがけて突っ込む!!

「ふふ、あの魔女の小娘が飲ませてくれた薬のおかげで少しは魔力が使えるようだな、くらえ!!」

バーニングサイキックパンチ!!
アルルはそれをかわすが、放たれた拳は部屋の壁を軽々粉砕! しかもカーペットに火がつき、燃え広がる!!

「この部屋はダメだ! せめて外で……」
「ふん、蛮族めが。戦う場所を選ぼうなどと贅沢をこの私が許すと思うのかな」

ヴゼルは床をぶん殴り、拳から流れた電流で部屋全体に電気を這わせる!!
アルルは痺れまいと、ジャンプして回避するが……

「ふふっ、それを待っていたのだ! セイントアローショットォ!!」

ちょうどアルルの体に当たっていた直射日光が硬度を持ち、容赦なく突き刺さるッ!!

「ぐっふッ……!!」

しかも地面に激突し、這っていた電流までが流れ、更にダメージを負わせる!!

「ぐわああああ!!」
「どうだね、一度で2度美味しかろう?」

倒れ臥すアルルににじり寄るヴゼル。

「安心するがいい、私とて鬼畜ではない。私をここまで手こずらせた礼として綺麗に死なせてやる」
「ぐーっ!!」

瞬間、カーバンクルのビームがヴゼルに直撃ッ!
ヴゼル、吹っ飛んで部屋の外に投げ出されるッ!!

「ぐっ!!」

カーバンクル、アルルの前に出現!

「か、カーくん……! ありがとう、でもあの人が……」

アルルは言いかけた瞬間、がたがたと震えだした。

「待たせたのう、こんな手負いの娘と小動物の相手とは癪に障るが、まあ仕方あるまい……」

そう、塔の外に吹っ飛んだはずの田中が怪物と化し、アルル達を半笑いで見ていたのである。

「小娘はどうせすぐ仕留めるとして、小動物、うぬと戯れようぞ!! ワシを楽しませてみい!!」

カーバンクルが倒れたアルルの前に立ちはだかる!

「ぐぐっ!!」

怪物田中、再臨!! 続く!!(多分)
35:えころ :

2019/08/13 (Tue) 03:13:31

田中一郎、異世界へ行く20

~前回までのあらすじ~
怪物田中、再誕す!!
以上!!

怪物田中に向かってビームを発射するカーバンクル!! しかし、怪物はこれを掌で握りつぶし、消滅させる!!

「やるのぉ、うぬはそんなにちっこいのに他の虫けらより数段力があるようじゃな」

怪物田中はニマニマ笑っている。

「ふふふ、叩き潰してもいいところだが、ワシは慈悲深い。つまんですり潰してやる事としよう、ほれほれ」

怪物田中は腕を伸ばし、カーバンクルを捕まえようとしてくる。
カーバンクルはビームを放ちながら避けるが、怪物田中には効いていない。
しかし、さっきついた炎は書斎に燃え移り、どんどん部屋が炎と煙に包まれていく。
このままここにいてはアルルはもちろん、カーバンクルもタダではすまない。

「ぐはははは!! 時間が経過してもゲームオーバーじゃの、……これ、小娘」

アルルは声をかけられてビクッとする。

「今うぬは回復魔法をかけようと試みているようじゃが、そんな事をすれば真っ先に始末してやるぞ、いいな?」

そしてカーバンクルに視線を戻す。

「うぬも同様じゃ、その小娘の体より後ろに下がったのであれば、容赦なく娘の体を粉々にしてやる、分かったな?」

そして悪趣味全開のカーバンクル遊びが再開される!!
初めのうちはビームを出すなりして、抵抗していたカーバンクルも疲れが回り、攻撃する余裕もなかった。

「ぐっ、ぐっぐ……」

火の手がついにアルルの体に及ぼうとしたまさにその時!!

「ディザスター!!」

外から何者かが怪物田中を攻撃する。サタンである!

「最悪の事態だ。まさかまた復活してしまっていたとはな……」

さっき村人からかけられた言葉が脳裏によぎり、苦しい顔をするサタンだが、戦うしかない。

「アルルとカーバンクルちゃんから離れろ!!」

だが怪物田中はにやりと笑い、サタンに話を持ちかけた。

「どうせうぬと戦っても勝敗など見えている、……取り引きをしようぞ」
「取り引きだと?」

塔から煙が上がっているのを見て、シェゾやウィッシュ達も駆けつけてくる。

「なっ、てめえ! また現れやがったか!!」
「おばあちゃん、あれが……!!」

ウィッシュは頷く。

「ええ、分かっています」

サタンは話を聞くことにする。しかし、ウィッシュの部屋が焼け付くのは時間の問題だ。

「そうじゃ、この世界をワシに明渡せい、さすればこの小娘も小動物も無傷でうぬに返してやろうぞ」
「そんな事ができるものか!」

口の端を歪める怪物田中。

「ならば死を選択するのかな、ワシのこの提案はうぬらにとってもはるかに有益なものだと思うぞ、ぐはははは!!」

怪物田中がよそ見をしているところに!!

「じゅげむっ!!」
「ぬぅ!?」

アルルの渾身の一撃が炸裂! 無事怪物の視界を塞ぎ、逃走できるかと思いきや!!

「一度ならず2度までも……、同じ手がこのワシに通用すると思うなよ!!」

怪物は発生した噴煙を全て吸い込み、凄まじい勢いで塔の最上階にいたアルル達めがけて吹き付ける!!
吹っ飛ぶアルルとカーバンクル!!
怪物田中は飛び上がり、手刀で浮いたアルル達を地面に叩きつけて仕留めようとするッ!!

「さっきまでの話は全て反故にされたとみなすッ!! くたばれぇい!!」
「アルルゥ!」

振り下ろされた手刀はアルル達を守るため、すっ飛んできたサタンに直撃!!
そのまま激しい勢いでサタンは地面に叩きつけられる!!
アルルとカーバンクルは何とか木の枝に引っかかり、大事に至らず済んだ。

「さ、サタン……!!」

怪物田中はウィッシュを見て笑みを浮かべていた。

「おぬしがヴゼルを知ったという、魔女じゃな?」

ウィッチを背後に隠し、怪物の質問に応答するウィッシュ。

「ええ、そうです。あなたの他にも多数の方が暴れまわる事を知っています」
「話は早い。うぬが知っている事を全てワシに伝えよ、さもなければここにいる者達を全員始末する」

ウィッチはウィッシュの服をがっしり掴んでいる。

「おばあちゃん……!!」
「ええ、いいでしょう。それで他の者達は見逃していただけるのですね?」

怪物は口の端を歪めて宣言した。

「無論。しかしあくまでそれはうぬらがこのワシに楯突かなければの話だがな、ぐはははは!!」

ウィッシュは怪物の前まで出て行く。

「あなたの言う事に従います。私が知った事を全て伝え……」
「もう一つだけ条件がある。それを話した後、うぬは自害をするのだ」

ウィッチは目を大きく開いて怪物に叫んだ。

「そんな事できるわけないでしょう! ふざけないでくださいな!」
「大真面目だ、そこの魔女がヴゼル退治のきっかけを作るならどっちみち消えてもらう方が都合が良い」

怪物は更にこう付け加えた。

「本当は話した後に仕留めても良いところなのだぞ、ワシは慈悲深いからな、ぐはははは!!」

息を飲むウィッチ。ウィッシュは怪物の条件を飲むのか!! 続く!!(多分)
36:えころ :

2019/08/14 (Wed) 03:40:19

田中一郎、異世界へ行く21

~前回までのあらすじ~
怪物田中、再び大暴れ!! しかもウィッシュに横暴な要求もする!!
以上!!

ウィッシュはウィッチを撫でて、微笑んだ。

「ウィッチ、大丈夫です。あの方をどうにかする方法は心得ています」
「どうにかって……! ほとんどの攻撃が全く通らないですのよ? それにあの怪物を説得なんて……」

怪物田中ががなり立てる!

「誰が孫娘と名残惜しめと言ったのだ? さっさと話さないと今すぐ始末してやるぞ!」

怪物田中は不気味な笑みを浮かべながら、拳を上に振り上げる。
ウィッチはカオス・マッシブ・インパクトの予備動作だと察し、顔が青ざめる。

「いいでしょう、ただし話すのは今の状態のあなたではありませんよ」

怪物田中は顔をしかめる。

「トチ狂ったか? うぬでは逆立ちしたってワシに勝つ事など出来まい」
「ええ、そうです。あなたに攻撃する事自体無駄なのですからね」

怪物田中は急に顔を引きつらせ、余裕のない表情でウィッシュに突っ込んでくる!

「きゃああああ!!」

シェゾがウィッシュの前に飛び出す!!

「おい!! 話を聞くんじゃねえのか!! いくら何でも勝手が過ぎ……」
「どけィ!!」

怪物田中はシェゾを振り払い、吹っ飛ばす!!

「ぐわあああ!!」
「シェゾ!! ……ひぃっ!!」

ウィッチは腰を抜かし、怪物田中が2人もろとも叩き潰そうと奥義を使う!!

「うごぉぉぉらああァァッ!!」

悪夢蘇る!! カオス・マッシブ・インパクトォォ!!
が、しかし放ったはずの怪物の腕がドロドロと溶けていく!!

「ひゃっあわわわぁ……」

目尻に涙を浮かべ、失禁しそうになっているウィッチと優雅に立っているウィッシュ。

「な、何をした……! このワシに何をしたのだ老いぼれがァァァ!!」

アルルは始終見ていたが、ウィッシュは信じられない事をしたのだ。
何と怪物に対して回復魔法、ガイアヒーリングをかけていたのだ。

「えっ、えっ……!?」
「小癪な!! こうなったらもう容赦はせん!! 奥義、カオス・ディスペアー・ストリームゥゥゥゥ!!」

怪物が高速回転をし、ウィッシュの周囲を破壊し尽くそうとするが、脚部に回復魔法をかけられ、盛大にずっこける!!

「ぬがァ!! ぐぬぬぬぬぬ……!!」

アルルも飛んできて、怪物に回復魔法をかける!!
ウィッチも立ちあがり、回復魔法を怪物にかける!!

「や、やめろ!! こんなはずでは!! ワシの世界征服がこんなくだらん事で……!! ぐぬああああ!!」

怪物はみるみるうちに溶けていき、いつにもまして力のみなぎった田中一郎に戻った!!

「うおおおおおっ、見たか柿の種!! 白地はこの俺様のものだあああ!! ……は? どこだここ」

アルルはテンションの上がった田中にチョップをかます!

「がっ! 痛えなあ! 何すんだよ、俺は今まで尻高の野郎にプロレス技かけてたってのによ!!」
「……あれをよく見てごらんなさいな」

ウィッチに指さされ、見た先は塔の最上階。ウィッシュの部屋が無残に破壊されていた。

「ああ? そういや俺らまだ塔を登ってたんじゃなかったっけ? いつの間に塔の外に出てたのかよ」
「そうじゃないでしょう! あなた、まだ何も分からないんですの!?」

目尻に涙を浮かべて怒るウィッチを嗜めるウィッシュ。

「ウィッチ、この方を責めるべきではありませんよ。初めまして、私がウィッチの祖母、ウィッシュです」

軽く会釈するウィッシュを見て、田中は素直な感想をつぶやいた。

「お前の母ちゃん? 随分若いなあ、それにしても一体何があったんだよ? 説明してくれ」
「おばあちゃんですわ、全く……」

アルルは叩き落とされたサタンのところへ急いでいた。

「サタン!! 目を覚まして、サタン!!」

サタンは目をゆっくり開け、心配するアルルの顔を撫でる。

「おおアルル、私の心配をしてくれるとは……。感激のキッスをあげてもいいか?」

近づけてくるサタンの顔を抑えるアルル。

「無事でよかった、本当に……。でもそれはいらないから」
「ぐぐ!!」

田中はウィッシュの説明を聞いて、急にへこたれた姿になった。

「まーたまた俺が怪物化したって? それで大暴れ? 何でだよ!!」
「こっちが聞きたいぐらいですわよ!! ……それにしてもおばあちゃん」

ウィッシュはウィッチの方を向く。

「どうしてあの怪物に回復魔法をかけたんですの? そんな事考えもしませんでしたわ」
「簡単ですよ。この方が死にかけるか、意識を喪失した状態でしか操れないなら生命を司る魔法が弱点のはずですから」

ウィッチはあまり納得のいかなそうな顔をしていた。田中はわけわからんという顔をしていた。

「ま、まあ理には適っていますわね……、あれだけ酷い事をする人にかけるなんてあり得ませんけど」

田中を睨みつけるウィッチ。田中は少しだけ気まずそうな顔をする。アルルとサタンがやってくる。

「元に戻ったのか、……今後のお前の監視を強化しなければならんな」
「意識を失いそうになったら早く言ってね、またヴゼルが乗っ取るかも知れないから」

田中は頭をかきながら、答えを返した。

「……ああ、分かったよ」

その時、シェゾはゆっくりと目を覚まして、盛り上がるアルル達を見て戦いが終わっている事を察した。

「……ふっ」

ハブられてるにも関わらずカッコつけるシェゾ! 戦いはあっけなく終わるが、問題は山積みだ!! 続く!!(多分)
37:えころ :

2019/08/15 (Thu) 06:56:10

ハイスクール・ライフ

俺の名前は茂手 内男(もて ないお)。どこにでもいる普通の高校2年生だ!
ここは俺の教室。女の子はいるが、二極化している! 明らかにケバいのと、地味なの!
なぜ中間がいないんだ! まぁ名前からしてモテていないこの俺が言うのも何だがな。

「おい、モテねえお!!」

いきなり大きな声で俺の名前が呼ばれる。やばい、クラスの中でも一番の不良、弩級 太郎(どきゅう たろう)だ。
どうせこいつから呼ばれるとロクなことがない。金を貸せとかツラを貸せとか万引きしてこいとかそんな事だ。
この人間のクズが、少しはまともな生き方ができないのか。お前みたいなのがいるから世の中腐るんだよクソカスが。

「おい! 心の中で思い切り毒づいてんじゃねーぞタコ助! よし、覚悟しな……」

やべーなこいつ、読心術まで持ってんのかよ……、クズのくせにやりおるな。じゃなかった、このままじゃ殴られる!
俺は逃げる! クラスのギャルが俺の疾走する姿、弩級が俺を追いかける姿を見て笑ってやがる。
ふん、お前らも結局、数年後ろくな男を捕まえることはない、心に刻んでおけ。水商売でもやって男に貢いでな。

「待てやゴラァァァ!!」

なんなんだあのチンパンジーは全く鬱陶しい……と思ってると、目の前に俺が親しくしている友人が現れた!
いつもクラスで1人でいて浮いている、永遠 独理(とわ ひとり)だ。陰キャ集団とすらつるまない変わった奴だ。

「おい独理、お前も逃げるんだ! あの類人猿、人を殴ることしか能がねえんだぞ!」
「んだとゴラァァァ!!」

血相変えて切れるチンパン。しかし、独理は逃げない。どころかあのチンパンに向かって手を向け、必殺技を放つ!!

「内男、ここは俺に任せろ! 必殺ペイントショック!!」

瞬間、チンパン野郎弩級の目から蛍光液が溢れ出る!! チンパンは悲鳴をあげる!
視界を遮られ、廊下の壁という壁にぶつかっていく! 素晴らしい力だぜ!

「ありがとう、独理。それにしてもすげーなあ、あのチンパン野郎、もう何もできないぜ」

しばらく俺と独理がチンパン野郎を観察してると更にやべーのが現れた。介 蛮子(すけ ばんこ)だ。
チンパンがスケバンにぶつかり、スケバンはチンパンの胸ぐらを掴む!!
そのまま放り投げて、窓硝子を叩き割り、チンパンは3階から校庭に真っ逆さまに転落していく。
流石に気の毒かな、と思ったけどそれは奴の日頃の行いが悪いからだ、まあしょうがないだろう。

「ったく、やかましいだけの野郎は嫌いなんだよ」

そう言って去っていく介蛮子。強者のオーラがこれでもかと漂っている。こいつはいいお嫁さんになるな、間違いない。
俺はさっき独理が放った必殺能力の事が気になったので、聞いてみることにした。

「さっきのペイントショックについてか。良かろう、教えよう」

―――ここから独理の回想が始まる。
俺は授業終了後、いつものように元気に帰宅した後、部屋に引きこもりルーティンワークを始めたんだ。
お前も知っての通り、俺はスプラトゥーンを2徹でやり込むぐらいハマっていてな。
そんで、いつものように負け、ブチ切れてSwitch本体をぶん投げようとしたその瞬間、奇跡が起きたんだ。
なんと目の前に神が現れ、俺にSwitchと引き換えに能力を授けようと言ってきたんだ。

「何言ってんだこいつ」

まあ聞くのだ内男よ、俺も最初はそいつが神だなんて信じられなかった。でも神の見せたある映像が俺に確信を与えた。
それは俺が40年後、ワンルームマンションで孤独死をしているという驚愕的な映像だったのだ。
しかも一代で財を築き上げ、購入したと思しきものだった。ちゃんとランボルギーニの鍵までそばにあったな。

「マジかよ、そりゃ信じたくなるわな」

俺は早速Switch本体を神に差し出し、力を授かった。神には子供がいるらしく、下界のおもちゃに目がないそうだ。
やり方は簡単だ。蛍光液を出したい位置を指差して念じるだけ! いくらでも蛍光液が湧いて出てくるぞ。
俺は神から与えられたこの神通力を大切に使っていきたいと思う。もしかしたらお前の所にも現れるかもしれない。
そしたら、何か大切なものを渡して力を授けてもらったらどうだ? モテモテになっちゃうかもしれんぞ。

そして独理と別れ、俺も吹奏楽部から帰宅後、神の出現を待つため、ネットで調べた儀式を執り行う事にした。
すると、なんと信じられない事に神が現れた! しかもめっちゃ神々しい輝きを放っておられる。こいつは当たりだ!

「私は魔神ヴゼル。蛮族どもを滅ぼす力を貴様に与えよう」

魔神だと? まあいいや、俺は神と契約を取り交わし、力を授かった。特に渡すものもなかったので俺の魂にしておいた。
何だ、意識が遠のいていくぞ……、あっそうか。魂を売ったんだっけ、え、それってつまり俺はいなくなるのか?
この世から俺が消える……、待って待って取り消し取り消し、嫌だ嫌だともがくが、魔神はこう答えた。

「契約はすでに締結している。今更破棄にするなど認められぬ、潔く消えろ」

ここからは私の物語が始まる。私は魔神ヴゼル。もちろん蛮族どもを滅ぼしに冴えない男の体を奪いこの地に参った。
誰かがドカドカと階段を上がってくる音がする。差し詰めこいつの母親といったところか。

「内男、朝ご飯よ。早く支度して学校に行ってらっしゃい。」

私は頷き、後に続く。パンとヨーグルトを食い終えた後、スクールバッグとやらを持ち、学校へ向かう。
学校は近くにあるわけではないらしく、バス停でバスを待ち、そこから40分ぐらいかかるとの事だった。

バスが来てプシューと扉が開くので、中に入り、席に座り、まもなくして発車した。
走行中、優雅にスマートフォンを弄っていると男の叫び声が聞こえた。

「全員動くんじゃねえ! このバスは俺が乗っ取った! 歯向かう奴はこいつでズタズタだぜ!」

チンケな刃物を持って運転手を脅し、客にまで迷惑をかけ倒すクズ人間が一人。早速成敗してやるとするか。
私は男の前まで歩いていく。それを見た男がまるでこの世に生まれ出て立とうとする子鹿のように震えている。

「て、てめえ! ガキ! 状況が分からねえのか! 止まれ! さもねえとこの運転手の首を掻っ切るぞ!」
「その必要はない、貴様はここでフェードアウトするのだからな、20%ホーリージャッジライトニング」

私は微弱な力で消滅のエネルギー波を放ち、男にそれを当てる。すると男は存在がゆっくりと消え失せていく。
私はそのまま、元座っていた席に戻り、男は私が何をしたか理解できないまま、車内運転席のミラーを見る。
自分の体が薄くなった事に気付いた男は暴れようとするが、もう遅い。物体に干渉するのが困難なレベルに陥っている。
泣き叫びながら、何かを必死で訴えていたようだが、それもしばらくすると全く聞こえなくなっていた。

バスが目的地までついたところで、私は賞賛を受けていた。スタンディングオベーションというやつか。
確かそれは"嘘松"とやらでよく起こるシチュエーションらしいが、リアルで起きるとやはり気持ちがいいものである。
くだらん自己顕示欲を満たしたい輩はみなこぞってそういう体験をしたいものなのだろう。

さて、教室に行くと全身包帯ぐるぐる巻きの男がしきりに私を睨みつけている。誰だこいつは、現代のミイラ男か。
ミイラ男は私が席に着くと、こっちに向かってきた。何やら本当に私に用があるようだな、用事だけ聞いて消すか。

「昨日はよくもやってくれたな、……お陰様でこのザマだぜ。治療代を払ってもらおうじゃねーか」

何だこいつは。この明らかに弱そうな小僧に負けた挙句、治療代までせびるとはどうしようもないオツムのヤツだな。
こんな奴が生きていても確かに世の中が腐るだけだな、消しとばして社会貢献の一端としてくれよう。

「くだらん、15%ホーリージャッジライトニング」

が、ミイラ男は私のエネルギー波をかわし、小癪にも必殺技を放ってきた。

「スーパーサイキックストリームゥ!!」

ミイラ男の放った衝撃波で教室にあった机や椅子が粗方吹き飛び、とっ散らかる。蛮族が悲鳴をあげて逃げていく。
それにしてもどこかで見た技だな、なんか明らかに色黒で態度がでかい小僧が使っていたような気もするが。

「ぐへへへ、これは俺が生死を彷徨った時、ある小僧から授かった必殺奥義。俺が校内を支配するのも時間の問題よ」

なるほど、それより生死の境を彷徨っていながら、学校に来るこやつの胆力は何なのだ? せめてもう少し入院しとけ。
これは手加減しなくても良い、少しは本気が出せそうだと私がニチャろうとしたところで女がミイラ男の背後に現れる。
何やら物凄く強そうな雰囲気を放っている。隠しきれない殺気が既にこの教室中を包み込んでいた。

「てめえ、昨日はよくもやってくれたな! ハイパーサイキック……」

言いかけたところでミイラ男は頭を掴まれ、そしてそのまま床にドゴシャア! と叩きつけられた。

「早く病院に行って頭を見てもらいな、ここはお前さんが来るところじゃないよ」

怪力女はそう言ってミイラ男を成敗した後、教室を出て行った。蛮族の中にも優れた者はいるものだと私は感心した。
そしてミイラ男はそのまま病院に搬送され、授業が普通に始まろうとした瞬間、テロリスト集団が雪崩れ込んできた!

「大人しくしろ! 今からこの学校を我が人類解放軍のアジトとする! 文句あるガキは皆殺しにするぞ!」

次から次へと忙しい世界だな。私は面倒になってきたので一気に片付ける事にした。

「ホーリージャッジライトニングゥゥゥゥ!!」

半径3km!! 私の周囲にあった全ての生物、建築物は消え失せ、あっという間に更地になった。
私は震えていた。久しく忘れていた感覚。そう、世界を破滅に導き、何もかもを滅ぼすあの快感。凄まじい美的感覚。

「全部ぶっ滅ぼす!!」

そう決意した私の前に見るにもおぞましいグロテスクな生命体が現れた。何だこいつは。いつ湧き出たのだ。
まあとりあえず消滅させておくとしよう。しかもすごく臭い。一体何を吸収したらこんなのが出来上がるのか。

「デスシャイニングイレイザー!!」

効かない。おかしいな、ホーリージャッジライトニングの上位互換技だというのに。
こうなればもう全力を出すしかないという事だ。

「ファイナルセイントバーストォォォォ!!」

凄まじい消滅エネルギーが爆発を引き起こし、この怪物も流石に消え去っただろう、と思いきや。
奴はまだ目の前にいた。しかも複数の触手を体から伸ばして。
これはもう駄目だ、逃げるしかない。敗色濃厚。私は身を翻して逃亡を図るが、もう遅い。
怪生物の触手が既に私の脚部を捉えている。そしてそのまま私は引きずられ、捕食される。

こんな理不尽を私はどこかで体験したような記憶があったが、もうそんなことは関係ない。
―――全ては終わった。

おしまいまい
38:えころ :

2019/08/16 (Fri) 11:59:47

田中一郎、異世界へ行く22

~前回までのあらすじ~
怪物田中撃破ァ!!
以上!!

亥の刻ッ!! ウィッシュは部屋を怪物田中にぶっ壊されたので、しばらくウィッチと暮らすことに!!
そして渦中の男、田中一郎はアルルと共にする事はこのサタンが許さんと彼に引き取られたのであった!!

「全く1日に2度も現れる奴があるか、しかも一緒にいても愉しくも何ともない貴様の保護など……」
「おいおい、アルルと一緒にいちゃ駄目だって言ったのあんたじゃん?」

サタンは田中の方を見もせず、紅茶をすすっていた。
その頃、ヴゼルはというと田中を捨て、別の生贄を探しに異世界へ飛んでいた。

(チッ、まさか怪物の弱点まで見破られるとはな……、新たに作戦を練り直さねばな)

そう、怪物化すると強力になる事はなるのだが、いくつかデメリットもあるのだ。

まず一つ目、ヴゼルは怪物自体を完全にコントロールできない。
ヴゼルは当人が意識を失った僅かな時間だけしか自由意志で行動できない。
大概そこからは負傷するなり、栄養失調等が原因で怪物化が進む。
怪物自体は宿主の悪意を増幅させた存在なので基本的にヴゼルの意思ではない。

二つ目に明確な弱点が存在する事。とは言っても、通常は知り得る事などほとんどない。
回復魔法をかけられる等して、外部から宿主を延命させられると例え怪物化した状態でも強制的に元に戻ってしまう。
一応怪物化する原理に感づけばそこから逆算して気付く事も可能ではあるが……。
一番最初に怪物化した際、活動時間の限界とかほざいて元に戻った事がある。
あれは遅効性で効き目のある復活草を食ったから元に戻っただけなのである。
そういうことにしておきましょう。

三つ目にヴゼルは宿主が万全の状態であれば基本的には何も干渉不可。つまり怪物化を自発的に促進できないのだ。
ヴゼルは別に運命を操れるわけではない。どうしてヴゼルが優秀な者を素体に選ばないかというとそういう事である。
社会性に乏しく、それゆえ生存確率も低い若者。つまりクズである。下手に優秀だと生き延びられてしまうからだ。
どうして若者かと言うと怪物化した時、そのパワーは肉体年齢に比例するからである。

とはいえ、ヴゼルも取り付いているので少しずつ生命エネルギーを奪ってはいる。
しかし、健康状態を維持されたり、回復され続けたりしたらお手上げである。

それに乗っ取ってもヴゼルの思惑に完全に従わないので、必ずしも思い通りの結果が得られない。
だがヴゼルは今回の件で田中がただの甘ちゃんだと言う事は痛いくらいに分かったのである。

(次はもっとどうしようもないのを拾ってくるか。あの小娘どもですら手がつけられないのをな)

場面戻って、田中。空気も読まずサタンにズケズケ質問する。

「なああんた、怪物になった俺に物凄い一撃食らったんだろ? どうして生きてたんだ?」

聡明な読者諸君はもうお気づきだと思うが、別に田中はもう死んでも何も問題はない。
だがその事はサタンは知る由もない、もちろん田中自身もである。

「……蘇生魔法を事前に唱えておいたから、昇天してもすぐ元に戻れただけだ」
「ふーん、じゃあもしまた俺が怪物化したらさ、そん時はどうすんの?」

サタンは怒鳴る!

「次などあるか!! 何のために私が貴様と一緒にいると思ってるんだ!」
「わ、わりいわりい……。俺もヤバそうだなって思ったらすぐ言うからさ、機嫌直してくれよ……」

サタンは田中を不快な顔で見ながら、質問を投げかけた。

「貴様、体調の方は何も問題がないんだろうな?」
「あ、ああ、そりゃもちろん」

サタンは田中に寝室に行くように命じる。

「よし寝ろ! また余計な事されて怪物になったらたまったもんではないからな」

田中は言うことに素直に従い、寝室に向かった。もう怪物になる事もないのに。

使い捨てられた田中!! 空振るヴゼルの思惑!! 続く!!(多分)
39:えころ :

2019/08/16 (Fri) 15:53:22

田中一郎、異世界へ行く23

~前回までのあらすじ~
ヴゼルは田中から別の誰かへ乗り換える!!
以上!!

翌日。ウィッチは村を離れて森は魔法薬の材料を取りに行っていた。

「全く……、おばあちゃんが来てから更に魔法薬作りがハードになってしまいましたわ……」

ぶーたれてるウィッチは草陰に人がうつ伏せで倒れているのを見かけた。

「あら、行き倒れ……?」

ウィッチは一瞬、別世界から来た人間かと思ったが、違った。何故ならそれは昨日田中を襲った村人だったからだ。

「しっかりしてくださいな、どうしてこんなところで倒れてらっしゃるの……」

ウィッチが体を揺さぶって男の体を仰向けにすると、男は腹を破られ、瞳孔を開いて死んでいたのだった。

「きゃああああああ!!」

ウィッチは急いで自宅に戻った!

「どうしたのですかウィッチ、まさかあの方がまた怪物に……?」
「ち、違いますわ! 村人が何者かに殺されていたんですのよ! 森に死体が!!」

ウィッシュはとりあえずウィッチと一緒に死体を見た場所まで戻ったが……。
しかしさっき死体があった場所にはまだ乾いていない血液がある以外、何もなかった。

「なっ!? 確かにここにあったのに! どうして!!」
「誰かが持ち去ったか……、あるいは……。死体が勝手に動き出したか……」

ウィッチは不安になってウィッシュに抱きつく。

「おばあちゃん……」
「魔神ヴゼルが新たな刺客を送り込んできたのかもしれませんね……」

去っていくウィッチ達を睨みつける女が一人。

「あれがヴゼルの思惑を挫いた魔女ウィッシュ……」

その頃、サタンは田中を叩き起こしていた!!

「起きろ貴様ァ! いつまで小うるさい寝息をかいて寝てるつもりだ!」

サタンは田中をベッドから放り出す!!

「いっでえ……!! 何すんだこらぁ!! またヴゼルが現れちまってもいいのか!?」

サタンは鼻を鳴らす。

「ふん、それはどうぞ丁重に扱ってくださいの裏返しというわけか。断る」
「ちくしょう、あのビッチなら絶対こんな事しねーのに何でこんなオッサン……」

サタンが怒鳴る!!

「やかましい!! 貴様とアルルが一夜を共にするなど、そんな事このサタンが死んでも許さんぞ!!」
「はぁ、分かったよ。俺が悪かった、とりあえずあんたの言うことを聞くから、何か食べさせてくれ」

サタンは田中に背を向けズカズカ歩いていく。

「……さっさとついてこい」

田中は急いでサタンの後についていく。
大きな食堂。でも田中の食事はパン一枚と牛乳だけ。それ以外何もない。サタンの食事と比べても雲泥の差だった。

「サタン様ぁ、もう少しその~、この私めに食べ物を恵んでくださいませんでしょうか~?」
「我慢しろ、貴様に宿泊する権利をタダで与えてやってるんだぞ」

田中は大声で叫んだ!

「育ち盛りですもの!!」

サタンはため息をつき、自分のチキンの1/3とパン1枚を田中に分け与えた。

(ゲッツ!!)

田中は母親ばりの図々しさを発揮していた。血は争えないものである。

「アルルがお前を気に入ってる理由は分からんが、確かにヴゼルを討てるのはお前しかいないのだろうな」
「どうしたんだよ、急に。そうは言われたけど俺ただの不良だぜ? 魔導とかいうのも使えねーし……」

サタンは田中を指差して告げた。

「それなら特訓する以外あるまい、私が貴様の腐った根性を叩き直してやる。教育者としてな」
「はぁ?」

サタン、田中のトレーニングを決意!! 果たして田中はヴゼルを倒せるほどに強くなるのか!! 続く!!(多分)
40:えころ :

2019/08/17 (Sat) 09:41:21

田中一郎、異世界へ行く24

~前回までのあらすじ~
サタン、田中を鍛える事を決意!!
以上!!

ウィッチはアルル達にも死体を見つけた事を報告していた。

「森の中に死体? うーん、それは確かに変だよねえ……」

ドラコが顔をしかめていた。

「まあ殺された奴だけど色々揉めてたりした事あったから、その恨みでやられたとかじゃないのか?」

殺害された村人は生前金銭トラブルを抱えていたらしい。

「でもそれだったら死体が消えてなくなるはずありませんわ。わざわざ森に呼び出して殺す理由があるでしょうか……」

アルルはため息をついた。

「しかも村じゃまたあの人の仕業だとか、見つけ次第◯せとかもうボクこんなの嫌だよ……」

ドラコはぐっと拳を握りしめた。

「早い所そのヴゼルってやつを撃退しないとな!」

ルルーがやってきた。

「ねえ、その男って例の屋敷へ続く道で死んでいたのでしょう?」

ウィッチは顔を引きつらせていた。

「もしかしてあの主人がやったの? ……いや、それは流石に……」
「確かに必要なら人の命を奪うような方ですけど、……死体を隠すような真似はしないかと」

青ざめた顔をした村人がアルル達のところへ1人やってきた。

「おい、あんただよな。あいつの死体を見たっての……」

ウィッチは頷いた。

「え、ええ……。そうですけど?」
「……信じられねえ事になってたんだよ」

―――村人の回想。
俺は森の中で殺人が起きたって言うからとりあえず見回りに行ったんだよ。

「こんなところで殺人なんて犯人は一体何が目的なんだ……?」

ふと草陰から何かを食い貪る音が聞こえてきたんだ。
俺は唾を飲み込んで見ると、そこにあいつがいたんだよ。鹿を抱えて必死に喉元に食らいついてたんだ。
俺は声をかけたんだが、一向に食うのをやめようとしない……。
普通じゃないと思った俺は肩を揺らして顔をこっちに向けさせたんだ。

するとあいつは……、眼球を片側失った状態でよだれを垂らしながら呻いていたんだ。
俺は悲鳴をあげて、今ここまで逃げ帰ってきたってわけさ……。

話を聞いたアルル達は青ざめた顔をしていた。

「なあ、これもあの小僧……じゃなくてヴゼルの仕業なのか? 俺、どうしたらいいか全然分かんねえんだよ……」

ウィッチは震えていた。

「も、もしかして森の中の生き物を食い尽くしたら村にやって来るんじゃ……」

ドラコがウィッチの肩を叩く。

「だ、大丈夫だって! たとえやって来てもすぐやっつければいいんだよ!」

ルルーは苦悶の表情を浮かべる。

「敵が死体を操るような力を持っているなら、また犠牲者が出るかもしれないわ」

アルルはルルーの意図を察した。

「そのゾンビ化した村人からまた新たに死人が出ると言う事だね……」

その時、村人は急に息が荒くなり、顔も青ざめ、汗が止まらない状態になっていた。

「どうしたんだよ、熱中症にでもかかったか?」
「ち、違う……! なんか変だ……、苦しい……! 心臓が……、呼吸が……、うぐぶぅ!」

血を吐いて倒れる村人。首元には噛まれたような痕があった。

「お、おい! しっかりしろ! アルル、ヒーリングを!」

アルルは頷き、ヒーリングをかけるが何も起きない。

「だ、ダメだ……。効き目がない!」

ルルーはハッとある事に気付いた。

「この男、もしかしてすでに死んでいたんじゃないかしら……」
「うええっ!?」

ウィッチは男から遠ざかる。

「な、 何言ってんだよルルー。こいつはあたし達の前まで来て話してくれたじゃんか……」
「それはこの男の最期の意思かもしれない、とっくに危篤状態だった……」

言いかけたところで倒れた村人がよろよろと顔を下に向けたまま立ち上がった。

「おい、大丈夫か……!?」

ドラコが近寄ろうとするが、ルルーが引っ張ってそれを制止!!

「近づいちゃダメよ、こいつもう既にゾンビになってるわ!!」

村人は顔の血色が変わり、左右の目の焦点が合っておらず、よだれをダラダラ垂れ流しながらうめき声を上げる!!

「おぎゃああああぐえわばぁぁぁぁ!!」
「きゃああああああ!!」

ゾンビ出現!! 果たしてアルル達はゾンビを倒せるのか!? 続く!!(多分)
41:えころ :

2019/08/17 (Sat) 10:58:03

田中一郎、異世界へ行く25

~前回までのあらすじ~
ゾンビ出現!!
以上!!

ゾンビは叫び声を上げて、ウィッチに飛びかかってくる!!

「うぎゃろわあああッ!!」
「ひいいいいっ!!」

ウィッチはかわし、アルルがゾンビにファイヤーをぶつける!!

「ぐぅうぉおん……」

燃え盛るゾンビ。しかし効き目はないようで、むしろ燃え盛っているがために手がつけられなくなる!

「メテオォォォォ!!」

しかし、ゾンビはウィッチの隕石をサッとかわし、アルルに向かって襲いかかる!!

「ど、どうすれば……!!」

その時、ゾンビの頭部が何者かにより、切断される!! 変態である!!

「大丈夫かお前ら?」
「シェゾ!!」
「もう! 来るのが遅いですわよ、おバカぁ……!!」

ウィッチはシェゾにしがみついてワンワン泣き始める。

「しかしたまげたな、村人をゾンビ化させる力を持つ奴なんて相当厄介じゃねーか」

ゾンビの頭部は燃えたまま、呻き声をあげ、皮膚が焼けただれていた。

「どうすんだよこれ……、まだ森の中にゾンビがいるんだろ? そいつもやっつけないと……」

シェゾは首を横に振った。

「やめておけ、森の中にはこいつをゾンビに変えた殺人鬼が待ち構えているかもしれん。危険すぎる」
「でも根を断たなきゃいずれ村がゾンビに侵攻されるのも時間の問題だよ……」
「ヴゼルは村の人達には取り憑かないって思ってたのにこんな事までしてくるなんて……」

ゾンビの頭部を闇の剣で貫き、そのまま消滅させた後、ウィッチ達はゾンビの出現をウィッシュに話した。

「……今度はゾンビですか。ヴゼルはあの少年を使った作戦が失敗と踏んで、切り替えてきたのでしょうね……」
「どうするんですの! このままじゃ村人がどんどん殺されて、しまいにはわたくし達まで……!!」

ウィッシュは顔を曇らせていた。
一方、田中とサタン。

「これが修行メニューだ、きちんと頭に叩き込んでおけ」

ドサッと書類を田中に渡すサタン。

「お、俺こんなにたくさん紙を読んでらんねえよ……」
「一番上がそれを要約した紙だ。そこに貴様が何をすべきかまとめてある、まずは目を通しておけ」

頭が沸騰しそうになりながらも要約された紙に目を通す田中。

「そういや貴様の名前を聞いてなかったな、何というのだ?」
「田中一郎だ」

サタンは手を叩いた。

「よし、じゃあ魔導の基本から教えよう。まずは幼稚園児レベルからの教育だ」
「よ、幼稚園児……」

田中は嫌そうな顔をしていたが、そもそも魔導の事など知るわけもないので、仕方なかった。

「なあ、怪物化した俺には魔導ってやつが効かなかったんだろ?」
「そうだが?」

田中はため息をついた。

「じゃあ結局、俺がそんなん身につけてもどうしようもないんじゃ……」

サタンは田中をひっぱたく。

「でえっ!? 何すんだぁ!!」
「いいか、お前は優秀な女魔導師アルルに期待された男なのだ、それなりに自信を持て」

田中は今ひとつ納得のいかない顔をしていたが、渋々サタンとマンツーマンの授業を受ける事にした。

迫るゾンビの脅威!! こんがらがる田中の思考回路!! 続く!!(多分)
42:えころ :

2019/08/17 (Sat) 21:33:49

お空だってわしゃわしゃされたい

ここは幻想郷。そして、ここは地底。旧地獄と呼ばれる広い洞窟の中には地霊殿と呼ばれる大きなお屋敷があった。
そこの主である妖怪、古明地さとりがお燐と呼ばれる妖怪猫のお腹を撫でているのを地獄鴉の霊烏路空は見ていた。

お空にはある一つの思いが芽生えていた。私もわしゃわしゃされたい!!

地上に飛び立つお空! 幻想郷の夏はいつにも増して暑いが、核融合炉で温度調節をしていたお空は平気だ。

さて、ここは博麗神社。
博麗の巫女、霊夢が縁側でお茶をすすっていると一羽のカラスがこっちに向かって飛んでくる!!

「何あれ……、カラスが突っ込んでくる!?」

霊夢の前に降り立ったカラスはみるみるうちに人間の姿に変わった。

「あんた……、確かうだつが上がらない新聞記者の射命丸文だっけ?」
「違います、旧地獄の霊烏路空です。つまらない冗談を言うとぶっ放すわよ」

制御棒を霊夢に向けるので、急いでお祓い棒を取ろうとするが……。

「待って、私は戦いに来たんじゃないよ」
「じゃあ何しに来たのよ! 地底の物騒なカラスが地上に出て来るなんてろくな用事じゃないでしょ!!」

お空は制御棒を消し、赤面しながらボソボソつぶやき始めた。

「……わしゃわしゃしてください」
「は?」

大声で叫ぶ!!

「私をわしゃわしゃしてください!!」
「わしゃわしゃ?」

巫女は首を傾げるとお空がずんずんと向かってくる!! そして霊夢の膝の上に寝そべるッ!!

「いつもさとり様がお燐のお腹を撫でるのよ。私もやって欲しい!」
「じゃあサトリに直接頼めばいいでしょ! なんで私がやらなきゃいけないのよ!」

お空は両手で顔を覆っていた。

「恥ずかしいからよ……、それに断られたらどうしようって……」
「恥も外聞もない地獄鴉のくせに変なところ気が小さいのね、まぁいいわ……」

霊夢はお空のお腹をゆっくり撫で始める。するとお空は……!!

「ぶふっ、うぷくくく、ひゃあっはっはははは、やめてください!!」
「何よ、やれっつったのあんたでしょ!? なんでそんなこそばゆくなってんのよ!」

お空はため息をついた。

「はぁ、もしかしたらあなたが下手なのかも……」
「ぶっ飛ばすわよ、あんた?」

霊夢はビキビキとキレていたが、お空は別れを告げて、飛び去ってしまった。

「何だったのかしら、あいつ……」

お空は次に箒に乗って空飛ぶ魔法使い、霧雨魔理沙を見つけた。金髪の子である。

「ウェーイ、空を飛びながら食うキャンデーは最高だねェ」

お空はキャンデーを食いながらイキる魔理沙の背中に乗っかった!!

「ふぇっ! 何だぁ!? お前地底の地獄鴉じゃねーか! 何してやがる!!」
「あら、話が早いわ。わしゃわしゃしてください」

魔理沙は頭に?を浮かべていた。

「わしゃわしゃだと? 動物を可愛がるあれか?」
「そう、それをやって欲しいの」

とりあえず2人は地上に降り、魔理沙の前でお空が寝そべる!!

「さぁ、カモン!!」
「いや、カモンとか言われてもなあ……」

とりあえず魔理沙は適当に腹を撫で回してみた。しかし、お空は不快な顔をしていた。

「っつ、いたたた……! 痛いよバカァ!!」

蹴られる魔理沙。キレた魔理沙はお空にマスタースパークをぶちかまし、吹っ飛ばすッ!!

「何なんだよあいつ……、まぁいいか」

魔理沙はまたどこかに飛んで行ってしまった。吹っ飛ばされたお空は守矢神社にいた。

「ここは私に力を与えてくださった神々の住まう神社! ここならきっと私も満足できるはず!!」

お空は撫でられて気持ち良さそうな顔をするお燐を想像していた。神社の扉を叩くと中から緑髪の巫女が現れた。

「あら、妖怪ですか……? 入信なら命蓮寺の方へ……」
「違うわ、わしゃわしゃするのよ!!」

巫女は困った様子だった。

「わ、わしゃわしゃ?」
「そうよ、あなただって動物くらい可愛がったことあるでしょう?」

お空は巫女を強引に座らせ、その膝の上に寝そべるッ!!

「さぁ、レッツわしゃわしゃ!!」
「えっ、は、はい!!」

お空のお腹を優しく撫でる巫女。お空は実に気持ち良さそうな顔を浮かべるッ!!

「あ、あの……。これで大丈夫ですか?」
「うん、続けて続けて」

しばらくするとお空は完全に眠ってしまい、巫女もそれにつられて眠ってしまった。
だがしばらくして、大きな悲鳴が聞こえてきたので目を覚ますと、怪物が幻想郷にやってきていた。

「ぐははははは!! 出番がなくなったと思うか!? 今度はこの世界をワシが支配してくれるわ!!」

巫女は急いで怪物をやっつけようとするが、お空が飛び立ち、爆符「ペタフレア」で怪物を焼き尽くす!!

「こんなもの屁でも……、あぢっ!! 何じゃこれは……!! 身体が溶け……ぐごぬぎゃわばああああああ!!」

怪物はそのまま溶けてなくなり、お空は巫女に礼をしてから飛び去っていってしまった。

「あの力、もしや……」

そしてお空は地霊殿に帰り、さとりの前までやってきた!!

「あら、お空。どうしたの?」
「さとり様、わしゃわしゃお願いします!!」

さとりはニコッと笑った。

「ええ、いいわよ」

こうしてお空はさとり様にわしゃわしゃされましたとさ、めでたしめでたし
43:えころ :

2019/08/18 (Sun) 08:33:35

田中一郎、異世界へ行く26

~前回までのあらすじ~
ゾンビ撃破ァ!!
以上!!

時間はヴゼルが怪物田中を撃破された後に戻る!! 現代に戻ってきたヴゼル!!
ヴゼルは片手にスマートフォンを持ち、カメラ連動アプリ"人材スカウター"を立ち上げる!!
このアプリはカメラに写した人物の基本スペックや、心の状態などを見ることができる!!
前もって保存しておいた人材リストからある一人の人物のもとへ向かうヴゼル!!

(ふふっ、いたんだな。これが。クズというわけではないが、とんでもない奴がな……)

ヴゼルは帰宅中と見られる女の前に現れ、声をかける。

「こんばんは」

女はヴゼルをチラッと見ると、挨拶を返した。

「こんばんは」
「少しお話よろしいでしょうか?」
「いえ、結構です」

女は私を非常に怪しんでいるためか、警戒を解いてくれない。そこで、私は肝要な部分から話し始める事にした。

「割りのいい副業があるのです。興味があれば是非……」
「なるほど、あなたは反社会的な集団の一員というわけですね」
「まあそんなところですが、実はたった一つだけ大きく違うところがあるのですよ」
「一つだけ違う? リスクが軽いとかそんな話かしら」

私は揉み手をして女に説明する。

「ええ! この仕事はですね、やる事こそ人倫に反すれど、現実世界でやるものではないのです」
「そりゃまたえらく胡散臭い話ですね。現実世界じゃないって……、差し詰め仮想空間とか?」
「まあそんなところです。あなたにやっていただきたいのはですね、そこに住む民衆を抹殺するというお仕事です」

笑顔でとんでもない事を言い出す私に顔をしかめる女。

「イかれてるわね、そんな人殺しゲームが仕事の内容? ありえないですね」
「金額を提示します、一人につき100万円。銀行名と支店名、口座番号さえ教えていただければ即時入金いたします」
「と言われてもねえ、私も暗殺なんて初めてやりますしね、そこんところどうなんですかね……」
「暗殺というよりは殲滅ですね、その過程で重要人物も死んでくれると思いますのでね!」

女はその言葉にピクと反応した。

「一人につき100万円。殲滅という事はたくさんやるのよね?」
「ええ、もちろん! 弱そうなのから仕留めていただければ! あなただけ特別にサポートスキルもご用意します」
「サポートスキル?」
「始末した人が生者を求めて死体を増やす……、所謂ゾンビという奴ですな!」
「一人でも仕留めればそこから自動的に死者が増えるってわけね、ウクククク」

女はしばらく考え込んだ後、口元を歪めて承諾してくれた。

「いいでしょう、ただ仮想空間に行って人の命をたくさん奪うだけでいいのね?」
「ええ! ええ! 受けていただけますか! では、こちらの用紙にサインとその他諸々の情報を……」

女がサインをしている間、更に私は女の気をよくするため、サービスをもう一つ提示した。

「それとあと一つ、あなた自体も怪物化できる力を与えましょう。これは常時行えるもので戦闘力補助となります」
「怪物化? それは何?」
「もし村人がですね、諸々の所業をあなたの仕業だと考え、襲ってきたとしましょう。ステゴロでは大変危険ですね」
「まあそれはそうですね」
「そういう時、あなたが常人を遥かに超える能力強化を行い、逆に返り討ちできるという、おまけ付きでございます」

女はニタニタ笑っている。

「私の安全まで保証されているというわけね、はい、これでいいかしら」
「ええ、結構ですとも! それでは今からその異世界へお送り致しますので!」
「待って、私は一応武器としてピストル持ってるけど、生活とかはどこですればいいの?」
「そうですねえ、いい場所がありますよ。森のはずれに大きな屋敷がありましてね、そこなんかどうです?」

女は頭に?を浮かべる。

「そこには誰か住んでいるんじゃないのかしら?」
「まあ住んでいるとは言っても多少気が荒い主人とちっぽけな奴隷が一人。私が与える力で十分抹殺可能です」

私は田中一郎とかいうガキを送り出したように魔法陣に女を乗せて送り出す。

「それでは、いってらっしゃいませ~」

(ふふ、いい素体を捕まえたものだ。見ていろよ、今度こそこの地を私が手に入れてやるからな……)

恐るべきヴゼルの執念!! 続く!!(多分)
44:えころ :

2019/08/18 (Sun) 13:12:04

田中一郎、異世界へ行く27

~前回までのあらすじ~
ヴゼルは謎の女に力を与え、異世界へ送り込んでいた!!
以上!!

謎の女は異世界に降り立ち、周囲を眺めていた。すると、遠くから声が聞こえてくる。

「どこだあの小僧……、もし俺が見つけて仕留めりゃあ、金にも女にも困らねえ……」

クズな若者がクズな少年を求めて、歩き回っている。

「何かしら、あれは」

ヴゼルが答える。どうやら望めば意思疎通は可能なようだ。

(あれは私が前に送り込んだ刺客を求めて彷徨うこの世界の住人です)

ヴゼルは鼻を鳴らした。

(まあてんで役に立ちませんでしたがね、ほっといても死ぬことでしょう)

女はヴゼルに質問をする。

「そういえば、あなたの名前を聞いてなかったわね。教えていただけるかしら」
(ヴゼルでございます。私は訳あり、この世界の民族を滅ぼさなければならんのです)
「私は倉山恭子。感田大学で中山仁教授の助手を務めている者です」
(倉山さん! 早速あの村人をぶっ殺しちゃいましょう!)

倉山はヴゼルに質問をする。

「どうやって仕留めましょうか。ピストル使う?」
(倉山さん……、実はですね。今あなたの体を自由に変形させることができるのですよ)
「変形?」
(はい。腕に念を送ってみてください。強力な力を手にするイメージです)

倉山は厨二病ばりに自身の手を押さえ、念じてみる!!
すると、腕が真っ赤に染まり、巨大化した!! 五指は鋭利な刃物のように光っている!!

「なるほど、こいつはすごいわね……」
(でしょう、やっちゃってください!!)

倉山は邪悪な笑みを浮かべながら、村人の前に現れる!!

「な、何だてめえ……! その腕……!! さてはヴゼルやあの小僧の仲間だな!!」
「あなたに恨みはない……、でも私の貯蓄のために死んでもらうわ、アディオス!!」

倉山は男の腹をえぐり、臓器を引っ張り出して殺害するッ!!

「ぐはッ、げばぁ!!」
「死体を目立つところに置いておくのはまずいわね……ちょっと隠しておきましょ」

倉山は草陰まで男の死体を運ぶ。

(いやぁいい殺しっぷりでしたぞ、倉山さん。仕事が早くて助かりますぅ)
「いいのよ、そんなこと。それよりお金は入金したんでしょうね?」
(もちろんですとも、どうぞご確認を)

ヴゼルはスマートフォンを取り出すよう倉山に促し、銀行口座のアプリを開かせる。
確かに株式会社ノムラから倉山の口座に100万円が入金されていた。
それを見てこれ以上ない邪な笑みを浮かべる倉山。

「いやぁ悪いわねヴゼルさん、本当にお金をいただけるなんて……」
(当然ですとも、働きに応じて報酬を払うことぐらい訳はない)

誰かが歩いてくる音がする。とっさに身を隠す倉山!!

「全く……、おばあちゃんが来てから更に魔法薬作りがハードになってしまいましたわ……」

倉山は声を聞いて安堵する。

「何だガキじゃない……、始末しちゃいましょう」
(お待ちください倉山さん、あの小娘めにはちょいとした因縁がありましてな)

倉山は目を丸くする。

「あらそうなの? あなたを手こずらせたりしたのかしら?」
(いえ、まあ直接手こずらせたのはあの小娘の祖母、ウィッシュという魔女でしてな)
「ウィッシュ……」

死体を見つけたウィッチは大きな悲鳴をあげて逃げていく……。

(ここで待っていれば、あの小娘は必ずウィッシュを連れて戻ってきますぞ)

ヴゼルの狙いを理解した倉山。

「なるほど、そのウィッシュの後をつけ住所を特定し、ゾンビを差し向けるってことね」
(そうですぞ、とりあえず今は村は混乱に包まれています。細心の注意を払いましょう)

と、その時、死体がのそのそと動き出し、食肉を求めてふらふら去って行く。

「あら、ゾンビがどこかへ行ってしまうけど……」
(気にすることはありません、あの男には仲間がおります。きっと探しに来ますぞ)

そしてウィッシュがウィッチとともに戻ってきて、帰って行く。

「あれがヴゼルの思惑を挫いた魔女ウィッシュ……」
(村の状態を確認するためにも後をつけましょう。あわよくば村人を殺すのもありですね)

倉山は頷き、ウィッシュ達の後をつけるッ!! 続く!!(多分)
45:えころ :

2019/08/18 (Sun) 22:39:20

田中一郎、異世界へ行く28

~前回までのあらすじ~
倉山、ウィッシュを尾行する!!
以上!!

倉山はウィッシュの後を追いながら、ふと生じた疑問をヴゼルにぶつける。

「ねえ、ゾンビって私に襲いかかってきたりするのかしら」
(基本的にそれはありませんな、ただ死体を操る力をほかに持つ者がいなければですが)
「ふーん……」
(まあそうなってもゾンビごときぶっ殺せる力がありますので、心配はご無用ですぞ)

ウィッシュ達は村に入っていく。村の前には見張りが二人ほどいる。

「あら、部外者は立ち入りにくい状態ってことね……」
(ふふ、倉山さん。さっきのゾンビが新しいゾンビを生むまで待ってみましょう)

しばらく息を潜めて待っていると森の中から青ざめた顔で逃げていく男が一人。

「あら、あれがさっきのゾンビのお仲間さん……。生きて帰ってきてるけど……」
(倉山さん、あやつはすでに死んでおります。差し詰め最期の意思で動いておるのです)

倉山はすかさず、スマホから口座を確認し、追加で100万円入金されているのを確認する。

「へぇ……、死んでいてもあんな風に動けるやつもいるのねぇ、すごいすごい」
(首元を噛まれておるので、体はすでにウイルスまみれですな)

倉山はゾンビがウィッチ達を襲う瞬間が見たかった。

「ねえ、あの見張り邪魔よねぇ? 始末しちゃってもいいかしら?」
(尖兵を送り込むということですかな? まあ数は多いに超したことないですが)

倉山は邪悪な笑みを浮かべている。

「一瞬で仕留めるわ、一瞬でね……。うふふ……」

あくびをする見張り。ふと横を見ると、相方が腹から引きずり出された腸で絞殺されていた。
見張りは声を上げようとするが、もう遅い。倉山が喉を潰していたからだ。
こうして彼らは一瞬のうちに始末されてしまった。

ヴゼルウッキウキ!!

(すごいですなぁ……、暗殺者も真っ青になるほどのセンスですな)
「これでまた二人。400万貯まったわね……、後は村でゾンビを暴れさせれば……」

5000万も夢じゃない、とガッツポーズする倉山!!
そして村にこっそり侵入する倉山。みな、ヴゼルを恐れているのか外には出ていない。
……唯一、広場で村人の話を聞いているウィッチ達以外は。

(奴らが私を手こずらせた者どもです。特にあの鎧を着た小娘も要注意ですぞ)

そして戦いを見届けた後、倉山は舌打ちした。

「結局、誰一人として死ななかったわね……。しかも村人が外に出始めてるわ」
「おい、あんた! ここで……」

言う暇も与えず、喉をかっさばき、何事もなかったかのように男を殺害する倉山。

「奴ら、ゾンビと戦い終えた後、建物の中に入っていくわね、あれが……」
(ひょっとするとウィッシュがそこにいるのかもしれませんな……)

そして男の死体を静かに物陰に隠す倉山。さっき入り口で殺した見張りもゾンビ化している。

「大丈夫よ、少なくとも今3人ゾンビにしたしね、まだまだ増やせるけど」
(ふふっ、頼もしい限りですなあ……)
「それにヴゼルさん、適当にゾンビを増やしたら屋敷に行きましょう、いいこと思いついたの」
(ほう、それは興味深い。是非是非)

増えるゾンビ!! 恐るべき倉山の殺人術!! 続く!!(多分)
46:えころ :

2019/08/21 (Wed) 20:16:47

田中一郎、異世界へ行く29

~前回までのあらすじ~
ゾンビが増えて村は大ピンチ!!
以上!!

ここは教会。ウィッシュはウィッチ達と神父に水晶玉を通して未来の映像を見せる!!

「これは……、村の外れにある屋敷か!? そこにゾンビを送った刺客がいるのか!」

シェゾが声を上げた。

「屋敷の主人を始末し、そこを居城にしてるのね……、どうしましょう」

屋敷には凶暴な主人がおり、ゾンビ化したとなれば更に手がつけられなくなる。
無論、これは倉山の狙いでもあり、現在彼女(とヴゼル)は屋敷目指して森に入っていた!

「ふふ、あいつら魔法を使ってたわよね、ヴゼルさん?」
(そうです、ここは魔導が繁栄していた世界なので……)
「魔導というと、私達の現代に『魔導物語』という昔話がありましてね」
(ほう、そんな書物が残されておったのですか……)
「そこにあなたの名前も出てくるのですが、本当にそのヴゼルさんなのですか?」
(ふむ、そんなものが残っているという事は……、私は倒されたのですね?)
「……ええ、まあそうですね」

ヴゼルは沈黙してしまった。

<あの世界とこの世界が繋がっていたとはな……。そして、私は倒されるのか……、あの小娘どもに!!>

そして村では倉山が仕掛けたゾンビが次々扉を破って入り、村人達を襲っていた!!
大きな悲鳴が聞こえたのでシェゾが外に繰り出すと、地獄のような光景が広がっていた!!
逃げ場を失い、群がるゾンビに力なく崩れる村人。息絶えた子供、女、血だまり……。
さっき村人がシェゾ達が倒したゾンビを見るために外に出ていた。
まさにそのタイミングで倉山が増やしたゾンビが次々村人をゾンビに変え、最悪を尽くしたのである!

「なっ、敵はもうすでに忍び込んでやがったのか! それにこの数……、もう手に負えねえぞ!」

シェゾは教会に向かって歩を進めるゾンビ達の首を次々闇の剣ではねるが、死体が動き出し、きりがない!
シェゾはふと扉の方を見ると、外の光景を見て絶句しているウィッチが見えた。
外に出ようとするウィッチに出るなという合図を送っていたところにゾンビが襲いかかる!

「危ねえ!」

一人の村人がシェゾに襲いかかったゾンビの首を切り落とす!!
ゾンビはその場に倒れ伏し、吹っ飛んだ首は壁に激突し、パクパクと口を開閉していた。
シェゾを助けたのは、サタンを疑っていた村人だった。

「た、助かったぜ。ありがとな……」
「ふん、これ以上ゾンビが増えたら迷惑だからな……。それにしてもこれもあの小僧がやったのか?」

シェゾは首を横に振る。

「新しいやつが出てきたんだ。きっとそいつは俺たちの手にも負えない化け物だ」
「チッ、次から次へと……一体、何だって……、う!?」

シェゾは青ざめた。さっき跳ね飛ばしたゾンビの首が浮き上がり、村人の首を噛んでいたからだ。

「スティンシェイドォ!!」

シェゾはゾンビの首を突き刺した!!

「じゅわぁあぁあ……」

爆死するゾンビ。だが、噛まれた村人はどんどん血色が悪くなり、ついには剣を落としてしまった。

「お、おいお前……。すまないが……、俺を殺してくれ……」
「……っ!!」

シェゾは息を飲む。ゾンビ達は今も教会を目指して一歩一歩にじり寄っている。

「早くしろ!! 時間がない……、俺ももうゾンビになっちまう!!」
「ぐっ……、くそ!! ちくしょう!!」

シェゾは村人の首を切り飛ばした。飛ばされた村人は安堵の表情を浮かべ、息絶えた。
だが悲しむ暇もない、切り飛ばしたいくつかの首が浮き上がり、あっという間にシェゾを取り囲む!!

「じゅげむっ!!」

大きな爆発がシェゾと首を飲み込む。ゾンビの首は死に絶えたが、シェゾは咄嗟にシールドを張ったので軽減できた。
膝をついたシェゾにヒーリングをかけ、外の状態を見て青ざめるアルル。

「な、何だよこれ……。それにシェゾ、さっきの人……」
「……何も言うな、俺達は確実にヴゼルを討つ。……それが奴にできる最大の手向けだ」

ルルーも外に出ていた。

「これは……。多分、村からもう何人かの人間は脱出しているわね」
「……おそらくな、しかもそいつらのうちのいくつかはゾンビの襲撃を受けたろう」
「つまり村の外に出てもゾンビがいて、安心できる場所はないって事ね……」
「……許せない、許せないよ魔神ヴゼル!!」

怒りに燃えるアルルは村に湧いていたゾンビをじゅげむで吹き飛ばした!!

「アルル……」

その頃、倉山は森の中で動物を殺し、ゾンビ化させていた。

(倉山さん、動物は報酬の対象外ですぞ。殺害したところで意味は……)
「あるわよ、村の外に逃げてきた奴らや、あいつらを始末できる可能性があるもの」
(おお、そうでしたな! 念には念を入れて、というやつですな!)
「まあね……、その屋敷だけど、きっと奴ら目星つけてすぐやってくるでしょう?」
(そうですな、ウィッシュが私を未来を通して知ったように……)

ヴゼルは怪物田中を倒された後で、ウィッシュから事のあらましを聞いていたのだった。

「屋敷の主人は奴らにも手に余る強さを持ってるようだけど、その道中も過酷にしなくちゃね」

笑う倉山に、決意を固めるヴゼル。

<正史では私が敗北するようだが、そうはさせるか。私が未来を……いや運命に打ち勝つ!! この魔神ヴゼルがな!!>

未来に打ち勝つ意思を固めるヴゼルと念入りに計画を進める倉山!!
そして必ずヴゼルを倒す意思を固めるアルル達!! どちらが勝敗を決するのか!! 続く!!(多分)

その頃、田中とサタン。

「こんな事も分からんのか貴様はァ!!」
「あだだっ、ぶつなって!! 教育じゃなくてパワハラだぞおっさん!!」

魔導の授業を施すが、手順すら覚えない田中。

「やかましい! 続けるぞ!! できるまでな!!」
「はぁ……、地獄じゃねえか……、まさに」
47:えころ :

2019/08/21 (Wed) 21:33:27

田中一郎、異世界へ行く30

~前回までのあらすじ~
ヴゼルの決意!! アルル達の覚悟!!
以上!!

手足の生えた魚みたいな生き物と鳥の翼を生やした少女は木陰から倉山を見ていた。

「何なんだよあいつ……。動物を片っ端から殺してるぞ……、頭おかしいのか?」

少女は震えながら、か細い声で魚に返した。

「あ、の……人は……襲った生き物を……ゾンビに、する力を持って……います」
「いや、お前声大きいの分かるけど、そのしゃべり方だと紛らわしいっつーの」
「す、み、ま、せん……」

ため息をつく魚。最初に見た頭のおかしい少年、聞けば怪物化したらしい。
その翌日にはこれである。もう全然理解が追いつかない。
だが世界が暗雲立ちこめる状態になっている事だけは分かっていた。
その時、ゾンビと化したカラスが魚めがけて襲いかかる!!

「ぎょっ!? やっべ……!!」
「きゃああああああああああああああ!!」

咄嗟に放ったハーピーの大声で気絶する魚。そして、脳が粉砕され死に絶えるゾンビガラス。
当然、倉山はそれを聞いていた。そして、少女の事を探し始めたのだ!!

「なあにかしら今の声ぇ、そこにいるのねぇ……、ふふふ、でておいで~」

青ざめる少女。このまま女の目の前に現れれば、自分も殺されてゾンビにされてしまう!
その時、女の前に少女が一人飛び出した!

「あら、音のした方じゃないけど、まあいいわ……。見てたでしょ? 今まで」

倉山は腕を凶器に変形させ、少女を脅そうとするが、少女は素早く逃げていく!

「面白いわねェ、鬼ごっこ? ……いいわよ、捕まえてバラバラにしてあげる!」
(倉山さん、遊びはさっさと済ませましょう)
「ええ、時間はかけないわ。あの子も始末すればお金になるしね!」

邪悪な笑みを浮かべながら少女の後を追う倉山。それを見た翼の少女はすかさず、気絶した魚を運んで森から脱出した!
しかし戻るのはゾンビまみれの村! 恐る恐る村を見ると……ゾンビを殲滅し終え、暗い表情をするアルル達がいた。
少女に気づいたシェゾは闇の剣を構えるが、首を必死で横に振り、訴える!

「女がひとり! 森でゾンビをぉ!!」

ルルー達は耳を押さえていた。

「おんな……? 敵は女か!! じゃああいつは違うって事だな!」

それを聞いたアルルは顔が明るくなり、少しだけ元気になった。

「良かった……、でも村はこの有様だよ。ハーピー、その手に持ってるの……」
「大丈夫ぅ!! 彼はゾンビにはなっていませぇぇぇん!!」
「分かったからもう歌うな! いや歌ってないのかそれ!!」

魚を置いてから、説明を始めるハーピー。

「女は腕を自在に変形させ、森の生き物を殺してただと……? 何のために……」

ルルーは眉間にしわを寄せていた。

「おそらく、私達を近づかせないようにするためでしょ、その屋敷に……」
「ぐっ……、どこまでも卑劣な!! ふざけるんじゃねえ!!」

シェゾは怒りのあまり、教会の壁を思い切り蹴りつける!!

「サタンのところへ行こう、その女は多分ボク達だけで勝てる相手じゃないと思う」

ウィッチ達も外へ出てきた。

「アルルさん、これが敵の女みたいですわ……」

ウィッシュは水晶玉に映った倉山の姿をアルル達に見せる。

「こいつが敵……? ハーピー、こいつか?」

ハーピーは大きく頷いた。

「こんな奴、タイマン張れば十分やっつけられるのに!」
「この方は知能が高いみたいです。いくつも罠を張って待ち構えているようです……」

アルルはサタンのお城を目指して歩き始める。

「……みんなで行こう、ゾンビがどこにいるか分からなくて危険だからね」

シェゾ達は頷き、サタンのお城を目指す。あと、特に役に立たないが神父達もついてくる。
そして倉山は追いかけてるうちに、大きな屋敷までたどり着いた。

「これが例の屋敷……。という事はあれは……」
(ああ、そうそう。さっきの小娘はここの屋敷の奴隷でしたな)

倉山は少し不機嫌そうな顔になる。

「奴隷のくせにこの私と鬼ごっこするなんて生意気ね。始末急がなきゃ」
「止まるのだ! 無礼者めえ!!」

屋敷にズンズン近づく倉山に怒声とともに扉から主人が飛び出してきた!

「貴様か……? 森で暴れている変質者というのは……?」

主人の後ろで隠れて震えている少女。

「あらあら~、私はちょいとそこの可愛い娘ちゃんに用事がありましてね~」

顔は笑っていたが、殺意を込めた視線を少女に送っていた。少女は背筋が凍る。

「誰だか知らんが、この屋敷に近づく事は許さん。死ぬ前にさっさと失せることだな」
「残念ですが……そのお言葉、お返しすることになると思います。ふふふ」

倉山VS屋敷の主人!! 結果は見えてるが、どっちが勝つのか!! 続く!!(多分)
48:えころ :

2019/08/23 (Fri) 00:05:37

田中一郎、異世界へ行く31

~前回までのあらすじ~
倉山VS屋敷の主人!! ファイッ!!
以上!!

屋敷の主人は震える少女に向かって命令する。

「貴様は邪魔だから屋敷の中へ引っ込んでいろ。すぐ決着をつける」

少女は屋敷の中へ入ろうとするが……。

「させないわよォ!! お死になさぁい!!」

倉山の腕が変形し、少女を捉えようとするが、主人の放った魔法で腕がはじけ飛ぶ!!
だが、倉山の腕はすぐに再生し、すぐ元に戻る!!

「痛いじゃない……、黙って見ていれば命だけは許してあげたのに……」
「これは私の奴隷だ、貴様が好きにしていいものではない。……狂人め」

屋敷の主人は血にまみれた倉山の姿を見て鼻をならす。

「一体どれだけの命を奪ってきたのだ? 何が目的か知らんがとことん異常者だな」
「ふふ、駄弁っていいなんて誰が言ったのかしらァ? 氏ねええええイ!!」

倉山は腕を伸ばし、屋敷の主人を切り裂こうとするが、腕は吹っ飛ばされるッ!!

「同じ手は通じん、貴様の攻撃など全て読め……、ぐッふッ……!?」

倉山はもう片方の手で発砲していた。しかし、弾丸は主人の急所を外れていた。
それでも主人の動きを静止させるには十分な威力であった。

「ふふふ、その腕は囮だったのよ……。どうせ真っ向からやり合うつもりなんてなかったからね……」
「貴様……、何だその武器は……、どこでそんな……」

倉山はヴゼルに質問をする。主人からすると独り言を話しているようにしか聞こえない。

「ねえ、こいつピストルで殺したらゾンビになるかしら、ヴゼルさん」
(ふむ……、成立する条件はあくまで私が与えた力でのみ。よってゾンビにはなりません)
「き、貴様……。誰と話している……、もう一発お見舞いしてや……、ごばぁ!?」

倉山はもう一発銃弾をお見舞いする。屋敷の主人は患部を押さえ、痛みにもだえていた。
回復魔法を唱えようとする主人の急所を変形させた腕で串刺しにし、トドメを刺すッ!!

「はい、終了~。お疲れ様でした、さあて……、次はあの子ね……」

逃げた少女を負う倉山だったが、トドメを刺したはずの主人がもう起き上がっていた。

「あらもうゾンビ化したのね、頼もし……、ごぶふうぅっ!?」

パワーアップした主人の魔法を食らい、ぶっ飛ばされる倉山!! 屋敷の壁に激突ッ!!

「後悔させてやるぞ……、この地を治める偉大な魔導師に刃向かったその事実を胸に焼き付けるがいい!!」
「どういう事、ヴゼルさん! あいつゾンビ化したんじゃないの!? どうして私に刃向かうわけ!!」
(倉山さん……。あの主人はゾンビになっても知能を失っておらず、意思もそのまま。ただ力だけが増強したのでしょう)

倉山はパニクる。

「私に襲いかかるようじゃこいつなんかいる意味ないでしょ! どうにかしてよ!!」
「ふん、誰に助けを求めているのだ腐れ女め……。力がみなぎるこの私を止める事などできぬ、くたばれ!!」

巨大な光の刃を出現させたゾンビ主人はそのまま倉山を一刀両断!! 倉山、死す!!

「なんだか知らんが、この女のお陰で私はパワーアップしたようだ……、これならばこの世界を支配するのも容易いな」

ゾンビ主人は倉山の死体からピストルを取り上げ、川に放り込み、そのまま流してしまう。

「この忌々しい武器はもらっておく。私の究極の魔導研究の糧とさせてもらおう」

そして主人は屋敷に戻っていく! まさかの倉山敗北!! 続く!!(多分)

田中は手から一瞬、炎が浮かんだ感覚を覚えていた。

「おっ、今炎が手から出たような……」
「よし続けろ、貴様でも真面目にやればできるものだな」
49:えころ :

2019/08/24 (Sat) 13:20:14

田中一郎、異世界へ行く32

〜前回までのあらすじ〜
倉山!! 大敗北!! ざまぁ!!
以上!!

ヴゼルは倉山の死体を動かし、岸に上がっていた。切断された下半身を掬い取り、魔法でドッキング!!

「この女はなかなか使える奴だったが、欲望に左右されやすいところが欠点だったな」

そしてヴゼルはまた、屋敷に向かって歩き始める。

「このままではアルルとかいう小娘どももゾンビと化した主人と戦わんだろう、私が交渉しに行く他あるまい」

ヴゼルは主人を利用してアルルを抹殺するという目論見を倉山から受け継ぎ、交渉をしに行く事を決意!!
そしてアルル達もサタンの城道中でもいくつかのゾンビを倒し、進んでいた。

「サタン様……、村人から疑われ心を痛めてらっしゃるのにこんな事まで伝えてしまったら更に……」

ルルーはサタンの事を思い、胸に手を当てていた。
一方、サタン。

「うおおおオラァッ、バーニングサイキックパンチィ!!」
「ふんッ」

田中の熱した拳をサタンに向かって放つが、軽く受け止められる。

「あぢぢぢぢっ、勢いに任せて放つの良いけどこれ相当きついわ」
「魔法と絡めた技を思いついたから付き合えと言い出したかと思えば……、そんなものか?」

呆れるサタンに田中は叫ぶ!!

「あのなあ、俺は魔法なんかやり始めたばっかなんだぞ、拳を熱せられるようになるなんて大進歩じゃねーか!」
「ほう、なら何故魔法を使って物理攻撃にこだわる必要があるのだ?」
「そりゃもちろん決まってんだろ! 格闘技はこの俺の命よ!! 何より譲れねえ戦闘スタイルだからな!!」

シュッシュッとシャドーボクシングを始める田中。
ため息をついていたサタンだが、別にルルーが心配するほど村人のことは気にしていなかった。

「サタンを疑う村人が出るのも無理はない、そもそもヴゼルなんて魔神を誰も知らないんだからな」

平静を装っていたが、シェゾはヴゼルに怒りを覚え、拳を強く握りしめる。

「なんなんだよそのヴゼルって魔神、こんな事して何が楽しいんだよ! 何かあたし達に恨みでもあんのか!?」
「……世界の破壊が目的だとおっしゃってましたけど、本当ですか? ……おばあちゃん」

ウィッシュは頷く。

「近い未来、魔神ヴゼルと名乗る者が天から我々に語りかけてくる光景が見えたのです。ただ動機は不明ですが……」

ウィッチは怪物と化した田中や、村を襲撃したゾンビ達を思い出し、震えていた。

「大丈夫だよ、きっと今、あの人とサタンがヴゼルを倒すために色々頑張ってるはず。だから希望を持とう!」

アルルは必死に元気を繕って語りかけるが、皆浮かない表情。
それもそのはず、田中はヴゼルに好き勝手に利用されていただけの身。アテにするのも無理がある。

「ぐっぐっぐぐー!!」

アルルの懐に隠れていたカーバンクルだけが元気に返事をしてくれた。
カーバンクルは怪物田中にいじめられた事は特に気にしてない様子だった。
アルルは少しだけ笑顔になったが、やはりこの重く気まずい空気には胸が押しつぶされそうであった。
そしてヴゼルは、倉山の姿で主人とご対面!!

「また来たのか、貴様は……。しかもあれで生きてられるとは恐れ入った、何度でも始末してくれるわ!!」

アルル達の行く末は光か!! はたまた闇か!? そしてヴゼルは主人を操れるのか!? 続く!!(多分)
50:えころ :

2019/08/25 (Sun) 11:42:00

田中一郎、異世界へ行く33

~前回までのあらすじ~
ヴゼル、主人と対面!! アルル、気苦労と陰鬱!!
以上!!

「さっきのご無礼お許しください。私は是非あなたの力添えになりたくて再び戻ってきたのです」
「力添えだと?」
「ええ、私は倉山恭子。この世界の魔導師を抹殺する必要があるのです。この地を支配するためにね」
「それでさっき私や奴隷を襲ったというわけか?」

ヴゼルはニッコリ笑った。

「私は自身の力量が優れていると確信しておりました。しかし、まだまだ井の中の蛙だったというわけです」
「一つ聞きたい事があるな」
「何でございましょう?」
「私は何故生きている? 確かに貴様によって命を奪われた感じがしたが、夢などではあるまい」
「それはゾンビ化する私の力によるもの。あなたは意志が強いために自我を保っていられるのですよ」

主人はなんとなく納得したような顔をした。

「まあ貴様のお陰で強くなれた事、礼を言おう。だがそれで貴様に与する理由などどこにもないな、くたばれ!!」

主人はヴゼルを始末しようと、魔法を放つ!! しかし!!

「35%ホーリージャッジライトニング」

魔法はヴゼルの放った光波により、消滅させられ、ヴゼルは主人に一気に詰め寄る!

「なっ、貴様……!! さっきまでそんな魔導など一切使えなかったはず。ただ腕を変形させるだけの……」
「ふん、こうなればもう実力行使だな。いくら貴様がゾンビ化したとは言ってもそれで私に敵うはずなどない」
「黙れィ!! パワーアップした私の力をなめるな!!」

巨大な光の剣を繰り出し、再びヴゼルを切断しようとするが!!
クレイジー恭子、阿修羅の構え!!
背骨がバキバキと音を立て、新たな腕が生え、6本となった腕で光の大剣を白刃どる!!

「ぐっ……!! こいつ、バケモノか!!」
「返却するぞ! 受け取れ!!」

剛腕を発揮し、巨大な光の剣を宙に弾き飛ばし、そのまま刃先が主人目掛けて襲い来る!!
主人は魔法で必死に相殺しようとするが、光の剣は魔法すら切り飛ばし、そのまま主人を両断!!
倒れる主人、勝負は決する!! ヴゼルは主人のところへ歩み寄る。

「実力差が知れたな、どうする? 私の命令を大人しく聞けば、いくらかは自由にさせてやるぞ」
「わ、私は今度こそ死ぬのか……? 貴様は……、何者なのだ……?」
「私は魔神ヴゼル。貴様にはアルルとかいう小娘どもを始末する役割を与える」
「ま……、魔神ヴゼル……?」

ヴゼルは主人の体をくっつける際、自身の体の一部を主人の脳みそに移植した。

「ぐがあああ、な、何だ? 今何をしたのだ、貴様……!!」
「私の体の一部を貴様に埋め込んだ。もし私を裏切ったなら貴様は完全に理性を失い、凶暴な怪物と化す」
「ぐっ……!!」
「いずれ、この屋敷に奴らがやってくる。必ず仕留めろ、いいな」

ヴゼルはそのまま村へ行こうとするが、信じられない事が起きた。

「な、何だ……? 私のこいつの体の支配が……、意識が遠のく……!!」

倉山の意識、再誕!!

「まだ終わってないわよヴゼルさん!! 私の億万長者への道はねぇ!!」
(やれやれ戻ってきたのか、凄まじい意識だな。そんなに金が欲しいのか……)
「当然よ!! 命を奪う役目はまだ終わってないんだからね、今集団でコソコソ隠れてる奴らをぶっ殺しに行くわよ!!」
(まぁそれが確実だな。じゃあまたお任せしましたぞ、倉山さん)

屋敷の主人、攻略完了!! そして帰ってきた倉山!! 続く!!(多分)
51:えころ :

2019/08/30 (Fri) 19:16:01

田中一郎、異世界へ行く34

~前回までのあらすじ~
倉山、帰還!! 再び世界を襲う殺戮の雨!!
以上!!

アルル達はついにサタンのお城までやってきた。

「サタン様に頼めば……、我々も助かるのでしょうか……」
「怪物化した少年に圧倒されたという話しも聞きますが……」

初めて口を開く神父とシスター。

「サタンとあの人の力を借りればきっとヴゼルの侵略から逃れられるはず。……だから」

アルルが振り向くと……!!
首をもがれる神父!! 体を真っ二つに引き裂かれるシスター!!

「きゃああああああああ!!」

ウィッチは殺害された神父達の死体から急いで遠ざかる!!
邪悪な笑みを浮かべた女がアルル達のところにやってきた!!

「初めまして。私は倉山恭子です。貴方たちにご相談があってやってきました」
「何がご相談だ!! もうすでにぶっ殺してるじゃねえか!!」
「こいつ……!! あの水晶に映ってた女!! あたし達の敵だ!!」

アルル達は攻撃態勢に入ろうとするが、倉山は不敵に笑っている。

「無駄よ、貴方たち怪物化した子に歯が立たなかったのでしょう? それで私に勝てると思うの?」
「何が目的だ!! 村をゾンビだらけにして多くの命を奪いやがって!! いくらヴゼルの手先でも狂ってるだろ!!」

倉山はシェゾの首を掴み、締め上げる!!

「うぐぅっ!!」
「シェゾ!!」

動こうとするアルル達に倉山は叫ぶ!!

「抵抗は無駄無駄!! 取引に応じないとこの子が死ぬ!! ただそれだけ!!」
「お……俺は……かまわん……、こいつの話をき……け……」

アルル達は動きを止めて倉山に話を促す。

「お話はただ一度きり。質問も受け付けません。しかも返答に制限時間も設けます。よろしいわね?」
「……分かった」

倉山はウィッシュを指さす。

「そいつをここに残して貴方たちは屋敷へ足を運びなさい。そこにとっておきの相手を用意したわ」
「お前、屋敷の主人を……!!」

前に出ようとするドラコを見て、首を締める力を強める倉山。

「分かりました。私はここに残ります。アルルさん達は屋敷へ急いでください」

ウィッシュは倉山の要望に即答した。
すると倉山はするっとシェゾの拘束をほどき、シェゾは地面にぶっ倒れる!!

「うぐぇ……、げほげほっ!!」

倉山は呆然とするアルル達に指示をする!!

「何してるの、この男の子を連れてさっさと屋敷へ行きなさい!! ここで全滅したいの?」

アルル達は急いでシェゾを起こし、渋々屋敷へ向かう。でもウィッチはその場を動かず、ウィッシュと残ろうとした。

「おばあちゃん! 私は……ひぃ!!」

そんなウィッチを倉山は腕で掴み、アルル達のところへ放り投げる!!
それをお姫様抱っこで受け止めるアルル!!

「貴方たちの墓場はもう用意してあるのよ、行きなさい」

ウィッチは涙を流しながら、アルル達と共に危険な森へと向かっていった。

「さてウィッシュさん、魔神ヴゼルさんからお話は聞いております。あなたは未来予知ができるそうで」
「……ええ、そうですが」

倉山は邪悪な笑みを浮かべる。

「隠れている村人を抹殺するため、あなたのお力をお借りしたいのです。協力してくれますね?」

ウィッシュは戸惑っていた。

「どうしました、先ほどは即断してくれたじゃありませんか。悩むことなどない、あなたに断る事はできないのですからね」

ヴゼルは感心していた。

<ふむ……。敵を利用し、効率よく殲滅を行う。わざわざこそこそ隠れて事を進める事もないという大胆不敵な行動力か……>

一方、田中とサタン。

「中で貴様と戯れるのは少し散らかるから、外で特訓を行う事にするか」
「まぁいいけど、今度はもっとうまく技を繰り出せるようにならなくっちゃなあ」

呑気な田中とサタン!! もう接触を図ってきた倉山!! 続く!!(多分)
52:えころ :

2019/08/31 (Sat) 05:48:34

田中一郎、異世界へ行く35

〜前回までのあらすじ〜
倉山、アルル達を追い払い、ウィッシュを利用しようとする!!
以上!!

ウィッシュは倉山に質問をする。

「……あなたは何故人を殺めて回っているのですか。それだけ聞かせてください」
「分かったわ、あなたにだけは私の目的をお話しいたしましょう」

倉山は口の端を吊り上げて、話し始める。

「ここの人達を殺すとね、お金がもらえるんですよ。……魔神ヴゼルさんからね」
「お金、ですか……」
「ええ、それに殲滅すればより多くのお金が手に入るし、しかもヴゼルさんの目的とも合致するというところです」
(倉山さん、話しすぎは控えてください。こいつに私の事が少しでも知られるのは……)
(分かってますよ、それより今語りかけてくる事こそ怪しまれるわ、あの主人はともかくね)

そこに田中とサタンが現れた。

「ウィッシュ……何だ、その女は! しかも近くには村人の死体!! 貴様何者だ!!」
「な、何なんだよあれぇ……」

警戒するサタンに倉山は語りかける。

「私は倉山という者です。異界からこの世界に来たのですが、村はゾンビの襲撃に遭いましてね」
「村がゾンビに襲撃されただと!? 詳しく説明しろ!!」

倉山は悲しそうな表情を浮かべて語り始めた。無論心にもないが。

「私とウィッシュさんは……、その地獄の最中、必死で逃げてきたのです。神父達もゾンビに噛まれたようで……」
「そ、それであんたはゾンビ達を一網打尽にしてきたってわけか……? すっげーな……、俺にはできねえ」

ウィッシュは倉山が白々しい嘘をついている事をサタン達に伝えようとしていたが……。

「村の様子が心配だ、私はすぐに見てくる。アルル達も危険な目に遭ってないといいが……」
「あの、俺は……」
「貴様はウィッシュとそこの女の様子を見ておけ。ゾンビを倒せるぐらい強ければ心配あるまい」

サタンは田中を残して飛び去っていく。
その時、神父の首が動き出し、シスターの死体を貪り始めた。

「うぎゃっ!? マジでゾンビになりやがった! 倉山さん、そいつどうにかしないと!」

だが、倉山は動かない。ウィッシュはただ悲しそうにその光景を見ている。

「お、おい……。どうしたんだよ? 目の前にゾンビがいるならとっとと始末した方が……」
「そうね、でもこれは私が作り上げたものだからそうする必要もないのよ」

田中は眉をひそめた。

「は? あんたゾンビから命からがら逃げてきたって言ってたじゃ……、うお!!」

神父の首が宙に浮き上がり、田中に襲いかかってくる!

「分からない方が幸せかも知れないわ、ここで命を落とすあなたにとってはね」

倉山の表情が邪悪な笑みに変わるのと同時に田中は背筋が凍り、確信した。

「てめえが……、てめえがゾンビを操る悪の親玉ってことか!? ……ひいっ!!」

怒りをぶつける田中に余裕を与えず、神父の首がマークするが……。

「うおらぁ!!」

田中の怒りに呼応するかの如く凄まじい炎が拳を包み放たれる!!
バーニングサイキックパンチの完成!!
神父の頬に突き刺さった拳は鋭い衝撃と火焔の連携で脳を徹底的に焼き尽くし、破壊!!

「許さねえぞ、つーことはウィッチの母ちゃんも脅して大人しくさせてるってわけだな!?」
「……祖母です」
「ふうん、なかなかやるじゃない。ヴゼルさんに操られてただけで大した事ないって話だったけどこれは楽しめそうね」

田中は倉山を睨む。

「ヴゼルだと!? てめえ、あいつに力をもらって好き勝手してるってわけかよ! うら……許さん!!」
「ま、力のないガキじゃないってことは分かったし、私もちょっと殺戮前の肩慣らしをしようかしらね!」

倉山の背骨がバキバキと音を立て、腕が6本に増える!! クレイジー恭子、阿修羅の構え!!

「はっ!? あんた人間じゃねーのかよ!? こんなんアリかよ!!」
「どうしたの、怖気付いた? ま、それはありがたいわね。すぐあの世に送ってあげるわ!」

倉山vs田中!! 熾烈な戦いの幕が切って落とされる!! 続く!!(多分)
53:えころ :

2019/08/31 (Sat) 22:38:39

田中一郎、異世界へ行く36

~前回までのあらすじ~
倉山と田中のバトル、開幕!!
以上!!

一方、アルル達は森で倉山が仕向けた動物ゾンビ達と戦っていた。

「ぐっ……、人間だけじゃなくて動物までゾンビ化すんのか! しかもキリねえ!」

確実にバテてきている一同だったが、ウィッチは一言もしゃべる元気がなかった。
そんなウィッチにゾンビガラスが襲いかかる!!

「危ねえ!!」

シェゾが放った一閃により爆殺されるカラス。

「シェゾ……、ごめんなさい……」
「何も言うな……、悔しいが今の俺達ではあの女は倒せん……。もっと力を……」

言いかけるシェゾの前にさっと誰かが現れた。剣を構えるシェゾ。

「あ、あなたはあの屋敷で奴隷にされている子……?」

少女は頷いた。そして屋敷から持ち出した食料をアルル達に差し出した。

「屋敷に来ちゃダメ……。あなた達は殺される……」
「分かってる。でも屋敷の主人さえヴゼルの手先になってるなら止めなきゃ」

少女は首を横に振った。

「ご主人様は殺された……。ヴゼルと名乗る怪物のような女に……」
「ヴゼル!?」

アルルは思い出す。田中が怪物化する直前、ヴゼルに操られていた事を。

「あの女の中にヴゼルがいるんだ!」
「で、でもどうすんだよ……。あの女を殺したらヴゼルが大暴れするんじゃ……」

少女は絶望的な返答をアルル達に返した。

「あの女は一度ご主人様に殺された……、でもなぜか生き返ってた……」
「何っ!?」

ルルーは顔を引きつらせた。

「あの女をやっつけても復活しちゃうって事……? そんな奴どうやって倒すのよ……」
「前におばあちゃんがやったように回復魔法をかける手段も通じない……」

途方に暮れるアルル達のところへサタンが飛んでくる!!

「村はほぼ廃村と化していた……。お前達……、一体何があったんだ!?」
「敵は女だ! しかもそいつは普通じゃねえ! 血まみれで平気で人を殺す奴だ!!」

サタンは青ざめた顔をしていた。

「そ、その女は確かウィッシュと共に村から逃げてきたと言っていた……」
「そんなもん嘘だよ!! もしかしてあの人もそこに残してきたの!?」

一方、倉山と田中。田中は新たに会得した奥義で戦うも、素早い倉山に攻撃が当たらない!
どころか、6本に増えた腕の猛追で奥義を繰り出す余裕がなくなっていた!!

(倉山さん、この小僧と遊ぶのはかまいませんが、こいつは報酬の対象外。しかもゾンビ化もしませんぞ)
(でもヴゼルさん、この子さっき炎の拳でゾンビをやっつけたでしょ? 放っておくと脅威になりそうな気がするわ)

田中はヴゼルとの会話に神経を集中させた倉山の一瞬の隙をつき、お見舞いする!!

「そこだ!! くらいやがれ!!」

バーニングサイキックパンチ!!

「どぼわぁ!?」

倉山の身体は炎に包まれ、そのままぶっ飛んでいく。すかさずウィッシュが田中の横に駆けつける!

「私も協力します。それにしても短期間ですごい成長。アルルさんの言っていた事は本当だったのですね」

にっこり笑うウィッシュにふっと笑って返す田中。

「あいつ……、俺の事をそんな風に……、ぐふっ!?」

倉山は田中めがけて発砲していた。急所は外れたが、田中はその場に倒れ込む。

「日和ってんじゃないわよクソガキが……。なめた真似をしてくれたわね、もう許さない」

倉山はピストルをぐるっと回し、エネルギー砲を発射するため、溜め始める!!

「これで確実に仕留めたげる、さよなら」

怒りを見せる倉山!! サタンを連れて倉山のもとへ戻る一同!! 続く!!(多分)
54:えころ :

2019/09/01 (Sun) 01:46:12

田中一郎、異世界へ行く37

~前回までのあらすじ~
倉山、キレた!!
以上!!

「マスターピストルゥゥゥ!!」

ピストルから極太レーザーが射出!! 田中めがけて鋭く襲いかかる!!

「させません、ビッグバン!!」

ウィッシュが放った爆発魔法がマスターピストルを相殺しようとするが……。

「ヒャアッハッハッハッハ!! そんなしょぼい魔法で私の攻撃がかき消せるか!! いっけええええええ!!」

倉山の意思に呼応するかのようにレーザーが勢いを増し、ウィッシュの爆発魔法を粉砕!!
そしてウィッシュを吹き飛ばし、レーザーは田中めがけて一直線!!

「くあああっ!!」

そこにサタン達も駆けつけ、各々魔法を唱え、レーザーを打ち消そうとする!!

「は? 何で戻ってきてんのよあんた達」
「大丈夫か田中ァ!! 立て!! 協力してあの女をぶっ倒すぞ!!」
「しっかり! ヒーリング!!」

田中の弾痕はアルルのヒーリングによって塞がれたが、意識は虚ろだった。

「アセンショォン!!」
「アレイアードスペシャル!!」
「女王乱舞!!」
「ビッグバン!!」
「グレートファイヤー!!」
「じゅげむっ!!」

みんなで全力を出し切ったところで倉山の攻撃をようやく相殺できた。
まあハーピーと魚は見てるだけだったけど。

「大丈夫ですかおばあちゃん!!」

ウィッチはウィッシュのもとへ駆けつける!

「はー……。しょうがないわねぇ……、まあ思い通り行かないこともあるものねえ、人生はね……」
「ハァハァ……、来るなら来い!! 俺達はもう覚悟はできてるぞ!!」

倉山は舌を出して捨て台詞を吐いた。

「はいはい、美しい協力プレーだ事。でも言ったでしょ、墓場は用意したって。そこで待ってるからさっさと来なさい」

去って行く倉山。

「あいつを倒さない限り、世界に平和は訪れない……。やるしかないのか」
「でもすごい攻撃だったよ……。あんなものを連発されれば持つかどうか……」

田中は起き上がって決心した。

「ここからは俺がリーダーになる。お前ら俺についてこい」
「は? お前いきなり何言って……」

ウィッシュは田中の宣言に同意した。

「ええ、確かにこの方ならあの人と互角に戦えるかもしれません」
「ちょっ、何言ってんのよ! こいつは格闘で私に負け……」

ルルーは言いかけたところで田中のバーニングサイキックパンチを放たれる!!

「きゃあああっ、あっつ!! あんた、いつの間にそんな技身につけたの!?」
「やるではないか、田中! さすがアルルが見込んだことだけはあるな!」
「すっげーな!!」
「ほら言ったじゃん! 田中はできる人なんだよ!!」
「何だお前ら手のひらクルックルじゃねーか、まあいい。さっさと逃げた倉山を追うぞ!」
「ぐー!!」

ウィッチは少し安心した表情で悪態をついた。

「ま、まぁまともに戦える人になってくれたのは及第点ってところですわね……」
「おーおー、びびってばかりのお嬢ちゃんが言ってくれるぜ」

そして屋敷、なだれるように倉山が入り込む!!

「時間よ!! 奴らが私を追ってここまで来るわ!! 後は任せたわよ!!」
「い、いきなり入ってきて吐く言葉がそれか!」

倉山はピストルを主人に向ける。

「……分かっている、ただ奴らを仕留めればいいのだな」
「一人だけ注意すべきガキがいるわ。そいつは優先的にやっちまいなさい。いいわね」

そして倉山は屋敷の奥へとずかずか入り込んでいく。

<紆余曲折あったが、この主人はどこまで使い物になるか……楽しみなところだな>

屋敷に戻る倉山!! それを追う田中達!! 続く!!(多分)
55:えころ :

2019/09/01 (Sun) 19:52:19

田中一郎、異世界へ行く38

~前回までのあらすじ~
田中、リーダーになる!!
以上!!

ハーピーと魚を残して田中達は倉山が逃げていった森の中へ入っていく。

「田中、森は倉山がゾンビにした動物ばっかだ。くれぐれも気をつけろよ」
「問題ねえな、銀髪のお兄さん。俺にはこの必殺奥義がある」

シェゾが困惑した表情を浮かべる中で放たれるッ!! 田中、地面を思い切り踏みならす!!

「スーパーサイキックストリーム!!」

放たれた衝撃波が周囲の木々に流れ渡り、田中達を待ち構えていたゾンビ達が軒並みボトボト落ちてくる。

「こいつを使って隠れている奴も一網打尽にできる、さぁ行くぞ」

ずかずか先頭を歩いて行く田中。喜んで田中の後をついて行くアルル。
呆気にとられる一同。

「あいつ、あんなに強かったっけ……?」
「いや全然……、さっきまでひ弱な小僧だったはずだが……」

そしてもう屋敷までやってきた田中達!! 田中は早速入館!!

「邪魔するぜ☆」
「もう来るとは聞いていたが、想像以上の早さだったな……。そして貴様が要注意の小僧か……」

暗闇からゆっくりと屋敷の主人が現れる。その様を遠くから眺めている倉山。

「ねえヴゼルさん、いくら操ってるとはいっても、あいつ真面目に戦うかしら」
(私が見切りをつければいつでも怪物化できるので問題はありませんぞ)

主人は田中達を招き入れる。

「よく来たな、魔神ヴゼルの手により更なるパワーアップを遂げた私の力を見せてやる」
「こんなお屋敷の中で戦っていいのか? 散らかる事になるぜ」
「ふん、ここが貴様らの墓場となるからだ! くたばれ!!」

主人が魔法を放つよりも先に田中は地面を踏みならすッ!!
スーパーサイキックストリームで地ならしを起こしたのだ。

「こ、これは足下が安定せぬ……、一回後ろに下がって……。っ!?」

主人の目の前に田中が迫り、食らわせる!!

「スーパーサイキックパンチィ!!」

打撃による衝撃が主人の顔面を捉え、すさまじいダメージと共に吹っ飛ぶ!!

「今だ、畳みかけろ!!」

田中の指示を受けて、サタン達が主人めがけて容赦なく必殺技フルコースをお見舞いする!!

「ちょっ……貴様ら!! やり方が汚いぞ!! ぐわあああああああああ!!」

主人は田中達の猛攻を受けてボロボロになっていた。田中は主人に近づいていく。

「先手必勝だ。倉山のやつはどこへ行った? さっさとやつのところまで案内……、ぐほぁ!?」

主人の放った魔法でぶっ飛ぶ田中。

「勝ったつもりでいるなよ……。この私を怒らせた事、後悔させてやる、ふん!!」

巨大な光の剣を具現化させる主人。

「くらええええいッ!!」

田中めがけて剣が放たれる!! しかし、田中。空中で回転を始め、炎を身体に纏わせる!!

「バーニングサイキックスクリュー!!」

炎の勢いで回転が増した田中のスピニングタックルが大剣の刃先に激突!!
アルル達は田中が真っ二つになったかと思ったが、光の大剣はボロボロと崩れ、やがて姿を失った。
そして田中は地面に激突!! しかも身体は火だるまのままだからめちゃ熱い!!

「あぢぢぢぢぢっ、水!! 誰か早く水をかけてくれ!!」

アルルはコールドの魔法を唱え、田中に冷水を浴びせ、消火!!
自身の魔法が打ち砕かれ、失意に暮れる主人にサタン達は容赦なく集中砲火!!
しかし……。主人は見る見るうちに姿を変え、大きな翼を生やし、角を光らせた猛獣へと姿を変えた!!

「ぐぎゃあああうぉおおおう!!」
「第二形態……? いや、ヴゼルの野郎の仕業か!!」

倉山はスタンバっていた。

(思ったよりあのガキが厄介ですな。早めに潰しておきましょう)
「だからさっき言ったじゃない、ヴゼルさん。もしあれが終わったら次は私って事になるけど……」

怪物化した主人!! 急成長を果たした田中!! 果たして勝負は長引くのか!! 続く!!(多分)
56:えころ :

2019/09/02 (Mon) 19:01:04

田中一郎、異世界へ行く39

~前回までのあらすじ~
急に強くなった田中vs怪物主人!! ファイッ!!
以上!!

怪物化した主人に攻撃を当てようとする田中!

「くらえ! スーパーサイキック……」

しかし、主人は翼を大きく羽ばたかせ、田中達を宙に舞い上げる!!

「なんつー威力だ……、!?」

怪物化した主人の口から勢いよく火炎の息が吐かれ、田中達を焼き尽くそうとする!!

「バーニングサイキックスクリュー!!」
「シールド……、ぐわあっ!!」

田中は主人の吐く火炎を自身の巻き起こした火炎と相殺! サタンも翼を羽ばたかせ、火炎を振り払う!!
シェゾは咄嗟にシールドを張るが、あっという間に壊され、大火傷を負う!!

「大丈夫かお兄さん、アルル! ヒーリングを……」
「分かっ……」
「グランドマスターピストルゥ!!」

倉山のレーザーが回復を試みるアルルめがけて放たれる!!

「何っ!?」
「あいつ……、大人しく潜んでるかと思いきや援護してきやがった!!」

マスターピストルは一定方向に強力なレーザーを射出する特技だが、その力の余り放出中は自由に方向転換ができない。
そこで、あえて威力を抑えめにする事で自由方向に射出できるようにしたのがこのグランドマスターピストルだ。

「避けなきゃ……!!」

追撃してくるレーザーを避けるのに夢中なアルル!! 床は主人の放った火炎で燃え盛り、避けづらい状態!!
それを狙って放たれた主人のパンチに吹き飛ばされ、壁に激突し吐血!!

「がっはっ……!!」
「よくもアルルを……! 許さん、くらえッ、アセンショォォォン!!」

サタンは猛烈な勢いで倉山に突進攻撃を放とうとするが、屋敷の主人に弾き飛ばされ、炎の中に激突する!!

「ぐはぁ!? ……あぢゃぢゃぢゃ!!」

ウィッチは主人に対してビッグバンを放つが、翼を羽ばたかせて起こした突風で跳ね返され、逆に自分サイドが爆発!!
それにルルーやドラコも巻き込まれる!! 垂直に吹き飛んだ後、そのまま地面に叩きつけられ、戦闘不能に!!

「だ、ダメだこりゃ……」
「あんたねぇ……」
「ばたんきゅー……」

ボロボロになって倒れる一同。立っているのはもう田中とウィッシュしかいない。

「おーっほっほっほ、楽勝ね!! 田中君、ここまで追い詰められたらもう死ぬしかないわね! 殺してあげる!!」

怪物主人が田中に襲いかかる!! そして倉山もぐるっとピストルを回し、溜め始める!!

「田中さん、いざという時は私が囮に……」
「その必要はねえな、ばあさん……。この勝負、一つだけ突破口があるぜ」
「えっ……」

放たれる!! マスターピストル!!

「こっちだぜ怪物!!」
「なっ、しまった……!! もうどうにも止まらねえ!! 怪物主人に当たっちまう!!」

怪物主人に倉山のマスターピストルが直撃!!
大ダメージを負ったのを確認した田中がすかさずバーニングサイキックパンチ!!

「ぐおおおおおおおおおお!!」

怪物主人は激痛を振り払うため、大暴れ!! 狭い屋敷は一気に倒壊し、倉山も大ピンチ!!
ウィッシュがテレポートを唱えた事により田中達は倒壊する屋敷から外へ脱出!!

「空間転移魔法だと……!! エスパーみたいな真似しやがって!! ヴゼルさん、私もできる!?」
(……無理ですな)

屋敷は激しく燃え盛り、完全に倒壊!!
各々は回復魔法を唱え、傷を癒していると、屋敷から下半身を失った倉山が田中達の前に出現!!

「私の咄嗟の決断で無傷で脱出する事ができたわ……」
「どう考えても無傷じゃねえだろそれは、その状態でも戦えるのか?」
「もちろん……、今度は容赦しないわよ。アディオス!!」

倉山はテケテケ状態になった事で更に素早くなり、田中に襲いかかる!! 続く!!(多分)
57:えころ :

2019/09/03 (Tue) 21:38:18

田中一郎、異世界へ行く40

~前回までのあらすじ~
屋敷倒壊!! 倉山下半身損壊!!
以上!!

クレイジー恭子、ベーシックラッシュ!!
田中、奥義!! デストロイバイオレンスラッシュ!!

「ヒャアッハッハッハッハッハッハ!!」
「ウラウラウラウラウラウラァ!!」

2人がアルル達そっちのけで仲良くじゃれている最中、アルル達は青ざめていた顔をした。
倉山と田中はそれに気がついて動きを止める。

「どこを見ているお前ら?」

倉山はアルル達の見ていた屋敷の方を見て戦慄する。

「な、なんじゃありゃあ!?」

それは更に進化して大きくなったシン主人であった。

「お、おい倉山! 主人は死んだんじゃねえのか! あれはどういう事だ!」
「知るかんなもん! ヴゼルさん、あれは何!?」
(……すまんが私にもよく分かりません)
「おい倉山! ヴゼルは何て言ってやがるんだ!」
「ダメだこいつ使えねえ! ただあいつは理性があるならきっと私の味方のはずだ!」

倉山はシン主人に叫ぶ!

「おいデカブツ、こいつらをさっさと始末しろ! 命令だ!!」

だがシン主人は眼を怒りの炎で滾らせ、倉山もろとも凄まじい火炎の息で包み込もうとする!!

「あぢぢぢぢぢっ!! ダメだこいつ理性もねえ、このままじゃ私もやられちまうじゃねーか!」
「ダメじゃねーか! このままじゃこの世界はこの主人の成れの果てに滅ぼされちまう! おいヴゼル!!」

田中は倉山に向かって叫ぶ!!

「お前の目的はあくまでてめーの力で世界を滅ぼす事なんだろ!? あのままあいつがこの世界を支配しちまってもいいのか!」
「な、何を言ってるの田中君……。ヴゼルさんはあいつが暴れて人を殺せばお金をくれるはず……ねえ、そうでしょヴゼルさん!」
<チッ、クソガキめ……。そうやって煽り立てて私にこの怪物退治を協力させようという算段か……>
「そうだぞヴゼル! 貴様は強大な力を持っていながらこんな怪物ごときに恐れをなすのか! 情けない支配者だな!!」
「ヘタレ魔神め! お前が歴史に名を残すなんて永遠の恥だ!! そのまま闇に葬り去られるんだな!」
「べーだ! 世界を滅茶苦茶にしようとしたくせに何だよそのザマは! 結局墓穴を掘ってるじゃんかこのアホ魔神!」
「所詮あなたもわたくし達と一緒にあの怪物の前で散る運命なのね……、哀れ……」
「田中さんを怪物化させた後はその女を使ってゾンビを作り、人の命を散々弄んで利用したがそれによって散る……皮肉なものですね」
「私はあなたのようにコソコソ隠れて無様にやられる運命なんて選ばないわ、最期まで誇りを抱えて散るつもりよ」
「悔しかったら出てこい! 卑怯なキミには無理だろうけどね!」
「ぐー!!」

アルル達も一丸となってヴゼルを罵倒する!!

「苦しい負け惜しみだわね、ヴゼルさん……。私達はこの隙に逃げちゃいましょう」
(……そうですな、想定外の事態に取り乱した奴らの戯言を聞く道理はない。この状況を利用しましょう)

倉山はさっさと逃げ出そうとするが、田中は必殺奥義を繰り出す!
拳を思い切り地面に叩きつけ、電流を勢いよく流す!!

「ボルテックサイキックパンチ!!」
「あべべべべべべっ!!」

倉山はそれに感電!! その場にズシャッと倒れこむ!!

「せめて逃げるなら俺と戦って決着してからにしろ……、それが嫌ならお前は死ぬしかないぜ」
「な、ナメた真似を……」
「ギャアオオオオオオオ!!」
(ふん、蛮族どもめ……。私が散るだと? 歴史に泥を塗るのは貴様らだという事をその身に刻み込むがいい)
「聞こえてるわ、ヴゼルさん」
(あっ、失敬)

シン主人は咆哮をあげ、田中達めがけ侵攻開始! 倉山の決断は!! 続く!!(多分)
58:えころ :

2019/09/05 (Thu) 20:36:49

田中一郎、異世界へ行く41

~前回までのあらすじ~
シン主人、覚醒!! 倉山、逃走失敗!!
以上!!

シン主人の攻撃が炸裂!! 超絶弩級魔導支配術!! 超新星核熱砲!!
辺り一面が爆発するかのような凄まじい熱気に包まれ、一帯の川が干上がり、木々は焼き尽くされ、生き物やゾンビはほぼ死に絶えた!
だが田中達は生きていた。みんなで張ったシールドが粉々に砕かれ、ボロボロの状態になりながらも生きていた。

「こんな奴はもうこの世にいちゃいけない存在だな……。なぁ倉山……」
「……そうね、何とかしないと私まで死ぬ。もし望みがあるなら一時的だけど貴方達と手を組むのも悪くないわね」
「そうか……。じゃあやるぞ、とんでもねえのが相手のモンスターハンターをな」

田中と倉山はシン主人に向かっていく。
アルル達も戦いたかったが、先の戦いで消費した魔力や負傷を考えるととても戦える状況ではない。
戦いは田中達に任せてテレポートで遠くへと離れていってしまった。

「さて、どうすっかな……。こんなデカブツを相手に有効打があるかどうか……」
「ヴゼルさん、これを作ったのはあなたでしょ? 何か弱点とか知らないの?」
(他のゾンビと同じく脳を完全に破壊すれば倒せるかと思います。しかし……)
「しかし、何ですか?」
(もうあなたに用はありませんな! せいぜいその怪物の餌にでもなるとよろしい! はっはっは!!)
「なっ、ヴゼルさん! こんな時にふざけた冗談は……! おいヴゼル答えろコラ!!」

ヴゼルからの返答はない、と同時に倉山は何かが体をスッと抜けていくような感覚に襲われた。

「裏切ったんだなヴゼルの野郎は……」
「ええ、してやられたわ……。でも脳を完全に破壊すれば倒せるって言ってたわ……。本当かは知らないけどね」

シン主人は勢い良く田中達に飛びかかり、踏みつぶそうとする!!
大地が避け、激しく地を揺らすも、飛び立つ鳥は一羽もいなかった。
もはや田中達に逃げ場はない。隠れられる場所すらなく背を向ければすなわち殺される事を意味している。

「俺も無限に奥義が使えるわけじゃねえ、攻撃を食らわせるなら一瞬だけだ」
「ええ、私もこんな状態だし、奴の攻撃を食らえば一発でお陀仏という状態。普通に考えれば無理な戦いだけど……」

田中は倉山に合図を送る。倉山はそれに答えてピストルを上に上げて、ため始める!!
シン主人は怒りに身を任せ、倉山達に突進する!!

「ギャラクシーピストルゥゥゥゥ!!」

天に向かって放たれたレーザー砲は雲を破り、上空で煌めいた後、天光のようにシン主人に降りかかる!!
それに気をとられた隙に田中がスーパーサイキックスクリューで主人の頭上まで上昇し、奥義を放つ!!

「ハイパーサイキックパンチィ!!」

ズドォォォン、田中の強力な一発と倉山の容赦ない殺戮の雨がシン主人に襲いかかる!!
しかし次の瞬間、田中は遠くまで吹き飛ばされ、倉山はカチコチに凍らされていた!!

超絶弩級魔導支配術!! 大氷河激流砲!!
辺り一面が凍りつき、足場の悪さからとてもまともに戦える状況ではなくなった!!
だがシン主人は凄まじい脚力で氷を踏み砕き、吹っ飛んだ田中に迫ってくる!

(つっ……、咄嗟にバーニングサイキックスクリューで防いだとはいえ、なんて威力だ……、マジで死ぬ……)
「グガァァァァァ!!」

シン主人の咆哮と共に忍び寄る田中の死への足音!! このまま世界はシン主人にひざまずくのか!! 続く!!(多分)
59:えころ :

2019/09/06 (Fri) 20:21:48

田中一郎、異世界へ行く42

~前回までのあらすじ~
シン主人大暴れ!! 田中、絶体絶命のピンチ!!
以上!!

田中は薄れ行く意識の中で誰かが自分に語りかけてくるのを感じていた。

「一郎、一郎。……田中一郎、お前何やってんだよ」
「誰だ……あんたは?」

白い背景に白い装束を着た謎の男が田中の目の前にいた。

「ここは……天国か? それとも今までの一連の騒動、いやこれすらも俺の夢なのか?」
「違うね、私はイナシクサ。端的に言えば魔神ヴゼルの一部だ」

田中はそれを聞いて咄嗟に身構えた。

「てめえが……何もかもてめえが……狂わせたんじゃねえか! 絶対許さねえぞ!!」
「いや待て待て、まだ続きがある。私はヴゼルにわずかに残っていた良心から生まれた存在だ」
「は? 言っている意味が全く理解できねーんだが?」

イナシクサは田中に指差した。

「急に強くなったろう、それは私がお前に力を与えているからだよ。ま、お前の意思と私の意思が入り混じった形ではあったがな」

言われて田中は直前まで自分が何をやっていたのかあまり思い出せなくなっていた。

「俺は確か……倉山ってヤバい女に出会って……それでバケモンと戦って……」
「うんうん、私はヴゼルのように力だけ与える事は出来ない。そこでお前と融合した状態の精神で世界を守ろうとしたんだ」

田中は激怒した。

「んだよそりゃあ! お前にしろヴゼルにしろ、俺を操ってばっかじゃねーか! ぶっ殺すぞ!!」
「あの怪物を倒すにはお前をある状態に戻すしかない」
「何言ってやがる! 人の話を聞けやボケが!!」

ぎゃあぎゃあ喚く田中を指先一つで黙らせるイナシクサ。

「お前は二度この姿になった事があるだろうがその時の記憶など覚えてないだろう。いやそっちのが都合がいいか」
「んんん~!! うんんんん~!!」

口を魔法で塞がれて必死で開けようとする田中に更に魔法をかけるイナシクサ。
そこで田中の意識は戻った。だがしかし、それは元来のチンピラではなくあの怪物田中としての意識だった。

「ぬぅん? 確かワシは魔女と戯れていた気がしたが……何があったのか思い出せんのう?」
「グギャアアア!!」
「何じゃこやつは……こんな面白そうな輩がこの世界にいたとは……腕がなるのう、クックック……」

怪物田中はしっかりと氷を踏み砕き、突進してくるシン主人をがっしりと受け止める!!
アルル達は遠くからその様子を見ており、ウィッチが悲鳴をあげていた。

「きゃあああああ!! 田中さんが怪物に……!! もうおしまいですわ!!」
「いやよく見ろウィッチ、あいつ主人と戦おうとしてるぞ、もしかしたらやっつけてくれるかもしれん」

怪物田中はいつもの感じで拳を元気に振り上げる!!

「ぐはははは!! 我の望みは自身が頂点の存在に君臨する事!! 貴様をねじ伏せてその事実を今度こそ衆愚に知らしめてやるわ!!」

怪物田中の奥義!! カオス・マッシブ・インパクトォ!!
シン主人の頭部に怪物田中の強力無比な一撃が放たれる!! シン主人は痛みにのたうち回る!!
そして必死に堪えたシン主人の反撃!! 超絶弩級魔導支配術!! 超新星核熱砲!!
怪物田中を爆風が飲み込もうとするが、余裕の表情を浮かべ奥義を放つ!!

「どこぞの小娘にしてやられたような気がするがそんな技などもう対策済みよ!! 我が奥義を受けるがいいィィィ!!」

奥義!! カオス・ディスペアー・ストリームゥゥゥ!!
怪物田中の凄まじい高速回転が巻き起こす衝撃波が爆風を吹き飛ばし、シン主人を巻き込んだまま、大暴れ!!
破壊の限りを尽くすが、もはやそこは不毛の大地。何も問題はなし!!
巻き込まれたシン主人はふらふらとバランス感覚を失ったところで怪物田中の奥義が炸裂!!

「はああああッ!! デストロイ・バイオレンス・ラッシュゥゥゥ!!」

シン主人の頭部に怪物田中の容赦ない連撃が繰り出され、ついに頭部を破壊!!
そのまま、大量の液体を撒き散らしながら頭部を失ったシン主人は勢いよく倒れ込んだ!!

「ぐはははは!! やはり最強最高の支配者はこのワシよ!! こんな紛い物に務まるものでは……あれあれれ?」

怪物田中はぐんぐんと小さくなって元の田中に戻っていた。

「あん? あのデカブツ死んでやがる……。一体何があったんだ?」

田中はしばらく考えたが分からなかったので、とりあえず村に戻る事にした。
が、ふと異変に気がついた。夕暮れ時、陽が沈む方向とはまた別の場所に太陽が煌めいているのを発見した。

「何だありゃ? というか足元まで凍っててやべー事になってるしマジこの世界カオスすぎんだろ」
「田中君……、私は確かに裏切られ捨てられたわ……」

ぎょっとする田中。見えていたのは太陽ではない。不死鳥のように炎の翼を生やし、飛翔していた倉山だったのだ。

「く、倉山っ!? お前その格好コスプレじゃねーのか! やっぱイカレすぎだろお前!!」
「ふふん、私はこの世界で人を殺すのをやめたわ。その代わり、全員奴隷にしてこの世界に君臨し続ける事にしたわ!!」

田中に迫り来るフェニックス恭子!! そしてヴゼルの良心と宣ったイナシクサの目的とは!! 続く!!(多分)

「あれ? これ俺がどうにかしなきゃいけない奴なの?」
60:えころ :

2019/09/07 (Sat) 10:14:04

田中一郎、異世界へ行く43

~前回までのあらすじ~
シン主人、怪物田中により撃破ァ!! そしてフェニックス恭子爆誕!!
以上!!

る~るる、るるる、る~るる、るるる、る~る~る~る~る~るる~!!
シン主人の放った超絶弩級魔導支配術、超新星核熱砲の爆風により、氷解し、進化したと言われるフェニックス恭子さん。
彼女はつい先ほどまで凶悪な殺人鬼としてこの世界に降り立ち、何ら躊躇なくバッタバッタと殺戮を働いた人でなしです。
そんな恭子さんが今度はどのような活躍を見せてくださるのか、はたまた不死鳥を謳いながら、あっけなく散るのか。
感田大学中山仁教授の助手を務める倉山恭子さんです。さあ、続きをどうぞ。

「ヒャアッハッハッハッハ!! 死になさい田中君!! フェニックスシューティングアロォォォ!!」

フェニックス恭子の炎の翼から無数の火炎の弾丸が田中めがけて降り注ぐ!!

「うおっ!? 何だその技!? つーか、やべえ!! こんな奴相手に勝てるわけねえじゃねえか!! 誰か助けてくれ!!」

無様に攻撃を避ける事で精一杯な姿を見て失笑するフェニックス恭子。

「あらあら、田中君。あなたさっきまでバーニングサイキックスクリュゥゥゥなーんて言ってぐるぐる回ってたじゃない」
「はぁ!? 俺そんな恥ずかしい事してたのかよ! 全然記憶にねえぞ!」

フェニックス恭子は高笑いをする。

「じゃあ今の田中君はただのクソザコアホガキってわけね、なおさらぶっ殺してあげるわ!!」
「んだと……ひいっ!?」

フェニックス恭子が田中に高速で急接近!! もしぶつかれば田中は全身を焼き尽くされて瞬殺されるだろう。
その時、田中の目つきが変わる!! イナシクサと合体した真・田中一郎である!!

「ハイパーサイキックパンチ!!」
「ごぼぉわッ……!?」

真田中の奥義がフェニックス恭子の顔面を正確に捉え、そのままぶっ飛ばした!!
フェニックス恭子は氷の上を滑って転がりながら地面を溶かしていく!!

「ぐへっ、ゴホッ!! どぶわぁ!! やるじゃない、田中君……でもね、私は不死鳥……。やられる度に強くなる!」

ゴオオオオオッ!! 倉山の翼がより大きくなり、炎も勢いを増す!!

「暑苦しい奴だな、とてもその性格には見合ってねえ能力だ。いや差し詰め執念によるものというわけか?」
「黙れ!! ここで私と対面したあなたにすでに勝ち目なんてなかったのよ! 教えてあげ……、ごぶっ!?」

真田中はフェニックス恭子の体が光の剣で貫かれたのを見た。

「なっ……、あれは確か主人の技……。まさか奴はまだ死んでなかったのか!?」

フェニックス恭子はそのままその場に倒れ込んだ! シン主人の体から大量の使い魔が進軍してくる!!
まず陸軍。剣を持つものから銃を持つもの、爆弾を持つものまでいる。
そして空軍。翼を生やし、弓を携えたものやはたまた陸軍と同じく銃を構えているものすらいる。

「何だあいつらは……、今度は主人の体から生まれた使い魔を殲滅しなきゃならねえってことか……」

真田中は頭をボリボリとかく。フェニックス恭子は起き上がり、安全な場所に逃げる。

「おーほっほっほっほ!! 計算通りだわ!! さあ、やっちゃいなさい!! 私の小兵隊よ!!」
「嘘つけ、さっき思いっきり殺されてたじゃねえか!」

アルル達はさすがに戦いが終わっただろうと思ってテレポートしてきたが、その場はカオスそのものだった。

「何これ……主人は倒したんじゃないの、田中?」
「こいつらは主人の怨念が生み出した兵隊だ。きっとこの世界を支配するため、生き物を殺して回るだろうな」
「くそっ、そんな事させねえよ! 田中、俺らも協力する!」

シェゾは剣を構える。サタンも田中の横に立つ!!
フェニックスと戦う前に小隊を殲滅させなければならない!! 真田中、動く!! 続く!!(多分)
61:えころ :

2019/09/08 (Sun) 00:19:47

田中一郎、異世界へ行く44

~前回までのあらすじ~
シン主人の亡骸から怨念の兵隊が出軍!!
以上!!

その頃、魔神ヴゼル。田中と倉山を捨て、現代でクズを探しに行く事にしていたが……。

「ふふふ、捨てたとはいえ、あの女は本当によくやってくれた……。お陰で私の支配もすぐそこなのだからな……」

恐るべき事がすでに起きていたのだ。倉山が殺した村人の魂は全てヴゼルが握っており、その数だけ現代からクズを持ってこれるようになった。
倉山の口座には3700万円が送金されている。つまり、37の魂をヴゼルは手中に収めている。
この事が意味するのはアルル達でも救えない、どうしようもない人間がどんどん異世界にやってきては死に操れられる事を意味していた。

「あの主人は……正直期待していなかったが、あのような潜在能力を持っていたのは意外だったな……」

ヴゼルはそこまで口にして思い出した。急に強くなった田中。そして主人に殺されたにもかかわらず復活した倉山。

「奴らも不可解だったが……。しかし、このヴゼルを止めるだけの力は持っていまい。ただ……」

ヴゼルはスマホを取り出し、ウェブブラウザを開く。

「私の計画の邪魔になるなら速やかに排除せねばな……無論、あの小娘どもも……」
(現代に『魔導物語』という昔話がありましてね)
(お前が歴史に名を残すなんて永遠の恥だ!!)

ヴゼルは拳をぎゅっと握りしめ、検索エンジンから"魔導物語"と打ち、検索する。
しかし、胡散臭いカルト魔術系のページや個人が書いたであろう魔法世界を舞台にした小説がヒットするばかりで見つからない。

「くっ……、あの女が言っていたことはでたらめだったのか……。いやしかし……」

デタラメなら私の名前を知っているわけがない。ヴゼルは根気よく探した。するとようやく見つかった。
ネット通販サイトで古書として"魔導物語"(画像は当然なし)が10万円で売られているのを。
だがヴゼルはこれを買わず、古書の品番を確認し、この本が置かれている図書館がないか、全国図書館ネットワークというサイトに移行する。
ヴゼルはそこで品番を入力し、検索すると数十件ほど置かれている場所があった。

「むっ?」

ヴゼルはそこで見覚えのある中学校名を目にした。田中が通っている学校名があったのだ。
早速瞬間移動し、田中の学校までやってきた。

「私は田中一郎とかいうガキの叔父という設定で参観に来たという事にしておこう」

ちょうど時間は昼休み。田中のクラスメートである増田は校庭で尻高達と何やら話し合っていた。

「なあ……田中がもう3日も家に帰ってねえんだと……。どう思うよ……」
「どうって……警察に捜索願は出したんだろ? 多分あいつの事だから、どっかでふらふらしてんじゃないのか」
「何でそんな落ち着いてんだよ!! 俺達の親愛なる友がいなくなってんだぞ!!」

白地が口を挟む。

「でも田中君、ほとんど学校に来てないし……。心配はしてるけど正直……」
「ぼ、ボクは田中君がやばい奴らと関わってて、それで呼び出されて殺されたんじゃないかとか……」
「落ち着け西村。田中は多分そんな人の恨みを買うような事はやらねえと思うよ。……おそらくだがな」

そこにヴゼルおじさんがやってくる。

「やあ君たち、私は田中一郎のおじの田中ヴゼ三郎という者だが……」
「田中のおじさんだと!?」
「田中君が行方不明なんです! 何か聞いていませんか!?」

一気に寄ってくる田中の友達。

(しまった……、ここではあのガキがいなくなってから時間が経ってたんだったな……)

ヴゼルおじさんは少女達ににっこりと微笑んだ。

「ああ、それなら問題ない。一郎は私の家でゆっくり過ごしている。何も心配はいらないよ」
「だが警察には捜索願を出してるんだ、あんただってその事、親族なら何かしら一報知らされてんじゃないのか?」

冷静な尻高が嘘つきヴゼルおじさんに反論する。

「ああ、一郎にも言ったんだがね……。どうしても私の家から出たくないそうなんだよ。難しいお年頃だねえ……」
「何だ、田中は無事だったのか……。ホッとしたぜ……」
「良かった……、田中君がやばい奴らとつるんでたらボクまで巻き込まれるかと思ってたよ……」
「ああそうだとも、ところでそこのキミ」

ヴゼルおじさんは白地を指さす。

「えっ……。何ですか?」
「図書室に行きたいのだが……いいかね、どうしても読んでおきたい本があるんだ」
「そ、それはいいですけど……」
「じゃあ案内してもらおうかな。ああそうそう、キミ達はついてこなくて結構だよ。さあ行こうか」

ヴゼルおじさんは白地と一緒に図書室に行くため、校内に入っていった。
尻高はどうにも腑に落ちない顔をしていた。

「なあ、あのおっさん……怪しすぎねえか? 警察まで動いてんのに何で田中を匿う必要があるんだよ?」
「いやでもいい人そうだったし……田中君もきっとあの人の事が好きでそこにいるんじゃないかな」
「まあ俺は田中が無事なら何だっていいさ……。また愛し合えるんだからな!」
「ちげえだろお前ら、俺らは田中の無事なんか確認したわけじゃねえ。絶対不審者だあれは。田中はともかく白地が危ねえ!」

尻高は急いで白地の後を追いかける!! 西村と増田は首を傾げていた。
ヴゼルおじさんは"魔導物語"を読むことができるのか!! 続く!!(多分)
62:えころ :

2019/09/08 (Sun) 19:44:36

田中一郎、異世界へ行く45

~前回までのあらすじ~
尻高、不審者ヴゼルおじさんを追跡開始!!
以上!!

ヴゼルおじさんは廊下ですれ違った生徒に笑顔で挨拶し、自然に背景に溶け込んでいた。
白地もそんなおじさんの姿を見て特別何も感じずただ一緒に歩いていた。尻高はバレないように2人の後を追っていく。

(今のところ白地は何もされてないようだが、変だな。……どうして誰もあの男の事を不審に思わないんだ?)

そう思っていると教師とすれ違い、何やら会話を始めた。尻高は聞き耳をたてる。

「私は田中一郎の叔父です。一郎は私の家におりますので、どうぞご安心ください」
「あら、そうですか。さっき警察やお母様の方からも連絡がありましてね。いや本当に田中君が無事で安心してます」

警察や田中の母親から連絡だと? おかしい……、何なんだあの男は……。偶然じゃない……。
尻高の背中に凍りついた感覚が張り詰めていた。

(間違いなく超常的な何かが起きている……。木田とは違うが……俺でも分かる。そしてやはりあの男は異常だ……)

追い詰めようとしたその時、ヴゼルはそのまま白地を残して図書室に入っていってしまった。
呆気に取られる尻高に白地が気づいて声をかけてくる。

「やだ、尻高君ったら。こそこそ隠れてついてきてたの?」
「あ、ああ……。それよりさ、あのさっきのおじさんって人……何か怪しくなかったか?」

白地は首をかしげる。まるで尻高が変な事を言っているみたいに。
そして尻高のところまで歩いてきて、こう告げた。

「別に何も。それより田中君は無事だったんだねえ、良かった。今度また学校に来るよう言わなくっちゃ」
「あ、ああ……そうだな……」
「田中君もあんな人と一緒だったらそりゃ落ち着いて一緒にいる事を選んでるよね、分かるな~」

白地が笑顔でそう言い始めるので、尻高は怪訝な顔をした。

「俺は……そう思わない、あの人を見てると妙な胸騒ぎが……」
「……なあキミ」
「!!」

ふと振り向くと尻高の真後ろにヴゼルおじさんが真顔で立っていた。

「な、なんだよ……? 本を読むんじゃあなかったのか……!?」
「いやその目当ての本が木田という子に借りられててね、その木田という子が今どこにいるか知ってるかね?」
「木田さんなら今日はお休みです。……もしかしたら本も持って帰ってるかも……」

ヴゼルおじさんは白地に対して微笑んだ。

「ありがとう、お嬢ちゃん。そうだな、今日は帰るよ。一郎も説得してみる。じゃあまたね」

ヴゼルおじさんが手を振って去っていくので白地もお辞儀をして返す。
ヴゼルおじさんが階段を降りる前に尻高は急いで後を追おうとするが、もうすでにいなかった。

「どうしたの、尻高君。今日の尻高君なんか変だよ?」
「あ、いや、何でもない……。ちょっと俺、木田の家に行こうと思う……!」
「えっ、授業始まっちゃうよ!?」

白地の言葉を無視して尻高は走って行く。そして木田の家、ヴゼルおじさんがすぐそこにいた。

「ここがその木田とかいう小娘の家か……、やはり鍵はかかってそうだが……」

ヴゼルは体を薄っぺらくして鍵のかかった扉の隙間から中に侵入する。玄関から中の状況を察する。

「なるほど、こやつの両親は家にはいない……。それなら簡単に本を奪えそうだな、ふふふ……」

ヴゼルおじさんはそのまま階段を上がって木田の部屋を目指す。
不法侵入するヴゼルおじさん!! それを追う尻高!! 続く!!(多分)
63:えころ :

2019/09/09 (Mon) 03:36:39

田中一郎、異世界へ行く46

~前回までのあらすじ~
ヴゼルおじさん、木田の家に侵入!! 急げ尻高!!
以上!!

ヴゼルおじさんは木田の部屋のノブに手をかけ、中に入る!!
……が、中には誰もいない。いや、違う。生体反応を感じる、誰かがすぐ近くにいる!!

「ほう、そこにいたのか……、当たらんよ」

木田は男の頭部を思い切り本の角で殴ろうとしたが、気付かれて避けられてしまった。

「ただならぬ気配を感じたから隠れてたら……誰だお前は!! 警察に通報するぞ!!」

いつもの木田らしからぬ迫真の喋り方。まあ目の前に犯罪者がいるので無理もないが。

「ふふ、私は魔神ヴゼル。キミが今図書室から借りて読んでいる本に出てくる存在だよ」
「イカれた事を……そんな絵空事を私が信じると思うのか……」

ヴゼルは木田の本棚を消し飛ばそうとしたが、かわいそうだと思ったのでベッドにしてあげた。

「10%ホーリージャッジライトニング」

手から放った消滅波が木田のベッドを消し飛ばしてしまった。

「なっ……今のは……!?」
「魔法というものだよ、そこに大量のカルト雑誌が置かれているね。キミも興味はあるんだろう?」
「ほ、本当にヴゼルなのか……? かつて魔導が栄えていた時代に現れた最凶最悪の魔神……」
「ふん、最凶最悪とはひどい言われようだな。そんな事よりキミ、魔導物語持ってるだろ、見せなさい」

木田は言われた通り、魔導物語をヴゼルに差し出した。

「ダメだよ借りてる本を傷つけたりしちゃ、そんな扱いをする子は私許さないからね」
「いや……人の部屋に勝手に入り込んできたあんたが言っても説得力なぁぁぁいんだけど?」

ヴゼルは魔導物語を読みはじめた。内容は極・魔導物語OPと同様だが一応記しておく。
数千年前、魔導が栄えていた時代。純粋な人間のみならず多様な魔生物達が協力しあって平和に暮らしていたとされる。
この世界を作り上げた魔王サタンは優秀な女魔導師を生み出し、アプローチをかけていたが結局ダメだった。

「あのアホ魔王の事などどうでもよい、私の事はどこに書かれているのだ」
「あ、アホ魔王って……」

その平和な世界に突如として天から最悪の魔神ヴゼルが現れ、破滅させるため様々な手段を講じ、破壊の限りを尽くした。

「あったぞ私の記述!! いけいけぶっ滅ぼせ私!!」
「何この人……」

木田がドン引きする中、ヴゼルは小説を読み進めていく。
サタンは命を捨てる禁断の魔導術デスタムーア(ドラクエではない)を唱えようとしたまさにその時。
アルル達が生き残った者達と力を合わせ、デスタムーアを放ち、ヴゼルを撃退したのだ。

「ヴゼルウウウウウ何やってるんだああああ!!」
「いやヴゼルはあんたじゃねーのかよ」

それと引き換えにアルル達は命を落とし、その犠牲を深く悲しんだサタンはお城に引きこもってしまったのである。

「よく分かったぞ……そのデスタなんちゃらのために私はやられるのか……」
「終わったのかしら? 警察呼んでもいい?」

ヴゼルは木田に本を返し、微笑む。

「いやその必要はない、ありがとう小娘。これで目障りな虫ケラどもを攻略できる、そして私は帰る」
「いやあんたが帰るのは刑務……、あれ?」

木田は一人で部屋でポツンとしていた。自分が何をしていたかさえ分かっていなかった。
そこにチャイムが鳴る。尻高だ。木田は部屋から出て、応答した。

「あら尻高君じゃなぁぁぁぁい、どうしたの~~~かしら~~~」
「木田、お前の家に変な男が来なかったか?」

木田は首を傾げていた。

「さぁ? でも私ね~~~、ちょっとの間の記憶がな~~~いのよね~~~、思い出せないわ~~~」

尻高はそれを聞いて少し悔しそうな顔をしたが、同時にホッとした顔もしていた。

「そうか、とにかく無事でよかった……。じゃあ俺は学校に戻るよ……」
「あ、後ね~~~ベッドがなくなってたのよね~~~、なぁぁぁんでかしらぁぁぁ?」

尻高はポカンとしていた。
そしてヴゼル!! 次々にクズどもをアルル達の世界へ転送!!

「ふふふ、デスタなんちゃらの対策も立てた……。これで世界は私のもの……」

魔導物語を読了したヴゼル!! そして新たに転生されるクズども!! 世界の運命やいかに!? 続く!!(多分)
64:えころ :

2019/09/10 (Tue) 00:31:09

田中一郎、異世界へ行く47

~前回までのあらすじ~
ヴゼル、魔導物語を読み終える!
以上!!

兵隊と全面戦争を繰り広げる田中達!!
だが今の田中にはアルル達がついており、下手に怪物化して暴れるという手段は取れない!!
しかも相手の数が一つに定まっていたシン主人とは違い、複数いるので、無駄な行動を取ればすぐ蜂の巣にされる状況!!
掃討作戦が開始される!! 陸軍、突撃開始!! 空軍は一斉射撃開始!! 毒矢やら機関銃、爆弾などがアルル達めがけて発射される!!
すぐシールドを展開するが、やはりそんな生半可なもので防げるものではなく、すぐに破壊されてしまう!

「田中君……私は前回の失敗を反省し、今回は何もしないわ! 自力で抜け出してみなさい!」

自分だけ安全な場所へ逃げたフェニックス恭子が話しかけてくる。

「分かった、その後は確実にてめーをぶっ飛ばすから神妙に待ってろ」

フェニックス恭子がくすくす笑う中、田中は精神統一を図り、目を瞑る。

「こんな時に呑気に眠気に襲われたのかしら? あれだけ息巻いておいてそりゃないわよねえ田中君?」
「ああ、俺はあの時お前が殺した神父の力を呼び覚まし、モルモンの悟りを開いた……」
「は? モルモットの何ですって……?」

モルモンの悟り、不良の魂<アンチキリスト・ソウル>!!
田中の髪がスーパー野菜人よろしく逆立ち、ただならぬオーラを放っている!!

「田中、お前その姿……」
「なんか分からないけどすごいよ田中!」
「ふん、この土壇場でご都合パワーアップを遂げたところでこの数を効率良く仕留められると私は思わないけどね!」

フェニックス恭子はプイッとそっぽを向いた。

「この状態でいられる時間は長くない……、負担も大きいが目にものを見せてやるぐらいの効果を出せるぜ」

田中が思い切り拳を構える……モルモンの悟りを開いた奥義!!

「くらえ、神様<ゴッド・オブ・ウォーズ>パンチィィィィ!!」

放たれた一撃から神風が吹き込み、命を持たぬ存在つまり主人の怨念の兵隊を優しく包み込む!!
するとたちまち兵士達は内部から光が射すようにボロボロとその存在を破壊され、消滅していく!!

「嘘でしょ!? あんなふざけた技でやられてんじゃないわよあんた達!」

フェニックス恭子がオロオロする中、また一人と主人の怨念は消滅していく。
そしてほぼ兵士はいなくなってしまっていた。そして田中は元の姿に戻った。

「さあ次はてめーだぜ、覚悟しな倉山恭子」

フェニックス恭子は田中達の前に降り立った。

「上等よ……、こんな馬鹿げた力を持ってるなんて本当に油断ならないガキだわ……、でもね」
「しつこく俺と戦ってりゃ粘り勝ちすると、そう言いたいんだろ?」
「そうよ、そこの子達もろとも燃やし尽くしてあげる!! ゴー・トゥ・ヘル!!」

フェニックス恭子は息を思い切り吸い込み、口から地獄の業火を吐き出した!!
サタン達が魔法を放って、かき消そうとするが、火炎は魔法を飲んで溶かし尽くし、田中達に襲いかかる!!

「田中君、あのぐるぐる回る恥ずかしい技をおやりなさい! そのまま丸焼きにしてあげるから!!」
「その必要はねえな、俺たちはあんたが炎を吐いた場所にはすでにいねえからな」

後ろから声が聞こえた。目の前にいた田中達は幻影で、すでに後ろにテレポートしていたのだ。

「なっ……もう間に……」
「合わないよなぁ!! ハイパーサイキックパンチィィィィ!!」

気合いのこもった一撃がフェニックス恭子の顔面に突き刺さり、そのまままた地面をゴロゴロ転がっていく!!

「今度は休む暇も与えねえぜ! ボルテックサイキックパンチ!!」

転がるフェニックス恭子は更に田中が地面を殴って放った電流に感電!!
しかも容赦なくアルル達の攻撃魔法までもが放たれる!!

「ごぼえええっ、き、貴様ら……!! もう私に勝ったつもりか……!! 終わりじゃねえ、まだ終わってねえんだよ!!」

フェニックス恭子はボロボロになりながらも立ち、執念で炎の翼で自身を包み込み、姿を変え始める!!

「こいつも形態変化するのか、全く面倒くせえな」

諦めないフェニックス恭子!! 早く終わらせたい田中!! 勝負はまだまだ続く!!(多分)
65:えころ :

2019/09/10 (Tue) 15:38:13

田中一郎、異世界へ行く48

~前回までのあらすじ~
しつこいフェニックス恭子!!
以上!!

倉山を包んでいた炎の翼が開かれ、ニュータイプ、キラーミストレス恭子(以下キミ子)爆誕!!

「この姿になったからには……あなた達が生きる道なんてどこにもない……。まずはこの技で皆殺しよ!」

キミ子は掌に閃光弾を発生させ、それを宙に向かって放り出す!!
閃光弾はまばゆい光を発し、田中達めがけて無数のレーザーを発射する!!

「ヒャアッハッハッハッハ!! 氏ね氏ね氏ね氏ねええええええ!!」
「まずいな……、このレーザーは俺達をついげ……ぶごぉほっ!?」

目にもとまらぬ早さでキミ子が田中の腹をぶち破り、その衝撃で田中は地面を激しく転がっていく!!
そこにレーザーが容赦なく田中に降り注ぎ、田中の身体は完全に壊れてしまった!!

「田中ァ! おい、あれヒーリングで治せるのか……」
「む、無理でしょ……、普通に考えてもう生きている状態じゃない……」
「田中ああああ……、死んじゃやだよ、返事してよぉぉぉ!」

田中の亡骸に駆け寄るアルル達にキミ子は高笑いをする。

「なーんだ田中君は所詮この程度の命だったって事ねえ……ねえ、あなた達」

キミ子に声をかけられてアルル達はぞくっとする。

「テレポートして逃げても無駄よ……どうせあなた達はヴゼルとの戦いから逃れられないのだからね、そこでお話があるの」
「話……、話とは何だ……?」

恐怖で震えるサタン。

「ここは私達の現代から見て遙か昔に栄えていた魔導世界。"魔導物語"にも出てくるあなた達を学会に発表すれば大金がもらえる……」
「ま、まだ金の話をしてるのか!?」
「そう……それであなた達を培養槽に浸して保管しておけば、そのままそっくり高値であなた達が売れる……」
「こ、ここでお前におとなしく殺されてその培養槽に浸そうって魂胆か……?」

キミ子は邪悪な笑みを浮かべた。

「そうねぇ……そして歴史を改竄し、私が神として君臨する。あなた達はヴゼルとの戦いで犠牲になった存在として語り継がれる」
「ふざけるな! そんなつまらん歴史が語り継がれてたまるか!」
「だからあなた達に拒否権なんかないのよ。そこにぶっ殺された田中君の死体があるでしょ? 状況が把握できないの?」
「ぐっ……」

アルルは目に涙を浮かべている。ウィッチも絶望の表情を浮かべている。

「ヴゼルはあなた達を始末するため必ず戻ってくる。それと戦って死んだところを私が回収してあげるわ」
「お前……さっき"魔導物語"とか未来とか言ってたが……もしかして我々の行く末を知っているのか?」

サタンの質問には答えず、キミ子は村を目指して飛び立っていく。
キミ子には空間から開いた穴に次々と人間が放り込まれているのが見えていた。

「あ、そうそう。悲しんでる暇ないかもよ。もう村に何人か刺客が来てるのだからね」
「な、何だと……!?」
「サタン様……おそらくヴゼルが……複数人この世界に怪物化する人間を……」
「アルル、お前はどうする……。田中の事は……もう諦めるしかない……」

去って行くキミ子を歯を食いしばってにらみつけるシェゾ。ルルーも拳を握っている。ドラコは俯いていた。

「あいつ……多分異世界から送られてきた人間を殺しに行ったんだ……怪物にするために……もうおしまいだよ……」

ウィッチは泣いていた。

「田中さんがいなくなって……しかも村に怪物が複数現れるなんて……どうすればいいの……もう本当におしまいですわ……」
「ウィッチ……」

アルルは田中の亡骸を抱えてうずくまっている。田中、まさかの敗北……!! 続く!!(多分)
66:えころ :

2019/09/11 (Wed) 00:32:16

田中一郎、異世界へ行く49

~前回までのあらすじ~
田中、死亡!! キミ子、クズを抹殺しに村へ行く!!
以上!!

陽もすっかり落ち、辺りはすっかり暗……。いや、暗すぎる。さっきキミ子が飛んで行ってからしばらく経たないうちに月の光さえ差さない状態。
アルル達は暗闇の中、魔法を唱え、明るくする事でお互いの位置を把握していた。

「ほう、見えるぞ……。小娘ども、そんな所でコソコソ隠れて身を寄せ合っているとは何と惨めな……」

聞き慣れない声がどこからか響いてくる。だがアルルはこの話し方に聞き覚えがあった。

「ヴゼルだ! 魔神ヴゼルがここにいる!!」
「何だと!?」
「クッ……いるなら出てきやがれ!!」

笑い声が響き渡る。

「フッフッフ、上だよ。いかにも私は魔神ヴゼル。貴様らを滅ぼし、世界を掌握する事が我が目的だ」

アルル達は見上げる。よく目を凝らすと、黒雲が立ち込め、月や星空を包み込んでいるようにも見えた。

「ふざけやがって!! こんな卑怯な手を散々使って今更出てくるとは随分余裕じゃねえか!!」
「ふむ、田中とかいうガキが死んでいるな……。くくく、都合が良い。邪魔者が一人消えたというわけだな」

アルルは天に向かって叫ぶ!!

「ボクは絶対お前を許さない!! この世界をめちゃくちゃにしてみんなを悲しませるお前なんて……!!」
「ふふふ、アルルよ。悲しみもすぐに消えるさ……。何せこの私が貴様らを生かしておくわけないのだからな」

ヴゼルの高笑いがアルル達に響いてくる。ウィッチは更に青ざめた顔をしていた。
そして田中は死後の世界、つまり地獄で目を覚ましていた。

「ううう、さっむ!! 何だここ……、何で俺こんな薄気味悪い所にいるんだよ……?」
「すまない、田中一郎……」
「あん?」

田中が振り向くと後ろにイナシクサがいた。

「お前確かヴゼルの一部とか言ってた……」
「イナシクサだ。あの脅威的に成長した倉山に我々は殺害されてしまったのだよ」
「なん……だと……? つーことはここはマジに死後の世界って事か……?」
「ああ……」

イナシクサは田中が激怒し、何度も罵声の言葉を浴びせるかと思ったが、反応は違っていた。

「はは、そっか……。俺は死んだのか、今まで生きてきてろくな事もなかったしな……」
「田中一郎……」
「いや気にしなくていいよ、あの倉山とかいうの化け物だったじゃん、負けても無理ねえって……」

イナシクサは田中に駆け寄った。

「頼む田中一郎! もう一度あの世界に行こう! この地獄を抜け、今度こそヴゼルを……」
「いいよもう、俺……新しく生まれ変わるまでここにいるよ……」

イナシクサが田中を掴む。

「何言ってるんだよ! このままじゃ世界は滅ぶし、お前だって元の世界に戻れないんだぞ!」
「でもここは死んだ人間がいるべき場所だろ? 死人がどうやってここから出るってんだよ……」
「私が案内する、だからさあ行こう!」

田中はそっぽを向いてしまった。

「諦めろって。あいつに敵わねえようじゃきっとそのヴゼルにも敵わねえよ、戦った所で勝ち目なんて……」
「アルルに馬鹿にされたままでいいのか?」
「あ?」

田中は眉をひそめる。

「あの子は……きっとお前の帰りを待っている。行かなきゃそのままヴゼルに滅ぼされるんだ!」
「……」

田中は俯いている。

「ヘタレでいいのか! 西村でいいのか!」
「うっせーな分かったよ、行けばいいんだろ……。じゃあ道中はあんたに任せるよ、どうせ俺弱いしよ……」
「ここを越えて元に戻れば、強くなってるはずだ……2人ともな」

イナシクサは田中を連れて地獄を脱出しようとする!! アルル達の破滅に間に合うのか!! 続く!!(多分)
67:えころ :

2019/09/11 (Wed) 18:07:03

田中一郎、異世界へ行く50

~前回までのあらすじ~
田中、異世界に行って地獄に落ちた!!
以上!!

ここは地獄。そして地獄の入り口とも言われる辺獄(リンボ)に田中達はいた。

「なあ……ここって天国か? 俺さ……死後の世界とか分からねえんだよ、教えてくれ」
「そんなものが分かる人間は存在するはずがないが、ここは地獄だ」
「はぁ!? 地獄だって!? 俺何も悪いことしてねーのに何で地獄に落ちてんだよ!」
「田中。安心しろ、大概の人間は地獄に落ちる。天国に行ける人間などほんの一握りよ」

田中は激高する。

「安心できねーよ! 死んだだけでこんな場所に落とされて罪を償うなんてできるわきゃねーだろ!」
「田中、ここは地獄の入り口だ。罪深い奴らはもっと下層へ落とされているのさ」
「入り口でも地獄は地獄だろ!? 針のむしろに立てとかマグマの中に入れとか言われんじゃねーの!?」

イナシクサはため息をついた。

「田中、お前は何も悪いことはしてないだろう。だが、何か良い事をしたと言うのか?」
「は? いきなり何言ってんだよ……」
「ここはお前みたいな俗世間で何の役にも立たない人間が落とされる場所なんだよ、あれを見てみろ」

指さされた方向を見ると亡者どもが望みを捨てたような顔で同じところをぐるぐると延々行き来していた。

「な、何やってんだあいつら……」
「ああして、考えることもやめて動き回っているんだ。何もやる事がないからな……」
「お、俺もあいつらの仲間入りするのか? あんたが来なかったら……」

イナシクサは立ち止まって田中に忠告する。

「田中、お前をここから連れ出す事は本来禁じられている……。だが、私が今からお前を現世へと導く」
「あ、ああ……。俺もあいつら見てたらこんなとこ残りたかねーって思うよ……」
「だがタダというわけにはいかない。我々が地獄を出る途中で様々な困難が待ち受けているだろう」
「困難……?」

イナシクサは頷いた。

「この地獄には亡者を罰するため、看守のような役目を持つ悪魔、それに追従する猛獣などがいる」
「そいつらに俺は襲われるかもしれねえって事か……?」

田中の後ろから目に炎を滾らせたライオンのような猛獣が咆哮を上げ、出現!!
同じところを徘徊していた亡者どもがそれを見て我先にと逃げていく!!

「わぁ、何だこいつ!? ここ地獄の入り口なんだろ!? 何でこんなやべーのがいんだよ!!」
「田中、こいつは悪魔が亡者を罰するため飼っている猛獣だ。そしてこいつは飼われているとは言っても非常に自由気ままだ」
「いいから何とかしてくれよ! こいつに襲われたりしたらどうすんだ! 勝てるのか!?」
「いや無理だな、逃げるぞ!」

イナシクサと田中は猛獣から逃げる!! 追いかけてくる猛獣!! 続く!!(多分)
68:えころ :

2019/09/12 (Thu) 02:47:40

田中一郎、異世界へ行く51

~前回までのあらすじ~
イナシクサと田中、地獄で猛獣に遭遇!!
以上!!

「ボク達、このまま終わっちゃうのかな……」

アルルは弱音を吐いていた。

「……大丈夫だ、アルル。何も心配する事はない」

サタンはアルルを見て微笑んだが、すぐに険しい顔に戻った。

「私があの禁断の魔導術を使えば怪物どもやあの女はもちろん、ヴゼルも……」
「それはデスタムーアですか……サタン様!?」
「バカ! そんなの使ったらお前が死んじまうだろうが!」
「構うか! 私はもう村が襲われて誰かが犠牲になるなんて我慢ならん……! お前達が死んでいくのだって……!」

ヴゼルが天から煽ってくる。

「賢明な選択だな、サタンよ。確かにそれを使えば私に一矢報いる事ができるかもな……。どれ、今すぐやってみよ」

ウィッシュはサタンを止めた。

「サタン様、ヴゼルのあの口ぶりからするとその禁断の魔導術について対策を立てているかもしれません」
「バカな……、この魔導術は禁断の秘術……。外からやってきた奴が知るよしもない……」
「ほ、本当ですのおばあちゃん……。それじゃあヴゼルにデスタムーアを放っても無駄だと……?」

アルルも青ざめた顔をしていた。

「万策尽きたってところね……。私達はもう……ヴゼルに滅ぼされるのを待つしかないって事……?」
「嫌だよぉ……、あたしこんなところで卑怯で最低な魔神にやられて終わりたくないよぉ……」

ヴゼルは笑っていた。

「諦めたまえ、お前達の最後の望みであったその小僧もくたばった。後は怪物どもから逃げ惑いながら、恐怖におびえる生活を満喫するがいい」
「くそっ……魔神ヴゼルめ! 悪趣味にもほどがあるぞ! 貴様は我々が窮し、没する様を眺めて楽しもうというのか!」
「はっはっは! そうだとも! 貴様らが絶望し、助けを求めたり苦しんで命を落としていくその様を記憶に焼き付けてやる事こそせめてもの手向けになろう!」

アルル達はただヴゼルの声が響く暗黒の夜が過ぎ去るのを待つばかりであった。
一方、田中とイナシクサ。パニクる亡者どもに紛れて突っ込んでいくことで何とか助かった。
その代わり、他の亡者が猛獣に捕まり、犠牲となっていたが。

「私はともかくお前はあいつに捕まったら飽きるまでズタズタにされているところだった。本当に危なかったな」
「危なかったなじゃねーよ! 早くここから脱出してこのひどい世界を抜け出そうぜ!」

田中はイナシクサを引っ張って進もうとする。

「まあ待て、ここからある審判所まで歩いて行かなければならない。そこから地獄の下層へ進む許可をもらう必要がある」
「は? 俺らは世界を救うんだぜ? そんな説得とかいちいちしなきゃいけねーのか?」
「モチのロンだ。世界を救うなんて戯言を信じてくれるわけがない。何せ連れてるのが何の取り柄もない小僧だからな」

田中はけっとそっぽを向いた。その時、田中達のいた地獄に新たな亡者が流されてきた。
それはオタクのような外見をした太った男であった。

「ひ、ひぃぃ……!! いきなり知らん世界に連れてこられてハーレム築けるかと思ったら何なんだよここぉ……!?」

肌寒さを感じ、地獄の風景を見て怯える男。しかも亡者を襲っていた猛獣に気づかれてしまった。

「ぎゃああああ!! こっち……こっち来るなああああ!!」

男は急いで逃げようとするが、猛獣にとっ捕まり、そのままいたぶられる事になった。

「おい……あのキモオタみたいな奴、ハーレムがどうこうとか言ってたぞ……? どういう事だイナシクサ?」
「どうもこうもない! 多分ヴゼルが異世界に送り込んだ奴だ! 殺されて地獄へ送られてきたんだよ!」
「じゃ、じゃあアルル達の世界にまた怪物が出現しちまってるのか……?」
「急ぐぞ、地獄の道のりは長い! このままじゃマジに魔神ヴゼルの侵略が完了する!」
「マジ魔神? マジ卍? いでででっ引っ張るなよ!」

イナシクサは田中を引っ張り地獄の脱出を急ぐ!! 続く!!(多分)
69:えころ :

2019/09/12 (Thu) 13:19:10

田中一郎、異世界へ行く52

~前回までのあらすじ~
キモオタ、地獄に流入!! 田中達は審判所へ急ぐ!!
以上!!

そしてイナシクサは田中を連れてリンボの最深部、ミーノスの審判所へ到着!!
幸い、リンボには猛獣はあの一体しか訪れていなかったようで、道中妨害をする者は現れなかった。

「ここがミーノスの審判所。さっきの男もそうだが、ここで地獄のどの層に振り分けられるかを審判しているのだ」
「説明はいいけど……腕が痛いんだが……お前のせいで……」

イナシクサは田中を無視して中へ入っていく。田中もしょぼしょぼと後をついて行く。
目の前に高潔な中年男性が静かに座っていた。

「何者だ、勝手にここに入ってくる不届き者は」
「初めまして。ミーノス、私は魔神ヴゼルの一部から生まれたイナシクサ。そしてここにいるガキは田中一郎です」

ミーノスは田中を一瞥して鼻を鳴らした。

「ふん、貴様はともかくそこのガキはもう死んでいるじゃないか。魂の振り分けは順序性だ。しばらく待ってろ」
「そうではないのです。私達はここを脱し、現世へ戻らなければならぬ用があるのです」
「何……」

ミーノスは眉をひそめた。

「そんなガキを連れて此岸に戻らねばならぬなど一体何の未練があるのだ? そんな特例を許すわけにはいかんな」
「そこをどうか……! このままでは魔神ヴゼルが大きな過ちを犯すのです!」
「知らぬわ、そのヴゼルとやらなど。ともかくお前達をここから出してしまえば異例の判決を下した事で地獄は荒れる。認められんよ」

イナシクサはため息をついてはっきり告げた。

「では実力行使と行きましょう、ミーノス。あなたに勝負を挑みます。我々が勝てば問答無用で地獄の底へと進む事を許可してもらいます」
「何……。貴様、正気で言っているのか? 貴様が何者かなど知る由もないが、この私とやり合って打ち負かすつもりでいるのか?」
「お、おいイナシクサ……。この偉そうなオッサンと喧嘩なんかしていいのかよ? こんなところで裁判みたいな事やってるって相当な権力者じゃ……」
「田中、今は権力がどうこうとか気にしている場合ではない。我々は何が何でもここを脱しなければならん。手段は選んでられない」

ミーノスは椅子から立ち上がった。

「良かろうイナシクサとやら。ただしもう貴様らの判決は決まった。敗北すれば永遠にコキュートスで罪科を償ってもらう事とする! 貴様らの申し出は神への反逆なのだからな!」
「な、なあイナシクサ……。呼吸なんとかってどんな場所だ? 俺らそこに縛り付けられるって事か……?」
「コキュートスは地獄の最深部。君主への裏切りを謀略した者が送られる極寒地獄だ。そこから地獄を脱する事もできる……。……ミーノスに勝てばだがな」

ミーノスは構える。

「来い! 私が貴様らの欲望を鎮め、永久の罪科をその魂に刻みつけてやろう!」

構えるイナシクサ。おどおどする田中!! 戦いの幕が切って落とされた!! 続く!!(多分)

その頃、魔導世界。
アルル達は疲れから木陰に身を寄せて寝ようとしていたが、ヴゼルが歌い始めたので寝れなかった。

「なぁんでもないよぉなことがぁ幸せだぁったとおもぉう~、何でもない夜のぉこぉと、二度とぉは戻れないよぉる~!!」
「くそ……魔神ヴゼルめ! 我々の睡眠まで妨害してくるとは……!」
「別にそれは大した嫌がらせでもないと思いますが……」
70:えころ :

2019/09/13 (Fri) 02:06:17

田中一郎、異世界へ行く53

~前回までのあらすじ~
イナシクサvsミーノス!! 歌うヴゼル!!
以上!!

時は少しだけ巻き戻される……。
キミ子が村に飛翔してきたのが見えたので急いで森へと逃げていたハーピーと魚。
そこから時間立たないうちに夜のとばりが下りたが月明かりがなく、真っ暗であった。

「みーっけ……。進化した私はね……二酸化炭素を探知できるからあなた達がどこにいるかなんてすぐ分かるのよ!」
「な、何だ……!? 女の声……!? 辺りが暗くて何も見え……ぐわあああああ!!」

さっき森で動物を殺しまくっていた女の声とそれの犠牲になっている野太い男の声が聞こえてくる。
ハーピーと魚は震えていた。

「な、なあ……。どうなってんだよ……夜ってこんな暗かったか……? それもこれもあの女の仕業なのか……?」

その時、魚とハーピーは天から語りかけてくるヴゼルの声を耳にしていた。

「いかにも私は魔神ヴゼル。貴様らを滅ぼし、世界を掌握する事が我が目的だ」
「ヴ、ヴゼルだって……? 上から聞こえてくるなこの声……」
「……多分あの女や……この世界の異変を起こした……存在かと……」

しばらく聞いていると、ヴゼルはアルル達に語りかけている事が分かった。

「後は怪物どもから逃げ惑いながら、恐怖におびえる生活を満喫するがいい」
「アルル達を追い詰めて始末する気でいるんだな……俺達にできる事は何かないのか……」

そしてしばらく静かになったかと思えば急に歌い始めるヴゼル。

「ちょぉど一年前にぃ、この道を通った夜ぅ~、昨日の事のよぉに~今はっきりと思い出すぅ~」
「な、何だヴゼル……。急に歌い出しやがったぞ……」

ハーピーは歌声を聞いてうずうずしていた。

「……おい、やめろ。歌うな。お前が歌ったらここに隠れてること、あの殺人女にばれちまうぞ」
「わ……わかってます……でも」

キミ子の耳にも歌声は聞こえていた。キミ子はヴゼルの歌声の意図を理解していた。
ヴゼルは田中の死体を見て悟った。
この世界にはすでに田中クラスの者を殺害できる存在がおり、そいつはいたく気まぐれである(アルル達が助かっている事より)。
そこでアルル達の位置を歌う事によってアピールし、始末させようという寸法である。

「なるほどね、魔神ヴゼルはアルル達のところへ私のような人殺しや怪物どもを集めようとしているのね……」
「何……あんな歌だけであの女……このヴゼルって奴の目的を理解してやがるのか……」

そしてサビに入った!!

「なぁんでもないよぉなことがぁ幸せだぁったとおもぉう~、何でもない夜のぉこぉと、二度とぉは戻れないよぉる~!!」
「な~んでも~な~いよ~なことが~幸せだ~ったとおも~う~、な~んでもない夜の~こ~と~、二度と~は戻れないよ~る~!!」
「おい、歌うなっつっただろ……! みつか……」
「見つけてるわよ、もうすでに。あなた達、普通に呼吸してるじゃない……」

女の声がすぐ近くで聞こえてきたので飛び上がる魚とハーピー。
逃げようとするが、身体をがっしり掴まれ、捕まってしまう!!

「ふふ、まあ今は始末しないわ。殺すのはとっておきのお楽しみが終わってからって事にしてあげる」
「と、とっておきのお楽しみ……?」
「さっきね、異世界から来た男を殺したのよ。汗臭くて息も荒かったから多分デブでしょうね……、そいつは多分もう怪物化してると思うわ」
「何だと!?」

キミ子に運ばれる魚とハーピー。

「あなた羽みたいの生えてるわね、可愛い……。全部むしり取ってあげたい。そしてあんたは生臭いわね、すぐにでも殺したいけど……まぁいいわ」
「お、お前は何が目的なんだ! ヴゼルの手先なんかやってどういうつもりだよ!」
「金が目当てだった……けど。ここでこうしてあなた達が絶望に暮れて滅んでいく様を見てるのもいいかなって思ったのよ」

キミ子の横を何者かが通り過ぎていった。

「ふふ……、さっき私の横を過ぎていったのが例の怪物ね……。あのアルルって子達の方へ向かっていたわ」
「な、何……!!」

そしてアルル達!!

「うぅ……ヴゼルがうるさくて眠れないよぉ……」
「いやドラコ。俺達は眠ってはいけないような気がする。何か嫌な予感がする」
「どういう事だ、闇の魔導師。ただ奴は気分がいいから調子こいて歌ってるだけではないのか」
「それもあるだろうね……。というかヴゼルは誰かにボク達の位置を伝えてるんじゃないのかな……」
「わ、私達の位置を!? 一体誰に伝えるって……さっき田中を殺した女とか……」

シェゾは闇の剣を抜刀する。

「いやあの女じゃない。あの女は村に怪物を作りに行ったはずだ。ということは……」

アルルが魔法を使って周囲を明るくする!! すると!!
草陰から怪物キモオタが出現!! シェゾはキモオタが伸ばした触手を切断する!!

「どおりゃああああ!!」
「いってえなあ……何すんだよぉぉ、こんなところで可愛い子ちゃんと野宿とはうらやましい限りだねェ……デュフフフ」
「きゃあああああああああああ!!」

ウィッチは怪物の身なりを見るなり、悲鳴を上げて遠ざかっていく!
怪物キモオタは大きさこそ人間と大差ないが、醜く肥え、真っ裸で出現し、背中から大量の触手を伸ばしていたからである!!

「デュフフフフ!! そこの可愛い女の子達は俺だけのものだ!! 邪魔する豚野郎どもは全部ぶっ殺してやる!!」
「豚はキミだよ、いきなりそんな姿でボク達の前に現れるなんて!」
「アルル、下がっていろ。この怪物は俺達が相手する。お前達は他から何か来ないか見張っていてくれ」

怪物キモオタ出現!! サタンとシェゾはアルル達を守れるか!! 続く!!(多分)
71:えころ :

2019/09/13 (Fri) 22:56:44

田中一郎、異世界へ行く54

~前回までのあらすじ~
怪物キモオタ、真っ裸ーニバル!!
以上!!

「デュフフ、俺様の力を軽く見せてやるぜ!!」

怪物キモオタは口をハムスターの頬袋みたいに膨らませ、勢いよく強酸を吐き散らすッ!!
シェゾとサタンはそれを魔法で打ち消そうとしたが、完全には消せず、降りかかってくる!!
ウィッシュが唱えたテレポートでそこから回避し、地面はドロドロに溶けて、足場が泥濘む!!

「おい魔女っ娘ちゃんよぉ……もう少しでそいつらの綺麗な顔面をドロドロにできたってのに邪魔すんなよなぁ……」
「私は老婆です。あなたの目的は自身の性欲を満たすことなのですか?」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねえの、それじゃあとっておきの技を見せてやるよ、コポォ……!!」

怪物キモオタはピーーーを始めた!!

「きゃあああああああ!!」
「見るなウィッチ、トラウマになるぞ!! やめろてめえ! シャドウエッ……」
「シェゾさん、ここは退却しましょう! テレポート!!」
「ハァハァ、行くぜええ、発射ああああ!!」

スペルマレーザー!! 鋭い白濁光線が破壊力を持ち、木々をなぎ倒していく!!
だがそこにウィッチ達はもういなかった!! 怪物キモオタは悟ったような顔をしていた!!

「ちっ……、今度は避けられねえ場所から打つか……、オゥフ……」

そしてアルル達。元いた場所からは少しだけ離れた場所に行き、怪物から距離を取ろうとしていた。
だがしかし!! ヴゼルはすでに!! 頭上から彼女達を見下ろしていた!!

「はっはっは! 逃げても無駄だ!! 私はずーっと貴様らを監視している!! そしてあの怪物は必ずお前達を追い詰める!!」
「何だと!? くそっ……これじゃあどこに逃げても必ずあの怪物と遭遇しなければならんということか!!」
「お天道様(私)は貴様らを常に見ているのだ……、貴様らが悪さができぬようにな……」
「黙れ! 悪いのは貴様だろうが!!」
「サタン!! また汚くて白いレーザーが飛んでくる!! なんか擦ってる音がする!!」

シェゾはみんなに指示をする!!

「防ぐぞ!! みんな、一斉にシールドだ!!」

アルル達は協力して頑丈なシールドを展開!! 弾かれるスペルマ!! シールドは壊れる!!

「ちっ、せっかくもう一発頑張って発射したのに……なかなか手強いじゃねえか、オゥフ……」

怪物キモオタがノコノコとアルル達の前に現れる!!

「最低な技を使いやがって……」
「闇の魔導師、あんなふざけた技でも威力は強力だ。何とかして奴のアレを切断してやろう……」
「おう、だが奴はまだ何かふざけた技を隠し持ってるかもしれねえ、注意が必要だ。さっき強力な酸も吐いてたしな」

その時、アルル達は強烈な刺激臭に顔をしかめていた。シェゾ達もその匂いを嗅いでたじろいでいた。

「デュフフフ、この俺様は体臭さえ操れる。異常な臭気で意識は混濁、まともに戦えない状況に陥れてやるぜ!!」
「おばあちゃん、テレポートを!!」

ウィッシュはテレポートを唱え、異臭から遠ざかるが、やはりヴゼルによって怪物はアルル達のところまで来てしまう!!

「無駄無駄、諦めたまえ。逃げても逃げてもその醜悪な怪物は貴様らのもとへ必ずやってくる」
「さ、サタン……。あの匂いを防ぐ手立てはあるか……?」
「分からん……、というかあの怪物に我々が魔法を放って効くのだろうか……、田中の件もあるしな……」
「やっぱりボクも戦う!! 二人任せじゃいられないよ!!」

アルルがサタンとシェゾの前に出て、怪物キモオタを迎え撃とうとする!! この醜悪な怪物を攻略できるか!! 続く!!(多分)

その頃、ミーノスとイナシクサは激しい戦いを繰り広げていた。田中は戦いについていけず、ボケーっとした顔をしていた。

「あんな間抜けそうなガキを此岸に繰り出してどうするつもりだ? 何の役にも立たなかろうイナシクサよ!!」
「いえミーノス、奴は秘めたる力をその身に宿しているのです。尤もそれが引き出せないまま命を落としてしまっただけだ!」
「はぁ……、俺の人生って何なんだろう……」
72:えころ :

2019/09/16 (Mon) 03:28:17

田中一郎、異世界へ行く55

~前回までのあらすじ~
怪物キモオタ激ヤバ!!
以上!!

時はぶっ飛び、田中達の現代より少し前。これはキモオタが怪物キモオタに至るまでの回想である。
キモオタは子供の頃、妹と仲良しであった。二人で駄菓子を食べたり、色んな遊びをして過ごしていた。
だが大きくなるにつれて二人の距離はだんだん開いていき、そしてキモオタが高校生になる頃には全く口も利かなくなっていた。
そして絶望的なニュースがキモオタの耳に入る。妹が不良彼氏の子供を妊娠したというのだ。
キモオタはこれを受け入れられず、中学からの趣味であったアニメ・二次創作作品に耽り、現在に至った。
キモオタにはある一つの歪んだ思いがあった。俺はダメなやつだ、しかし力さえあれば女が手に入れられる、と……。
いつものようにマスをかいていると後ろから声をかけられる。名は魔神ヴゼル。
願いを叶えてやると言われ飛ばされた先で訳も分からないまま命を奪われ、こうしてついに完成した。
それが今アルル達を襲っている怪物キモオタ!!

「あの怪物の動きを封じよう……、そして一気に決着をつけるんだ」

アルルの指示に従う二人。そしてキモオタ登場!!

「デュッフッフ、まーたくっせえ臭い嗅がせてやる、そんでたっぷり女の子とお楽しみ……」
「ばよえ~んっ!!」

怪物キモオタの目から涙が溢れ出て、ずっと記憶の底で渦巻いていたノスタルジアが襲いかかる!!

「あ、ああ……うう、何だよこれ……お、お前ら一体俺に何を……き、急に虚しくなって……」

ヴゼルが怒鳴る!!

「何をしておるか!! さっさとそいつらを始末しろこの馬鹿者がっ!!」

立ち止まって顔を覆う怪物キモオタ!! 大打撃を食らわすなら今である!!

「アレイアード・スペシャル!!」
「じゅげむっ!!」
「サタンクロス!!」
「女王乱舞!!」
「グレートファイヤー!!」
「ビッグバン!!」
「どんえ~ん!!」
「ぐっぐっぐー!!」

泣き喚く怪物に一斉攻撃が降りかかる!! 一切の容赦なし!!
怪物は腕や脚がぶっ飛び、頭部のほとんどを失い、ボロボロの状態であった。

「ふぅ、なんとか倒せたか……。こいつを倒した事でなんか強くなったような気がするな」
「とびっきり汚い相手だったけどね……」
「やってくれるじゃ……ねえかよ……」

アルル達は急いで怪物を見て、トドメを刺そうとする!! だが!!

「だがそれで俺様を倒したと思うのは大間違いだぜ……、デュフフフ、今度はもう油断しねえ……」

怪物キモオタは背中の触手を樹木に縛り付け、生命エネルギーを吸収する事で復活を遂げた!! 樹木は完全に枯れていた。

「なっ、こいつ……こんな短時間で完全に再生しやがった!! なんて野郎だ!!」
「あの背中から生えた触手を全て消滅させない限り、倒せないという事か……!!」
「そ、そんなのアリ? まだこの気持ち悪い奴の相手をしなきゃならないわけ!?」

怪物キモオタは自信満々に腕を振り上げ、アルル達に突進してくる!!
一方、ミーノスとイナシクサ!!

「戦いを長引かせるのは地獄の運営に支障が出る……! というわけで最終審判を下す!!」

最後の審判!! 神の御心のままに!!
強烈な光エネルギーがイナシクサを包み込み、肉体から魂まで責め苛まれ、大ダメージを負う!!
だがしかし、イナシクサも必殺技を使っていた!!

「ミーノス、これが私の進むべき道<ロード>だ!!」

逆境無頼神術!! 廻る運命<フェイタル・ロンド>!!
イナシクサの負傷がミーノスに倍にして転換され、ミーノスは壁に激突し、ズルズルと落ちていく。

「やられたらやり返す、倍返しだ。そしてミーノス、勝負は決した。我々は地獄から出る!!」
「おおイナシクサ、勝ったのか。そんじゃあもう行こうぜ」
「勝手にしろ……、しかし最深部にいる悪魔の王は私でも手を焼く存在……、そいつをどうにかする事だな」

ミーノスはよろよろと立ち上がり、また椅子に座った。
急いで下層へ下っていく田中とイナシクサ!! 続く!!(多分)
73:えころ :

2019/09/16 (Mon) 17:14:59

田中一郎、異世界へ行く56

~前回までのあらすじ~
怪物キモオタ復活!! イナシクサ、ミーノスに勝利!!
以上!!

イナシクサと田中は審判所の裏側を進んでいき、ついに第二層目の地獄へやってきた。
が、そこは凄まじい暴風が常時吹いており、田中の目に砂塵が容赦なく襲いかかる!!

「げええええっ!! 何だよここ!! 砂漠か!? イナシクサ、こんなとことっとと抜けようぜ!!」
「砂漠ではない、地獄だ。ここは愛欲の罪に溺れた者が送られる場所。お前達の世界で言うとメンヘラが来る場所だ」
「どうでもいいよ! 俺は不良だからメンヘラじゃねーし!!」

そしてそんな酷い環境下であっても亡者の声と知らぬ男の声が聞こえてくる田中。

「わ、私は悪くないの……! あの男が……あの男が私を裏切るからあああ!!」
「だからお前さんはここに落とされたんだっつーの。いい加減に諦めて罪を償えや!!」

女の亡者に蹴りを入れていたぶる男。それを辛うじて見た田中は憤りを覚えていた。

「野郎……、いくら罪を背負って投げ出された奴だからって、女に手を出すとは許せねえな!」
「待て田中、あいつは悪魔だ。悪魔はああやって未練を残した魂を虐めて地獄に留まらせておくんだよ」
「無視しろってのか? どんな立場であろうとあんな卑劣なやつを許すわけにはいかねえよ!」
「しかし田中、奴らはこちらから敵意を向けない限り案外絡んでこないかもしれん、慎重に進もう」
「……分かったよ、無駄な戦闘は避けてここから脱出すりゃいいんだろ? チッ」

田中は拳を震わせ、イナシクサと一緒に悪魔にバレないように進んでいく。
一方、アルル達、怪物キモオタを倒すため、大奮闘!!

「背中だ! 奴を再生させないためにはあの触手を全て破壊するしかない!!」
「そんな事言われて背中を取らせる馬鹿があるかよ!! くらいな、ウップ……!!」

怪物キモオタは強酸の反吐をシェゾ目掛けてぶち撒けるが、テレポートで背後に回り、触手を切りまくる!!

「て、めええええ!! ナメるなよこの俺様を……!!」

怪物キモオタがシェゾを殺すため、身体ごと振り向いたところに……!!

「ディザスター!!」
「じゅげむっ!!」
「ビッグバン!!」
「わたくしもビッグバン!!」
「グレートファイヤー!!」
「女王乱舞!!」
「がッはッ……!?」

怪物キモオタの背中はボロボロになり、触手はあっという間に全滅してしまった!!

「後は本体のてめーだけだな、今度こそ死んでもらうぜ」
「ぐぅぅぅ、こうなったら最後の手段よ!! 俺様の全力を見せてやるぜええええ!!」

異臭をマックスで放ち、その強烈な匂いに思わず戦意を喪失しそうになる一同!!
そして力んでケツに力を入れる怪物キモオタ!! しかし、カーバンクルはそれを許さず!!

「ぐーーーーーーっ!!」

全力のビームが怪物キモオタのケツに直撃!! そしてシェゾがすかさず、怪物キモオタを斬りまくる!!

「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」

サタンも加わり、斬りまくる!! アルル達も加わり、怪物を魔法で攻撃しまくる!!

「ぐわあああ、そんな……こんな、こんなところで終わるのか俺のハーレムは!! 俺様の終末のハーレムゥゥゥ、コポォ……!!」

怪物キモオタはドロドロに溶けて完全消滅!! アルル達、大勝利!!
アルル達はひとまず一息つき、全員その場に座り込んだ。
それを見ていたヴゼルが怒りに震えながら、アルル達に語りかけてくる……。

「いい気になるなよ……、私が駒として送り込んだクズはまだまだいる!! 今無傷で勝てた事、せいぜい誇りにでもするがいい!!」
「ああヴゼル!! てめーがどんな奴をよこそうがもう俺達は負けねえ!! そして必ずお前も倒してやるぜ!」
「みんなで力を合わせればお前のような卑怯な魔神のくだらない計画なんてめちゃくちゃにできるんだよ!」

ヴゼルと真っ向対決をする覚悟を決めたアルル達!! 次に襲いくる刺客は誰だ!? 続く!!(多分)
74:えころ :

2019/09/17 (Tue) 02:08:04

田中一郎、異世界へ行く57

~前回までのあらすじ~
怪物キモオタ、撃破ァ!!
以上!!

その頃、キミ子は異世界へ送られてきたクズを呼吸から発見!!
魚を思い切りぶつけて男を気絶させ、胸を一突き!! 始末が完了する!!

「やっぱりあんた生臭くて不快だからいらないわ、命を奪うのはやめたげるからさっさと消えなさい」

そう言ってキミ子は魚を捨てて去っていく。助かったと胸を撫で下ろす魚だったがハーピーは捕まったままだ。

「あ、あの……私は……」

ハーピーはおそるおそるキミ子に質問をする。すると口元に何かが当たった。男を殺し、血がついたキミ子の片手であった。

「舐めて綺麗にしなさい」
「えっ……!?」
「早くしないと羽を毟り取るわよ? でも先端は少し鋭利だから気をつけて舐めなさい」
「う、うう……」

ハーピーは男の血がべっとりついた手を舐め始める。口の中に鉄臭くて不味い味が広がる。
思わずむせてしまいそうになるがハーピーはそれを我慢して舐めていた。

「ふふ、いいわよ……」

一方地獄。ミーノスは自身の傷を癒し、審判所の外に出てきた。

「……どうやらまた新しく亡者が入ってきたらしいな、忙しいものだ」

そしてイナシクサと田中。悪魔を横切って辛い中をずんずん進んでいくがやはり……。

「んん~ちょっとちょっとあんたがた? こんなところで何をうろちょろしてるんだーい? もしかして新入りかなぁ?」

悪魔が二人を呼び止め、向かってきた。

「おいイナシクサ、これで思う存分あのクソムカつく悪魔野郎をブッ飛ばせるぜ!!」
「田中一郎、奴をぶっ飛ばすのは私なんだが……」
「亡者はまず入ったら挨拶して俺達の指示に従わなきゃダメなんだぜ? ミーノスの野郎に言われなかったか?」

イナシクサは首を振る。

「我々は正しい目的のため、地獄を脱そうと進んでいる。つまりお前たちに管理される罪人ではない」
「そうだぜ悪魔野郎!! 無抵抗の女に暴力を振るうなんていい趣味してんじゃねーか!!」

悪魔はそれを聞いて高笑いする!

「わはははは!! 地獄を脱するだってえ!? それこそあの頑固なミーノスが許すわけねえだろ! くだらん嘘はやめろよな」
「事実だ。さっきミーノスとの勝負を決し、今こうしてここまでやって来たところなんだよ」
「信じねえならお前も痛い目に遭うぜ! イナシクサの逆鱗に触れる前に謝るなら今のうちさ!!」

腰巾着になって悪魔を煽る田中にうんざりするイナシクサ。

「我々はお前と戦うつもりはない。信じられんのも無理ないが仮に罪人として送られてきたのであればここを闊歩できる理由もないはずだ」
「はは、それもそうだな……、だが俺はもうお前らが罪人かどうかなんてどうでもいい」
「な、何だよ……やるってえのか!?」

悪魔は震える田中を見て冷ややかな笑みを浮かべる。

「この小僧をかけて俺と勝負しな、俺が勝ったらこの小僧を永遠にここに縛りつける。それでどうだ、ちょうど暇してたしよ」
「お、おいイナシクサ……か、勝てるよなあ? お、俺達世界を救うんだもんなあ……?」

青ざめた顔でイナシクサを見る田中。ニヤニヤ笑う悪魔にうんざりした顔でイナシクサは承諾した。

「はぁ……、分かった。勝負しよう、ただしお前が負けたら我々を通す他にそこの女に対しての扱いを改めろ、それが条件だ」

悪魔は一瞬ムッとした顔をしたが、それでも頷いた。イナシクサvs悪魔!! 続く!!(多分)
75:えころ :

2019/09/18 (Wed) 01:07:42

田中一郎、異世界へ行く58

~前回までのあらすじ~
イナシクサ、悪魔と戦うハメになる!!
以上!!

襲撃してくる悪魔を何度も返り討ちにし、軍配は誰がどう見てもイナシクサに上がっていた。

「ほんとつえーなイナシクサ! そんなへっぽこ悪魔なんかやっちまえー!」

自分の威を借りて調子こく田中に眉をひそめるイナシクサ。悪魔はまたもや襲撃してくるかと思いきや、なんと!!
イナシクサをすり抜け、田中の首を腕でガッチリ抑え、脅しに出た!!

「へっへっへ、あんたが強いのはよく分かった。だがこのガキは所詮亡者だ。この俺の意向一つでここに縛り付けておけるんだよ」
「なっ、てめえ! 約束が違うじゃねーか!! 負けてるくせによう!!」
「うるせえ! 側からピーピー喚きやがってムカつくんだよオラァ!!」

田中の腹にパンチを入れる悪魔。

「ぐぅぶ……!!」
「あんたは先に進んでもいいよ、結局最初から用があったのはこのガキだけだしな、うへへへへ!!」

イナシクサは無言で指を悪魔に向ける。すると凄まじい激痛が悪魔の背中に走る!!

「ぎゃああああっ!! いっでえええええ!? 何だ? 何をしやがるんだ!!」
「今、この地獄に吹き荒れてる風のいくつかを操り、硬度を持たせ、お前の背中を切り刻んだのだ」
「イナシクサ……」
「もし早めにそいつを離さないならその首、すでに胴と繋がってないものと思え」

悪魔は田中の拘束を外し、悪態をつきながら離れていった。そんな悪魔に田中は思いっきり煽る!!

「やーいバーカバーカ!! お前みたいな奴こそ神に裁かれちまえ……いでっ!!」

イナシクサに頭を小突かれ、腕を引っ張られる田中。

「な、何すんだよお……!! 俺別に間違った事言ってねえだろぉ!?」
「今のはまだ弱い悪魔だったからいいが、これから下に進むにつれてどんどん厄介になってくる。今のようにはいかないかもしれんぞ」
「……分かったよ」

そしてアルル達、怪物キモオタを倒してからひと時も休まず、辺りを警戒していたが、特に何かが来る様子はなかった。

「おいヴゼル、次のやつはどこにいるんだ? いつここにやってくる? 歌わねえのか?」
「ふん、歌って欲しいのか? 断る、しかも私は敵だぞ、貴様らの質問に答えてやると思うのか?」

すっかりご機嫌斜めのヴゼルに困り果てる一同。

(会話が交わせるなら……なんとかしてこいつから色々情報を引き出せないものか……)

そう考えるシェゾは奇妙な音を耳にした。まるでクッチャクッチャと何かを咀嚼する嫌らしい音であった。

「なぁ、なんか聞こえないか……? 誰か何か食ってるのか……?」
「嫌だなあ、ボクお腹減ってるけど何も食べてなんかないよ」
「私だって食べてないぞ。闇の魔導師、この不快な咀嚼音はどこから聞こえてくる……?」

ドラコはその時ハッと上を向き、炎をゴオッと吐き出した!! 何者かが着地し、アルル達の前に現れた!!

「フッ……、せっかくキミ達を食らうチャンスを今かと狙ってたのに……まさか気付かれるとはな……」

アルルが現れた男に光を向けて見てみると、ネズミやら小鳥と思しき小動物の骨を持ち、口からは血がダラダラと溢れた怪物であった。

「てめえが……次の刺客か……!!」
「なるほど、そこの女の子達はよく肉がついてうまそうな身体に仕上がってるな。どれ、食事の前に私の目的を話そうかな……」

クッチャクッチャと咀嚼しながら話し始める男に魔法を浴びせようとする一同!!
しかし男はすでにアルル達の目の前におり、ニタニタ笑いながらその不快な咀嚼音を強めていた。

「おい貴様、確実に始末しろ。そいつらに関しては骨の一本残す事すら許さんぞ」
「分かっております。しかし、これだけのご馳走だ。私なりの食事の前の作法があるんでね……」
「作法も何もまずその不快な咀嚼音やめろ!! マナーがなってなさすぎだろ!!」

シェゾの反応に不吉な笑みを浮かべる男!! 怪物食人鬼出現!! 続く!!(多分)
76:えころ :

2019/09/18 (Wed) 07:35:22

田中一郎、異世界へ行く59

~前回までのあらすじ~
イナシクサ、悪魔を軽くあしらう!! 怪物食人鬼参上!!
以上!!

ヴゼルの思惑とは裏腹にアルル達の目の前で自分を語り始める怪物。

私は裕福な生まれでね、幼い頃から食うに困らない生活を送っていたのさ。
日々の食事に飽きてきた私はある日可愛い妹の姿を見てふと思ったんだよ。この子はさぞ美味しそうだってね。
それで私は妹が寝てる間に絞殺してバラバラに切断。
十分に血を抜いて冷凍保存した後、家族が妹の消失で混乱や悲嘆に暮れるその最中。
こっそり調理しては食べてみたんだよ。すごく美味しくてねェ……、私を満足させるものはもうこれしかないと思ったんだよ。
その後も私はね、若い女を誘拐して殺しては食べるという生活を人知れず行い、それがバレて刑務所にぶち込まれたんだ。
でもね、私は刑務所に入った後でも人肉の味が決して忘れられなかった。そこに魔神ヴゼル様が現れてね。
たっぷり若い女を食わせてくれる場所があるというんでね、ここにこうしてやってきたのさ。

「異常者め……!!」
「何故か一度殺された筈なんだけどねェ、でも不思議だよ。生前はそれほど美味いと感じなかった血液も今じゃ信じられないくらいうまいんだ……」

クッチャクッチャ音が静まる。アルル達の背筋は凍りついた。
サタンの双角がポッキリと折られ、怪物はそれをバキバキと咀嚼していたからだ。

「ふふふっふふ……今はどんなものでも美味しそうに感じるよ……、うん、硬度が十分あるがこれも十分うまいよ……」

怪物食人鬼の指の爪が長くなり、鋭利な刃物のように光っていた。
こいつはまずい、さっきのキモオタと比べても異常さも強さも段違いである。

「ついでに教えておくよ、私は摂取した人物の力を使う事ができるんだ……」

怪物食人鬼はサタンとシェゾ目掛けて魔法を放つ!! サタンのディザスターである!!
だが威力は数段強力になっており、あっという間に吹き飛ばされるッ!!

「さあて、キミ達を始末して、1人ずつ食べてやろう……もしさっきの奴らが戻ってきたとしてもそこにあるのは絶望だけだからね」

腹が減るよな。怪物食人鬼、動きます。
そして魚、キミ子に捨てられた後、何とか土地勘を頼りに願いを叶えると言われる神殿までやってきた。

「お、おーい! 俺は敵じゃねえ!! やべー女や魔神の声が聞こえたんだ! 女の方はハーピーを持って今もウロウロしてやがる!」

叫ぶと中から灯りを持って一人の少女が現れた。

「良かった、まだ生存者がいたのですね……。さぁさぁ中にお入りください」

魚が中に入ると、そこには村の生き残りや魔物達が皆不安そうな顔色を浮かべながら大人しくその場に留まっていた。

「今、異世界から勇者を名乗る人が現れ、アルルさんの援護をしに向かったのですが……すれ違いましたか?」
「い、いや……辺りが暗すぎて人とすれ違ったかも分からなかった……すまねえ……」
「そうですか……、とにかく無事で良かった……。皆さん大切な人を失われて塞ぎ込んでる方ばかりで……」

そして田中とイナシクサ、第二層を抜けようとしていたところで……。

「やっぱガキはもらっていくぜッ、うおおおおっ!!」

勢いで田中に突っ込んできたが、田中は腕に炎を纏わせ、悪魔を思い切り殴りつけて火だるまにする!!

「わ、ぢゃぢゃぢゃぢゃ、ひいいぃっっ!!」
「田中一郎、お前……。ついにバーニングサイキックパンチを使いこなせるようになったか!」
「あんたが戦ってるの見てたらさ、感覚をつかんだっつーのかな、ムカつくから俺も一発殴っときたいなぁって思ってたらできたんだよな」

二人は希望を持って第三層へと進んでいく!! 放置される悪魔!! そしてアルル達は未曾有の大ピンチ!! 続く!!(多分)
77:えころ :

2019/09/19 (Thu) 00:46:13

田中一郎、異世界へ行く60

~前回までのあらすじ~
怪物食人鬼、サタンの力を得る!!
以上!!

アルル達は怪物からテレポートで逃げるが例によってヴゼルがいるためにすぐ追いつかれ……いや、速すぎる。
移動してからほんの2、3秒経たずしてアルル達の目の前にやってきている。
これではどれだけ遠くに逃げてもものの10秒も経たずして追いつかれることは目に見えていた。

「残念だけど腹ごしらえの前に運動とかいらないんだよ、さっさと諦めて食べさせてくれ」

だが無駄だと分かっていてもアルル達は逃げるしかない。何故なら目の前にいる敵は今にも腕を引きちぎって食らいつくしそうな剣幕があったからだ。

「ね、ねえアルル! さっきあの気持ち悪い化け物を止めたみたいにさ、魔法で感動させられないの!?」
「無理だよドラコ、怪物の話聞いたでしょ? あんな根本から破綻してる人間にかけても効果は薄いと思う……」
「あいつ……私達でも目視できないくらい速いから、攻撃を当てようと接近戦に持ち込むのは圧倒的に不利ね……」
「ということは、強力な範囲攻撃で一気に仕留めるしかないでしょうがしかし……」

逃げながら話すも、後ろからもうすでに声が聞こえてくる。

「食べられたくないのは分かるけど、どこに逃げても結果は同じだよ? 行き詰まった時が楽しみだね」

男の声には余裕がある。一方、アルル達は魔法を使い戦い続けた挙句、逃げるために走っているので確実に追い詰められていた。
万事休すか……と思ったその時。

「ぐはっ!?」

突如怪物の悲鳴がアルル達の耳に入ってきた。アルル達はその隙にテレポートで更に遠くに逃げる!
怪物の前にまばゆい光とともにシェゾとは違う1人の青年が現れた。

「そこまでだ怪物、私は勇者ラグナス・ビシャシ!! 世界を救うため、異世界よりやってきたものだ!!」
「何だ貴様は。異世界からやってきただと? 貴様のような奴を送り込んだ覚えなどないが……」
「ヴゼル様、これも始末する対象って事で良いですか?」

ラグナスは剣を構える。

「モチのロン! ロン! ロンロン! ロン! ロォォーン!! 邪魔する奴は皆滅ぼし、基本原則だ」
「承知しました……」

そして田中とイナシクサは地獄の第三層にやってきた。田中は身体についた砂塵が仕切りに降り注ぐ雨によって流れていくのを感じていた。
しかし同時にどこからか漂ってくる凄まじい獣臭さに顔をしかめてもいた。

「おい、ここ……たくさん犬とかいるのか? 何か臭いが強烈で鼻曲りそうなんだけど……」
「いや1匹しかいない、ここにはケルベロスという首が3つに分かれた非常に獰猛な獣が存在しているのだ」
「ふーん、で、勝てるのかそいつ?」
「無理だ」

キッパリ言い切るイナシクサに思わずずっこけそうになる田中。

「おいおいおい、俺らは世界を救いに行くんだぜ? つーことは必然的にヴゼルを倒すんだろ? ならケルベロスぐらい……」
「どうって事ある。奴と戦う事自体非常に骨が折れる。まださっきの雑魚悪魔を相手にしてた方が数万倍マシというレベルだ」

田中はがっくりと肩を落とそうとしたが、突然けたたましい遠吠えが田中の耳を劈いた!!
震え上がる田中。イナシクサは音を立てないように田中に歩くことを支持する。

「シッ……、もうすぐ近くにヤツがいる……。もし気づかれたら全力で逃げるしかない」
「あ、ああ……」

田中はその姿を一目見て腰が抜けそうになった。首が3つに分かれた犬のような巨大な化け物が亡者に襲いかかっては食い散らかしている。
果たして田中達は猛獣ケルベロスを潜り抜け、第三層を脱する事ができるのか!! 続く!!(多分)
78:えころ :

2019/09/19 (Thu) 11:09:44

田中一郎、異世界へ行く61

~前回までのあらすじ~
光の勇者ラグナス、怪物と相見える! 田中達、ケルベロスと遭遇!!
以上!!

キミ子は異世界から来た人間を次々に殺していたが、飽きてきたのかハーピーを嬲って遊んでいた。
すると、突然誰かに後ろから斬り付けられ、そのまま気を失ってしまった!!
ハーピーは目の前に現れた頼もしい青年にお礼を言ってからそのままキミ子から逃げていった。
そう、この青年こそ今怪物と相対していた光の勇者ラグナス・ビシャシである。
ラグナスは怪物のサタンから奪った力や急襲を全て受け切り、怪物を押していた。

「んん、手強いッ、ヴゼル様! こいつ後回しにしてあの子達を食い殺しに行っても良いですか?」
「いいだろう、認め……」
「させるか! お前は必ずここで仕留める!」

シェゾと角を折られ凹んでいたサタンがラグナスに合流する!!

「おいお前、強いじゃねーか! 俺達もこいつには恨みがあんだ! 協力するぜ!」
「私の角を折って食いやがって! 絶対に許さん!」
「ありがとう、さあ怪物! 覚悟しろ!!」

ヴゼルはイライラしていた。

「つ、次から次へと邪魔者が……。一体何だというのだ? 何故こんな男が都合よくこの世界に現れたのだ……?」

その頃、アルル達は村の近辺でキミ子から逃げたハーピーと合流していた。

「ハーピー! 無事だったんだね!」
「あの女は!? ここら辺をうろついて怪物をうようよ生み出してるんじゃ……」
「大丈夫~とても強い男の人が~私を助けて~くれました~」
「さっきあの怪物、悲鳴を漏らしてたわね。きっと今その男が戦ってくれてるのかもしれないわ」

ドラコは元いた場所へ引き返そうとする。

「それならあたし達も援護に行こうよ! みんなで戦えば……」
「ダメですわ、わたくし達がいてもきっと足を引っ張るだけ……ここはその方に任せましょう」

そして地獄の第三層、田中はこの異臭がケルベロスの体臭によるものだけでない事に気がついた。
見るとあちらこちらにケルベロスのものであろう排泄物が散乱している。異臭の真なる正体はこれであった。
田中達はケルベロスが尻を向けているちょうど後ろをついていくようにして進んでいた。幸いまだ気づかれてはいない……がしかし!!
突如ケルベロスが身体をブルブルと振るわせ始めた!!

「な、何だぁ? やっぱりこれだけ雨に濡れてると身震いの一つでもするもんなのか?」
「いや違う田中、これは動物がごく自然に行う身体機能の予備動作。つまりそれは……」

排泄!! そう!! ケルベロスの肛門から糞がドバーッ!! と放出される!!
強烈な臭いに鼻が曲がるどころか気を失いそうになる田中を引っ張り、イナシクサはケルベロスが排出を行なっている間に横を走り抜けていく!!
やったぜ。もう辺り一帯糞まみれや。
しかしその糞から亡者が生まれてまたケルベロスから逃げ惑うという無限ループが繰り返されていた。

「お、おい……イナシクサ、糞から人が生まれてるぞ、あれどういう事だ? 視界と匂いで発狂しそうなんだけど俺……」
「ここは暴飲暴食を働いた者が送られる地獄。亡者はみな生前の行いをあのケルベロスによって裁かれているというわけだ」
「いやキツすぎるだろ、ただ飲み食いしすぎたってだけだろ? さっきのクソムカつく悪魔がいるとこのがまだマシだぜ?」

ケルベロスは走り去っていく田中とイナシクサをじーっと見ていた。
そして腹が減ったのと同時に田中達めがけて凄まじい速度で走ってきた!

「うわあああ!! 追いかけてくるぞアレ!! やだよ俺糞まみれで生まれたくねえよ!!」
「急ぐぞ田中!!」

田中はイナシクサに腕を引っ張られもげるかと思うような激痛と顔にぶち当たる雨粒に耐えながら何とかケルベロスを振り切った!
遠くからケルベロスの悔しそうな唸り声が響いてくる。

「……なぁ今お前が引っ張ったとこの腕の感覚ないんだけどさ、繋がってる? 千切れてない?」
「繋がってなかったらお前は今ここにいないだろ? さあ、第四層への道が見えてきたし、さっさと行くぞ」

田中は大して心配もされない事に不満を感じつつイナシクサについていく。
光の勇者登場でヒーローの座を奪われるのか!! そんな事も知る由はなく進む田中達!! 続く!!(多分)
79:えころ :

2019/09/20 (Fri) 01:01:10

田中一郎、異世界へ行く62

~前回までのあらすじ~
ラグナス、大活躍!! 田中、ケルベロスを撒く!!
以上!!

時は再び巻き戻るッ! というかぶっ飛ぶッ!!
尻高は木田にこんなことをお願いしていた。

「なあ木田、その……お前が借りていた本、俺にもちょっと貸してくれないか?」
「え~~~一度図書室に返してからじゃなぁぁぁいとダメよ~~~?」
「いや後でお前の名前も書いておくからさ、とにかく必要なんだ……頼むよ」
「尻高君がそこまで言うなら……仕方ないわね~~~、ちょっと待っててくれ~~~る?」

そして木田は家に戻り、しばらくして本を持って出てきた。尻高は"魔導物語"を手に入れた!
木田と別れた後、尻高は魔導物語をペラペラと読んでみた。内容は前にも触れたので省略する。

「あの男は誰なんだ……? どうしてこんな本を必要としていた……? 何が目的なんだ……?」

尻高はあの男(ヴゼル)は田中の叔父でない事ははっきり分かっていたし、木田のベッドがなくなったのもそれのせいだと確信していた。
しかし読んでもさっぱり分からない、そもそも本を読みに来ただけなのだろうか。いや、それなら何故木田の記憶まで消したのか?
謎は深まるばかりだ。しかし尻高はこの際常識に囚われないものの考え方をしてみることにした。
何せあの男は明らかに不審なのに田中の親族を偽って溶け込んだり、嘘と思しき電話を学校にも寄越している。
何か人間を超越した力を持つ存在なのかもしれない。その男がこの書物を求めた理由……、それはたった一つしかない。

「この本にあの男にとって必要な情報が……、それは多分前向きな内容ではないはずだ」

読んで印象に残ったのは"ヴゼルという魔神がやってきてサタン以外の全ての人が死に絶えた"歴史があった事。
つまり過去からやってきた人物という事で、超常的な力を持っている者である。
それならあの男はこの"サタン"かもしくは"ヴゼル"という事になる。
ただ尻高はこの2択の中から自分なりにどちらの方が可能性が高いかを考えた。
まずサタンは被害者だ。そして現在はもう生きているかも分からないが、この書籍を残したのはサタンと見て間違いない。
そしてサタンがヴゼルを食い止めるために未来まで来て、この本を求めてきた可能性も否定できない。
だがこの書籍で明確に敗北が決まっている存在がいる。それはこの魔神ヴゼルである。
両者を天秤にかけた場合、どちらがよりこの本の内容を知る必要があるか……答えは明白だった。
しかしサタンにしろヴゼルにしろどうやってこの書籍を知ったのだろう。

「……田中がいなくなった事とあの男、何か深く関係していると見て間違いないな」

尻高は歩いていると、ふとさっきの男が空間に穴を開けて入っていくのが見えた。
そう、ヴゼルがクズどもをアルル達の時代に送り込み、天から彼女達が死ぬのを見るためにである。
尻高は男が完全に中に入ったのを見計らって穴が閉じてしまう前に入り込んだ!!

「う、うわあああああ!!」

尻高が目を覚ました場所。そこはアルル達の世界ではなかった。どうやら別の世界に送り込まれてしまったらしい。

「大丈夫かい、キミ。何だか魘されていたようだけだど……」
「こ、ここは……」
「私は勇者ラグナス。ここは私の家だ。勇者とは言っても魔王は倒してしまったし、特にやる事もないんだけどね……」

笑うラグナス。尻高は不審者を追って異界に通じる穴へ飛び込んだ事、そして魔導物語の話や自分の考えを伝えた。

「それは大変だな、よし! 私がその魔神ヴゼルを倒しに行こう! キミはどうするんだい?」
「あ、いや……できればですが、元の世界に帰りたいです」
「うん、それなら私に付いてくるといい。色んな世界に行ける不思議な裂け目があるんだよ」

尻高はラグナスとともに家を出た。長閑な風景が一望でき、自分が山の麓にいる事を把握した。
そして山を登り、空間に大きな裂け目が空いた場所まで案内された。

「……これですか?」
「ああ、ここに行きたい場所と年代を思い浮かべて入り込むと、その世界へワープする事ができるんだよ」
「随分アバウトだな……」

しかしラグナスは尻高を置いて中に入って行ってしまった! 少し考えた後、尻高も中に入った!

「えいっ!」

そして尻高は元の世界に戻っていた。ヴゼルが入って行った穴が開いていた付近に。

「……俺は幻覚を見ていたのか? いや、しかし……」

答えは見つからなかったので、尻高は学校へ戻っていく!! しかしもう授業はとっくに終わっている!! 続く!!(多分)
80:えころ :

2019/09/21 (Sat) 00:31:09

田中一郎、異世界へ行く63

~前回までのあらすじ~
ラグナスは尻高によって魔導世界にやってきたのだった!
以上!!

地獄の第四圏。入り口には浮浪者みたいな格好した門番がおり、しきりに何かを叫んでいた。

「おおサタン! おお偉大なるサタンよ!!」
「なぁ何言ってんだこのオッサン、サタンってあの世界にいたサタンの事か?」
「あれじゃない、多分この地獄の最下層にいる魔王の事を指してる。そしておそらくだが……」

あれ呼ばわりされるサタンは置いといて、田中はイナシクサの話に耳を傾ける。

「この男によって今我々がウロウロしている事を地獄の底にいる魔王に知られた可能性がある。派手な出迎えが待っているかもな」
「は、派手な出迎えって一体……?」
「我々を地獄に縛りつけようと悪魔どもが戦いを挑んでくる可能性が高まったという事だ。気を引き締めて進まねばな」

田中は身震いしながら、イナシクサとともに男の横を通って先へと進んでいく。
一方、ラグナス達。怪物食人鬼との戦いを繰り広げていたが、天からヴゼルの不敵な声が響いてくる。

「ほう、どうやらまた怪物が現れてくれたようだぞ。貴様一人で捌くのが難しいのであれば協力するがいい」

怪物食人鬼は動きを止めて、周囲を警戒する。無論、ラグナスも同様の行動を取る。

「な、なあ……案外ヴゼルが嘘をついている可能性もあるんじゃないか、今のうちに……」
「うぐっ!?」

後ろォ!! 言いかけたシェゾとサタンの首が背後から何者かに締め付けられる!!
それだけではない!! 注射針のようなものが刺され、2人の血液がどんどん吸収され、萎んだ状態で捨てられる!!

「うっへっへへ~、気持ち良いなああ~~、やっぱりこうしてキメないと調子出ないもんなあああ~~~」

呆気にとられるラグナスに怪物食人鬼の爪による一撃が炸裂!! ラグナスは受け身を取るが、負傷してしまった!!

「ヴゼル様、こいつ目の焦点が合ってないようですが……協力できるやつなのでしょうか?」
「こいつは生前麻薬に溺れていた者だ。今そこの奴らの血液を麻薬に変えてパワーアップしたが、協力するかどうかは貴様に任せよう」

怪物食人鬼はくるっと背を向けてラグナスから逃げていく!!

「任せたぞ麻薬に溺れしものよ!! 私は女の子達を食べに行く! 焼肉パーティーだ!!」
「あ、待て!! ぐっ、くそ!! ふんっ!!」

ラグナスは怪物が伸ばしてきた触手を切り裂いて、拘束を解く!! 怪物ヤク中参上!!
鼻歌を歌い始めるヴゼル!!

「ふんふんふふんふん、どこから来たか知らんが若者よ、貴様がそいつを相手し万が一倒せたとしてもさっきの怪物はもう小娘どもを始末してるかもな」
「勇者たるもの、魔神ヴゼル! 貴様の卑劣な所業!! 決して許しはしない!!」
「名乗りはいいからさっさと戦わんと焼肉パーティーが開催されちゃうぞ、ほらほら」

ラグナスは怪物ヤク中を迎え撃つ!! そしてアルル達!! 怪物の出現を警戒しながら慎重に進んでいた。

「とりあえず願いの神殿まで行こう、そこに行って色々回復して……戦う準備を整えよう」
「うん、さっきの怪物は誰か相手してくれてるみたいだし、それでも少し急いで行こう」

歩調を早めるアルル達。でもその余裕はとっくになくなっていた!! 何故なら!!

「あーいたいた、妙に明るいなあって思ったらやっぱりお望みのキミ達だったんだねえ、会いたかったよ」

声とともにテレポートするアルル達!! 攻撃する怪物!! アルルのポニーテールがバッサリ切られてしまった!!

「チッ、声かける前に襲うべきだったか。でもこの髪の毛も美味しそうだな、食べとこ」

地面に落ちたアルルの髪の毛をモシャモシャ食べる怪物食人鬼。

「うん、やっぱり美味しい。しかもあの子の力も手に入ったし、気合い入れて追いかけるぞー!」

再びアルル達のストーキングを開始する怪物食人鬼!! アルル達は助かるのか!? 続く!!(多分)
81:えころ :

2019/09/21 (Sat) 21:21:40

田中一郎、異世界へ行く64

~前回までのあらすじ~
怪物食人鬼、再びアルル達を追跡!! 怪物ヤク中登場!!
以上!!

怪物ヤク中との戦い!! 怪物ヤク中はつかみ所のない動きでラグナスを攪乱!! 攻撃が当たらず大苦戦!!

「お、おま、お前の血も寄越せ~~~、あっひゃ、ひゃはっははあああ~~~」
「くそっ……!」

その時!! 倒れていたシェゾとサタンが立ち上がる!!

「二人とも!! 良かった!! 無事……!?」

言いかけたラグナスに戦慄が走る!! 二人は白目をむき、よだれを垂らしながらラグナスに襲いかかってくる!!

「こ、ここっこいつらはもう、もうすでに俺のげぼっ下僕だぁ~~~、行けええええ~~!!」
「はっはっは!! 3対1になったな! この状況を覆せるかな!!」
「おまっお前も俺の仲間になって、い、一緒に気持ちよくなろうぜぇ~~~、あひゃひゃうひゃひゃははは!!」

ラグナスは逃げ出す!!

「ほう……、貴様も逃げ出すのか。勇者失格だな。しかしこの私に刃向かった事は死罪に相当する!! 行け貴様ら!!」
「に、逃がすわけねえだろおお~~~? お、追うぞてってめえら~~~」

逃げたラグナスを操った二人とともに追う怪物ヤク中!!
そして怪物食人鬼は強力になったファイヤーでアルル達の足下を絶えず焼こうと狙ってくる!!

「あ、あいつ……もしかしてハーピーの言う強い男を倒してやってきたって事……?」
「そ、そんな相手ますます勝てるわけありませんわ! わたくし達はもうおしまいなんですの……?」

青ざめた顔をして食人鬼の登場に絶望する仲間達。
だが、アルルは違和感を感じていた。怪物食人鬼は食おうという必死さが特になくどちらかというと弄んでいるように感じたからだ。

「ね、ねえ……! あいつ、もしかしたらボク達がどこに逃げるか知っててわざと逃がしてるんじゃないかな……!!」
「な、何ですって……!?」
「お、お前……! あたし達はともかく他の奴らにまで手出す気か!?」

逃げながら抗議するドラコに大股で歩きながら返答する怪物食人鬼。

「キミ達を食い殺す前に……助けてくれる人達がいるならそれを知っておくのも悪くないよね」

アルル達は目的の場所とは違う方向へテレポートする!! 怪物食人鬼は薄気味悪い笑みをやめ、真顔になった。

「ふぅん……? それじゃあ本格的に死ぬ事を選んでくれたんだ……、お望み通り食い殺してやるよ!!」

怪物食人鬼は即追いつき、アルル達に向かって本気のアイスストームをぶちかますッ!! アルル達の足を凍りづけにしてしまった!!

「ふっふふふふ……。今まで逃げられたのは私が情けをかけてたからなのにそれを自らかなぐり捨てるとはね……」

怪物食人鬼は動けないアルル達の目の前に現れ、また不気味な笑みを浮かべていた。

「安心しろよ……。キミ達の仲間もいずれすぐ同じ場所に向かう事になるさ……」

第四圏に入った田中とイナシクサ。しかし、入った途端大勢の亡者が田中達めがけて突っ込んできた!!

「どわあああ、何だ何だあああ!? 何で俺らに向かってくんだこいつら!!」
「田中、早く地面を思いっきり踏みならすんだ!!」
「は!? こんな時にダチョウ倶楽部かよ!? ふざけてる場合じゃねーぞ!!」
「いいからやれ!! こいつら我々をとっ捕まえるために向かってきてるんだよ!!」
「しゃあねえな、オラァァァァ!!」

田中は利き足を上げて思い切り地面を踏みつける!! スーパーサイキックストリーム!!
亡者どもは発生した衝撃波に思いっきりぶつかり、ドミノ倒しのようにバタバタと倒れていく!!

「す、すっげえ……、俺こんな事までできたのかよ……」
「まだ向かってくるようならそれを使え、少なくともここに収監されてる亡者どもは蹴散らせるだろう」
「元の世界に帰ったら柿の種に使お」

田中の放った一撃にビビったのか、他の亡者達は足を止め、その場に留まっていた。
すると奥から拍手をしながら、悪魔が田中達のところへ歩いてくる。

「貴様か。亡者にデタラメを吹き込み、突撃させたのは」
「何だと!? てめえ、ぶっ飛ばされる覚悟はできてんだろうな!?」
「……ここの亡者どもは血の気が多い奴らでな。少しは役に立つかと思ったが、やはり見当違いだったようだな」

田中達の前に悪魔参上!! 戦いの幕が切って落とされる!! 続く!!(多分)
82:えころ :

2019/09/22 (Sun) 00:51:03

田中一郎、異世界へ行く65

~前回までのあらすじ~
アルル達、大ピンチ!! そして田中達、悪魔と対決!!
以上!!

「さて、誰からにしようかな……。私としては反応が面白そうな子から食ってキミ達の心をかき乱したいんだ、それはつまり……」

今にも泣きそうに震えているウィッチの前に一瞬で移動する怪物食人鬼!!

「やっぱキミしかいないよねえ、ふふ……。他の子達を絶望させるためにも良い声で泣いてくれよ……?」
「ウィッチより先に私にしなさい!! その子に手を出す事は許しません!!」

怪物食人鬼はウィッシュの方を向き、口元を歪めていた。

「ふふ、ダ~メ。許す許さないは私が決め……」
「はああああッ、ファイナルクロスッ!!」

ズガァン!! ラグナスの本気の一撃が怪物食人鬼を真っ二つ!! そして復活する間も与えず、切り裂きまくる!!
怪物食人鬼はそのままドロドロと溶けてしまった。

「ふぅ、危なかった……。キミ達、その足の氷は溶かせるかい……?」
「うん! ありがとう、助かったよ!!」

アルルはファイヤーで氷を溶かしていく!! ドラコも炎を吐いて氷を溶かす!!

「あなたが怪物を相手にしていた強い男ね」
「良かった、やられたわけじゃなかったんだ!」
「うぐっ……、ふぇっ……。どうしてその技、早く使ってくれないんですのぉ……」
「……話は後だ、ヤツがここまでやってくる。……キミ達の仲間を手下にしてね」

まずヴゼルの舌打ちが鳴り響き、怪物もふらふらと現れる!!

「チッ、まさか怪物が仕留められ、アルルどもが助けられているなんてな」
「あっあっあのクソ野郎、お、俺に任せて逃げたくせにまっ負けやがったのか……だ、だらしねえ!」

そして怪物の後ろからサタンとシェゾがよろよろと合流してくる!!

「シェゾ!! サタン!!」
「無駄だ、呼びかけても怪物に操られている。あいつを倒せば元に戻るかもしれん……」

ヴゼルは不機嫌になりながらも怪物ヤク中に指示をする。

「ふん、まあ良い! 怪物よ、その操り人形を更に増やし、その勇者もどきを始末しろ!!」
「あ、アッアイアイサー、というわけだ……そこの小娘どもっも俺と一緒にきもっきも、気持ちよくなっちまえ!!」

サタンとシェゾがラグナスに襲いかかり、怪物はアルル達めがけて突進してくる!!
そして田中とイナシクサ、第四圏。悪魔の迎え入れを受けて二人は距離を詰めていく。

「ようこそようこそ、ここは貪欲と浪費を裁く地獄。亡者どもは互いに二つに分かれ、日夜喧嘩しているのだよ」
「それはご丁寧に。悪いが、そこを通してくれ。我々は一刻も早くこの地獄を抜けねばならんのだ!」
「先に喧嘩吹っかけといて余裕ぶっこいてんじゃねーぞクソ悪魔が! 失せねえと俺とイナシクサが許さねえぞ!!」

悪魔は笑い始める。

「なーにがおかしいんだこの野郎!!」
「いやいや失礼、お前達の実力を見込んで提案がある。この亡者どもを納得させる答えを出せばタダで通してやる」
「は? 今すぐ通せや! もしかして負けるのが怖くてビビってんじゃねーだろうな!?」
「いや田中、ここは奴の言う通りにした方が良いかもしれない」

田中は眉をひそめる。

「あいつは話がわかる悪魔かもしれない、もしここで我々が奴の願いを聞けば後々悪魔が襲ってくることもないかもしれん」
「何言ってんだ! そんなの嘘かもしれねーじゃねーか! さっきの悪魔だって約束破ったじゃねーか!」
「あれは雑魚だからな、しかしこの悪魔が出す試験に合格すれば我々が義理を通した事実は魔王に伝わるだろう」

田中は納得行かなそうな顔をしていた。

「で、でもこいつらを納得ってどうすりゃ良いんだよ……、明らかに人の話聞かなそうな奴らじゃねーか」
「それはお前も同じだろ」
「うっせー!」

田中とイナシクサは悪魔の試験をクリアできるのか!! 続く!!(多分)
83:えころ :

2019/09/23 (Mon) 02:30:48

田中一郎、異世界へ行く66

~前回までのあらすじ~
怪物食人鬼撃破ァ!! 田中とイナシクサ、悪魔の試練を受ける!!
以上!!

田中達は亡者達を見る。亡者達は何やら財宝の入った大きな袋をため息つきながらずるずる引っさげて歩いていた。
……大方田中達を襲って捕まえられれば罪を免除してやるとか言われたのだろう。

「なあイナシクサ、あいつらあんなの引きずってどこに運ぶつもりなんだ?」
「運んでるんじゃない、あれは奴らが犯した罪の重さを表した袋だ。償うまでずっとここであれを引きずってるんだよ」
「なるほど……、でもさ。あいつさっき二つに分かれてるって言ってたよな? 正直紅白帽みたいなの被ってるわけじゃないし分かんなくね?」

そう、亡者どもは皆袋を抱えているが、表面的には違いが全く分からない。というか田中は考えるのが苦手なのでイナシクサが考えるしかない。

「田中、悪魔も言った通り、ここは貪欲と浪費の罪を受ける場所。即ち財貨を自身の欲求のためだけに都合した者達というわけだ」
「罰ってあれだけか? さっきのケルベロスがクソまき散らしてた方が圧倒的にやばかったし、ここそんなに辛い場所でもねーじゃん」

なははと笑い楽観的な態度を決める田中の横でイナシクサは叫ぶ!

「金を貯めるべきだと思う者は左側に集まれ!」

亡者どもは動きを止め、悪魔の顔色を伺う。悪魔は首を左に向けて亡者どもに指図する。ぞろぞろと集団からいくつかの亡者が移動する。

「そして金を使うべきだと思う者は右側に集まるのだ!」

残りの亡者も移動し、くっきりと綺麗に二つに分かれてしまった。

「ちなみに田中はどっちだ?」
「は? 俺そこまで金に興味ねーしどっちでもいいよ。つーかマジでこんな綺麗に分かれるのな。普通悩んだりとかする奴出てくるだろ」
「そりゃまあ、ここは同じような罪を犯した者達が収容されてるわけだからな」

田中は金銭に興味が無いので、今までイナシクサに振り回された疲れからかあくびをする。

「そういやあの倉山って奴も金が目的だとか言ってたなあ……、あいつも死んだらここに落ちるのかな」
「いやあいつはここには落ちない。ここより深いところに叩き落とし、罪を永久に償わせてやろう」
「だな」

無駄話は切り上げて、亡者どもの言い争いに耳を傾ける田中達。

「金を貯めないなんて将来の事を全く考えない愚か者どもだ! 貴様らこそ永久にここで罪を償うべきだ!」
「いや違うね! 金を使わず流通を滞らせる身勝手な貴様らこそが罪悪に相当する! 罪を償う愚か者は貴様らの方だ!」

わーわー同じ事ばかり言ってる亡者達を見てしらけた顔をする田中。

「くっだらねえ……、どっちもどっちだろ。てめーの事しか頭になかったからここに放り込まれたんだろこいつら」
「亡者どもよ! ここにいる田中というガキを見ろ!」

イナシクサは突如田中を指さし、亡者に叫ぶ!!

「な、何だよ急に……」
「このガキは貪欲も浪費も犯し続けてきた男だ! お前達はこいつを見てどう思うんだ!」
「は!? 何言ってんだ! そんな事やってねーぞ!!」

亡者達はわーわー騒ぐが、次第に一人が疑問を覚えたのか黙り込み、瞬く間に両陣営は静まりかえってしまった。

「そうだ、この男は両方の性質を持つ! つまりお前達はこの男を完全に否定する事はできない!」
「……いや、だからやってないんですけどイナシクサさん」
「貪欲と浪費、どちらも片側に寄りすぎたがために罪科となった。お前達が今引きずっているもの、それこそが自身が怠った罪の証なのだ!」

亡者達はしばらく黙り込んで、渋々また大袋を引きずって歩き始めた。悪魔が拍手をして道を開いた。

「お見事。さあ、次の地獄へ進むが良い」
「は……? お、おい。あいつらは納得したのか? お、俺は金にこだわりがあるわけじゃ……」
「あんなもん冗談だ、いいからさっさと先へ進むぞ」
「おいお前嘘つきじゃねーか! お前もさば……むぐぅ!!」

イナシクサは田中の口を塞いで先へ進んでいく。
そしてラグナス、操られたシェゾのアレイアード・スペシャルとサタンのアセンションをかわし、二人をぶつける!!
二人は激突した衝撃で気を失ったのか、その場に倒れ込んでしまった!
それに気づいた怪物がラグナスをにらみ、身体から良い匂いのする煙を出して眠らせようとする!!

「いい匂いだな……、何か眠く……」
「嗅いじゃダメですわ! 鼻を押さえて!!」
「……けっ、そっそのままっ眠っちまえばおっお前らも……さっ最高にしわ、幸せになれるのによぉ~~~」

アルルとウィッシュは鼻をつまみながら怪物に呪文を放つ!!

「じゅげむっ!!」
「ビッグバン!!」
「けっけっけけけ、バ、バカな奴らだなあああ~~~、んなもん効かねえよ……、オラオラ感じてイっちまえやあ!!」

怪物ヤク中は先端が注射針になった触手をアルル達めがけて勢いよく伸ばすが!!

「そこだ、ファイナルクロス!!」
「ほ、ほげえっ!? し、しまった……こっこの野郎を忘れっのっぎぇぐえげええええええ!!」

隙をついたラグナスの必殺技で怪物を難なく処理!! ヴゼルの怒声が天から響いてくる!!

「ぬっぐおおお、ダァミッサックスガァッデム!! 貴様貴様貴様貴様ァ!!」
「落ち着きたまえ魔神ヴゼル。お前には怪物がまだごまんと残っている。怒るのはそれが全て倒された後でも遅くはないのではないか?」
「黙れ黙れ黙れィ!! どこの馬の骨とも分からぬやつが知った風な口を利くな! 貴様ここに来た事必ず後悔させてやる! 胸に刻んでおけ!!」

プリプリ怒るヴゼルに余裕の表情を浮かべるラグナス!! 次に現れる怪物やいかに!! 続く!!(多分)
84:えころ :

2019/09/24 (Tue) 03:14:10

田中一郎、異世界へ行く67

~前回までのあらすじ~
怪物ヤク中も撃破ァ!! 田中達、第五圏の地獄へ!!
以上!!

倒れたシェゾとサタンに駆け寄るアルル達!!

「彼らは血を抜かれている。まず増血剤を与えてから回復させるんだ」

ウィッチは増血剤をサタンとシェゾの口に含ませ、残り少ない魔力で回復魔法を唱え、しばらく待った。
皆、先の戦いで体力共に魔力をかなり消費し、ふらふらの状態であった。

「ファイナルクロスは威力が高いが当たりにくいのが難点でね、敵が隙を見せないと使いにくい技なんだよ」
「でもボク達でも倒せない怪物をほとんど一撃で倒せるんだからすごいよ!」
「流石に怪物が2体現れた時はヤバいって思ったけど、奴らに協力する意思というものがなくて本当に良かったよ」
「まぁそりゃ連れてきてるのがクズばかりだからな……正直貴様のような男が現れるなど計算外だったよ」

普通に会話に参加してくるヴゼル!! 目を覚ますシェゾとサタン!!

「くっ……、ここは……? 怪物はどうした……?」
「怪物ならここにいる……」
「ラグナス・ビシャシと言ったか、改めて私は魔神ヴゼル。この世界を破滅させるためはるばるやってきた」
「ヴゼル……!!」
「その通りだ。そして私はある少年からの伝令を受け、お前の存在を知り、この世界へとやってきた」
「ある少年だと?」

ラグナスは尻高から聞いた"魔導物語"の内容をヴゼルに話した。

「そ、そんな……。まさか本当にサタン様がおっしゃる通り、わたくし達が死に絶えてしまうなんて……」
(チッ、確か私と最初に出会った時、不審がっていたガキがいたな。まさかそこまでやっていたとはな……)
「ヴゼルはその話をもう知っているからこそ、デスタムーアを撃っても無駄なんだよね……」
「ね、ねえ……ボク達、今監視された状態でしょ? この状態で願いの神殿に行っても良いのかな……」
「しかしそこに行かなければ貴様らは戦況さえまともに整えられない。ならば行くしかないのではないか?」
「あ、あんたもついてくるんだろ? この卑怯な魔神め!」
「あたぼうよ、そこに怪物を仕掛ければまた新たに犠牲者が現れ、私の侵略もスムーズに進むのだからな」

不安に駆られる一同。しかしラグナスはアルル達に指示をする。

「行こう。奴の言う通り、戦況を整えた方がいい。何が襲ってきてもすぐ迎え撃てる準備を整えられた方が都合がいい」
「……うん、もしまた怪物が現れてもみんなで協力すればきっと倒せるよね」

アルル達は神殿へと歩いていく。当然ヴゼルも天からそれを見ている。
そして田中達は谷をズザザーっと降りて沼地まで出てきていた。

「案外あっさり通してくれたなあの悪魔、何か企んでんじゃねーだろうな?」
「企もうが企むまいがこの先は文字通り熾烈な地獄だ。そもそも地獄巡りをする物好きなどそうはいないからな」
「別に好きでやってるわけでもねーけどな」

沼地に近づいた瞬間、田中は身じろぎした。亡者どもが激しく殴り合ったり、お互いに肉を噛みちぎったりして激しく争っていたからだ。

「な、なあイナシクサ……。こいつらどうしてこんな喧嘩してんだ? さっきの奴らみたいなしょうもない理由か……?」
「違うさ、ここは憤怒の罪を裁く地獄。生前人と争う事ばかりして自身を省みなかった者達が送られる場所。たとえばお前とかな」

それを聞いて田中は少し不満げな顔をしたが、ここでイナシクサに言い返したら事実になるので何も言わなかった。

「この沼地を渡っていくしかないんだろ? でもこんな亡者どもが暴れ尽くしてる場所に入るのはさすがの俺でも気がひけるぜ……」
「そうだな。リンボにもカロンという橋渡しがいたが、ここにはプレギュアスという更に深い地獄へ送るための船頭がいるんだよ」

亡者どもが浸かっている汚い沼のほとりを歩いていると、一隻の船が凄まじい勢いで田中達に突っ込んできた!!

「貴様らが地獄を進んでいる者共だな? 話は聞いておる、さっさと乗れ!!」
「うむ、ありがとう。田中、乗るぞ」
「意外に親切じゃん? まあ上の悪魔達が俺らの事下に伝えてくれてるからか」

二人は船に乗って改めて亡者どもの醜い争いを間近で見る。

「うわ、喧嘩ってさ……やってる本人は夢中だから気づかねーのかもしれねーけど傍から見るとこんなに見苦しいもんなんだな……」
「俗世には乱闘が始まるとウキウキする輩もいるが、ここの亡者どもはエンドレスでやってるからな。飽きるまで見続けられるぞ」
「いやもういいよ……、こんなん見てたら俺まで気分が悪くなってくるわ……」

今までの自身の態度を改めようと少し心の中で思った田中!! 地獄を脱し、元の世界に帰れるのはいつか!? 続く!!(多分)
85:えころ :

2019/09/25 (Wed) 01:00:09

田中一郎、異世界へ行く68

~前回までのあらすじ~
地獄の沼を進んでいく田中達!!
以上!!

願いの神殿目指して歩くアルル達。だがその道中、底知れぬ不吉な感覚がアルルを襲っていた。

「ね、ねえ……何かボク達の前を誰か歩いてない……?」
「むっ、言われてみればそうだな……? 待て、後ろからも歩いてきてないか……?」
「も、もしかしてゾンビ!? まだ生き残りがいたんですの!?」
「おいヴゼル、お前また俺達に怪物を寄越したのか? 答えろ!」
「さあなぁ……? そんなに気になるなら貴様らが確かめればいいではないか」

シラを切るヴゼル。間違いなく敵が出現したと確信したアルル。ラグナスも光を放ち、辺りを見ると……!!

「こ、これはボク達……!?」
「な、何で俺達が前を歩いてるんだ! こ、こいつらは何だヴゼル!! おい!!」
「まずいぞ、足音が増えてる……つまり我々は増殖している! 何者かの手によって!!」
「い、一体、誰が……!? お、おばあちゃん!?」

ウィッチは驚く!! 何とウィッシュの体がうっすらとだが背景に同化していっている!!
無論ラグナスも例外ではない。気がつけばお互いの身体がどんどん薄まっていた!!

「これはどこかに隠れている本体を叩かないと、この怪奇現象は収まらない……。時間がない、戦えなくなる前に探すぞ!!」

そして田中達、沼を渡り巨大な城壁で囲まれた門の前にやってきた!

「すっげー、沼はあんな距離あったのにあっという間についたぜ。それにしてもでっかい街だなあ、地獄にも人が住むところあるんだな」
「ここはディーテの市。堕天使や罪人が押し込められた場所さ。さぁ、中へ入ろうか」
「おう」

だが城門の前にいた悪魔がイナシクサを呼び止める!!

「待て、貴様ら何者だ? 何故亡者を連れて歩いているのだ?」
「何っ? お前には話が伝わってないのか! 我々は地獄を脱するため先に進まねばならんのだ、通してくれ」
「そうだぜ、俺ら上の悪魔の試練を達成してんだ。それぐらい把握してろよな」

悪魔は意地悪な笑みを浮かべて、田中達に試練と言う名の無理難題を押し付けてきた。

「じゃあそうだな、私からも一つ試練だ。そこの亡者はリンボに帰れ、お前だけはこの先を通ることを認める。さぁ、どうだ?」
「てめえ! ふざけてんじゃねえぞ! 二人で通らなきゃ意味ねえんだよ!!」
「その通りだ、我々は一心同体の身。私は田中であり、田中は私であるのだ」

悪魔は鼻を鳴らして、訴えを突っぱねた。

「ふん、そんな屁理屈が私に通るか。試練は不合格。お前らは永久にこの場で立ち往生してるがいい!」

悪魔が合図するとガターンと城門が閉じ、イナシクサ達は閉め出されてしまった!!

「あ、この野郎!! 開けやがれ!! おい!!」
「困ったな……、この城門は私の力でも破壊する事ができない。万事休すか……?」
「はぁ? 弱音吐いてんじゃねーぞ! こんなところで諦めてたまるかよ! 何が何でも通るぞ!!」

田中は城塞の周りを歩いて入れそうな場所がないか探してみる! しかし、攀じ上れそうな場所はおろか鼠一匹入れる穴すらなかった!

「くっそー! バーニングサイキックパンチィ!!」

田中は城壁を思いっきりぶん殴るがぶつけた部分にダメージが反射するかのようにビリビリと伝わってくる!!

「あおおおおおおーっ!!」

地面を転がって激痛に悶える田中!! 果たしてディーテの市を抜け、次なる地獄に進めるか!? 続く!!(多分)
86:えころ :

2019/09/25 (Wed) 14:43:27

田中一郎、異世界へ行く69

~前回までのあらすじ~
田中達、ディーテの市の城門を塞がれて進めなくなってしまう!!
以上!!

「こ、……こいつらは俺達の分身みたいなもんで、つまり時間とともにどんどん増えて代わりに本当の俺達が消されちまうってことか!」
「それなら、分身を攻撃すりゃあたし達だって少しは時間を延ばせるんじゃないか!? ファイ……」

攻撃体制に入るドラコと全く同じ構えを取る前にいるドラコの偽物。

「待て、ドラコ! こいつらに攻撃しても無駄だ! 自分に攻撃が跳ね返ってくるだけだぞ!!」
「な、何よそれ……じゃあどうすればいいわけ!? このままじゃ私達、わけもわからないまま消滅しておしまいよ!」
「いや訳がわからないわけじゃない。この現象には条件があるんだ。ドラコ、一旦飛んで周囲を確認してみて!」

アルルはドラコに指示を出し、ドラコは言われた通りに飛んで周囲を確認してみた。
相変わらず自分達は増え続けていたが、偽物のドラコは飛ぶ体制に入っているだけで飛んでいなかった。
しかもアルル達が依然消えかかっているのに比べてドラコの変化が止まっているのをラグナスは確認した!

「地面か!! こいつは我々が歩いているこの地面に同化し、力を発揮しているんだ! 喰らえええ!!」

ラグナスは大地に向かってファイナルクロスを繰り出す!! シェゾやサタンも地面を攻撃する!!
すると……!!

「んぎゃあああっ、いっでええええええ!!」

地面に同化して広がっていた怪物が姿を現した!!

「てめえが俺達を消そうとしていたヴゼルの手先か!! 始末するぜ!!」
「そうは行くかよ! 俺の力を見破ったのは驚きだが、これならどうだ!!」

怪物は背景にあっという間に同化し、姿を消してしまった!!
増殖していたアルル達は消え失せ、アルル達は元に戻ったが、今度は酸素濃度がどんどん薄くなり、息苦しくなる!!

「て、テレポート……!!」

テレポート発動!! しかし、今いる位置に戻ってくるだけで発動するだけ魔力の無駄無駄ァ!!
そこで空や何もない場所に向かってひたすら攻撃を繰り出すが、怪物の位置が特定できず、大苦戦!!

「はっはっは!! そのまま窒息してしまうがいい! 貴様らの冒険もこれにて終了だな!!」

そしてディーテの市城門前。痛みが引いた田中が座り込んでイナシクサと話し合う。

「なあさっき俺達を船に乗せてくれたオッサンや上の悪魔に話を通してここ通してもらえねえかな」
「無理だ。ディーテの城門を仕切ってる悪魔に全てが任せられている。悔しいがあの悪魔をどうにかしないと先には進めない」
「でも城門は閉じられちまったし、どうやっても人の話を聞く部類の悪魔じゃねーだろ! どうすりゃいいんだよ!!」

と、その時!! 沼から蛇の髪を生やした怪物メドゥーサが騒ぐ田中達の前に現れた!!

「ケケケ、可愛い坊やだねえ、食い殺してくれるわ!!」
「黙れオラァ!! ハイパーサイキックパンチィ!!」

田中は先に進めない怒りを力に変え、スーパーサイキックパンチをグレードアップ!!
メドゥーサの腹をぶん殴り、怯んだ怪物はそのまま沼地にゴボゴボと戻った!!
イナシクサは少し考えた後、田中を見てある事を口にした。

「田中、モルモンの悟りで降霊術を開くしかない。神霊を呼び覚まし、強引にこの門をぶち破るぐらいしか突破口がない」
「モルモンの悟りだと!? よっしゃやってみるぜ!!」

イナシクサが田中の肩をガッシと掴み、田中は目を閉じて、手を合わせ瞑想する!!
ディーテの市城門前、一筋の光が差し込み、神霊が降臨する!!

「ワシはサボ神、君は見込みがある。どうじゃワシの後を継いで……、ぬごぉ!?」

イナシクサは降臨した神霊の両足をガッシリと掴み、城門目掛けて振り回し、思い切り叩きつけた!!
城門はボロボロと音を立てて崩壊!! サボ神は気を失ったまま、昇天してしまった!!

「よしぶっ壊したぞ!! 先へ進もう田中!!」
「まさか門を壊すとはな……、ここから先は進ません!! 沼に沈めいッ!!」

クソ悪魔が襲いかかってくる!! 田中達はこいつをブッ飛ばし、先へ進めるか!! 続く!!(多分)
87:えころ :

2019/09/26 (Thu) 00:01:34

田中一郎、異世界へ行く70

~前回までのあらすじ~
田中達、ディーテの市に突入!!
以上!!

悪魔の冥界流新魔業!! デモニックカッター!!
悪魔が腕を振り回す毎に風がカマのように鋭利になり、田中達目掛けて吹き荒ぶ!!

「田中、防御だ!!」
「ダチョウ倶楽部だな、よっしゃ任せろ!!」

田中は思い切り飛び上がり、両足で地面を思いっ切り踏みつける!! スーパーサイキックストリームがグレードアップ!!

「オラァ、ハイパーサイキックストリームゥ!!」

巨大な衝撃波が悪魔の放った風のカマを破壊し、その隙にイナシクサは一気に悪魔の所まで駆け寄る!!
そして悪魔にスライディングタックルをぶちかまし、バランスを失った所で田中が思いっ切り飛び上がり、悪魔の顔面にお見舞いする!!

「デストロイ・バイオレンス・ラッシュゥゥゥ!!」
「ぐぼぼぼぼああっ!?」
「シメのハイパーサイキックパンチィ!!」

凄まじい衝撃が悪魔の顔面に放たれ、吐血しながらぶっ飛び、地面を転がっていく!!

「がはっ、どばっ! げはぁ!!」

転がる悪魔を見て、イナシクサは満足気に頷く。

「うん、田中。これならお前と一緒に地獄を切り抜けられる!」
「ったりめーよ! 何か俺ここに来てからさ、力がみなぎってきてるような気がするんだよ」
「ここは憤怒の地獄。もしかしたら無意識下でさっき沼で殴り合ってた亡者どもの影響を受けたのかもな」

悪魔は立ち上がり、乱闘を見ていた罪人や堕天使に命令をする!!

「こやつらをひっ捕らえい!! もし捕まえられるものがあれば堕天使は天に、罪人は罪を免除し、転生を許そう!!」
「んなアホな!? あいつにそんな権利ねーだろ!?」
「いやあるのかもしれない、田中。ここを脱する事をミーノスに神への反逆と言われた。その事魔王に伝わっていたならそれも十分許されるのかもしれん」

亡者や堕天使が田中達目掛けて突っ込んでくる!!

「またこれかよ……ほんとムカつくなあ! 俺らはこんな所で足踏みしてらんねえんだよ!」
(あらあら田中君。あなたバーニングサイキックスクリューなーんて言ってぐるぐる回ってたじゃない)

こんな時に何故か倉山の言葉を思い出していた田中。

「田中、またハイパーサイキックストリームで亡者どもを蹴散らすか?」
「いやイナシクサ、俺にはもう恥も外聞もいらねえ!! 俺は俺のやりてえ事、進むべき道を行くぜ!!」

田中はバーニングサイキックパンチで腕に炎を纏わせ、そのままバク転の構えを取り、空中で猛烈に回転!! 炎を全身に纏わせ、亡者どもに突っ込んでいく!!

「あぢぢぢっ!!」
「ひいやっ!?」

亡者どもは暴走回転をして突っ込んでくる田中を避けて、そのまま道を通してしまう!!
そしてイナシクサも諦めず群がってくる亡者をスラスラとかわし、田中に追いつく!!

「バーニングサイキックスクリューか! 凄まじい成長じゃないか田中!」
「ぐぬぬぬ、このまま逃げられると思うなァ!!」

後方がざわつく。何と沼からメドゥーサが繰り出され、市内に入り込んできたからだ!!

「また奴か。どうする田中?」
「逃げようぜ、どうせ戦っても得になる事なんか何もねーしな」

田中達は気がつくと、墓地がある平原に出てきていた。そして後ろに見えていたはずのメドゥーサ達も消えていた。
墓は蓋が開いており、中から炎が吹き出ているというなんとも奇妙な光景であった。

「なあ、ここって墓地か? さっきまで俺ら街中に出たと思ってたのに……これは何なんだ?」
「田中、我々は試練を達成したのだ。ここは第六圏。異端者の地獄と言われ、その墓場に亡者達が収められているのだよ」

田中は理解が追いつかなかったが、とりあえず次の地獄に進めた事は把握した。
そしてアルル達、目に見えない怪物との戦いに苦戦中!! しかも紫の煙が撒かれる!!

「毒ガスだ!! みんな鼻や口を塞げ!!」
(さっきテレポートを唱えた時、拒否された。という事はどこかにまた元に戻る地点があるはず……)

アルルはラグナス達に指示を出す。ラグナスは頷き、アルルが先に歩いて行き、その後ろをゆっくりついていく。

「何をやっているのだ? こんな時に仲良く行進でもして状況を打破できるというのか?」

そしてアルルがある場所まで行くとまた元の場所に戻った事が確認できた!!
ラグナスはアルルがぶつかり、後ろに戻された所目掛けて思い切り剣を突き刺す!!
シェゾも闇の剣を突き刺し、サタンもその場所を攻撃!! ルルーもぶん殴り、ドラコは炎を思いっ切り吐く! ウィッチも箒でしばく!!
するとアルル達を覆っていた空間に穴が空き、シュルシュルと萎んだ怪物がアルル達の前に現れる!!

「俺の人生はこれから始まるんだ……、ヴゼル様に借金を立て替えてもらって今度こそギャンブルで一発当てるんだよ!」
「当たらねえよ! それにお前の人生はもう終わってるっつーの! 諦めて往生しろ!!」
「ハァハァ……、死ぬかと思いましたわ……」
「断る!! そして俺は逃げる!! 次こそはお前らを仕留める!! 覚えてろよ!!」

逃げ出す怪物債務者!! 後を追うラグナス達!! 続く!!(多分)
88:えころ :

2019/09/26 (Thu) 11:41:58

田中一郎、異世界へ行く71

~前回までのあらすじ~
田中達、第6圏に突入! アルル達、怪物を追う!
以上!!

ラグナスは逃げる怪物債務者の前にテレポートで回り込み、間髪入れず切りつける!!
そして追いついたアルル達も怪物に攻撃を加え、悶えた怪物はそのままドロドロに溶けて消滅した!!

「ふぅ、またどこかに隠れられて襲われたらたまったもんじゃないからな」
「でもまだ怪物は残ってるみたいだから注意しないといけないけどね」

アルルは笑っていた。仲間達も暗い表情だったが、ラグナスが来てからは表情が柔らかくなっている。
特に恐怖に震え、青ざめていたウィッチもいつものような明るい顔に戻っていた。希望を見出してきた証拠であった。
ヴゼルは困惑していた。

(クソッ、どの怪物もアルルどもを凌駕する力を持っている事に間違いはないが、問題はあの勇者だな……)

ヴゼルは田中の事を思い出した。何の役にも立たなそうな男だったが、無類の強さでアルル達を絶望の底まで追いやっていた。

(あのガキといい、人でなしの女といい、奴らは私が力を授ける前から特別な力を持っていたというのか……?)

と、その時アルルもラグナスに田中の事を話し始めたのである。

「もうここにはいないんだけど、田中っていうとっても頼もしい子がいてね、ボクは田中ならヴゼルを倒せるって思ってたんだけど……」

表情が柔らかくなっていた仲間達の顔が少し曇っていた。

「そうか、彼の想いを繋ぐためにも私が必ず魔神ヴゼルを討とう」
「うん……」

そんな想いを特に残したわけでもない田中は一つの墓地から呼び止める声が聞こえてきて、飛び上がっていた。

「うわぁ!! 何だ!? やっぱ墓場だから幽霊とか出てきちゃうのか!?」
「お前も幽霊だろ、心配ない。ここの墓地に眠るもの達が我々に危害を加えてくることはない。話を聞いてみよう」

声がした墓に近づいていく田中達。墓の上にはその場にそぐわない小型のディスプレイが置いてあった。

「……ぼくはリュックです。そこに置かれているハッピーさんを持っていってあげてください。きっとあなたがたのお役に立つはずです……」
「お前は何者だ、何故こんな装置を我々に授ける?」
「ぼくは魔王軍の進行に遭い、命を落とした身です。あなたがたが同じような境遇にあると耳に入れ、つい呼び止めてしまいました……」
「分かった、これは持って行こう。それでは」

イナシクサは墓の上にあるハッピーさんと呼ばれた機械を手に取り、一礼してからその場を去っていく。田中も少し頭を下げてから後をついていく。

「何なんだろうな、それ。機械だから誰かと通信を取ったりとか色々できんのかな?」

田中はイナシクサからハッピーさんを受け取り、色々弄るが何も反応はない。

「電源が入ってねーのかな、まぁ使えようが使えまいが関係ねーけどな」

田中はイナシクサにハッピーさんを返し、先に進むと酷い悪臭が襲ってきた!!

「うげえっ!? くっせえ!! ケルベロスのクソよりひでーにおいだぞこれ!!」
「田中、歩いていて気づいたかもしれないが、この地獄はカーストをひっくり返した層構造になっていて下に進めば進むほど狭くなっていくんだ」
「そうなのか?」

何も注意や関心を払わずここまで来た田中に呆れつつ、イナシクサは説明を続ける。

「ここから先の地獄はさらに狭い分、密度が高く、これまでと比べてもグッと危険度が高くなるんだ。言わばこの悪臭は部外者に強烈な地獄がある事を認識させるためのものだとも言える」
「するってえと今までそんなに数が多くなかった悪魔もたっくさんいて、そこの亡者どももやべー奴らが集まってるってことか?」
「そういう事だ、ここからがいよいよ本番だ。まぁお前はそれなりに戦えるようになったとは言ってもやられることもあるかもしれない。行く覚悟はできてるか?」
「うん、でもここくっさすぎるから入る前にちょっと慣らしてからでいいかな? マジでゲボッちまいそうだからよ」

イナシクサは頷き、2人はしばらく残り3層に続く場所で留まる事にした!! 田中達を待ち受ける地獄とは!! 続く!!(多分)

「なあイナシクサ、あの悪魔達は結局幻覚だったのかな?」
「いや、あそこは収監されるべきと判断されたものが留まる空間なんだ、つまり本来我々が辿るところと切り離された場所と考えるべきだな」
「ふーん」
89:えころ :

2019/09/27 (Fri) 00:02:53

田中一郎、異世界へ行く72

~前回までのあらすじ~
田中達、地獄を抜けるまで残り3層!! 怪物債務者撃破!!
以上!!

怪物を倒した後、ようやく願いの神殿についたアルル達。アルル達が大声を出すと、中から1人の少女が灯りを持って出てきた。

「アルルさん! それに勇者様まで……皆さんご無事だったのですね!」
「ああ、それより彼女達はヴゼルが仕掛けた怪物達との戦いで疲労困憊だ。早々に休息を取らせてやってくれ」
「ええ、もちろん! さぁさぁどうぞ中へ!!」
「あれ、ラグナスは入らないの?」
「私は外を見張っておく、怪物が来たらすぐ知らせるから安心してくれ」

アルル達はお言葉に甘えて中に入っていった。中に入ると、大柄な牛の怪物がブルブルと怯えていた。
ルルーはそれを見て怒鳴った!

「ミノ!! あんたこんな所で何してるのよ!!」
「ひええっ、る、ルルー様……ご、ご無事で何よりです……!」
「無事で何よりじゃないわよ! あんた私を放り出してこんな所で避難なんかして!!」
「ま、まあまあ、ルルー……。敵は想像以上に強いし、しかもいきなり襲ってくるから無理もないって……」

ルルーはミノに一発ゲンコツを与えてから、そっぽを向いてアルル達から離れていってしまった。

「お、ハーピー。お前もここに避難してたか。そして横にいるのはすけとうだらと鱗魚人か……」

すけとうだらとは田中に齧られ食い物失格と罵られ、倉山に拾われるが生臭さのために捨てられたあの魚である。

「外にはヴゼルがいるんだろ? ヤツは何をしてるんだ?」
「よく分からんが、会話をしてくるだけで直接危害は加えてこない。まぁ怪物はどんどん襲ってくるけどな」
「……も、もう終わりよ……私達はきっと怪物に散々いたぶられて殺されるの……間違いないわ……」
「そんな事ねえって、元気出せよ! いざという時はこの俺様も怪物と戦う覚悟があるんだからよ!」

ジト目ですけとうだらを見るアルル達。

「元気が~ないならぁ~私の~歌で~明るくなって~くださぁ~い~」
「なるか! 歌わんでいい!」
「困ったなの~、これじゃあ商売上がったりなの~早くヴゼルを何とかして欲しいの~」
「そうね、村は怪物やゾンビの出現で散らかり放題だから早くお掃除したいところだけど……」

顔見知りの多くが無事であった事に安心するアルル達。
ハーピーのように歌ったり、お茶を呑気に啜っている骸骨、元気に走り回っているナスのように明るいもの達。
そして家族を失って泣き崩れるものやこれからの将来に不安を覚えただ俯いている者達など様々であった。

「私の城はどうなっているだろう……、怪物に破壊されたり、そこを拠点にされたりしてないだろうか……?」
「怪物がいるかもしれないとなれば、私の塔もそうですね。尤も部屋は怪物化した田中さんに壊されてしまいましたが……」

強い勇者に外を任せてる事、中の者達の弛緩した雰囲気に流され、サタンやウィッシュもこの時はヴゼルの事を話さずにいた。
しかしアルルは分かっていた。今こうしている間にも異世界から来た人間が怪物として蘇り、この場所を襲おうとしている事実を。
そして田中はしばらくして吐き気を堪えながら、イナシクサと共に谷を降り、いよいよ地獄の第7圏に突入した!
崖を降りて進もうとすると、その前には上半身が牛の怪物が先に通すまいと立ちはだかっていた。

「あいつも地獄の番人か、邪魔くせえな、やっつけてやろうか?」
「あれは怪物ミノタウロスだ。田中、あいつと戦うのも時間の無駄だ。できればあいつも撒いて先に進むのがベターだな」
「撒くって……俺らの前に突っ立ってやがるんだぜ? ぶっ飛ばさねーでどうするってんだよ?」

立ちはだかるミノタウロス(ルルーの護衛とは別個体)!! 田中達は怪物を退け、先に進めるか!! 続く!!(多分)
90:えころ :

2019/09/27 (Fri) 10:39:19

田中一郎、異世界へ行く73

~前回までのあらすじ~
アルル達、ようやく休む!! 田中達、ミノタウロスと遭遇!!
以上!!

イナシクサはミノタウロスの前に歩いていく。田中も構えながら後をついていく。

「何者だ、貴様らは……。この先の地獄を進もうなど、余程の重罪人か大悪魔しかいないはずだが……」
「ミノタウロスよ、貴様は自分を殺した宿敵テセウスを裁くため、ここで門番を任せられているというわけか」

それを聞いた瞬間、ミノタウロスの目に怒りの炎が滾り、鼻息を荒くし、イナシクサをにらみつける。

「その通り、私は奴が重罪人としてこの地獄を通ることを待ち続けているのだ! 奴への恨みは必ず晴らさなければならぬ!」
「残念だがそのテセウスは天国にいる。お前が討つべき仇などもうここを通る事などないのだよ」
「ふざけるな! 貴様は嘘を言っている! 我が宿敵が何の罪状もなく天に昇っただと!?」
「大方お前はこの地獄の悪魔に唆されてここで番人をやらされてるに過ぎぬ、怪物が天に昇り、報復をする事など不可能なのだからな」
「ほざけ!! それなら貴様らを今ここで討ってやる!! 我が無念を思い知れェェェェい!!」

ミノタウロスはなりふり構わず突っ込んでくる!! が、しかし動きがあまりに一直線なので田中も簡単にかわす事ができた。
そして壁に激突しても怪物は止まらず、ガンガンと頭を打ち付けて、完全に我を忘れている状態になっていた。

「な、なぁ……あの化け物……一体何なんだ? 誰に殺された恨みがあるんだよ?」
「田中、テセウスは英雄だ。あの怪物は若い女を好み、それを生け贄として出すよう強要してたんだ、だから討たれただけの話だ」
「何だよじゃあ結局あの怪物が悪いんじゃねーか、逆恨みなんかしてるから地獄の番人なんかやらされてんだよ、アホな奴だぜ」

怒り狂うミノタウロスを尻目に先へと進んでいく田中とイナシクサ。
途中の道はゴツゴツしており、何度もつっかえて転びそうになったり、足に刺さるような痛みが走ってきて苦しむ田中。

「だあああっ!! いでででっ!? 通るだけで地獄じゃねーかこれ!!」
「田中、頑張れ。後もう少しだ。ほら、見ろ。真っ赤な川が見えてきたぞ」
「うええっ、何じゃありゃあ!? まるで血溜まりじゃねーか、こんなところ渡るって言うのかよ!?」

とりあえず苦痛に悶えながらも何とか川の前まで降りてきた田中達。

「こ、こんなところ二度と来たかねえって思うけど……ここも船で通って渡るんだろ? ……中に入れとか言わねーよな!?」
「田中、とりあえずこの血の川のほとりを歩いて崖の下まで進んでいこう。あまり気分が悪くなるなら見ない方がいいぞ」
「あ、ああ……」

田中はおぞましいほどに真っ赤に染まったその川から目を背け、イナシクサの後をしょぼしょぼとついていく。
そしてアルル達はしばらくヴゼルの事を忘れ、安心して眠っていたのだが……!!

「みんな起きろ!! 怪物のお出ましだ!! 食い殺されるぞォ!!」

ラグナスが血相を変えて、中に入ってきた!!

「くっ、やはりもう来やがったのか……!!」

構えるサタンとシェゾ。アルル達も騒ぎを聞いて目を覚まし、怪物の出現に備える!!
現れたのは人間と大して変わらない大きさの怪物であったが、何か様子が変であった!!

「まっ、待ってくれ!! 私は勇者ラグナスだ!! そこにいるのは偽物の私だ!!」
「アルル、この怪物は嘘を言っている。私を騙り、そう振る舞う事で食い殺そうという魂胆だ」

困惑するアルル!! 果たして偽物はどっちなのか!? 続く!!(多分)
91:えころ :

2019/09/27 (Fri) 17:50:45

田中一郎、異世界へ行く74

~前回までのあらすじ~
怪物出現!! しかし……!!
以上!!

正直アルルはどっちが偽者かは分かっていた。あの怪物こそが勇者ラグナスである。
だがそれが分かっていたところで下手には動けない。目の前にいる敵はおそらく身体を入れ替える力を持っているのだろう。
魔導住民が慣れ親しんだアルル達のいずれかに入れ替わっていたのであれば最悪怪物が暴れた後でも住民達は信じてくれるだろう。
しかしこのラグナスはいわば田中と同じ余所者だ。当然住民達だって彼の素性など知る由もない。
ここでラグナスの姿をした怪物が殺戮を働き、住民達の心に大きな傷をつけたとなればせっかく正義のために来てくれた勇者という立場も台無しである。

「よし怪物が動けない間に決着をつけるぞ! シェゾ!! サタン!!」
「お、おう!」
「待って!!」

アルルはシェゾとサタンを止める。

「どうしたアルル、目の前には怪物がいるんだぞ。しかもここには戦えない人達だってたくさんいる。さっさと倒した方がいいだろ」
「アルル、あの怪物を攻撃したらまずい理由が何かあるのか? ……奴はすでに罠をはっているのか?」

二人はあの怪物がラグナスだとは思っていないらしい。そこでアルルは偽者のラグナスに声をかける。

「ねえ、戦うならせめて外に出ようよ。こんな神殿の中で戦われたりしたらみんなに危害が及ぶのは目に見えてるじゃない」
「しかし、アルル。奴はすでにここまで攻め入ってきている。外で戦うならせめて奴を……」

怪物の姿をしたラグナスはアルルの言うことに従った。

「よし分かった、外に出よう。」
「待って、出るのはボク達のそばにいるラグナスが先だよ」
「あ、アルル……。お前さっきから何を言っているんだ? 遊んでるんじゃないんだぞ?」

偽者のラグナスはイライラしていたが、アルルは切り返した。

「あの怪物は少なくともボク達を襲わないよ。ここでボクの言うことが聞けないならキミが怪物って事になるけどそれでいいの?」

偽者のラグナスの顔が歪み始める。
そして田中達は崖を下りて、下半身が馬になった怪物ケンタウロスのところまでやってきていた。しかも複数いた。

「止まれ貴様ら!! それ以上近づくと弓で脳天を射貫くぞ!!」

イナシクサと田中はケンタウロス達の言うとおりに立ち止まる。

「田中、言い忘れていたがこの第7圏は暴力者の地獄と言われていてな。ここは他人に危害を加えた者を裁く場所。暴力はお前にとっても縁の深いものだな」
「うん、説明はいいし、最後の余計な一言もいらねえからとりあえずこの目の前の怪物どもをどうにかしようぜ」
「ほう、そこの貴様……。この地獄の内情を知っているという事は貴様らが例の地獄を脱したいという変わり者というわけか」
「なるほどなるほど、こんなガキと細身の男が数々の地獄を抜け、わざわざここまでやってきたのか……」
「がはははは! いい暴れっぷりだな! 気に入ったぞ! 尤もこの地獄を抜けられると俺は思わねえがな!」

ケンタウロスは構えるのをやめ、田中達に敵意は向けず、語りかけてきた。

「ところでどうしてお前達はここを抜け出そうとしているのだ? そこのガキはすでに死んでいるようだが」
「私はイナシクサ。そしてこいつは田中一郎。田中は最悪の魔神ヴゼルを討つ力を持っているが、その力を引き出しきれず、命を落としてしまったのだ」
「そのヴゼルとかいう諸悪の根源にリベンジするためにわざわざ墜ちた地獄から戻ろうというわけか」
「なるほど、確かに並大抵の亡者ではなさそうだな。リンボからはるばるこの場所まで降りてこれた事が何よりの証拠だ」

田中はそう言われて少し照れくさそうな顔をしていた。まあ田中自体にヴゼルを倒すという大層な目的はないのだが。

「よしお前らをここから先へ通そう。途中までは連れて行ってやろうじゃないか。私の背に乗るがいい。」

意外そうな顔を浮かべる田中の横で頷くイナシクサ。二人はケンタウロスに乗り、地獄を進んでいく!! 続く!!(多分)
92:えころ :

2019/09/28 (Sat) 01:59:33

田中一郎、異世界へ行く75

~前回までのあらすじ~
アルル、怪物の正体を見破る!! 田中、初めての乗馬(ケンタウロス)!!
以上!!

「アルル……、お前はあの怪物に洗脳されておかしな事を言うようになってしまったんだな」
「はぁ? 違うよ、ボクがキミの立場だったらこんな所で戦うなんてできないって言ってるだけだよ? キミ、勇者なんでしょ」

怪物の姿をしたラグナスは頷く。

「そうだとも、勇者ラグナス・ビシャシは怪物を倒す事だけを目的としていない。魔神ヴゼルを討ち、この世界に平和を取り戻すため戦っているのだ」

サタン達は困惑していた。

「あ、アルル……。じゃあ向こうの怪物はラグナスで、そいつは入れ替わっているという事なのか?」
「なっ、クソ! そんな卑劣な力を使って俺らを欺こうとしてやがったって事か!?」
「覚悟なさい! あなたに逃げ場所なんてありませんよ!!」

構える仲間達。震えてその様子を見守っている住人達。

「あっはっは! しょうがねえなあ、バレちまったか小娘! その通り、俺様こそがヴゼル様に導かれここへやってきた怪物だ!」
「てめえ、覚悟しやがれー!!」

シェゾが闇の剣を偽ラグナスに振り下ろそうとしたその瞬間!!

「ま、待ってシェゾ!!」
「なっ……!?」
「そんな、バカな……!?」

ラグナスにアルルが乗り移り、怪物はアルルの体に取り憑いてしまっていた。シェゾは思わず立ち止まる!!
アルルに乗り移った怪物は白々しく、こう言い放つ!

「あっれれー、どうしたのかな、シェゾ。そのラグナスは偽者なんだよ? さっさと倒さないと全員やられちゃうよ?」
「黙れ!! 貴様……よりにもよってアルルに取り付くとは……」
「アルルさんの体を返しなさい!!」

アルルの姿をした怪物は不敵な笑みを浮かべている。

「そうか、この可愛い可愛いアルルちゃんは攻撃できないって事か……、クックック! いい感じだねぇ」
「鉄拳制裁!!」

ルルーの渾身の拳がアルルの姿をした怪物にクリーンヒットォ!! そのまま怪物の姿をしたラグナスの所に吹っ飛び、キャッチして外へテレポートする!!

「ぐはっ!? こんな事が……! だがしかし俺様の体はアルルちゃんのままだぜ? 勇者様よ、それはどういう事だか分かるよなあ?」
「分かるさ、だからこそお前をアルルから離す方法があるんだ、たった一つのシンプルな方法がな」

ラグナスはアルルの姿をした怪物に思いっきり腹パンをかます!!
その様子を見ていたヴゼルが呆気に取られる。

「ぐっは!? て、てめえ! 話がわか……ごはぁ!?」

徹底的にアルルの姿をした怪物をいたぶるラグナス。

「き、貴様……仮にも勇者であろう? イかれてるのではないか?」
「そうだ、イかれてるぐらいが丁度いい。お前達のような手段を選ばぬ輩には……な!!」
「ひっ、ひいいいい!?」

怪物はラグナスの余りの剣幕の前にひれ伏し、つい力を解除してしまう!!
そして勢いよく神殿から元に戻ったラグナスが飛び出し、必殺技を放つ!!

「そこだ、ファイナルクロス!!」
「ぎゃ、ぎゃあああああ!!」

アルルも痛みを堪えながら、怪物にファイヤーを繰り出し、トドメを刺した!!

「大丈夫か、アルル。すまないな手荒な真似をして」

ラグナスは急いでアルルにヒーリングをかけて体を起こさせる。

「うん、大丈夫……。でも怪物が結構弱そうな奴で助かったね……」
「キミが見抜いてくれなければ、結構ヤバい感じだったかもしれない。ありがとう」

アルルは笑って、再び神殿に戻っていく。ヴゼルは若干引き気味の様子でラグナスに話しかけてくる。

「や、やはり貴様は……優先的に排除すべき対象だな……今のを見てそう思ったよ……」
「何を言う魔神ヴゼル。鬼畜さではお前の足元にも及ばん。それにしてもあんな怪物に不意を突かれるとは恐れ入った。反省しなければな」

そして田中達。ケンタウロスに乗って血の川を進んでいくが、初めての乗馬に慣れない田中はイナシクサに必死にしがみついていた。

「ははは。田中、そんなに力を入れて私にくっつかなくても大丈夫だ。振り落とされる心配などいらんよ」
「うっ、うっせー! こんな馬に乗る機会なんか俺にはねーんだよ! しょーがねーだろが!!」

ふと田中は強がりからか見たくない血の川を見てみる。すると中からブクブクと泡が立ち、亡者が姿を現した!

「んぎゃああああ!!」
「はっはっは! 田中、あれは罪人さ。血の川から這い出ようとするとこのケンタウロス達が弓を射てまた川の中に沈めるんだよ」
「んな上機嫌で言うなぁ!! あんなの見てられんわぁ!!」

しかも進んでいく毎にこの血の川は異様な程の高温である事さえ分かり、田中はこの瞬間が永遠にすら感じていた。
向こう岸についた頃には田中はぐったりしていた。イナシクサはケンタウロスに礼を言い、田中の背中を叩く。

「どうした、もうへばったのか? まだまだ地獄はこれからだぞ、気張って行こう!」
「い、嫌な事言うなよなぁ……、タダでさえうんざりしてるってのによう……」

田中はふらふらとイナシクサの後をついていく!! 次に田中達を待ち受ける地獄とは!! 続く!!(多分)

「ちなみにさっきの怪物は子供部屋に引きこもった男だったがやはり役には立たなかったようだな、うーむ……」
「そうか」
93:えころ :

2019/09/29 (Sun) 14:34:57

田中一郎、異世界へ行く76

~前回までのあらすじ~
田中達、ケンタウロスの背に乗って血の川を突破!! あと怪物こどおじ撃破ァ!!
以上!!

イナシクサの後を続いて歩いてきた田中は森にやってきていた。ふと後ろを振り返ると、ついさっき渡ってきた血の川は見えなくなっていた。

「まただ。血の川が見えなくなってやがる。ここも空間が切り離されてるって事か?」
「まぁそんなところだ。お前にはその方が分かりやすいからな。そして田中、ここは自殺者の森だ。辺りの木々を見てみろ。変わってるだろう?」

なんかバカにされたような感じがしたが、そこは置いといて田中は言われた通り周囲を見てみる。どの木も潤いがなく、枯れているように見えるのに黒い葉がついていた。

「何だ……気持ち悪い樹木だな……? 実もなってねえし、鳥や虫が囀ってるわけでもねえ。これは何なんだよ?」
「そいつは自殺者の成れの果てだ」
「うえええっ!? ……って脅かすなよな。さっきの血の川はともかく、こいつが罪人の成れの果てなんてちゃんちゃらおかしいぜ」

田中は一本の枯れ木に寄りかかってみた。するとうぅ…うぅ…と不気味な呻き声が聞こえてきた。
思わず仰け反ると、寄りかかっていた樹木の上に鳥の姿をした人面の怪物が降り立った!!

「うお!? 何だこいつ! イナシクサ、こいつも番人か!?」
「そいつはハルピュイアという怪物。ここで枯れ木と化した罪人の葉を啄ばみ、裁いているのだよ」

しかもとんでもない悪臭が田中の鼻を覆う!!

「ヴォエッ、くっせえ! 何だ糞垂れやがったのかこいつ!!」
「自殺も神への冒涜と考えられている大罪だ。罪人はここで抗うことすら許されず、何もできぬまま怪鳥に好き放題されるんだよ」

田中は自分の価値観の違いを思い知らされつつ、イナシクサとともに進んでいく。
すると木陰から黒い犬のような怪物が集団で亡者を食い荒らしているのも見えた。

「あれは……?」
「あれも自殺者の類だが、樹木になった者達より罪が重いとされる者だろう。自由に行動できる分、あの犬達に襲われて死に続けているのかもな」

田中は自殺だけはするまいと心に誓い、イナシクサとともに悪夢のような森を抜けていく。
そしてアルル達、怪物子供部屋おじさんを倒してからも新たな怪物の出現に備え、眠れずにいた。
とてつもない違和感が到来!! 神殿内部の壁がドロドロと溶け始める!! もちろん地面も泥濘み、休んでられるような状態では……いや、出入り口も歪に変形してしまい、出られなくなる!!

「まずいぞ! 怪物がこの建物全体を攻撃してきやがった!! しかも閉じ込められたぞ!!」

テレポートは例によって発動しないが、それだけではない!! そもそも魔導そのものが使えないのだ!!

「じゅげむっ!! ……ダメだ、何も起きない! 怪物はどこにいるんだろう! 中にいる人たちは……、チコ!!」

チコと呼ばれた巫女は灯りを周囲に向けるが、建物がドロドロに溶けているという部分以外は、中にいた人達に変化はなかった。

「ど、どうしましょう……この神殿を破壊されたりしたら……私は……!!」
「ラグナス!! 敵はどこ!?」

大声で叫ぶが、返事はない。アルル達の顔が一気に青ざめ、ウィッチも絶望の表情に戻ってしまった。
当然、この異変をラグナスは気づいていた。しかし、肝心の怪物はというと、神殿の上におり、そこに同化するようにくっついていた。
つまり攻撃をしようにも下手を打てば神殿ごと破壊してしまいかねない。そうなれば神殿の倒壊はおろか、中の人達も犠牲になってしまう。

「くっ、どうすればいいんだ……!!」
「ふふ、勇者ラグナスよ。さっき貴様は不意を突かれたとか抜かしてたな。これならどうする? 貴様が考えつくだけの事は試してみるがいい」

天から挑発してくるヴゼル!! ラグナスはアルル達を救えるか!! 続く!!(多分)
94:えころ :

2019/10/01 (Tue) 11:23:13

田中一郎、異世界へ行く77

~前回までのあらすじ~
新たな怪物出現!! 田中達、森を抜ける!!
以上!!

その頃、ぶっ倒れてたキミ子は目を覚ます!!

「いっででで……、この私を倒す奴がいるなんて驚きだけど……ひょっとすると救世主ってやつかしら?」

キミ子は翼を広げ、飛び立ち、灯りをつけて周囲を確認!! すると一つの建物に怪物が張り付いてドロドロに溶かしているのを目撃!!

「なるほど、さっきぶっ殺した奴らがアルル達の居場所を襲ってるってわけね……」
「そこにおられるのは倉山さんですか?」

天から魔神ヴゼルの声が聞こえてくる。

「ふん、私を裏切っておいてまた協力を申し出ようって魂胆かしら? 図々しい魔神ね!」
「とんでもない、私はあなたに感謝しているのです。ですから、あなたを元の世界に戻してあげようと思いましてな!」

ヴゼルは異世界に繋がる穴をキミ子の前に広がる! しかし、キミ子はその穴の中に入ろうとしない!

「まだぶっ殺してない奴らがいるようだけど、そいつらの事は無視してもいいのかしら?」
「ええ、構いませんぞ。どうせそいつらもすぐ殺せますからな」

キミ子はヴゼルを無視してどこかに飛び立っていった!

「あの女……この世界に大した目的も未練もないはずなのにどうして留まる必要があるのだ?」

しかしヴゼルは特に気にする事もなく、またラグナスの所へ戻る。

「まぁいいか。あの女が残党をぶっ殺そうがどうしようが、私の侵略にはそこまで関係ない事だからな」

そしてシェゾとサタン!! 必死で壁をぶっ壊そうとするが、弾力があるために壊せない!!

「チコ、神殿は再建すると約束しよう! 今は我々が脱出するのが最優先だ!!」
「くっ、魔法が使えねえから物理で殴るしかねえのにそれもできねえのか!!」
「そうね、私も何度もぶっ壊そうと殴ってるけど……、ミノ!!」

ルルーはミノを睨む。思いっきり壁に斧をぶつけるが、やはり弾かれてしまう!!

「ダメですルルー様!! 天井がみるみる我々に迫ってきますぞ!!」

ラグナスもぬかるんだ神殿を上に登ろうとするが、登れない!!

「くっ、怪物に攻撃すらできやしない!! 急がなければみんなが潰されてしまう!!」
「ふっふっふ、ラグナスよ! 流石の貴様もこの状況には冷や汗を流してるようだな。どれ、もう少し待てばお前でも登れるぐらい低くなってると思うぞ?」
「黙れ!! 諦めてたまるか!! のわぁ!!」

ラグナスはドロドロにぬかるんだ神殿の壁から足を踏み外し、また地面に落ちてしまう!!
そして田中達!! 森を抜けて砂漠にやってきた。しかしその砂漠は田中が想像していたものを遥かに上回る地獄であった!!
何と空から絶えず火の粉が降り注いでくるというとんでもない場所であったからだ!!

「あぢぢぢぢっ!! 何だよこれ!! こんな馬鹿な場所に送られるなんてどんな罪を犯したヤツなんだイナシクサ!!」
「おや、いつもは説明などいらんというのにこういう時は説明が欲しいのか田中、素直じゃないやつだな」
「うっせー! 勿体つけてねえで早く言え!」
「ここは神を冒涜した者が送られる地獄。環境汚染や自然破壊を積極的に行った者。そしてホモも神が与えた性への冒涜としてここに含まれるそうだ」
「分かった! 増田は死んだらここで火の雨に当たり続けるってわけだ! ざまーみやがれ、あぢぢっ!」

イナシクサは火の雨が降り注ぐ砂漠に足を突っ込もうとする田中を引き止める。

「待て。増田はともかくお前が火の雨に打たれる必要もあるまい。しかもその砂の上も死ぬほど熱いぞ。ここは森の縁を歩いて行こう」
「早く言ってくれよ」

田中はイナシクサの後を続いて時折飛び散ってくる火の粉を振り払いながら、さっきの血の川の源流と思しき小川を見つけた。

「うええ……、こんなところから流れてんのかよ、これ……」
「田中、この土手を横断して下って行こう。第8圏に繋がる滝へと進んでいけるはずだ」

田中は滝が凄まじい崖になってる事を想像し顔が青ざめたが、渋々頷いた! 熾烈になっていく地獄巡り!! 続く!!(多分)
95:えころ :

2019/10/02 (Wed) 23:09:02

田中一郎、異世界へ行く78

~前回までのあらすじ~
アルル達、絶体絶命の大ピンチ!! 田中達、更に下層へ!!
以上!!

「もうおしまいですわ! このまま潰されて全員……」
「アルルさ~ん~最後に~やりたい事があるんですけど~い~いですか~?」

こんな時に何かやりたい事があると申し出るハーピー。

「も、もしかして歌うんじゃねえだろうな……!?」
「は~い~、思いっきり~歌わせてください~」
「ふざけないで! どうして死ぬ間際まであんたの歌を聞かなきゃいけないのよ!」

仲間達は抗議するが、アルルはそれを承諾した。

「いいよ、ハーピー。思いっきり歌っちゃって!」
「な、何言ってんだアルル! 正気か!?」
「いいんだよ、聞きたくなけりゃ耳を塞げば良いだけだし。それにこれは思わぬ収穫だよ、シェゾ」

頭に?を浮かべるシェゾだったが、すぐにハーピーの熱唱が始まる!!

「夢なぁぁらばぁぁぁどぉれぇほどぉぉぉよぉかったでしょぉぉぉ!!」
「うぎゃああああ!! 本当に夢だったらどれだけ良い状況なんだよ!!」

だがハーピーの爆音は神殿内の壁という壁を伝わっていき、怪物に大打撃を与えた!!

「おぐうぇええええ!? 何だこのひでえ歌はああああ!? や、やめろぉぉぉ!!」

ヴゼルもそれを聞いて負けじと歌い始める!!

「ひどい歌声だな……私がレクチャーしてやる!! 夢なぁらばぁ、どぉれほどぉよぉかったでしょぉ~!!」

だがラグナスはハーピーの歌によって神殿の泥化が収まって硬化してるのを確認し、一気に上まで上り詰める!!

「あの日のぉぉぉぉかなぁぁぁしみ、さえぇぇぇ!! あの日のぉぉぉくるぅぅぅしみぃぃぃさえぇぇぇ!!」
「あの日のぉ悲~しみさえ~、あの日の~苦ぅしみさえ~!!」

ヴゼルの歌声とハーピーの爆音が混ざって耳が爆発しそうな状態に襲われるアルル達!! 何共鳴しとんねん。
そしてラグナスが悶える怪物に必殺技を放つ!!

「うおおおおっ、ファイナルクロスゥ!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! あ゛あ゛ッ!! てめえええええ!! 何してんだよぉぉぉぉ!!」

怪物は神殿から離れ、地面に逃れる!! 後を追うラグナス!!
そして、田中達!! 血の川のほとりを進むうちに流れが激しくなっていき、音も大きくなっていくのが分かった。

「うげっ、マジで滝になってんだなこれ……」
「田中、下に降りるためにはゲリュオンという怪物に乗る必要がある。が、一つ気の毒な話がある」
「何だよ、気の毒って……。ここにいる事自体がすでにその骨頂なんだから今更何言われても驚きゃしねえよ」
「その怪物はこれ以上ないほど臭いんだ、鼻つまんだ方がいいぞ」

イナシクサがそう言いかけた瞬間、すさまじい悪臭が田中を襲撃!!

「おげえええええッ!! ありがとうイナシクサ、マジ吐くわこれ!!」

目の前に蛇の胴体を持ち、剛毛の腕を生やし、やはり人面の巨大な怪物が出現!! 怪物は田中達を見てにやりと笑った!!

「貴様らか。地獄から抜け出したいとか抜かしてる変わり者どもは」
「そうだ、我々は正しい目的のためにここまでやってきたのだ」

田中は怪物から顔を逸らし、ただ俯いている。

「そんな頼りなさそうな小僧を連れて正しい目的とは……信用ならんな」
「まあまあ、我々がここから先の地獄を無事で進めるとは限らない。乗せて降りたところで実力がなければ頓挫するだけだ」

ゲリュオンはそれを聞いて納得したような顔をした。

「まあそれもそうだな、貴様らが胡散臭かろうがこの地獄を抜け出せるとは私にも思えん。いいだろう、早く乗れ」
「よし田中乗るぞ!」
「うん……」

気分の悪い田中とイナシクサを乗せ、ゲリュオンは第8圏に繋がる崖を下る!! 次に田中達を待ち受ける地獄とは!? 続く!!(多分)
96:えころ :

2019/10/05 (Sat) 09:37:58

田中一郎、異世界へ行く79

~前回までのあらすじ~
田中達、いよいよ第8圏へ!! ラグナス、逃げた怪物を追う!!
以上!!

田中達はゲリュオンに乗って血の滝が流れる急流を下って第八圏へとやってきた!!
しかし、田中はやっぱり嘔吐!!

「ゲェェェ、もう二度とごめんだよこんな事……」
「……田中、ここはマーレボルジェ。悪の袋という名の通り悪意を持って罪過を成した者達を裁く場所だ」
「……ちょっと引き気味で言わねーでくれよ、これでも俺ここまで頑張って来てんだからよ」

田中は辺りを見回す。地面はもちろん岩壁から坂、はたまた崖。どこをとっても灰色づくしの空間だった。どうやらここは洞窟のようだ。

「ここは悪意の種類が10に分かれていて、それぞれに対応した袋に悪党どもが押し込められるわけだ、一つ一つ見てみるか」
「今までの場所は善悪とか関係なく罪を犯した奴らが放り込まれる場所だったって事だな」

遠くから悲鳴のようなものが聞こえているのを感じていた田中であったが、奥に進むにつれてはっきりと聞こえるようになっていた。
そして洞穴のような場所から亡者どもが悪魔どもに絶えず激しく鞭打たれている光景が田中にも見えてきた。

「あれは……? あんな風にしばかれるってどんな罪を犯したんだ? イナシクサ」
「あれは女衒(ぜげん)の袋。女を娼婦として斡旋するヤクザや、あるいはレイプした者があそこに放り込まれるんだよ」

田中はこんな時にふとどうでもいいことを思い出した。

(もしかして目的はレイプ?)
(やんねーっつーの! 確かに見てくれは綺麗だったけどな、あのおばさん!)

いーって顔を浮かべる田中に首を傾げつつもイナシクサは先へ進んでいく。
そしてラグナス、逃げた怪物を追うが地面を泥濘ませながら逃げ続けているので、思うように追いつけない!
テレポートもしてみるが、何故か怪物の近くに移動する事はできず、やっぱり無駄無駄ァ!!

「くそっ……! このままでは距離が開いて完全に逃げ切られてしまう! そうなりゃ奴はまた隙を狙って……」
「ごぼわぁ!?」

ラグナスの正面から怪物の悲鳴が響き渡る!! ……どうやら誰かが怪物をやっつけてくれたようだ。

「だ、誰だ!?」

ラグナスの質問に答えるまでもなく、凄まじい速度で何かが襲ってくる!!

「よくもやってくれたわね……、復讐しに来たわよ。……救世主さん」
「お、お前は……翼の生えた女の子を苛めていたヴゼルの手先か!」
「あらあら、覚えてくれてたのね。でもそんな事はどうでもいいのよ。どうせあなたはここで死ぬのだからね、さようなら!!」

キミ子の必殺技!! キラーサイクロン!! 凄まじい斬撃の嵐がラグナスに襲いかかる!!

「ぐわああああっ!!」

攻撃をまともに受けてボロボロになるラグナスだったが、ガイアヒーリングですぐに態勢を整える!!

「ふん、魔力が尽きるまで甚振ってあげるわ。そして確実に始末してやる!」

その頃アルル達はハーピーとヴゼルの熱唱が終わり、神殿の壁を破壊して外へと脱出していた。

「ぬっ!? 怪物はどうした! まさかそいつのひどい歌声に嫌気がさして逃げたのではなかろうな!?」
「今頃気付いたのかよ、……どうやらそのようだな」
「あんたの歌でも役に立つ事ってあるのね……見直したわ、ハーピー」
「お役に立てて~嬉しいです~では~もう一曲いかが~ですか~」
「いらん!」

何とか神殿から脱出できたアルル達!! ラグナスはキミ子を倒せるのか!? 続く!!(多分)
97:えころ :

2019/10/05 (Sat) 21:10:06

田中一郎、異世界へ行く80

~前回までのあらすじ~
ラグナスvsキラーミストレス恭子!! 田中達 in マーレボルジェ!!
以上!!

ラグナスはテレポートで攻撃を避けつつキミ子の不意を突こうとするが、どこから攻撃を放とうとしても一瞬で迎撃されてしまい、大苦戦!!

「くそっ……! こいつ……全く隙がない!!」
「ヒャアッハッハッハッハ!! なぁにが勇者だケツの青いガキが!! 私の攻撃を全部受けてみろ!!」

キラーサイクロン!! クレイジーファンネル!! フェニックスバーニングブラストォ!!

「ぐわあああああっ!!」

テレポートで回避しようとするも、殺戮の嵐はラグナスを正確に捉え、確実にダメージを与えてくる!!

「もう終わりかしら……? じゃあばいばーい!!」

キミ子猛襲!! ラグナスがやられる……と思いきや、キミ子は目の前のラグナスが偽者である事に気がつき、バッと振り返る!!

「うおおおおッ!! ファイナルクロスゥ!!」
「なるほど……幻影魔法ね、こんなチンケな小細工で私が瞞せるかァ!! キャオラッッ!!」

キミ子が振り払った一撃がラグナスの剣を弾き飛ばし、片腕でラグナスをブッ飛ばすッ!!

「ぐぶぅ……ッ!!」

地面を激しく転がり、瀕死寸前まで追い込まれるラグナス!!

「ふっふふははは……、やっぱ不意を突かなきゃ私に勝てない手合いだったのね……。ふふ、安心して死ぬが良いわ!!」

勝ち誇ったように上を見上げて高笑いした瞬間、キミ子の顔面を光の矢が貫通ッ!!

「おぎゃああああああああッ!!」
「……無為に突っ込んでいったわけではない……。お前は確かに強いが油断も多い……」

ラグナスはよろよろと立ち上がり、ガイアヒーリングで回復し、急いで落ちた剣を拾い、キミ子を仕留めにかかるッ!!

「うおおおッ、ファイナル……、うぐっ!!」
「バッカねえ、こんなもんで私が怯むわけないでしょ。食らえッイエァ!!」

ラグナスの腕を掴んだまま片腕で放つ!! キラーミストレス恭子!! プロフェッショナルラッシュ!!

「氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね氏ね、氏ねェェェェ!!」

ついにラグナスの装甲を破壊し、そのまま腹部に腕がぶっささる!! 吐血し、意識が朦朧とするラグナス!!
そのままキミ子はラグナスを放り捨て、勝ち鬨を上げる!!

「どうだ!! これで邪魔者はいない!! アルル達が死んだら遺体を持ち帰って現代で大金持ちになってやる!!」

大満足したキミ子はそのまままた残党をぶち転がすために飛び去っていくッ!!
一方、田中達は元気にマーレボルジェを横断中!! 進んだ先に橋があるのが見えてきた。

「田中、この橋を渡ると次の袋に行けるが……、大丈夫か? そこも臭いけど」
「ん? へーきへーき、俺もう糞とかションベンぐらいの臭いだったら鼻が慣れてっからよ」
「そ、そうか……。それは何よりだな……」
「また引いてるだろお前?」

そして糞尿の海に漬けられ苦しむ亡者どもを見て田中は呑気に質問をする。

「こいつらは何の罪を犯した奴らなんだ?」
「ここは阿諛者(あゆしゃ)の袋。ゴマを摺って出世したり、不正を働いて分不相応な身分を手にした者がここに放り込まれるって事だ」
「ふーん、まあ実力がねえ奴はそうでもしねーと大成できねーし仕方ねえんじゃねえのかなあ?」

こいつの鼻はダメになってるんじゃなかろうかと心配したイナシクサだったが、田中はその光景から目を背けてたのでひとまず安心した。
田中も悪魔どもが亡者をしばくのに必死で襲ってこないんじゃないかなあと終始弛緩したムードで進んでいた。
これから先二人を待ち受ける袋とは!! そしてアルル達の運命は!! 続く!!(多分)
98:えころ :

2019/10/06 (Sun) 00:55:16

田中一郎、異世界へ行く81

~前回までのあらすじ~
ラグナス、敗北!!
以上!!

ようやくアルル達はラグナスが負けた現場に到着したが、そこにいたのは……。

「ラグナス!? どこ!? 大丈夫……!?」
「ま、まさかあたし達を襲っていた怪物に負けちゃったんじゃ……」
「そんな事ないだろ、アイツは今までだってヴゼルが仕掛けた怪人をいくつもやっつけてきたんだ。負けるはずがねえ」
「で、でも……姿が見当たりませんわ、一体どこに……」
「おい、あそこに血まみれで誰か倒れているぞ! 行ってみよう!」

サタンが指さした方向に向かうとそこには血まみれの少年が倒れていた。

「だ、大丈夫!? キミ! ヒーリング!!」
「わ、わたくしも!」

アルルとウィッチは倒れていた少年に回復魔法をかける。しばらくして、少年は目を覚ました。

「おい、こいつ……。何かラグナスに似てねえか?」
「確かに似てるけど……でもこんな子供じゃなかったはずよ。ひょっとしたら怪物に襲われて瀕死だった別人かも……」
「キミ、大丈夫?」

少年はゆっくりと口を開いた。

「私は……勇者ラグナス……。すまないみんな……、私はヴゼルの手先に負けてしまった……」
「えーーっ!?」

驚く一同。そしてヴゼルが後からのこのこやってくる。

「ほう、さしずめ倉山さんにやられてそのような惨めな姿になったか、勇者ラグナスよ」
「倉山だと!?」
「で、でもあいつはラグナスがハーピーを助けた時にやっつけたんじゃ……」
「そうか、復活しやがったんだ……! 生半可な攻撃じゃあいつは倒してもパワーアップしちまうんだ!」

ウィッチは顔が一気に青ざめる。

「えっえっ……! どういう事ですの! ラグナスさんが子供になったという事はヴゼルに立ち向かう戦力は……!」
「……私達しかいないって事になるわね」
「そんなー! ……ラグナス、その状態でも戦える!? どう……!?」
「……無理だ、私は経験値をほとんど失った状態で復活したんだ。あの倉山という女とは真逆の状態だ……」

絶望するアルル達。ヴゼルは満足げにこんな事を考えていた。

(倉山さんには後で臨時ボーナスとして1000万円を振り込んでおこう)

そして田中達、くっせえくっせえ糞尿の海を横切った後、次の袋にやってきていた。

「田中、ここは沽聖者(こせいしゃ)の袋。神仏が宿る品を金に変えたり、またはその立場を利用して悪事を働いた者達が押し込められるところだ」
「といっても俺にはもう関係なさすぎてどういう反応をすればいいかよく分かんなくなってきちまったよ」

そうは言うものの田中にとってこの裁き方もなかなか見慣れないものであった。
まず亡者を逆立ちにして地に開いた穴の深くまでぶっさし、足の裏を火で炙っているというものである。しかも足をバタバタ動かすのでなかなかに焼きづらそうである。
今日日ギャグ漫画でもこんな風にぶっ飛んだ敵が地面に綺麗に突き刺さる事はないんじゃないかという感想さえ抱いていた。

「あれさっきの糞や小便に漬けられるよりマシなんじゃねーの? ふぁーあ……」
「田中、あいつらが入ってるあの穴の中は燃えさかっているんだ。よく見ろ、穴から煙が立ち上がっているだろ?」
「あ、ホントだ……。ってうええっ!? さっきのくっせえ場所のがマシじゃん! さっさと行こうぜイナシクサ!」
「ははは、やっぱ鼻は無事だったか。強がってただけなんだな」

田中は悪魔が襲って来ないのを疑問視しつつイナシクサと共に進んでいく!! 続く!!(多分)
99:えころ :

2019/10/07 (Mon) 04:20:45

田中一郎、異世界へ行く82

~前回までのあらすじ~
アルル達、絶望の絶頂へ!! 田中達、マーレボルジェを進行中!!
以上!!

アルル達は浮かない顔でチコ達のところへ戻ってきた。

「皆さん、ご無事で! ……そこにいらっしゃるのは……」
「勇者ラグナスだ。不覚にも私はヴゼルの手先に敗れてしまった。この姿では……怪物に立ち向かえるかも怪しい……」

天から拍手の音がする。ヴゼル様の愉快な声が響き渡る。

「見よ、我が力の前に敗れ去った情けなき者の姿を!! もはや貴様らは完全に生きる場所を失った!! 後は残り少ない時間を有意義に過ごすが良い!」
「……ヴゼルは黙ってて」
「分かった、しばらく貴様らの悪あがきを静観してやろう」

ヴゼルが黙った後、今後について話し始めるアルル。

「ラグナスは確か異世界から来たんだよね。ならボク達もここから別の世界へ移る事ってできるかな」
「前言撤回するようで悪いがアルルよ、それはできぬ。諦めよ」
「……やっぱ無理か」
「倉山のやつ、また怪物を増やすため異世界からやってきたろくでなしを殺めて回ってるのだろうな」
「そういやさっき私が仕掛けた転売を生業としていたクズはどうしたのだ、ラグナスよ。貴様が仕留めたのか?」
「それは倉山がトドメを刺し、ついでに私もやられたというわけだ」
「黙っててって言ったでしょ、ヴゼル。怒るよ?」
「貴様が怒ろうが無問題だがすまなかった。黙るよ」

また黙るヴゼル。仲間達は終始無言でみなどうすれば良いか検討もつかなかったが、チコが口を開いた。

「私も戦います。大した戦力にはならないかも知れませんが、皆様の助けになれれば幸いです」
「チコ……」
「お、俺も戦うぜベイベー! やる時はガツンとやる男だからよ!」
「すけとうだらはいらない、盾としても役に立たないでしょ」

アルルの冷たい一言にぎょぎょぉっと落ち込む魚。しかも鱗魚人にも励ましてもらえなかった。

「どこにいても安全な場所なんてない、しかも倉山はいつ気が変わって俺らを襲うかも分からねえ、どうすりゃいい。……アルル」
「あの倉山って女は理由は分からないけどボク達を襲うことはないと思う。ラグナスを仕留めるほどならとっくにボク達殺されてるしね」

ヴゼルもそれは思っていた。なぜかあの女はアルル達と戦うのを避けている。
だがそんなアルル達の静寂をぶっ飛ばす事案が発生!! 次なる敵がもうアルル達の前に現れたからだ!!
一方、田中達!! 次の袋に進む橋の上を歩いてる最中ふと下を見ると奇妙な集団を目撃するッ!!

「うげえ、イナシクサ。あいつら首が後ろに曲がってやがるぜ! それで連れ回されてやがる。どういう事だありゃ……」
「ここは魔術師の袋。この魔術師というのは魔法を使う者の事ではなく、インチキな予言や呪術で個人や集団問わず混乱を招いた者が裁かれているのだ」

田中は眉をひそめて嫌そうな顔をしたが、何故か木田の首が後ろに曲げられた姿を想像してしまった。

(田中く~~~ん、前が見えなぁぁぁいわ~~~、ミイラ博物館はどっちの方向だったかしら~~~、助けて~~~)
「ぶふっ!!」
「どうした田中、いきなり吹き出したりして。あれはギャグじゃなくてガチの裁きなんだぞ」
「い、いやすまねえ……。こんな時に変な事考えちまってよ」
「全く気が緩んでるな、それではこの先が思いやられるぞ……」

田中はふとある事が気になった。

「なあイナシクサ、俺が死んでからさ。向こうの時間ってどれだけ経ったのかなあ?」
「そうだな、おそらく8時間以上は経ってるかもな。何とか夜明けまでには地獄を脱したいものだ」

怪物転売ヤーの次に現れた刺客とは!? アルル達は無事に怪物を倒せるのか!? 続く!!(多分)
100:えころ :

2019/10/09 (Wed) 03:38:37

孤独のグルメ Season.M

彼の名前は井之頭五郎。営業の仕事をする傍ら昼飯を満喫する平凡なサラリーマンである。
しかし、その彼は今よく知らない町に来ており、相変わらずお腹を空かせていたのであった。

(どこだここは……、とりあえず腹が減ったな……。食えるもんを探さなければ……)
「おじさん、誰ナ? アカムシかナ?」

目の前にメイド服を着た変な少女がいた。アカムシって何だ?

「すまない君、俺はそのアカムシって人じゃあないんだ……。それに今は何か食えるものを探していてね……」
「ふーん、実はりなっちもさっき初めて来たのナ。ここどこだナ……、早くりつねえねと合流しないと怒られるナ……」
(りなっちって名前なのかこの子は……。いや、"っち"は愛称みたいなもんか。早く警察に連れて行くべきだな)
「おじさん、さっき食えるもん探してるって言ってたナ? あそこに何かうまそうなもんがあったのナ! 良かったら一緒に来てもいいんだナ!」
「本当かい? じゃあ少し案内してもらおうかな……」
「フェッフェッフェ、そうはいかねえなぁ、そこのお二人さん……」

五郎とりなっちの前にゴロツキが出現した。しかも短剣を振りかざして襲いかかってきた。

「有り金とそこのお嬢ちゃんを置いていけやああ!!」
「うわわっ、なんだこいつ!?」
「下がっていなさい」

五郎はゴロツキの腕を弾いて短剣を落とし、その隙に腕をがっちり固めて拘束。必殺アームロック!!

「があああああ、痛いぃぃぃ!!」
「もう悪さはしないな?」
「ひ、ひいいっ、もうしないから……離してくれえええ!!」

五郎が解放するとゴロツキは急いで逃げていった。

「お前強いのナ! じゃあこっちにあるから行くのナ!」
「うん」

五郎とりなっちが進もうとすると何かを踏んづけた音がした。その瞬間、りなっちの腕が吹き飛んだ。

「なっ……!?」
「ぎゃあああ、痛いナあああ!!」
「フギャーーーッ!!」

りなっちが踏んだのは猫のような姿をした草の怪物であった。

「大丈夫か、君!! 早く治療しなければ!! とりあえず止血を……」
「だ、大丈夫だナ……。本体がやられてないからミドリちゃんを使えば回復できるのナ……」

りなっちは持っていた緑色の薄い葉っぱを患部に当てる。するとたちまち腕が生えてきて再生した。
唖然とする五郎。しかし目の前にいた猫草は攻撃をしようと構える。

「まずいな……、そうだ。確かアレがあったな……」

五郎はポケットからガチャガチャの空のカプセルを取り出し、それを猫草の前までコロコロと転がした。
すると猫草はカプセルに気を取られ、葉っぱの部分をバシバシ動かして遊び始めた。

「よし今のうちに逃げよう!」
「はーいナ!」

五郎とりなっちは急いでその場を離れ、うまいものがある場所を目指して歩き始めた。

「君さっきの……どういう事だ?」
「これはケムリクサだナ。色々な効果を持っていて緑色は使うと治療ができるんだナ!」
(なるほど……よく分からんがそんな常識外れな薬草もあるのか。これはますますこの町で食う飯に興味が湧いてきたぞ)
「それよりおじさん、さっきのすごかったナ! まるでわかばみたいだったナ!」
(わかば……か。きっとこの子にも頼れる子がいたんだろうな。りつというお姉さんもいるみたいだし)

そして2人は鉄屑の溜まり場にやってきた。頭に?を浮かべる五郎だったがりなっちはそれを見て満足そうな顔をしていた。

「お、おい……。こんなガラクタを金に変えて食べ物を買うって事かい?」
「違うナ、これが食べ物なんだナ。」

バリバリとガラクタを食べ始めるりなっち。またもや唖然とする五郎。
そしてりなっちは食べた鉄屑と全く同じものを体から出してみせたのだ。

「これが私の能力だナ。食べたモノを複製できるんだナ!」
「な、なるほど……。しかしお嬢ちゃん、そいつは俺には食えないんだ……。ほかに何か……」

五郎はふとガラクタのそばにあった古い看板を発見した。看板には杜王町と書かれていた。

「そうか、ここは杜王町というのか。お嬢ちゃん、君がどんな不思議な力を持ってようがうまいものはある。俺は食いに行くぞ」
「りなっちも行っていいかナ?」
「……まぁ親戚の子という事で騒がなければ同伴してもいいだろう」

普段は一人で飯を食うことをモットーとしていた五郎だが、りなっちに妙な親近感が湧き、同行を許可した。
再び町へ戻り、歩いているとイタリア料理のお店があるという看板を発見した。

「イタリア料理か……。よしそこにしよう」
「イタリア料理って何だナ?」
「ん? ……イタリアを知らないのかい? 国だよ、そこの料理を提供してるお店なんだ」
「すっごいのナ! りなっち文字読めないから意味が分からなかったのナ!」

突っ込みたい気持ちでいっぱいだったが、そんな事より腹を満たしたい五郎は早速店へ向かった。

(ん……? 店の前の品書きだが、お客様次第とか書かれてるぞ? ……どういう事だ?)
「どうしたのナ? 中に入らないのかナ?」
「ああ、そうだな。入るよ」

店内に入ると中に客らしい客はいない。しかもテーブル席が二つしかない有様だった。

(小さな店だな……。まぁうまけりゃ何でもいいか……)
「ワクワク」

二人が席につこうとすると奥からゆらっと店主が現れた。どうやら本当にイタリア人のお店らしい。

「ようこそいらっしゃいました、さぁどうぞ、まずはお水を……」
「あの……すみません、この店のメニューは……」
「いえいえ、こちらワタシがお客様を見て料理を提案させていただく方針を取ってマスので」

困惑する五郎。ずっと首を傾げているりなっち。
すると店主は五郎の右手を取り、ジロジロと見つめてくる。ギョッとして手を離す五郎。

「な、なな……何をするんです!?」
「フゥーむ、あなた煙草を吸っていますね? 肺がかなり悪くなってきているようデスが……」
「か、関係ないじゃないですかそんな事!」

りなっちはテーブルに置かれた水をガブガブ飲み始める。

「あ、こら! 行儀が悪……!?」
「な、ナナ……!? 何か変な気分だナ!? どうなってるのナぁ!?」

りなっちの身体がドロドロに溶けて何と消えてしまった。

「ちょ、ちょっと! これはどういう事だ! 何を飲ませたんだ!?」
「オー、ミ・ディスピアーチェ……、ワタシにもよく分かりませーん。そもそも彼女はヒトだったのデスか?」
「ヒトに……」

決まってなかった。よく考えればりなっちの言動も行動も何もかもおかしい。五郎は否定できなかった。

「と、とにかく俺は帰る! こんな所で飯など食わされたらさっきの子みたいに……」
「モーメント、既に料理はできています。こちら娼婦風スパゲティとなりマス、どーぞどーぞ……」
「いやどーぞどーぞと言われても……」
「お気に召さなければ代金もケッコーです、それに今はヒトリで静かに食べれマス……ネ!」

五郎はダンマリした。だが目の前の料理はかなりうまそうだ。娼婦風とか言ってたけどそんな風に思えないくらい食欲が唆られる。

「そ、それなら少しだけ……。本当に大丈夫なんでしょうね?」
「もちろんデス、どーぞどーぞ」

五郎はしばらくしてから、いただきますと言い、料理を口に運ぶ。すると途端に肺から気持ち悪いものが逆流するかのような感覚に襲われ、凄まじく噎せる。

「げほっごほっ……! や、やはり毒だったか……! くそ、何故俺はこんな誘惑に負けて……」

だが違和感があった。空気が美味しい。それにやけに伸びて困っていた鼻毛も抜け落ち、適度な長さになっていくのを感じていた。

(こ、これは……? 何だ一体。毒というより薬か? 試しにもう一度食ってみるか……!?)

うまい。やはりうまい。五郎は今まで食べ物を食べていて、こんな感動にあった事はないだろうという感覚さえ覚えていた。

「こちら次のお料理デス。どーぞどーぞ!」
「ありがとう、店主さん。……最高にいい食事だ!」

そして五郎は店を出た。外の光景が見違えるようだった。だがその光景は一瞬にして崩れ、いたのは浅草の繁華街の居酒屋の外であった。

「いやぁ悪いね、井之頭さん。今日は付き合って頂いちゃって。」

目の前にいたのは取引先の社長だった。そして五郎はすぐさま我に帰った。

「……あぁ! いえいえこちらこそ、今日はありがとうございました!」

あれは何だったんだ。でもとりあえず煙草はしばらくやめにしとこうか、帰り際そう考えて何故か腹が減っていない五郎であった。
めでたし、めでたし。
101:えころ :

2019/10/09 (Wed) 07:28:09

田中一郎、異世界へ行く83

~前回までのあらすじ~
怪物出現!!
以上!!

「グヘヘへ!! 可愛い子がいっぱいじゃんか!! こりゃもうやりまくるしかねえって事だな!!」

出現したのは下半身がスッポンポンの怪物だった!

「ひいいいいい!!」
「くそっ、またあの不潔な感じの怪物が出やがったか!」
「おいおいこの俺様を二番煎じ扱いすんじゃねーよ、今まで数多くの女を襲い、気持ちいい思いしてきた実績があんだからよ!!」

怪物レイパーが出現!! 誰が得するかは知らんがこの怪物の経緯を語ろう。
このレイパーは幼少期、幼馴染みに欲情し、脅迫して性行為に及んで以来、女は力づくで屈服させるものだという考えが身についた。
キモオタとは違い、文字通りレイプするためだけの努力、そしてその行動。自身の欲望の妨げとなる男どもですら尽く蹂躙し、行為を繰り返す。
そんな男のただ欲望のため直向きに(間違った目的で)研鑽を重ねる姿勢を評価したヴゼルは彼をこの世界へと誘ったのである。

「ま、世間は俺様をやれ凶悪犯だのケダモノだの言うが冗談じゃねえ! そんなものは弱者の世迷言。これからはこの俺様がルーラーだ!!」
「貴様のそのよく分からん自信は努力によるものだと分かった。しかしだからといって弱者を嬲ったりしていい理由などどこにもない!」
「そんな腐った欲望のために励む奴がいるとは驚きだが……お前もヴゼルの手先で俺達の敵だ! 確実に倒させてもら……」

言いかけたシェゾは仰天する!! なんと怪物はすでにアルル達の横にいた村人の娘を手に取っていたからだ!!

「生物にとって重要な機能は生殖だ。それは女が持っている! 小娘どもも予行演習だと思ってよく見とけ!」
「やめろてめえ! シャドウ……ごぶぁ!!」

闇の剣を振り下ろそうとしたシェゾを拳一発で軽々となぎ倒す怪物!!

「うん、よえーな。グフフ、さぁどうする! どっちみちこの女はもうタダじゃすまないぜ」
「ディザス……」

言いかけたサタンの後ろにフッと高速移動し、どついてぶっ倒す怪物!!

「抵抗するならこうなるぜ? ま、ここにはどう見ても人間には見えねーようなのも多数いるけどそいつらも興味あんだろ? 人間の交尾っての」
「やめろ、それ以上の暴走はこの勇者ラグナスが許さん!」
「ああん? 何だチビ助、ガキのくせにませた事抜かすなオラ」

怪物の蹴り一つでぶっ飛ぶ子供ラグナス!!

「やめなさい、格闘なら私が相手になるわ! ミノ!!」
「はい、ルルー様!!」
「ふうん、エロい身体して猛獣携えてんだ。いいねえ、その猛獣でさえ下劣に興奮するほどにこの俺様が主従関係メチャメチャにしてやるよ」
「おい貴様、蹂躙を楽しむのも結構だが始末を忘れるなよ。私が任せた任務をきちんと遂行しろ」
「へーへー分かってるよ、ヴゼルのオッサン」

そして田中達は第五の袋へ!! 橋を渡っていた田中は異様な熱気に包まれた一面真っ黒な異様な空間に凄まじい嫌悪感を覚えていた。

「な、なあイナシクサ……。ここ、何だよ……なんかすっげー嫌な予感が俺の中にムンムン渦巻いてきてんだけど。……危険信号って奴がさ」
「ここは……汚職者の袋。ここには強力な悪鬼どもがいて、一面の瀝青(れきせい)で塗られた所に亡者達を押し込めて隠しているんだ。姿が見えないのはそのため……」
「ゴラテメエらァ立ち止まれやオラァァァ!!」

イナシクサの存在に気付いた悪鬼どもが怒声と共に一斉に出現する!! 悪鬼どもは鋭利な鉤爪を光らせ、田中達を睨んでいる。

「ここに来るってこたぁ罪人だろォ? 何ウロチョロしてんだァ!? オォイ!!」
「逃さねーぞオラァァ!! それ以上動いたらズタズタにするからな、覚悟しろやァ!!」

悪鬼達がぎゃあぎゃあ騒いでいるのを見て田中はふとこんな事を考えてしまう。俺って他人からこんな風に見られてたのかな、と。
とはいえ、ピンチはピンチ!! 怒り狂う悪鬼達を退け、イナシクサはこの袋を抜けられるのか!! 続く!!(多分)
102:えころ :

2019/10/10 (Thu) 01:10:22

田中一郎、異世界へ行く84

~前回までのあらすじ~
怪物レイパー参上!! 田中達、悪鬼に絡まれる!!
以上!!

「まずはそうだな……この掴んでるねーちゃんの服を脱がそうじゃんか。海老の殻を剥くみてーにな」
「や、やめてください……」
「おいおい、俺はこうしてチンポ丸出しなんだぜェ? 一発ブチ込んでおかなきゃ収まりがつかねえっての分かるだろ?」
「うおおおおッ、怪物め!! 覚悟しろォ!!」

ミノタウロスが斧を振り下ろそうとすると人質に取った女を盾のように前に向ける。
思わず動きが停止したミノタウロスの股間を思いっきり蹴り上げて悶えさせる怪物!!

「おい獣人、お前あのスケベな女が好きで従者やってんだろ? ムラムラ来てんなら俺様と手を組んだ方がいいぜ。乱れたあの女を抱かせてやるよ」
「何言ってんのあんた! ぶん殴るわよ!! ミノがそんな戯言聞くわけないでしょ!!」
「ルルー様は……俺が忠誠を誓った相手だ……。そんな目で見た事は一度も……」
「グヒヒヒ! んなわけねーじゃん、じゃあお前アレがデブで不細工な女だったら従者なんかやってんのかよ? ありえねーだろ?」

何も言い返せなくなるミノ。怪物は意地悪な笑みを浮かべてルルーを見る。

「ほら獣人さんは正直だよ、俺様が……」
「そこだ、怪物め! うおおおッ!!」

油断した怪物の不意を突こうとしたミノだったが呆気なく対応され、顎を思いっきり殴られる!!

「ごはっあ……!!」
「バーカ、俺様に刃向かったら二度とあの女を抱くこともできなくなんだぜ? 状況が理解できねえのか! ケダモノはケダモノらしくしてろや!!」

倒れるミノタウロスを容赦なく蹴る怪物レイパー。
起き上がったシェゾが後ろから闇の剣で怪物を切り裂こうとするが!! やはり反応され、どうやっても攻撃を当てる事ができない!!

「たとえ束になってかかろうがどんな手を使ってこようが無駄だよ。お前らお得意の魔法を使ってもこの俺様は倒せねーさ」
「ざぁぁぁんこぉぉぉくぅぅぅな天使のよぉぉぉにぃぃぃ」
「うるせえよ音痴天使」
「ぎゃひん!!」

歌おうとしたハーピーの後ろに回り込み、手刀で気絶させる怪物!! すけとうだらが思いっきり怪物に飛びかかる!!

「うおおおッ、俺様だってたまには役に……ぎょぼわぁ!!」
「立たねえよ、時間稼ぎにもなら……」
「うおおおおッ、アセンション!!」

怪物レイパーが掴んでいた女がサタンの頑張りによって救い出される!! そして集中砲火を決めるアルル達!!

「じゅげむ!!」
「ビッグバン!!」
「ドラコニックハリケーン!!」
「どんえ~ん!!」
「ぐっぐっぐー!!」
「ガイアキューブ!!」
「天舞烈閃脚!!」

大技のオンパレードでさすがに少しは利いただろうと思い、シェゾも攻撃に加わろうとするが、ダメージを受けていたのはなんと!!
怪物はサタンを盾にして全ての攻撃を防ぎきっていた。ゆえに無傷!! ボロボロになったサタンを放り捨てて、不吉な笑みを浮かべている。

「だから言ったじゃん? もう良いだろ、無駄だって悟れや。悪あがきにいつまでも付き合ってやんねーぞコラ」

怪物は高速でアルル達の周囲を走り回り、巨大な衝撃波を発生させる!! 衝撃波はやがて周囲の木々や生物を飲み込み、巨大な竜巻となってアルル達をも飲み込む!!
怪物レイパーの強姦奥義!! 残虐蹂躙暴風陣!! アルル達は身体が引き裂かれ、ボロボロの状態で地面に叩き落とされる!!

「これで片が付いたってモンだな……、さあてもう邪魔者はいねえだろうし……やっちまうだけだな。グヘヘヘ!!」

その頃、田中達は厄介な悪鬼に絡まれ困惑していた。

「おい、こいつらを引き裂いたらどんな声で鳴くかなァ……? 俺、ゾクゾクして来たぜ……ヒヒヒ!」
「さぁ大人しくお前らもこの高熱地獄に浸かるんだよ!! 永遠に全身真っ黒で傷口さえ目立たなくなっからよォ!!」
「断る」
「あァ!? 何ほざいてんだてめえ!! 罪人が盾突こうってのかァ!?」
「我々は罪人ではない。それに貴様らが集団でぎゃあぎゃあ喚くのは非常に見苦しく癪に障る。ゆえに話をするのも理性がある奴だけにしてもらいたい」
「てめえ!! ぶっ殺してやろうかァ!! やっちまおうぜお前らァ!!」

田中が震え上がる中、騒いでいた悪鬼どもの後ろから一際大きくて強そうなのが現れた。
さっきまで大騒ぎしていた鬼どもは一斉に静まりかえる。どうやらこの鬼どものリーダーのようだ。

「何の騒ぎだてめえら、新しく罪人が入ったからって浮かれてんじゃねえぞ」
「こ、こいつ! 罪人のくせに俺らに生意気な口を叩きやがるんだよ! やっちまった方がいいだろ?」
「ふん……、どれ?」

ガタイの良い鬼はイナシクサをじろじろと見た後、バツの悪そうな顔をしていた。

「参ったな……、こいつらが件の地獄を旅してる変わり者どもだ。でも本当に来るとは思ってなかったがな……」
「はぁ? 何言ってんだよ、ここに来るのは基本罪人だけだろォ!? じゃあこいつらはここに押し込んどく決まりじゃんか!」
「そうだ、我々は正しい目的のため地獄を脱するのだ。つべこべ言わずそこを通してもらいたい」
「何故そんな事をしてるのか、もっと詳しく聞かせてもらおうじゃねーか。亡者なんか連れてな」

イナシクサがリーダー格の鬼と話している間、田中は他の鬼達から追いかけ回されたり、掴んで投げられたり、あるいは引っかかれたりといたぶられる。

「おいこんなガキンチョがここまで無傷で来たなんて信じられるかお前ら?」
「弱そうなガキだな、ほれほれ」

からかわれる事でキレた田中は鬼達に奥義を発動するが、全て受け止められ、全く歯が立たない!

「バーニングサイキックスクリュ……ぶほっ!!」
「ギャハハハ!! 何だこいつ裁かれてるわけでもねえのに燃えさかって暴れ回ってるぜ! おもしれェ!!」
「他の亡者はこんな事できねーのに不思議な奴だなァ、オォイ!!」
「てめえら、ナメんじゃねーぞ!! ハイパーサイキックストリーム!!」
「何だちょっと地面が揺れたなあ? 不思議なガキだなァ!!」

イナシクサが話を終えて田中のところに戻ってくる。

「行くぞ田中、長居は無用だ。さっさと次の袋へ行こう」
「そ、そりゃいいけどこいつらさっきからずっと俺にちょっかい出してきてうぜーんだよ!」
「無視しろ、行くぞ」

付きまとってくる悪鬼達!! うんざりしながら田中はイナシクサとともに地獄を進んでいく!! 続く!!(多分)
103:えころ :

2019/10/11 (Fri) 00:28:26

田中一郎、異世界へ行く85

~前回までのあらすじ~
怪物レイパー、フルチンで大暴れ!!
以上!!

田中はちょっかいを出してくる悪鬼達を振り払いつつ、イナシクサに続いて第6の袋に続く橋までやってきた……だが!!

「桟橋が……壊されている!!」
「何っ!? それじゃあ先へ進めねーのか!?」
「いや進めなくはない……。しかし、誰が!」

後ろから羽ばたく音がする。あの田中にちょっかいを出していた鬼達であった。

「ヒャハハハ、バーカ!! その橋はとっくに壊れてんのさ! 行き止まりだよーん!!」
「そんなあっさり行かせるわけねーだろォ? さぁ戻って真っ黒黒助になっちまいなァ!!」
「この野郎……!!」

爆笑する悪鬼達。イナシクサは怒りに震える田中をいきなり抱きかかえた!!

「お、おい! 何すんだよ!?」
「行くぞ田中! この崖を滑り落ちて進むしか我々に道はない!!」
「マジかよ、のわわああっ!?」

イナシクサは田中を抱えて崖を滑り落ちる!! 悪鬼達はそれを見て悔しそうに叫ぶ!!

「ふん、無駄な事しやがってよォ!! どうせその先も過酷なんだ!! テメエらはどの道地獄から出れねーよ!!」

そして田中達は亡者が裁かれている崖の下へと落ちてしまった。

「いっつつ……、おい大丈夫かイナシクサ。いきなりあんな事すんなんてお前も無茶するじゃねーか」
「奴らはおそらくハナから我々を逃す気などなかったのだ。……こうでもしなければ諦めなかったろうな」
「何だ無事だったのかよ、ふう、で、こんなところに落ちてどうするんだ?」

イナシクサは上を見上げて顔をしかめた。

「あの悪鬼どもは多分次の袋までは追ってこれない。この岩壁を登って次の袋に繋がる場所に進むしかない」
「進むったって……どうすりゃ良いんだよ?」
「ここで裁かれている亡者に聞くしかない。幸いそこに一人、転がっている罪人がいる」

指さされた方向を見ると、地に手首と両足を一纏めに釘で打たれ、磔刑に処された罪人の姿があった。
田中は見るなり、嫌そうな顔をしていたが、話を聞いてみることにした。

「すまない、次の袋に進まなければならんところを誤って落ちてしまったのだ。どこを登ればいいか教えてくれないか」
「あ、あんた達、俺の拘束を解いてくれないか……。そうしたら話してやっても……」

会話していると、何やら分厚いコートを着た集団が田中達の前までゆっくりと歩いてきた。

「なるほど、田中。あれは偽善者の集団だ。あいつらに話を聞いてみよう」
「お、おい……。助け……ちくしょう!!」

汗水垂らして歩いていた集団のうち、一人がイナシクサの声かけに応じてくれた。

「ああ、あんた達……。ここの罪人じゃないのかい、それならあの岩場を登るといい。あそこからなら次の袋に進めるよ」

そして教えてもらった通りの道を進んでいくと、確かに登れそうではあるが険しい岩場が目の前に現れた。
田中は嫌そうな顔をしたが、イナシクサが登り始めたのを見て渋々登り始める。
その頃、アルル達はばたんきゅー寸前の状態までレイパーに追い詰められていた。しかも倒れたアルルに覆いかぶさる!!

「ヘッヘッヘ~、お前がヴゼルのオッサンを手こずらせてるんだってえ? 気に入ったよ、俺の女にしてやる」
「待つんだぞーう!!」
「あん?」

レイパーが振り返ると大きな象が二本足でドスドスと現れた。

「何だてめえ? 今度は象さんがお出ましかよ」
「ぞう大魔王だぞう!! お前みたいな卑劣な輩は絶対に許さないぞう!!」
「勇者ラグナスだ!! 子供の姿であれ、命がけでお前を討つ!!」

レイパーは白けた顔をしていた。

「けっ、せっかくこの可愛い子ちゃんを調教してやろうって思ってたのによ……、ズタズタにしてやらァ!!」
「ふざけんなぞう!!」

ぞう大魔王は口から炎を吹き出す!! それを避けて一撃喰らわそうとするレイパーだったが、ラグナスが剣を振り下ろす!!

「チッ、うっぜーな! 手間取らせるんじゃねーよ!」

強姦奥義!! 炸裂手榴掌!! 気を飛ばして爆発させるが、ラグナスはぞう大魔王の後ろに隠れる!! そしてぞう大魔王が爆発を防ぐ!!

「効かないぞう!! 反撃行くぞう!!」

ラグナスはぞう大魔王の上に乗る!! そしてぞう大魔王が勢いよくジャンプし、大地を踏み鳴らし、地響きを発生させる!!
だが怪物レイパーもジャンプし、回避!! そこにラグナスが飛びかかり、一撃お見舞いしようとするが!!

「うおおおおッ、ライトスラッシュ!!」
「そんなものが通用するかアホンダラがァ!! 引っ込めチビ助!!」

怪物レイパーはラグナスをぶっ飛ばし、地面に叩きつける!!

「貴様……もう許さんぞーう……!!」
「何言ってやがる、刃向かうガキンチョが悪……」

ぞう大魔王はグングンと巨大化していく。怪物レイパーは口の端を歪める。

「ふん、巨大化してこの俺様を踏み潰そうって魂胆かよ……面白ェ!!」

ぞう大魔王は怪物レイパーを倒せるのか!! 続く!!(多分)
104:えころ :

2019/10/11 (Fri) 19:06:45

田中一郎、異世界へ行く86

~前回までのあらすじ~
怪物レイパーvsぞう大魔王!!
以上!!

「でっかくなるっつーんだったらよ、俺様のここだってとんでもなく膨張できんだよォ!!」

怪物レイパーは息子を握りしめ、凄まじい勢いで擦る!! するとおよそ女の膣に入りきるとは思えないほどの凶悪なサイズに変形!!

「きゃあああああああああ!!」
「だから見るな!! ウィッチ!! お前まさか興味津々なんじゃねーだろうな!?」
「おうおう、後でその悲鳴も快楽の叫びに変えてやるからよーく見とけなお嬢ちゃん!!」

怪物レイパーは息子ブレードを振り回し、ぞう大魔王に斬りかかる!!

「オラオラァ!! 同じ象さんでも俺様のブレードのが硬度は上だぜェ!! そのクソ長ェ鼻から切り落してやらァ!!」
「そんなもの燃やしてしまえば大した事なんぞないぞう!!」

ぞう大魔王は凄まじい炎を吐き出す!! ブレードを融解させるような熱に思わず後ずさりするレイパー!!

「ちょいとあちいじゃねぇか……、だがな……俺のブレードはただでっかくなるだけじゃねえ! もちろん子種だって武器になるのよ!! ッシャア!!」

レイパーは再びブレードを擦り始める!! そして解き放たれる!! 強姦究極奥義!! 集中精液豪雨!!
天に向かって発射したjizzがぞう大魔王めがけて容赦なく降り注ぐ!! 大魔王はでかくなりながらガードするも、吹き荒れるカルピスに顔をしかめていた!!

「汚い技だぞう……ぐぬっ!?」
「畳みかけてやるぜえええ!!」

怪物レイパーは高速回転をしながら、ぞう大魔王めがけて突っ込んでいく!!
強姦奥義!! 旋風陰茎斬!!

「なかなか痛いぞう……だが、そんな攻撃じゃあまだまだ甘いぞう!! ふんッ!!」

ぞう大魔王は地面を踏みならし、大地震を起こす!! 危険と判断したアルルはボロボロになりながらも、テレポートで逃げ、いくつかの村人も逃げようとするが……!!

「させるかよッ、姉ちゃん!!」
「きゃあっ!!」

逃げ遅れた村人の娘を再びとっ捕まえた怪物レイパー!!

「俺様の究極奥義を食らってもピンピンしてるとは恐れ入ったな……、だがな! 俺様は強姦魔だ!! やる事はやるぜえ!!」
「貴様!! どこまで卑劣なんだぞう!!」

そして田中はイナシクサの助けを借りながら、第7の袋に続く道へと登り終えていた。

「ふう……田中。第6の袋と第5の袋はほぼ同じ場所にあったようだな。見ろ、悪鬼マレブランケも指くわえて我々を見ているぞ」
「ケッ。あんな最低なクソ悪魔野郎どもなんてもう知ったことじゃねーよ。さっさと行こうぜイナシクサ」
「ああ、そうだな」

田中は登り終えてからも何度か足場の安定しない険しい道を蹴躓きながらも、イナシクサとともに進んでいく。
彼の表情には絶対に地獄を抜け出してやるという気迫が感じられ、イナシクサも安心していた。
そして第7の袋。不毛な砂漠地帯には巨大な蛇が気持ち悪いぐらい闊歩しており、そこに落とされた罪人どもを締め付けて殺していたのであった。

「今度は大蛇か……。しかも噛まれた奴が燃え上がってやがる。こりゃどういう事だ」
「ここは盗人の袋。ここでは強盗よりコソ泥の方が悪質と考えられ、罪も重いものとなってるんだよ」
「何じゃそりゃ……」

話していると奥から猛烈に大きな蛇の怪物が現れる!! 胴は一つだが、尻尾が六つに分かれているという奇怪な姿であった!!

「おいおい何じゃあれ……、ボスか何か?」
「いや……あれはおそらく罪人どもが蛇に転生を遂げ、合体した姿だ。盗人は頻繁に入ってくるからああして蛇に変えて新入りを裁かせてるんだ」
「気持ち悪ィ、さっさとこんなとこ出よーぜ、イナシクサ」

二人は蛇どもに見つからぬよう、抜き足差し足で袋を脱出!! マーレボルジェ脱出が近づいてきた!! 続く!!(多分)
105:えころ :

2019/10/12 (Sat) 00:44:48

田中一郎、異世界へ行く87

~前回までのあらすじ~
怪物レイパーがついに!!
以上!!

怪物レイパーは娘の服をバリバリィっと剥がして脱がせるッ!!

「いやああああ!! やめてええええ!!」
「貴様……、やめるんだぞう!!」
「象さんよォ……! 今俺様を攻撃したらこの女も巻き込む事になる……。それがどういう事か分かるよなあ?」

パンティーをスルスルゥと脱がせるッ!!

「おいおいこの世の終わりみたいな顔すんなやねーちゃん。俺様にとってはこれが始まりなんだからよォ!!」

怪物レイパーはブツを思いっきり娘の体内にぶっさしたらぁよ!!

「きゃあああああああ!!」
「ヘッヘッヘ、気持ち良いねェ~!! ゆっくり揺れちゃうぞ……ホレホレ!! ……と思ったが、溜まってっからさっさと懐妊させてやるッ!!」

怪物レイパーは女に激しく腰をぶつけ、放つ!! 強姦究極奥義!! 絶対妊娠激流砲!!

「んほぉぉぉぉぉ!!」
「ハァハァ、えがったえがった……」
「もう終わったかぞう……? 貴様はタダじゃ済まさないんだぞう……」
「象さん……、ズッコンバッコンした事はこの世の終わりかもしれねえが、そうじゃあねえんだ。本当の恐怖はここから始まるんだぜ」

怪物レイパーは犯した女をそっと優しく地面に置いてあげる。すると女の腹がボコォ! と膨らみ、もう出産するッ!!

「そう、俺様が生まれてくるのさ。しかも無限になァ!!」

女の中から怪物レイパーが出現ッ!!

「エイリアンっつーのかな……何かそんな感じ? これが俺様がヴゼルのオッサンから授かった能力ってわけだ」
「じゃあ全て倒してやるまでだぞう!!」
「おい貴様、相手にするのはその象さんじゃないだろう。アルルどもを追え、いつまで遊んでるつもりだ」
「いいじゃんヴゼルのオッサン、この象さんだってどうせあんたの侵略の邪魔するんだぜ、潰しておいた方が良いだろ?」
「ふん、貴様さっきアルルの事を好きになってたろう。私が任せたのは邪魔者を全て滅ぼす事だ! 後はそいつらに任せてさっさと行け!!」

怪物レイパーは舌打ちして、ぞう大魔王から逃げ、アルル達を追う!!
ぞう大魔王は追いかけようとするが、女の中から次々と怪物レイパーが現れ、行く手を塞がれる!!
そして田中達は第8の袋へやってきた!!

「はー……、長くね。いつになったらここ出れるのかなあ……」
「さっきまでの真剣さはぶっ飛んだのか? 安心しろ田中、マーレボルジェはこの袋合わせて後3つだ」
「はいはい、で。ここは何の袋なんですかイナシクサさん」
「ここは謀略家の袋。自分の利益のためだけに他者を欺き、陥れた者が裁かれる袋。見ろあの罪人どもを。火焔に包まれ激しく焼かれているだろう」
「あはは、ホントだ……、俺のバーニングサイキックスクリューみてーじゃん……ははは」

イナシクサは田中がおかしくなっているのを見て、仕方なく懐からもみじ饅頭を取り出し、それを食べさせた。

「ほれ、あまり数はないがこれでも食って正気に戻れ」
「うん、うまい。じゃあさっさと行こうぜイナシクサ」

イナシクサはため息をつきマーレボルジェ脱出に向けて田中を引き連れ、突き進む!! 続く!!(多分)
106:えころ :

2019/10/12 (Sat) 16:04:42

田中一郎、異世界へ行く88

~前回までのあらすじ~
レイプ!! レイプ!!
以上!!

レイパーに叩きつけられ気絶していたラグナスは目を覚ます!!
すると仰天!! 目の前には怪物レイパーの分身がウジャウジャいるではないか!!

「な、何ィ~~~!? 一体どういう事なんだこれは!! ぞう大魔王!!」
「奴がそこの女を犯して生み出したんだぞう!! しかし倒しても倒してもキリがないんだぞう!!」

レイパーの分身は本体と比べて弱いが、それでも無数に発生するのでうざい事この上ない!!
子供ラグナスは無残に犯された女のところへレイパーどもがぞう大魔王を襲ってる隙を見て駆け寄る!!

「ゆ、勇者様……お願いです、私を殺してください……」
「ま、まさかあなたを仕留めればこの怪物どもの発生も防げるという事か……!?」

躊躇するラグナス。しかし、一息ついた後覚悟を決めて犯された女の首を撥ねとばす!!

「あ、りがとう……」

そうして怪物の生産はストップしたかと思いきや!!

「ふははは!! かかったなガキンチョめ!! この女を始末する事も計算済みよ!!」

撥ね飛ばした女の首が宙に浮き上がり、子供ラグナスに襲いかかる!! 胴体もそれにつられて立ち上がる!!

「くそっ、この死体を操ってるのは魔神ヴゼルか!!」
「ラグナス!! テレポートするんだぞう!! 一気に片をつけてやるぞう!!」
「ありがとうぞう大魔王!!」

子供ラグナスはテレポートで遠くに逃げ、ぞう大魔王が女の死体ごと煉獄火炎で焼き尽くす!!
そして群がるレイパーの残党も一匹一匹羽虫を屠るかのごとく叩き潰し、処理完了!!

「この犠牲は無駄にはしない……、魔神ヴゼルは確実に討つ!!」

そしてアルル達はボロボロになりながら逃げ惑うも、もうヴゼルに追いつかれていた!!

「はっはっは! 満身創痍のところ悪いが貴様らが楽になる時は既に来た! 観念して敗北し、そして死するのだ!!」
「ヴゼル……、やっぱりもうこっちまで来たのか……!!」
「足を止めないで! いつあの強姦魔がやって来るか分からないのよ!!」

必死で逃げるがレイパーが追ってきてる様子がない。アルル達は疑問に思ったが、とにかく逃げる!!
そして田中、もみじ饅頭を食した後第9の袋へやってきた!! あちこちに悪魔によって身体を引き裂かれたであろう罪人達が転がっていた。

「田中、マーレボルジェ脱出も近い。気を引き締めていこう!!」
「いやイナシクサ、こんな人間の惨殺死体がゴロゴロ転がってる中でそんな前向きな気持ちにならねーよ」
「ここは離間者(りかんしゃ)の袋。悪意を持って対立を煽った者が裁かれるんだよ。真っ二つになってるのはその罪過の証だ」
「あ、証っすか……。つーかやべーじゃん! 俺も悪魔に襲われてこうなるんじゃねーの!? さっさと抜けようぜこんなとこ!!」

急いで先へ行く田中!! その後を追いかけるイナシクサ!! 続く!!(多分)
107:えころ :

2019/10/13 (Sun) 18:20:20

田中一郎、異世界へ行く89

~前回までのあらすじ~
何故かアルル達を追ってこないレイパー……!?
以上!!

ヴゼルはアルル達の後を追うのを一旦やめ、レイパーを探し始めた。

「何をしてるのだ、あやつは……?」

そうして見つけた。レイパーは樹木にもたれかかって休……サボっているようだった。

「おい貴様、そこで何をやっている。アルル達の始末はどうした?」
「やめたよそんなの、俺様は自由にこの世界で生きていく事に決めたのさ。後は他の怪物に任せるよ」
「貴様正気で言ってるのか? 誰のお陰でその力を手にし、レイプできてると思ってるのだ?」
「うっせーなー、急がなくったっていつでも始末なんかできんだろ、しばらく自由に女を弄ばせてくれよ、オッサン」

ヴゼルはぶち切れた。

「もういい、貴様は何の役にも立たぬ。それなら今から役に立つように変えてくれるわ!! 行けいッ!!」
「ぐはッ!?」

ゴーサインとともに何者かに腹を突き刺される怪物レイパー。

「だ、誰だ……!? いきなり何を……うぐっ!?」
「ふん、新しい刺客だ。だが貴様には最期に役立ってもらおうではないか。捨て駒としてな!!」
「て、てめえ!! こんなことが許されると……!!」
「他者の尊厳を散々踏みにじってきた貴様が今更何を言うか。話ができるのもこれが最期だ!!」

怪物レイパーは意識を失い、獰猛なケダモノのように変化する!!
そして田中達はマーレボルジェ最後の袋にやって来た。

「くぅ~疲れました! これにて地獄編完結です!」
「おい田中、まだ地獄からの脱出は終わってないぞ。マーレボルジェを脱するところだ。そして田中、ここは最も注意しなければならん場所だ」
「さいですか……、ん? 何だよ改まって……。今までだってやばすぎる場所だったろ、何言われても驚……」
「ペスト(黒死病)って知ってるか?」
「は? いきなり何だよ。知るかそんなの」
「感染症だ。ここ詐欺師の袋はみなその感染症にかかっている。つまり亡者には絶対に近づいてはならない」

田中はいまいちピンと来てなさそうだったので指さし、亡者どもをよく見るよう指示する。
すると咳き込んで吐血したり、高熱に魘され身動きが満足にできぬもの、身体のあちこちに斑点が表れ、もがき苦しむ様が確認できた。

「ひ、ひええっ……!! 何だあれ……、病気か……!? やべえよ早く逃げようぜイナシクサ!」
「うん、これでもう地獄から抜けたとかふざけた事言わないな? 特に亡者のお前は感染しやす……」
「言わねーよ!!」

そして病気が蔓延した地獄の先をどんどん進んでいくと塔のような大きなものが見えてきた。

「あれ何だ……? こんなところに建築物なんかあるのかよ」
「田中、あれは巨人だ。あの巨人に声をかけていよいよ最終圏、コキュートスに下ろしてもらうんだ」
(コキュートスは最深部。君主への裏切りを謀略した者が送られる極寒地獄だ)
「あのミーノスってオッサンが送ろうとした地獄の底の底ってわけだな……」

イナシクサは頷く。そしていよいよ巨人のもとへ!! 続く!!(多分)
108:えころ :

2019/10/14 (Mon) 01:09:31

田中一郎、異世界へ行く90

~前回までのあらすじ~
怪物レイパー、凶暴になる!!
以上!!

巨人の胸のところまでやってきた田中達。イナシクサは大声で巨人を褒め称え、掴んでもらう。
そして下ろしてもらうとやっと最深部への入り口が見えてきた。

「ここがコキュートス。ここは4つの区画に別れていて……」
「な、なあ……寒いんだけどこれ……、どうにかならんかなあ……」
「バーニングサイキックスクリューをすればいいだろ、まずは肉親を裏切った者が落とされるカイーナを通ろう」
「やだイナシクサさんまで冷たい」

そして田中はスケート選手みたいにクルクル回転しながら炎を纏い、イナシクサの後をついて行こうとするが、目が回ったのでやっぱりやめた。
正面にはまるでガラスのように綺麗に凍った湖があり、その周囲にも見事にカチコチに凍った亡者どもの姿があった。

「あのさ、寒暖差激しすぎるんだよ。ここ熱いとこばっかじゃん? 何でこんな急に冷えるの? 地獄を作った奴はアホなの?」
「田中、ここは地獄だぞ。こんなところに落ちる輩がそんな贅沢を言えるはずもないだろ、しっかりしろ」

暖を取れない田中はバーニングサイキックパンチを凍った壁にぶちかますが、全く溶けてくれない。
見かねたイナシクサが肩を叩く。

「田中、炎をつけるのは自分の身体にしておけ」
「熱いんで嫌です」
「じゃあ我慢しろ、それとも私にくっついて歩くか」
「それも嫌です、我慢します」

そしてヴゼルは凶悪になった怪物レイパーを引き連れ、アルル達のところへ戻ってきた!!

「はっはっは!! 諸君、お待たせしたな!! さっき貴様らを襲った怪物は更に強くなって戻ってきてくれたようだ! これはもう絶望するしかないな!」
「何だと!? くそッ、ぞう大魔王までやられた上に強くなってんのか! どうすりゃいいんだ!!」
「うえーん、おばあちゃ~ん!! わたくし達はもうお終いですわー!!」
「そんな……」
(フゥー、アルルどもに怪物を指導できなかったなんて醜態を知られたくないし、これで万事解決だな!)

キュピーンと見栄を張るヴゼルだったが、後ろからラグナスとぞう大魔王がやってきた!!

「間に合ったぞう!! さあ残るは本体の貴様だけだぞう!!」
「魔神ヴゼル!! 卑劣なる貴様の計画は我々が打ち砕く!!」
「あれ? ぞう大魔王達、無事じゃん? ……どういう事?」
「う、うるさい!! 怪物よ!! アルルどもをぶち滅ぼすのだ!! それゆけいッ!!」

襲撃する怪物レイパー!! アルル達の運命やいかに!! 続く!!(多分)
109:えころ :

2019/10/14 (Mon) 16:19:09

田中一郎、異世界へ行く91

~前回までのあらすじ~
怪物レイパー、アルル達を襲撃す!!
以上!!

田中はツルツル滑る地面に何度もすっ転び、嫌気がさしていた。見兼ねたイナシクサは転んだ田中の前で背を向けてしゃがむ。

「ほれ、おぶってやる」
「ケッ、ガキじゃああるめえしそんな事してもらうなんて不良の名が廃るってもんよォ!」

おんぶを拒否る田中を置いて先へ進んでいくイナシクサ。田中は負けじとついていくが、やはり滑って転び、顔面を強打!!

「いっでえ! いてえよぉイナシクサ……」
「もう廃れてるな? どうする? 置いてくけど」
「お、おんぶお願いします……」
「正直でよろしい」

田中はイナシクサにおぶってもらってカイーナを抜け、次のアンテノーラに進む!!

「田中、ここはアンテノーラ。生まれ故郷を売り渡した者が送られる場所。しかもさっきより寒いぞ」

イナシクサが指差した方を見ると、亡者が生気の感じられない顔で瞬きすらせず凍てついているのが見えた。
しかし、田中は意識が朦朧とし始め、疲れも相まって眠ってしまおうとしたが、イナシクサが背中から電流を流し、叩き起こす。

「あべべべべべ!!」
「寝るな、田中一郎。ここで意識を失えばお前もこの凍土で罪人と同じ扱いを受ける事になるぞ」
「い、いいじゃんかよー! 俺ここに来るまでほとんど休憩してないんだぜー!!」
「じゃあするか? こんな長時間いるのも堪え兼ねるような空間で?」
「いやさっさと進む方向でお願いします」
「分かればよろしい」

そしてアルル達、テレポートで怪物レイパーの襲撃を回避ッ!! ぞう大魔王が巨大化し、レイパーを踏み潰すッ!!
だが、パワーアップしたレイパーはグングン大きくなるぞうの巨足をとんでもない怪力で受け止め、次第に持ち上げようとしていく!!

「まずいぞ、このままじゃぞう大魔王があのレイパーに力負けしちまう!!」
「それなら力を発揮できないようにしてしまえばいいんだよ! ひーどん!!」
「そんな弱っちい呪文が通用するのか……?」
「あの怪物は知能がかなり低下している。つまり意識も相当脆いはず! 主人は当てられなかったけどあのサイズであの状態ならいける!!」

アルルの狙い通り、怪物レイパーはウトウトし、( ˘ω˘ ) スヤァ...と眠る!! だがそれでも力は衰えず、ぞう大魔王をそのまま倒してしまう!!

「なんてやつだぞう!! ぎゃふん!!」
「何っ!? あいつ寝ててもあんな力持ってやがったのか!!」
「いやでも見て、あの怪物はあまり動けない! 逃げるなら今のうちよみんな!!」
「お見事です、流石はヴゼル様を手こずらせる魔導師達。力がないとはいえ、本当に油断ならぬ者達ですね」
「!?」

アルル達が振り返ると、拍手をしながら優雅に歩いてくるひとりの怪物の姿があった!!

「てめえ!! 何者だ!! ヴゼルの手下だな!!」
「いかにも。私は魔神ヴゼルに導かれ、この地に降り立った者です。ここで生体実験を行い、その成果を発表する事。これが我が目的なのです」
「任せたぞ、科学者よ。アルル達を人体実験の材料として使い、確実に命を奪うのだ」

怪物マッドサイエンティスト登場!! アルル達に迫る危機!! 続く!!(多分)
110:えころ :

2019/10/16 (Wed) 06:15:09

田中一郎、異世界へ行く92

~前回までのあらすじ~
新しい刺客出現す!! 田中達、地獄脱出間近!!
以上!!

「悪いが怪物さんよ、お前の相手は俺達じゃねえ!! こいつだッ!! ナイトメア!!」

シェゾは眠っている怪物レイパーに呪文を唱え、操る!!

「なるほど……捨て駒として放たれた憐れな彼を道具として利用するとは。さすがです!」
「感心してる場合かぞう? お前も敵なら踏み潰して始末してしまうだけだぞう!!」

倒されたぞう大魔王が立ち上がり、ラグナスも怪物科学者の攻撃に備える!!

「囲まれてしまったな、科学者よ……。巨象と操作された元強姦魔が相手とは……」
「ご安心ください、ヴゼル様。このような形勢など私が打つ一手で簡単にひっくり返せます」

怪物マッドサイエンティストは操られた怪物レイパーの頭部に電極をぶっさした!!
凄まじい電圧が怪物レイパーを襲い、みるみるうちに肉体を巨大化させ、より凶暴性を増すッ!!

「何ィ!? くそッ、これじゃああの時の怪物田中や主人と全く状況が一緒になっちまったじゃねーか!!」
「言ってる場合じゃない! 闇の魔導師!! あれはぞう大魔王に任せて我々は逃げ……!!」
「させませんよ」

怪物科学者が放った粘着液がアルル達の足をあっという間に固めて、動けなくしてしまう!!

「バ、バカな!?」
「きゃああああああ!!」
「あの怪物が巨象の相手をしている間、私はあなた達を解剖します。魔導師と呼ばれる方々の脳を解析してみたいので」

メスを取り出し、アルル達に迫ってくる怪物科学者!!
そして田中達、死ぬほど寒いアンテノーラを抜けても更に寒気が増すトロメーアにやってきた。
鼻水やよだれをジュルジュルズビズビ啜る田中だったが、その体液さえ、一瞬のうちに氷結し、田中の身体を冷凍させてくる有様であった。
周囲の罪人どもも身体の水分を全て凍らされまいと俯いていて顔を伺う事ができなかった。

「田中、ここはトロメーア。客人を招き入れるふりをして毒殺しようとした者などが送られる場所。そしてここは決して上を向いてはいけない」
「分かるよイナシクサ……俺の身体の水分という水分が凍っていくのを感じる。こんなところに長居してたらマジで俺、考える事をやめちまうよ……」
「お前はもとから考えるのが得意なタイプではないが、ここでは上を向いて歩こうなどと前向きな思いが許される場所ではないからな」
「うん、地獄だしな……」

イナシクサは満足そうに頷き、田中を背負ってトロメーアをさっさと進む。そして見えてきた。地獄の底の底、その最終点の入り口が。

「田中、いよいよジュデッカだ。そこがゴール。そして地獄の魔王が佇む最悪の場所。準備はいいか?」
「準備してる余裕ないじゃん、早く行ってよ……」
「そうだな、そしてしっかりしろ田中ァ!!」
「ぐへッ!!」

イナシクサはまた意識が朦朧とする田中をたたき起こした後、ジュデッカに突入する!! 続く!!(多分)
111:えころ :

2019/10/17 (Thu) 06:13:59

田中一郎、異世界へ行く93

〜前回までのあらすじ〜
アルル達、解剖の危機!!
以上!!

ジュデッカ。罪人どもが氷漬けになっており、もはや死体の状態のまま存在しているその不吉な有様に思わず目を逸らす田中を連れ、ついにやってきた。
地獄の大悪魔ルシファーが鎮座するその円の中心へと。田中はイナシクサにおぶってもらっててあまり気がつかなかったが、ここの重力は凄まじく、地に足ついただけで膝をついてしまうほどであった。
イナシクサは巨大悪魔、ルシファーに呼びかける。田中はその姿を見てただただ畏怖の感情を覚えていた。

「かつての大天使ルシフェルよ、無礼を承知で頼みますが、どうか我々を此岸へ帰還させていただきたい! 今も行われる魔神ヴゼルの蛮行を止めなければならないのです!」

ルシフェルと呼ばれた魔王はギョロリとイナシクサに視線を移し、会話に応じる。

「ミーノスや上層にいる悪魔を通じて話は聞いておる。お前がイナシクサ、そしてそこのガキが田中一郎だな」
「ええ、我々は此岸へ大きな未練を残している。そこで多くの命を救出しなければ世界が破滅してしまうのです」
「まあ落ち着きなさいイナシクサ、私はゲームが好きなのだ。これとかやった経験はあるかね」

ルシフェルが顎を下げると大きな墓石がガシャガシャと降り注いでくる。悲鳴を上げてそれを避ける田中!
よく見ると墓石には人の名前ではなく、数字、輪、棒、英字が彫られていた。これはもしやとイナシクサは思っていた。

「私の認識でいうところの……麻雀……ですか?」
「そうだとも、通常それは4人で行うもの。しかしこの遊戯は2人でするのだからルールも特殊なものを採用している」

特殊ルール。まず麻雀には点棒が用いられるが、代わりにチップが用いられる。
このチップは魔王ルシフェルは無限に持つものと仮定して、イナシクサには100枚だけ与えられる。

「それを毎回賭けて1000枚まで貯められればお前達を現世に戻そう。ただし負ければ永久にここの罪人だ」
「い、イナシクサ……。この魔王、イカサマとかしないよな? ……大丈夫だよな?」
「小僧、生憎私はそんな事はしないさ。安心したまえ」

そして次にゲームの進行。麻雀は山を積むのだが、このゲームはそんな事はしない。
この巨大な石はランダムに互いの所に13個ずつ割り当てられ、イナシクサスタートで進行していく。
番が回るたびに1個、自分のところに落ちてきて、捨てる時はその石が重力が逆転して上に吸い込まれていくという感じ。
通常麻雀には河(ホー)があって捨て牌を確認できるのだが、これにそれはない。
何故ならフリテン(捨てた牌に絡む待ちはロンできないルール)がないからだ。この順繰りを17回繰り返すと流局という事になる。
王牌(ワンパイ)がないのでドラもなく、しかもリーチができないので基本的に役は手作りで作る事になる。
ただカンをした時にはもう一個石が降ってきて、これがリンシャン牌という扱いになり、あがれば嶺上開花(リンシャンカイホー)がつく。
2人ゲームなのでツモとロンに相違はなく、チップはあがったプレイヤーに全て支払われる。流局するとベットしたチップは戻ってくる。即ちノーテン罰符は存在しない。

「次に役についてだが、通常とは違い、これについては満貫縛りというルールだ。最低でも4翻以上役を絡める必要がある」

3翻60符も可能であるが、通常ヤオチュー牌を1つ暗槓しなければならないので考慮に入れても仕方ないだろう。

「では、いいかな。ルール説明はそこら辺で。ミーノスはこの遊びを知らんし、罪人どもは見ての通りカチコチ。やりたくてもやる相手がいなかったのだよ」
「お受けいたしましょう! デュエル!!」
「……それ別のゲームじゃね?」

そしてアルル達は怪物科学者に襲われ、身動きが取れない……が! それは怪物の方も同様であった。

「おや、おやおや……? どうした事でしょうか、これは……」

何と怪物の体が包帯に縛られ、身動きが取れない状態になっていた。包帯でできた魔物、マミーであった!

「行かせないのよさ……! アルル達のところへは……」
「驚きましたねえ、この期に及んでまだ我々に刃向かう者がいたとは……。それも人外ですか、しかし残念な事に」

怪物は巻かれた包帯を綺麗に引き裂き、また自由になる!

「アルルさん達の状態と比べればそう大した事でもありません。彼女らは脚部でも切断しない限り、逃げられないのですからね……」

だがマミーはそれでも諦めず、怪物に包帯を巻いて動きを封じようとする!!

「ふふ、こんな魔物まで手懐け、味方させるとは本当に面白い方々だ……。でも遊びには付き合ってられないのですよ!」

怪物は包帯を一瞬で解体し、マミー本体も切り付けて攻撃をするッ!!
だがマミーはそれを絡め取り、どうしても怪物の手を煩わせようとする!

「よし今だ、ブレインダムド!!」

手こずる怪物の思考能力を低下させる魔法をぶつけるアルル! それまで一瞬で解けていた包帯が絡まりに絡まって身動きが取れなくなった!

「なっ、こんな魔物ごときに遅れを取るのか貴様っ!! しっかりしろ!!」

焦るヴゼル!! 怪物レイパーもぞう大魔王と取っ組み合っており、アルル達に希望が生まれ始める!! 続く!!(多分)

「……俺麻雀分からんから、何説明されてたんだか全く分かんねえ……」
112:えころ :

2019/10/17 (Thu) 16:56:56

田中一郎、異世界へ行く94

~前回までのあらすじ~
ルシフェルとイナシクサの麻雀対決開始!!
以上!!

このルールにはツモとロンに支払い上差異はないと書いたが、4飜でも平和や七対子は役の都合上差異が出る場合がある。
例えば平和はツモでは4飜20符なのであがる事ができないが、ロンなら30符なのであがる事ができる。
七対子の場合はロンだと4飜25符であがる事はできないが、ツモなら確実に門前ツモの1飜がつき、満貫となってあがれる。
これは本来3飜しかないタンヤオ三暗刻(門前)も同様である。要するに満貫に届きさえすればあがれる。
幸いフリテンもないので運悪く安目を引いても切り飛ばしていけるが、何せ17回しかツモがないので悠長なプレーもできない。

「おっと、そうそう支払いの事についてもう少し詳しく話しておかなければならないな」

チップは最低でも10枚単位でしかかけられず、端数が出る事はない。
例えば10枚ベットしたとしてハネ満(1.5倍)をあがったとする。
この場合イナシクサが獲得する収益は本来15枚となるが、端数を切り捨てるこのルールでは10枚の収益。つまり満貫(等倍)と同程度の収益となる。
逆に20枚ベットし、あがった場合は30枚となり、端数が発生しないのだ。
そしてもう一つは飜数に対応した点数の変更。4・5飜満貫、6・7飜ハネ満、8・9飜倍満、10・11飜3倍満、12飜以上で数え役満となる。
しかしドラを絡められず、手作りで作る事がベースとなるこのルールでは通常どう作っても倍満止まりである。ゆえに3倍満や数え役満は滅多に出ない。

「もちろんポン・チー・カンのように互いの捨て牌を鳴く事もできるが、手が高くなりにくいことも考慮すればオススメはできんがな」

イナシクサはとりあえず20枚をベットし、ゲームをスタートする。
始めてみて分かった。このルールではある種王道とも言えるメンタンピンが何の役にも立たない手である事を。
現に彼の前に並べられた巨大な石の集団はまさしくピンフの手立てになっていたからだ。

(混一か清一のような手でないと作る意味は薄い……。三色や一通等はそう簡単に狙える役でもない……)

とりあえず不要な石を選択し、超能力でそれを倒すと重力に逆らって上に吸い込まれ、虚空の内へと消滅する。
相手に捨てる牌を確認してもらうのは普通の麻雀と変わらないが、このゲームには河がないので、相手がどんな手を作ってるかは捨て牌をいちいち記憶しないと分からない。
ゆえにただ自分の手を作るだけでなく、相手がどんな手を作ってるかまで考える必要がこのゲームには出てくるのである。

「そうそう、このゲームには場風という概念がないから、方角牌はすべて役牌という扱いだ」

方角牌(風牌)とはE(EAST)、W(WEST)、S(SOUTH)、N(NORTH)の4種の牌で、1種につき3枚集めると1飜役になる。
通常の麻雀は4人で行われるため、これに対応する風が各自割与えられ、無関係な風は役にならないのだが、2人でやる性質上それが存在しない。
そしてルシフェルは言ってるそばからWを倒し、それを吸い込ませてイナシクサに番を回してきた。
その頃、アルル達はマミーの包帯に絡まれ、苦しむ怪物を尻目に何とか脱出できないか模索していた。

「ファイヤーで焼き切るわけには行かないし……ここはホットで……」

アルルは自分の足を固めている接着剤に熱湯をかけるもあまりの熱さに悶え苦しむこととなる!!

「わぢゃぢゃぢゃ、ひぃぃ! 早く取れてよ~」

しばらくすると固まっていた片足が徐々にぐらついてきて、力を込めると完全に足を引き抜く事に成功し、自由の身になった!

「やったあ! みんなも今からやってあげるね!」
「おい怪物ゥ!! アルルどもが自由になりやがっているではないかァ!! いつまで遊んでるつもりだァ! 私の雷をくらええええいッ!!」

その時、急に雨雲が集まり出し、空がゴロゴロとなり始める。瞬間、激しい光とともに怪物科学者に落雷ッ!!
マミーは吹っ飛ばされ、アルル達もそれを唖然として見ていた。オイオイオイ死ぬわ、アイツ。いやそうではない。
何と今までテレビを見て文句を言うオッサンに過ぎなかったヴゼル自身が初めて直接干渉してきたのである。
天候を操れる程度とは言え、これは非常にまずい事になった。しかも怪物科学者は落雷の影響を受けてもさすがと言うべきか生きていた。

「ヴゼル様、申し訳ございません。ここからは私も手を抜かず確実に始末することだけを考えましょう」

再び絶望がアルル達の心を飲み込む!! そしてイナシクサは戯れを終えてさっさと現世に戻れるのか!! 続く!!(多分)
113:えころ :

2019/10/19 (Sat) 03:32:52

田中一郎、異世界へ行く95

〜前回までのあらすじ〜
怪物科学者、再起動!!
以上!!

CAUTION!!
さっきから何やらこの物語に麻雀用語とかいうよく分からん呪文が登場しますが、意味不明ならスルーしてください!!

麻雀には3人でやるサンマと呼ばれるルールも存在している。
このルールは一般的にゲームを円滑に進めるため数牌のうちマンズ(このゲームでは数字が彫られた石)の2〜8が抜かれている事もあり、混一色や清一色が作りやすい。
だがこのゲームは一般に用いられる数牌108枚+字牌28枚の計136枚全てを使うため、通常の麻雀とあまり変わらず高い手役を作りにくい。
イナシクサは次に何も彫られていない石を引いてくる(正確には落ちてくるだけどこれで統一する)。
これは竜<ドラゴン>牌(三元牌)のうちの一つで、W(WHITE=白)、G(GREEN=發)、R(RED=中)の3種がある。
そのうちWは通常の麻雀と同じく何も彫られていないのである。(別に風のWESTと被るとかそんな理由じゃない)
これら3種を3枚ずつ集めると大三元という役になるのはあまりにも有名である。
だが今この手には役に立たないのでそのまま切り飛ばすイナシクサ。その後、ルシフェルもEを捨ててくる。

(ルシフェルもまだ字牌整理の段階か。まぁ聴牌しにくいのだから無理もないが、一体どんな役を狙ってるのだろう……?)

時折後ろであくびをする田中に電流を流してしばきあげながら流局間近まで進めるとイナシクサはこの手がどうしようもないので一先ずオリる事にした。
通常の麻雀だとノーテン罰符を惜しんでとりあえず回して聴牌維持をする事も多いのだが、このゲームにはそれがないのでオリ得である。
そして流局。石をそのまま虚空に吸い込ませようとするイナシクサだったが、ルシフェルはわざわざ石を倒して手の内を見せてきた。

「フフ……、危なかったなイナシクサ君……。私がこの手をあがればキミを追い詰められただろうに……」

見て仰天する。何とルシフェルは作りにくい清一色を門前で聴牌していたのである。清一色は鳴かなければ文句なくハネ満。つまり30枚を失っていたという事になる。
地獄の魔王の運は馬鹿にならない……戦慄するイナシクサの後ろで田中が俯き始めたのでまた電流を浴びせたのは言うまでもない。
そしてアルル達、怪物科学者の襲撃を受けるかと思いきや!! 何と怪物の足が固まって動けなくなってしまっていた!

「こ、これは……!? 私の足が石化している……!! 何者の仕業だ!!」
「コケーッ!!」
「コカトリスだ!! 奴の力で怪物の足を止めてくれたんだ!!」
「みんな魔神ヴゼルの侵略に怒ってるんだわさ……、我が物顔で暴れまわる怪物どもにも……」

吹っ飛ばされたマミーも戻ってくる。ヴゼルはイライラしていた。

「だから何なのだ? 三下奴がゾロゾロ揃ったところでこの私を止められると思っているのか?」

アルルはみんなの拘束を解放し、マミーが渡してくれたキノコを受け取った。

「これでみんなの力を回復するのよさ、実は他の場所にも奴が怪物化した人間や、変な女が略奪をしたりしているのよさ……!!」
「倉山か……!!」

しかし、怪物科学者は石化した部分を容赦なく切断した! そして宙へ浮き上がり、アルル達を襲撃しようとする!!

「ヴゼル様、サポートをお願いいたします! こいつらの事はもう絶対許しません!!」
「よかろう、私もちょうど同じ事を考えていたところだ……!!」

とその時、ぞう大魔王が神魔王大噴火レジェンドサイクロンフレアパンチを怪物レイパーにぶちかまし、撃破した後、飛翔していた怪物科学者を地面に叩き落とすッ!!

「ぐはぁ!?」
「許さないのはこっちだぞう……! ヴゼル諸共始末してくれるぞう!!」

アルル達を絶望させるつもりが、何と自分が絶望する羽目になるヴゼル!! 世界を守る意思が勇気と力を呼ぶ!! 続く!!(多分)
114:えころ :

2019/10/19 (Sat) 14:03:20

田中一郎、異性界へ行く96

~前回までのあらすじ~
怪物レイパー撃破ァ!!
以上!!

怪物科学者も更なる石化を受け、態勢を整えたアルル達とぞう大魔王によってやられてしまった!

「ライトスラッシュゥゥ!!」

ついでに美味しいところをちゃっかりラグナスがもらい、経験値を得た事により少しだけ元に戻っていく。

「ちっくしょーー!!」

錯乱したヴゼルが雷をアルル達の周りに撃ち散らかすッ!!
サタンは一瞬にしてシェルターのような建築物を作り、そこにアルル達は避難するッ!!
視界が歪むヴゼル。ぐにゃあっ……。

「どっどこでしくじったのだ……怪物どもがあんなにアッサリ……私の見立ては間違っていたのか……?」

怒りあるいは恐れ、哀しみのような感情が入り混じり、歯をカチカチ鳴らし始めるヴゼルおじさん。

「あ……ありえぬ! こんな事はあってはならぬのだ! もう各地で怪物化した輩をここまで集めて……」

怪物を集合させたところで奴らに協力する意思などない。もしかしたら同士討ちになって喧嘩を始めるかもしれない。
また全て操り人形のようにして襲わせるにも知能が低下しているのだから複雑な動きはできず、その虚を突かれるかもしれない。
一度考え始めると沸沸と湧き上がって止まらないネガティブな思考。何をやってもお釈迦になるのではないかという恐怖がヴゼルの心を侵食する。
40話でアルル達から受けた罵倒が記憶の底からリフレインしてくる。

「あ、あっ新しい人材を取ってくるか……? い、いやしかしその間私は怪物の制御ができな……」
(貴様は強大な力を持っていながら恐れをなすのか! 情けない支配者だな!!)
(ヘタレ魔神が! お前が歴史に名を残すなんて永遠の恥だ!! そのまま闇に葬り去られるんだな!!)
(世界を滅茶苦茶にしようとしたくせに何だよそのザマは! 結局墓穴を掘ってるだけじゃんかこのアホ魔神!!)

そしてイナシクサは賭けに出た!! 何と100枚全部をベットしてみせたのだ!!

「しょ、正気かお前……それは手持ち全部という事か……?」
「その通りだ、早くゲームを終わらせるにはこれしかない」

さっきまで調子に乗って口調が和らいでいたルシフェルに謎のプレッシャーがかかるが、強引に口の端を吊り上げてみせた。
田中もそれを見て目を丸くしている。いくら麻雀自体は分からない彼でもイナシクサがマックス……!! なベットをしている事ぐらいは分かる。

「よ、よかろう……。そんなに急ぐなら終わらせてやろう……お前の敗北によってな!」

だがチャンス手が降臨する!! 何と配牌から既に三暗刻が完成!! そして狙うはもちろん!!

「ルシフェル!! これがキョダイマックスなベットが生み出した私の希望への道<ロード>だぁ!!」

数巡で完成!! 四暗刻!! 役満は4倍払いでイナシクサは一気に400枚のチップを得る!!
後ろで見ていた田中もよく分からなかったが、イナシクサがバカ勝ちしたと知り、おおっと興奮する!!

「さぁ続けよう、ルシフェル……次の勝負で最後になるか……ならないか……」
「グッ……!!」

麻雀勝負に早くも終焉の風が吹く!! ヴゼルおじさんは乱れた心を整理できるのか!! 続く!!(多分)
115:えころ :

2019/10/20 (Sun) 11:07:28

田中一郎、異世界へ行く97

~前回までのあらすじ~
ヴゼル様の視界がグッニャグニャ!!
以上!!

イナシクサは当然また全額500枚をベットし、ルシフェルに勝負を挑んでいた!!

「お、おい……。俺その麻雀とか分かんねえんだけどさ、相手が勝ったらそれ全部没収されちまうんだよなぁ……?」
「そうだが?」
「い、いやそうだがじゃなくって……それならもう少し減らして慎重に賭けるとか何も全額賭けなくても……」

ルシフェルが高笑いする。

「フハハハ!! 面白い奴だイナシクサ!! いいだろう、そこまで私の事をコケにするならその命銭全て奪い去ってくれよう!」
「い、イナシクサ……今からでもいいからベットを減らそう……負けたら俺ら永遠に……」
「負けたときの事なんて考えてない、勝ち馬に乗ってる今、水を差すような弱音など不要だ」

勝負が続行される!

「い、イナシクサぁ! ひぃ!!」

相変わらず上からドサドサ降ってくる墓石にビビる田中。

2巡目、イナシクサが2を切ったのを皮切りに……!!

「ポン!!」

ルシフェルから発声が入る!! そして次巡!!

「カン!!」

暗槓が入る。しかも落ちてきたリンシャン牌をまたカン、更にカン……!!
何とこの時点で三暗刻と三槓子、対々和が揃ってハネ満が成立する。
次のリンシャン牌でルシフェルがあがったならイナシクサは文句なく敗北する!!
そしてルシフェルは……何と最初にポンしていた2を引き入れ、加カン!!
天和と並んで出来にくいと言われる役満、四槓子が確定する!!

「ひぃぃ!!」
「さて、リンシャン牌だ……。これで私がツモれば……」
「お待ちくださいルシフェル、あなたが引くツモはもうない」

ルシフェルはそれを聞いて怪訝そうな顔をする。

「どういう事だイナシクサ、まさか私の役満成立に怖気付いて勝負を反故にしようとしてるのではなかろうな」
「いやそういう事じゃない、勝負はもう私の勝ちで決着しています」

イナシクサは石を倒してみせる!!

「タンピン一盃口だと? それじゃあ満貫には届かないではないか……?」

そう、タンピン一盃口は3飜。ピンフロンは30符だが、満貫にするためには1飜足りないのだ。

「チャンカンが成立する。通常の麻雀であればフリテンであがれないが、このゲームにそれはない。故にその2で1飜上乗せされる」

イナシクサは目線を下に移して話を続ける。

「……尤も三色でしか上がり目がなかったこの手を救ったのはあなた自身の強運だったのだが」
「と、という事はつまり……」
「そう、ルシフェル。500枚払いで1000枚貯まった。あなたの出した条件は満たされたのだ」

ルシフェルはフッフッフと不気味に笑い始めた。

「な、何がおかしいんだよオッサン! イナシクサが勝ったんだから早く俺らをここから出せや!」
「断る! こんなものは認めん!! お前達はずっとここにいろ!」
「何ィ!?」

怒りに震える田中。

「ど、どーすんだイナシクサ! こいつも結局道中にいたクソ悪魔と何ら変わらねーじゃんか!!」
「いや脱出できる方法が一つだけある。今の勝負を天上神が見ているのであれば確実に我々に理があると考える」
「何を言っておるイナシクサ、ここは地獄の底の底。神が見ているはずなど……」

イナシクサは田中を抱えてルシフェルがハマっている溝の隙間に突っ込んでいく!!

「お、おい! バカな真似はよせ!!」
「問答無用!! 我々は地上に戻るのだ!!」
「ぎゃああああ!!」

そして田中が目を覚ましたのは……激しく争い、えぐれた大地の跡が見える森の木陰であった。
目の前に自分を心配そうに見つめる少女の姿があった。

「目を……覚ました……?」
「こ、ここは……」
「い、今魔神ヴゼルが世界を破壊しようと怪物達を……」

それを聞いて田中は自分の身体を見た。生きている。倉山に殺されたはずなのに無傷の状態で蘇生している。

「私も……簡単な回復魔法ぐらいは使えるから……それで……」
「えっと、お前は……?」
「私は……あの屋敷の奴隷……」

田中は思い出す。ヴゼルと倉山の手によって怪物化し、怨霊まで発生させた主人を。

「なるほど……とにかくありがとな、お前のおかげで……」
「あぁたらしいあぁさが来たぁ、ぜぇつぼぉのあぁさだ」
「!?」

田中は身構える。日が登ってきたのか、辺りは明るいが天気の様子がおかしい。しかもこの声にも聞き覚えはない。

「フッフッフ……アルルどもよ! 確かに私は少々回りくどかったかもしれぬ……だが今度こそ! 絶望するのは貴様らだ! 思い知らせてやる!!」
「魔神ヴゼルか!!」

田中は急いでアルル達のもとまで向かう!! 続く!!(多分)
116:えころ :

2019/10/22 (Tue) 02:47:23

田中一郎、異世界へ行く98

~前回までのあらすじ~
田中、地獄より帰還!!
以上!!

田中はふとポケットの中で何かがバイブレーションしてる事に気がついた。
取り出すと、それは第6圏異端者の地獄でリュックと名乗る少女から貰ったハッピーさんという子型端末であった。
画面に触れると見覚えのない人物と通信される。田中は首を傾げながら走っていると大きな声が聞こえてきた。

「もしもし聞こえますかー!? 私は感田未来大学の助教授中山大(なかやままさる)という者ですがー!!」
「誰だあんたは、俺は今からアルル達を助けにいかなくちゃならねえんだ! 用件があるなら手短に頼む!!」
「実は私、過去改変研究の第一人者でして、曽祖父の中山仁って教授を知ってますかー!?」
「知らねーよ誰だそいつ!!」
「おかしいなあ、今そこに倉山恭子って人がいるはずなんだけどなあ……」
「!! 倉山について何か知ってんのか!?」

田中は思わず立ち止まる。モニターの人物は笑顔で応答する。

「ええ、倉山って人は調査によると魔神ヴゼルと密接な関係があって、彼の力を増幅させる役割も持っているみたいで……」
「なるほど、じゃあまずは倉山をとっ捕まえてぶっ殺せばいいって事だな!」
「はい、アルルさん達はヴゼルが開けた時空を辿る穴を通して私がエネルギー波を浴びせた仲間達と一緒なので、多分大丈夫かと思います!」
「っしゃあ!! 待ってろ倉山ァ!! 俺を殺して地獄に堕とした恨みは必ず晴らしてやるぜええ!!」
「じ、地獄に堕ちたのは自業自得かと……」
「うるせえ! いいから倉山がいると思しき場所までナビゲートしろ!!」
「はいっ!! ただいまぁ!!」

画面に地図が表示され、目的地と現在地にそれぞれ赤い点、ルートが青い線で示される!!
そしてキミ子(倉山)はアルル達の村とは少し離れた他の町を占拠し、乱暴を働いていた!!

「オラオラァ、魔神ヴゼルの銅像を建てなさい!! ここはもう奴に侵略された場所なのよ!!」
「ひぃぃ!!」

町人達がキミ子に甚振られながら、偉そうな面をしたオッサンの銅像を作らされていた!!

(ふふっ、これで魔神ヴゼルがこの世界を侵略しようとした歴史が残り、アルル達はヴゼルに敗北……。そして私はその事実を発表し、遺体とともに大金持ち……)
「見つけたぞ倉山ァ!!」
「!?」

ハッピーさんもとい中山大のナビを見て田中がキミ子のところまでやってきた!!

「あら……誰かしら? 記憶にないわねぇ、もしかして私が遠い昔に知り合った田辺さんだったかしらぁ……?」
「寝ぼけた事ほざいてんじゃねえ、今からてめーを確実にぶち殺すからさっさと戦闘の準備をしろ」

キミ子は口の端を歪めた!!

「ふーん、生き返って報復しに来たって事? でも分かってるわよね、あなたがどれだけ強くなってこようと無意味って事が! またぶち転がしてあげるわ!!」

田中とキミ子の最終決戦が始まる!! リベンジマッチだ!! 続く!!(多分)

「そういやサタン、お前こんな強力なシェルター作れんだったら早く作れば良かったじゃねーか」
「い、いや私も……ただ即興で作っただけなんだが、ここまで緻密で精巧なものを作ったつもりではなかったんだ……」
「まあまあいいじゃない、お陰で敵の侵入は防げてるんだし!」

ヴゼルは怒声をあげる!!

「おい怪物どもぉ!! さっさとそのくだらない建築物を破壊しろぉ!! 何のために一か所に集合させたと思ってるのだぁ!!」
「ヴ、ヴゼル様……!! 我々も与えられた力を最大限に使ってるのですが、びくともせず……!!」
117:えころ :

2019/10/23 (Wed) 01:45:41

田中一郎、異世界へ行く99

~前回までのあらすじ~
田中とキミ子の決戦!!
以上!!

田中は構えて目を瞑る。キミ子猛襲!!

「悟る余裕なんか与えるかァ!! くらええええイェアッ!!」
「フローズンサイキックパンチィ!!」
「なっ、引きつけてから攻撃を当てるつもりか……ちぃっ!!」

キミ子は動きを止めるが、放たれた冷気が炎の翼の温度を奪い去り、勢いが弱まる!!

「なっ……、これでは肝心のスピードが……、ぬおお!?」
「ウオラァ!! もらったぜ!!」

奥義!! ヘルプリズン・バイオレンス・ラッシュゥゥゥ!!
地獄の旅で覚醒した力……それは重力!!
キミ子は田中の近くまで磁石のように引きつけられ、そのまま顔面に重みを伴った連撃が降りかかる!!

「ぐっぼええええッ!! だがこんな程度で……私は負けん!!」

キラーミストレス恭子!! ジェノサイドローテーション!!
目にも留まらぬ速さで田中のラッシュを避け、逆に田中の周囲を高速で飛び回り、斬撃のミキサーをかける!!

「ヒャアッハッハッハ!! 今度は肉体が再生しないぐらい粉々に……ごっぶぇ!?」
「惜しかったな倉山……、俺は今のお前の速度に対応できるんだよ。わざと攻撃させてカウンターしたんだ」

逆境無頼神術!! 廻る運命<フェイタル・ロンド>!!
田中に放ったはずの虐殺の籠が全てキミ子に跳ね返り、生えていた腕や首がボロボロと落ち、そのまま地面に散らばる!!

「ガッハァ!? こ、このガキ……、だがな……私はたとえ身体がこんな状態になっても死ぬ事なんかねえんだよ……」

凄まじい精神力と念力で身体を再生させようと試みるキミ子!! だがしかし、ボロボロになったキミ子の頭部に田中は放つ!!

「倉山ァ!! 今度はてめえが地獄の主と仲良しする番だァ!!」

究極奥義!! 特急極寒地獄<コキュートス>直通パンチィ!!
ぶん殴られたキミ子は体液や脳髄がドグチャアッと飛び出すのとほぼ同時にふっと何かが抜けていき、そのまま消え去っていった。
そしてキミ子の残骸をバーニングサイキックパンチで完全に消滅させて二度と地獄から復活させないように念を入れる田中!!

「ふぅ、大丈夫だったかお前ら……ってあれ」

どうやら二人の激しい戦いに巻き込まれまいと町人達は皆逃げていってしまったようだった。

「やれやれ……じゃあ残すはヴゼルだけだな、おい、案内してくれ」
「田中さぁん、お疲れ様で~す。了解で~す」
「やる気あんのかお前」

モニターにヴゼルまでの経路が表示され急ぐ田中!!
そして倉山は……。地獄の各圏を突き抜け、そのままジュデッカまでぶっ飛ばされていた!!

「ぐべらああああッ!! くそッ、田中君め……、これで勝ったと思うなよ……。私はまだ……」
「なるほど、貴様がそのヴゼルとやらの手先をしていた新しい罪人というわけか」

振り返ると後ろにオッサンが一人立っていた。

「誰よあんた、そんな事より私はここから出て大金持ちになるのよ……。出口を案内しなさい」
「私はミーノス。そしてここは地獄の底だ。ほれ、ちょうど横に巨大な悪魔ルシフェルがいるのが見えるだろう」

言われて倉山はルシフェルを見ると、背中にポン! と焼き印みたいなものを押された感覚がした。

「あっつ!! ……というかここよく考えたらさっむ!! 何よ、しかも立ってるのもやっとだし、一体全体どーなってるのよォ!?」
「お前は永久にここで罪を償い続けるのだ、暇なら身体が芯から凍てついてしまう前にルシフェルの相手でもしたらどうだ?」
「認めん!! 認めんぞイナシクサァ!! もう一度ここに!! ここに来るのだァ!!」

ため息をついてミーノスは重力を逆転させて上へ昇っていく。倉山は急いでそれに捕まろうとしたが、かかる重力のせいで肘をつき動けなくなってしまった!!
そしてヴゼルは痺れを切らし、怪物達に命ずる!!

「どけい役立たずどもッ!! こうなれば私が直接そのシェルターをぶっ滅ぼしてくれるわッ!!」

ヴゼルは太陽光をうーんと集めて、それを思いっきりアルル達のシェルターめがけて放射するッ!!
アルル達は急激に室内が蒸し暑くなったのを感じ、さすがにやばいと焦り始める!!

「ヴゼルの野郎!! この建物自体をまた溶かすつもりか!! どうするアルル!!」

急げ田中ァ!! ヴゼルがアルル達を滅ぼしてしまうその前に!! 続くったら続く!!(多分)
118:えころ :

2019/10/23 (Wed) 18:05:39

田中一郎、異世界へ行く100

~前回までのあらすじ~
田中、ヴゼルの元へ参る!!
以上!!

「ね、ねえ……。今のうちにテレポートで逃げようよ……このままじゃやばいって……」
「……そうしたいのはやまやまなんだが……」
「何?」
「このシェルターは内側からも魔力を打ち消す作りになっているんだよ」
「バカー!!」

しかし、田中がヴゼルのもとまでやってきて、ソーラービームに向かって奥義を放つ!!

「トリニティサイキックストリームゥゥゥ!!」

炎・雷・氷の三つの力が混じった衝撃波がヴゼルのソーラービームに直撃!! 何と完全に打ち消してしまう!!

「何ィ!?」
「ヴ、ヴゼル様……このガキは一体……!!」
「おーおーこんなところに醜悪なバケモンどもを集合させてるなんて随分準備がいいじゃねーか魔神ヴゼルさんよぉ」
「田中一郎だと!! 貴様完全に死んでいたのではなかったのか!?」
「誰かさんのおかげで地獄を抜ける羽目にはなったが、その分強烈にパワーアップさせてもらったぜ!! かかってきなァ!!」
「ものどもであえい!! そこのガキをバラバラに引き裂いてぶち滅ぼすのだ!!」

ヴゼルの指示で襲い来る怪物どもだったが、無論倉山を仕留めた田中の敵であるはずもなく!! 一瞬にして殲滅してしまった!!
シェルターにいたアルル達は……。

「お、おい……。急に攻撃が止んだぞ!? 一体どうなってんだ!!」
「この状況を打破できるぐらい強い奴が現れたってことか!?」
「……!! 田中だよ!!」

アルルは希望に満ちた眼で仲間達に叫んだ!!

「田中って……あいつ死んだはずだろ!? きっと別の……」
「いや私もあの子だと思うわ。わざわざ魔神ヴゼルに立ち向かってくれる人なんて他にいるとは考えられないし」
「肝心の勇者様はここで少しだけ戦力を失っておられますものね……」

ラグナスは少し申し訳なさそうな顔をしていたが、アルル達を危険に晒すためこのシェルターから出るわけにもいかなかった。

「田中一郎……貴様が戻ってきた上、しかも今の怪物どもを瞬殺するぐらいにまで化けていたとは……本当に驚かされた……」
「いいから降りて来いよ、いつまでもてめーだけ安全圏にいて石ころ投げてんじゃねーぞタコ助」

ヴゼルは高笑いする!!

「はっはっは!! 断る!! 田中一郎よ、貴様は私に近づくことすらできぬ!! この状況を最大限に利用させてもらおう!!」

天から妖しい光が放たれると同時、見たこともないくらいにドス黒い雨雲がたちまち、空を覆い、強力な雨を降らせた!!

「ただの雨じゃねえ……これは酸性雨か!!」
「ふふっ、ずっと当たっていれば貴様は脱水症状に陥り、激しい痛みとともにのたうち回る事になるぞ!! もがき苦しめ小僧!!」

田中の肌を焼く強酸の雨!! 地獄より厳しい難敵に打つ手はあるのか!! 続く!!(多分)
119:えころ :

2019/10/24 (Thu) 20:43:18

田中一郎、異世界へ行く101

~前回までのあらすじ~
ヴゼル様が与えてくる酸性雨の恵み!!
以上!!

またもやポケットの中がバイブレーション!! 画面をタッチして中山大と通信をする田中。

「オッスオッス~、状況はどうですかー?」
「ヴゼルの野郎が強力な酸を空から降らしてきやがる!! このままじゃ俺の身体は焼けただれ、まともに戦えねえ!! ……どうすりゃいい」
「おお、そりゃ大変だ! 今からこいつ送るんで少々お待ち下さい~」
「……田中一郎、貴様誰と話しているのだ? その手に持っている機械は一体何だ」
「お前には教えてやんねー! お、早速届いたみたいだな」

ハッピーさんからプロジェクターのように黒いレインコートが映し出され、それが田中の前に具現化する!!
急いで着用!! レインコート田中となる!!

「そんなものを着飾った所でどうにも……何ィ!?」
「こいつぁすげえ、ヴゼル……てめーが降らしてる雨は全てこれで遮断できるみたいだぜ」
「小癪な!! それならば落雷だ!! 全力のサンダーを受けよォ!!」

ヴゼルは田中目掛けて落雷を放つが、それをいとも簡単に避けられてしまう!!

「逃すかぁ!! 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるッ!! 必殺雷あられよッ!!」

雷を田中の周囲に落としまくるヴゼルだったが、やはり田中には一発も当たらないッ!!

「無駄無駄、何発落とそうが結局何の意味もねーよ、諦めろヴゼル」
「ふふふ……そうかな?」

地面に落ちた電気や水分がヴゼルの魔力によって操作され、巨大な竜を形取り、田中に襲いかかるッ!!

「うお!! 何だこいつ!! んなら蒸発させてやらァ!! バーニングサイキックストリームゥゥ!!」

火焔を纏った衝撃波を繰り出すし、竜の身体を切断するが、あっという間に再生し、田中を追跡するッ!!

「はっはっは!! 飲み込まれてしまえばいくらその雨具と言えども、侵入されてデッドエンドだ!!」

田中はしばらく逃げた後、ついに観念して竜に向き合う!!

「ほう、もうダメだと悟ったか!! くたばれ田中一郎ォ!!」
「ウルトラサイキックパンチィィィ!!」

ありったけの力でぶん殴って頭部を霧散させた後、そのまま身体ごと突っ込んで放つ!!

「トリニティサイキックスクリュゥゥゥ!!」

田中は力のゴリ押しで水分や電気をヴゼルの支配から破って見せた!!

「このガキ……、やはり私が知らぬ間に相当なパワーアップを遂げてきたらしいな……、それに外部からの協力というおまけ付きか……」
「おい中山さん、ヴゼルの野郎が天候を操ったりして干渉してきてるっつーことはいよいよこの世界が奴を受け入れ始めたって事なのか?」
「おそらく……時間の経過かあるいは何かしらの条件を満たした上でヴゼルはこの世界に強く干渉できるようになったのでしょう……」
「だよな、じゃなきゃあ怪物を差し向けて破壊活動をする必要なんざねーもんな……」

ヴゼルは雨雲を解散させ、田中に宣言する!!

「私は今までアルルどもさえ始末すれば終わると思っていたが、本当の障害は田中!! やはり貴様だったという事だ!!」
「ああ、倉山もぶっ殺して地獄に送り返してやったしな……後はてめーだけだ、さっさと降りて来い!!」

不適に笑うヴゼル!! 今度はどんな手を使ってくるのか!! 続く!!(多分)
120:えころ :

2019/10/25 (Fri) 10:15:58

田中一郎、異世界へ行く102

~前回までのあらすじ~
ヴゼル様VS地獄から来た男、田中一郎!!
以上!!

アルルは外の様子が気になっていた。仲間達もヴゼルと戦いたくてうずうずしていたが……サタンが口を開く。

「まあまあお前達、ここはその……待てば甘露の日和ありという奴で……」
「田中がヴゼルを完全にやっつけるまでここで待機してろって言いたいんでしょ」

ジト眼でツッコむアルルにそうそうと頷くサタン。シェゾはため息をついた。

「俺らはヴゼルに大きな恨みがあるんだ……ここでこのままじっとしてるなんてできっこねえよ」
「私もだ……と言いたいところだが、ここで下手に手助けしようとしてもかえって足を引っ張る結果に繋がりかねん」
「ええ、そうですね……サタン様の仰る通り、可能な限り私達はここで……田中さんの勝利を祈りましょう」
「ボクは田中を応援するよ!! フレーフレー、た・な・かぁ!!」
「ぐっ・ぐっ・ぐ~!!」

アルルの応援だが、田中に届いてるわけもなくヴゼルおじさんの次の一手に備える!!

「やはり太陽光のエネルギーこそ我が主力!! レーザービームの餌食となれ、田中よ!!」

ヴゼルは田中に太陽光を自在に操り、自動追尾するレーザーとして仕掛けてくるッ!!

「チッ、やっぱそう来るのかよ……!!」
「田中さん、気をつけてください!! ヴゼルの太陽を操る力は何もレーザーだけと侮らないでください!!」
「あん? つー事はあれか、お天道様がもたらす輝き……即ちヴゼルの太陽光が生物にも何かしら影響を与えてくるって事か!!」
「ほう……その事に気がつくとはさすがだな、田中の協力者よ……。だがこのガキが無事で済まなければ貴様の幇助も全て徒労に帰すのよッ!!」

田中はふと酸素濃度が高くなってきている事に気がついた。これはまずい、レーザー攻撃から避けるだけでなく、時間経過とともに酸素中毒に陥り、やがては死んでしまう!!

「はっはっは!! 生命を簡単に屠れるこの私の実力を見誤ったのが運の尽きだったな田中一郎よ!! この状況なら貴様の奥義全てが無意味!!」
「くっそ……こんなバカな事があるのか……中山さん、頼むッ!!」
「はい、これをどうぞ!!」

ハッピーさんからガスマスクのようなものが送られ、着用ッ!! 田中、レインコート田中からダースベイダー田中に変身!!

「また新アイテムが送られてきたか……、だが!! これならどうだッ!!」

田中を追っていたレーザーが突如進路を変え、そこら辺に生えていた植物にぶち当たっていくッ!!
するとメキメキと成長し、巨大になった植物や樹木が餌である田中を殺そうと意思を持って迫ってくるッ!!

「ソーラーパワーの神髄よッ、田中!! 蛮人が作りしハリボテでこの超自然的パワーにどこまで対応できるかな!!」

田中はグルンっと身を翻し、放つ!! 奥義!! グラビティ・サイキック・ストリームゥゥゥ!!
重力を伴った衝撃波が植物どもに伝わり、そのまま地面に這いつくばるッ!!
そして田中がジャンプし、放つ!! 奥義!! ヘルバーニング・サイキック・スプラッシュゥゥゥ!!
バーニングサイキックスクリューが進化し、衝撃波が液状のマグマになり、植物どもを飲み込んでそのまま完全に溶かしつくす!!

「ヴゼル……やるんなら徹底的にだ……!! 実力を測り違えてるのはお前……残念だが俺を殺したきゃいつまでもセコい事やってねーでタイマン張る事だな!!」

ヴゼルの仕掛けをことごとく破壊する田中!! プレッシャーがヴゼルの心にのしかかる!! 続く!!(多分)
121:えころ :

2019/10/26 (Sat) 15:14:40

田中一郎、異世界へ行く103

~前回までのあらすじ~
ダースベイダー田中爆誕!!
以上!!

「こうなればもう小細工など不要ッ!! そこの真っ黒なガキをソーラービームで消し飛ばしてくれるわッ!!」

キュイイインッ!! 溜めるヴゼル!!

「中山さん、何かヴゼルに攻撃当てれそうなのあるか!?」
「えー、これとかどうです?」

田中の手元に黒いゴム手袋と筒状の物体が送られてくるッ!!

「こ、これどう使えばいいんだ?」
「まあ持っててください」
「発射ァ!!」

とんでもない量の光線が絶え間なく田中目掛けて降り注ぐッ!! 雷は大振りであった分、かわせたが、これは小回りも利き、なかなかそんな余裕もない!!
そこで手袋をはめてソーラービーム目掛けて筒状の物体をかざす田中!! すると!!

「ライトセーバーじゃねえか!!」
「何ィ!? 私のソーラーを吸収して武器にしただとぉ!?」

とりあえず振って使い心地をチェックする田中!!

『ブゥンブゥン、ハァロォユゥチュウブ~』
「……」
「あ、しまった! SE間違えちゃった!!」

振って大物YouTuberの効果音が鳴るライトセーバーを獲得したダースベイダー!!

「ま、いいや……田中さん、それを握って念じてみてください。きっとあなたの思いは天まで届きますよ!」
「ふざけたモン送っといてよくそんなくっせえ台詞吐けるなあんた……まあいいや」

言われた通り、念じてみる田中!! するとレーザーが天つまりヴゼル目掛けて発射される!!

「ぬおおっ!?」

避けるヴゼル!!

「あ、俺の思いが届いたぜ!!」
「クッ……、まさか太陽光に対応した武器まで送ってくるとは……やりおる!!」
「連射すれば当たるんじゃね?」

しかし、どうやら吸収した光を放出し切ったようでもう出てこなかった。

「おいヴゼル、ソーラーチャージカモン!!」
「黙れ!! 無駄だと分かっていながら誰が同じ手を使うか!! 次はこれだ!! これなら流石に堪えるだろう!!」

太陽光により発生した熱が地上から上へ逃げず、絶えず気温が上がりっぱなしのサウナ状態!!

「ああもう!! 何でお前はそうやって時間かけて俺を嬲ろうとしてくんだよ!! 一気に仕留めに来りゃいいじゃねーか!!」
「ふふ……田中よ、私は貴様に言われた通りまだ貴様自身の実力を測り切れていない。という事は、多少時間はかけても確実に仕留められる方法を採択するまでの話よ!!」
「中山さん、次の道具を頼む!!」
「んにゃ? ライトセーバーはもう飽きちゃいましたか?」
「お前は幼児に玩具を与えた保護者か!! いいからヴゼルを確実に攻撃できる道具をよこせ!!」
「うーん、じゃあこれなんかどうです?」

そう言って渡されたのは……倉山が持っていたピストルだった。

「こ、これってあいつの……。こんなもんで攻撃が届くのか……」

田中(イナシクサ)はハッと思い出す。シン主人が暴れていた時に使っていた倉山の技、ギャラクシーピストルを。

「おし試してみっか!!」
「今度はあの女が使ってた武器を貴様が使うのか……? 無茶な事を!!」
「無茶でもやるのが男ってもんだ!! くらえっ!!」

マスター・サイキック・バーストォォォ!!

「な、何ィ!! だが当たらなければどうということもな……」
「甘いぜヴゼル!! グランドマスターピストルってあったよな!! 俺が今放ってるのはその原理が使えるんだぜぇ!!」

ピストルの向きを変えて逃げるヴゼルを追うレーザー!!

「はぁはぁ、くそ!! こうなったら舞台をお空から大地へと移すッ!!」

ヒュッと黒い影が天から高速で大地に落ちてきたかと思うと、そのまま地面がぬかるんで侵入してしまった!!

「田中、今度の私の舞台は大地だ!! 貴様が絶望し、そして絶命する最高の結末をくれてやる!!」
「おう、できるもんならな」

地面と一体化したヴゼル様!! 舞台を変えたオッサンに田中が打つ一手は!! 続く!!(多分)
122:えころ :

2019/10/28 (Mon) 01:15:37

田中一郎、異世界へ行く104

~前回までのあらすじ~
ヴゼル様、母なる大地へ!!
以上!!

「わざわざ活動場所を俺の立ってる大地に移してくれるとはむざむざやられに来たようなモンだぜヴゼルさんよぉ!!」
「待ってください田中さん!!」

中山大が奥義を放つため地面を思いっきり踏みつけようとした田中を制止する!!

「これを……落としてみてください……」
「あん? ……スーパーボール? ハハハ、またこんなおもちゃ寄越してこんな時に相変わらず呑気な事するなあんた」
「いいから落としてください」

声に真剣さがこもっていたのでとりあえず落としてみる田中。
すると落としたスーパーボールが物凄い勢いで上空へと跳ね返って行くではないか!!

「な、何ぃ!? なんだありゃあ!! ガキが見たら喜びそう……じゃなくてやべえ跳ね返り方じゃあねえか!」
「チッ、やはり気付くか……田中の協力者……。しかしこの私が貴様らの踏み締める大地にいる事の恐ろしさはこんなものではないぞ……!!」
「そんならヴゼル!! 俺はてめーのいる場所から離れてやるまでのことだぜ!!」

地面は熱がこもり熱くなる上に所々ボコボコと傾斜ができて、平坦な足場ではなくなってしまう!!
田中が逃げ込もうとしたところは所々ぬかるんでまるでアリジゴクが獲物を捕らえるかのごとく引きずり込もうとさえしてくる!!

「こ、こんなの……!! 空でも飛ばなきゃ回避できねえじゃんか……!?」

田中はふとシェルターの方に目をやる。シェルターの位置もぐんぐんと沈み、引きずり込まれそうになっているではないか!!

「やっべえ!! おいアルル達逃げろォ!! このままじゃヴゼルにやられちまうぞォ!!」

アルル達は何とかシェルターの入り口を開いて外に出てくる……しかし!!

「うっ、何これ……臭い!?」

大地から硫黄ガスが発生し、むせるアルル達。早くもテレポートで逃げるが、ヴゼルはそれを追っていく!!

「このままアルルどもを仕留めてやろう! そうすれば貴様も絶望し、私と戦う意味が大分なくなるはずだ!!」
「くそてめえ! 俺と戦うのが嫌だからって今度はアルル達に手を出すか! どこまで卑怯なんだ!!」

急いで後を追おうとする田中だったが、何と地面から骨のような物が絶えず突き出し、田中の足を止めようとしてくる!!

「こ、これはゾンビか!!」
「田中さん、急ぎましょう!! ヴゼルがアルル達を始末したら手に負えない事になってしまいます!!」
「分かってる!!」

田中はジャンプし、そこから繰り出す!! ヘルバーニング・サイキック・ジェット!!
アルル達を追おうとするヴゼルを追うため、田中も進化した奥義で宙を舞い、アルル達の後を追う!!
だがこうする事で非常に暑い。黒いレインコートが熱を吸収するのか知らないが、田中の体力は着実に奪われていた。

「くそ……汗と時々来る意識の乱れから視界がぼやけてきやがった……!!」

田中はヴゼルを止められるのか!! 続く!!(多分)
123:えころ :

2019/10/29 (Tue) 14:38:38

田中一郎、異世界へ行く105

~前回までのあらすじ~
田中、逃げるヴゼルおじさんを追跡!!
以上!!

「何これ! 一体、どーなってんのぉ!?」
「間違いなくヴゼルの仕業だが、あいつ今までこんな露骨に俺らを襲ってこなかったろ!!」

アルル達の住む世界はもはや地盤が沈下し、建物から何から全て地中まで飲み込まれていっているような状態!!
まさかここまで酷い状態になっていたとはアルル達も想像してなかった!!
それだけではない!! 地の底からあふれる硫黄のガス!! これもまた厄介だ!!
二酸化硫黄は腐食性のガスですなわち毒性が強く、ずっと吸っていれば呼吸器官がダメになりやがては命を落とす危険性もある!!
しかもこのぬかるんだ大地から伝わってくるこの熱源も厄介だ!! 立ち止まる事すら許さないほどに熱くまさに止まれない状況に!! 希望の華ならぬ絶望の華である!!

「はっはっは!! まぁて待て待て待て待てェェェイ!! 小娘ども!! せっかく私がこうしてお前らと同じ土俵にいるのだから命を落として行きなさい!!」
「くそっ、ヴゼルの野郎!! 今は天じゃなくて俺らの立ってる大地の中にいやがるのか!!」
「大地にいるならあたし達だって一矢報いれるだろ!! ルルー!! 地面を攻撃しよう!!」
「ダメだよ! そんな事田中がとっくにやってるよ!! それができてないって事はもしかして……!!」

田中がヴゼルにやられてしまったのではないかと冷たい汗がアルルの身体を流れる。
だが仲間達をいつまでもこんな地獄よりひどい状況には置いておけない!! サタンはデスタムーアの覚悟をするが……!!

(賢明な選択だな、サタンよ。それを使えば私に一矢報いる事ができるかもな……。どれ、やってみよ)

ヴゼルのあまりにも罠を張ってそうな挑発の口ぶりを思い出し、顔をしかめる!!

「いっ、一体……どうすればいいと言うのだ……!!」
「ヘルブリザードサイキックコンストラクション!!」

田中の声とともにぬかるんだ地面がカチカチに凍り、その声とともにスケート選手のようにダースベイダーがクルクルと優雅に現れた!!

「だ、誰よこいつ!?」
「俺だよ、田中だよ!! そんな事よりお前ら大丈夫か!!」
「田中ぁぁぁぁぁぁ!! 会いたかったよぉぉぉぉ!!」

アルルは迫真の抱擁をダースベイダーにかまそうとするが、またしても田中はクルックルゥとそれを回避し、アルルは氷の上でズルルーッとずっこけ地面に頭を打つ!!

「おう大丈夫か、確かお前と最初に会った時もこんな感じだったっけなぁ? ハハハ……」
「もう、バカァ!! ……でもあなたが来てくれて本当に良かった、ありがとう……!! ありがとう田中……!!」

圧倒的感謝に涙をボロボロこぼすアルルに田中はガスマスクを渡す。

「ほれ、エンディングまで泣くんじゃない。これつけとけ、少なくとも奴が暴れてる間はここは生命が住めるような環境じゃなくなってんぞ」
「ありがとう……」

仲間達は田中から受け取ったガスマスクを着用する!!

「マグマがマグマがマグマがマグマが……、ドッカーン!!」
「のわぁ!?」

突然の声とともに田中達が立っていた氷の下から急激にマグマが爆発するように吹き出してきた!!

「フッフッフ、感動の再会とともにエンディングにしてやろうと思ったのにまだこの地獄を満喫するのか……アルルどもよ!!」
「黙れヴゼル!! てめえを確実に仕留めてまたこの世界に何でもない夜を取り戻してやるぜ!!」

アルル達と再会を遂げたダースベイダー!! しかし肝心の敵は余力を残してるようだ!! 続く!!(多分)
124:えころ :

2019/10/30 (Wed) 15:08:00

田中一郎、異世界へ行く106

~前回までのあらすじ~
田中、アルル達と再会!!
以上!!

時は少し遡る。これは怪物レイパーが暴れまわってる最中、サタンがチコ達にある事を命じていた。

「チコ、私の城に行け。多分あそこなら安全なはずだ。一応許可された者以外は立ち入れぬよう結界は張ってあるから」
「分かりました!! 皆さんを連れてそこまで行きます!!」

そしてチコ達は怪物レイパーが追ってこないのを見計らって逃げ出した!!

「みんな、私の城に行こう!!」
「もしかして……デスタムーアを!?」
「フフッ、もう決心はついたというわけか、サタンよ」

アルルは田中の顔(と言ってもガスマスクつけてるから表情分からないけど)を見る!! 頷くダースベイダー!!
そしてサタンの城までテレポートする田中達!! だがヴゼルも負けじと追いかける!!

「無駄無駄、どーせそこも地盤沈下させてどいつもこいつも……何ィ!?」

田中は何と重力を逆転させる力を発揮し、サタンの城周辺ごと大地を引っ張ってグングン宙へと浮かんでいくではないか!!

「ちぃっ、まさかそこまでできるとはな……心底驚かされたぞ田中よ!! だが私も大地を脱し、今からそこに……、うごご!?」

大地から抜け出そうとしていたオッサンにかかるトラップ!! ヴゼルホイホイが実体化した身体を捉え、拘束する!!

「ぐぬおおおお……!! 小癪な真似を……!! 逃さん、逃さんぞアルルどもォォォ!!」

高度が上がり、寒くなるので一応防寒具を着るアルル達!!

「凄いよ田中……!! こんなことまで出来ちゃうなんて……!!」
「天空の城みてーになったろ? それにしてもサタン、本当に大半の奴らはここに避難してんだろーな?」
「ああ、さっきチコに伝えておいたから間違いない! ここは部外者が簡単に立ち入れぬよう結界も張ってあったし、安全だ!」
「まあそりゃ、ヴゼルが大地の中で暴れ始めなきゃの話だったがな、今はこうでもしねーとみんな助からねーだろ」

こうしてサタンのお城は一部大地ごと天空に浮かんだ!! どことなく幻想的な雰囲気だが、ヴゼルの襲撃を受けた今そんな事に感動もしてられない!!

「地上には一応中山さんが張ってくれた罠があるけどそれもいつまで持つかは分からん、来たらお前らもすぐ城の中に避難しろ」
「へえ、こんな箱で外部の人と通信できてるんだ~、すごいね~」
「おいアルル、今は遊んでる場合じゃねえんだぞ、それだってヴゼルと戦うのに必要な道具なんだ、ほれ」
「あはは、分かってるよ……、はい」

アルルが田中にハッピーさんを返そうとしたところでハッピーさんは跡形もなく消え去ってしまった!!

「なっ……!! 何だとぉ!?」

アルル達は異変を察し、すぐにお城の中に逃げ込もうとするが……!!

「ホォォォルィィィジャッジライトォォォニングゥゥゥ!!」
「ウルトラサイキックストリームゥゥゥ!!」

目の前に突如として迫ってきた眩い光に対して必殺奥義を繰り出し相殺する田中!!

「待たせたな、もう許さんぞ貴様ら……正真正銘今度こそこの私が正々堂々貴様らを直接消し滅ぼしてくれるわ!!」
「やっとマジで戦う気になったのか、あんたの姿を見るのは久しぶりだなあ、魔神ヴゼルさんよぉ!!」

魔神のオッサンヴゼルが意地悪な笑みを浮かべながら出現する!! いよいよ直接対決が開始される!! 続く!!(多分)

「ん? そういや目の前にいる貴様、誰だ?」

ルシフェルの問いに倉山は何も答えなかった。

「新しい罪人か……? にしてはミーノスから何も知らされてないのだが?」
「こ、ここから出して……お願い……」
「焼印押されてるし、まあ貴様はまず無理だ、諦めなさい」

にっこり微笑むルシフェルに絶望する倉山であった。
125:えころ :

2019/10/31 (Thu) 16:46:19

田中一郎、異世界へ行く107

~前回までのあらすじ~
天空の城誕生!!
以上!!

ハッピバースディイイイウィイイイイイイッチ!!
さて、ヴゼルとダースベイダーの対決だが、ヴゼルはバリアーのようなものを張っており、田中の攻撃が全く当たらない!!
しかもたまに攻撃してきたかと思うとそれもヴゼルお得意の消滅魔導なので、田中の攻撃さえかき消され隙を見せない!!

「くそっ、どうすればいいんだ……!!」
「はっはっは!! 無駄無駄!! 貴様がどんな攻撃を繰り出そうが、今の私には当たらん!! ようやく力を取り戻しつつある私はこのままどんどん本領を発揮するのだ!!」

そう。時間をかければかけるほどヴゼルはどんどん世界に馴染んで本来の力を発揮するようになってしまう。
もしそんな事になったらどんなに田中がパワーアップしてもヴゼルの力に追いつけず、消されてしまうかもしれない。

「あのバリアーさえ何とかできれば……しかしタイミングが掴めん!!」
「……」

田中はヴゼルがじーっと自分を凝視している事に気がついた。

「な、何だよ……!!」
「貴様、何かおかしいな? いや絶対おかしい。もしかして……貴様は田中一郎、ではないな?」
「なっ、何言ってんだ! 俺はどこからどう見ても田中一郎だ!!」
「ふん、そんなわけあるか。この短期間で精神も……そして肉体強度さえ別人になるほど強くなれるとは思えん」

ヴゼルは咳払いして続けた。

「貴様から……どことなく私に近い何かを感じる。おそらく私の中にあった違和感は貴様が原因なのだよ、田中一郎もどき」
「もどきじゃねえ! ぶん殴るぞてめえ!!」
「……まあどうでもいいか、どうせこのまま時間をかければ貴様は打つ手がなくなるのだし、後はあのふざけた城の結界を解いて破滅させるだけだからな」
「そんな事させねえよ!!」

そしてサタン達は城に入り、正面玄関から中に入ると必死に壁や柱にしがみついている住人達の姿がそこにあった。

「おお、チコ!! 良かった、みんなも無事だったのだな!!」
「え、ええ……しかし、サタン様……このエリアは何事もなく無事なのですけど、奥のエリアからガラガラと崩壊するような音が……」
「サタン!! 見に行こう!!」

そして場面戻って田中。またポケットの中からバイブレーションする音が聞こえてきた!!

「ら、ラッキーさん!? さっきヴゼルに消されたはずじゃあ……!?」

素早く取り出し画面をタッチする田中!!

「あー良かった! 田中さん!! これぞハッピーさんIII型ですよ!! 後継種です!!」

よく見ると確かに薄くて軽くなってはいるが……だからどうしたという感想を思い浮かべる田中。

「消えろォォォォォォ!!」

通信に気を取られていた田中にヴゼルのホーリーなんとかかんとかが炸裂ッ!!
だがハッピーさんが宙を浮き、ATフィールドを展開!! ヴゼルの消滅魔導を相殺してみせた!!

「おお、すっげえ!! 今度は自動学習してヴゼルの攻撃を防いでくれるってわけか!!」
「ちっ、どこまでも余計な事を……!!」

田中はフワフワと大きなシャボン玉が宙を浮いてやってきたのを見る。それはあの屋敷の奴隷だった!!

「おおお前か!! そっか、中山さんが助けてくれたのか!! すっかり忘れてたぜ!!」
「ふん、じゃあまずはそこの小鼠から仕留めてやるとするか……ホーリ……」
「ウルトラサイキックストリームゥ!!」

狙おうとしたヴゼルに攻撃をかまし、奴隷を城の中へと逃す田中!! しかしそれも咄嗟にバリアーを展開し、かき消される!!
溜まるヴゼルのストレス!! だが依然として田中もヴゼルへの決定打を見出せず苦しんでいた!! 続く!!(多分)
126:えころ :

2019/11/03 (Sun) 01:17:52

田中一郎、異世界へ行く108

~前回までのあらすじ~
田中とヴゼル、にらめっこ!!
以上!!

ここは天空の城。チコから内部崩壊を受けたとの報告を受け、サタンとアルル一行は次の部屋へと進んでいく。
そこで目にしたものは……なんと地盤沈下の影響を受けたのか、大きな部屋の中央にぽっかり穴が開き、先の部屋へと進めなくなっていた。

「こんな事が……!?」
「ま、待って……この部屋、何かいる!?」

何かの気配を感じたアルルが開いた穴のところへ目をやる。すると、生首やら飛頭のような怪物がうようよと這い上ってきた。

「何ィ!? この城には結界を張ったんだぞ!! 何でこんな怪物が現れるんだ!!」
「地下は!?」

アルルの問いかけにハッとするサタン。

「そ、そういう事か……。まさか地下から侵入してくるヤツなど想定してなかったからかけてなかった!」

一人でな~るほど、と掌を叩いて納得するサタンに呆れかえるアルル達。

「しかし、これは都合が良いじゃねえか……」
「な、何がよ!! こんな怪物どもが出現するなんて最悪じゃないの!!」
「シェゾの言いたいことは分かる。俺達ではヴゼルと真っ向勝負してもやられる……」
「あらあら、"魔人ヴゼルを討つ!"なーんておっしゃられてたのに……」

くすくすと笑うウィッチにちょっと不都合そうな顔をするラグナス。

「こいつら相手に俺らの苛立ちを思う存分ぶつけられるってこった、行くぜ、闇の剣……」
<呼んだか……主よ……>

シェゾの声に剣が応え、剣がおどろおどろしくその形を変えていく。

「あーっ、シェゾ……!! あなたそんな事できるんだったら早くやればいいじゃないのよ!!」
「そうだそうだー、お陰であたし達死にかけたんだぞー!!」
「うっせーな、さっきまで何故かいくら呼びかけても反応しなかったんだよ!!」
「そんな事より、シェゾ!! 目の前にいるこの怪物どもを殲滅するぞ!!」
「おう!! 行くぜ……闇の剣よ、切り裂けェ!!」

シェゾとラグナスが怪物どもを倒し始める。しかし怪物はどれも弱く簡単に蹴散らせるレベルであった。

「何だこりゃ、全然歯ごたえがねーな。今までの怪物の強さが嘘のようだぜ」
「ああ、だがシェゾ。こいつらをやっつけまくれば私も成長し、元に戻れる! だからもっと来い!」

嬉々としてガッツポーズしてアピールするラグナスだったが、どう見てもただの雑魚狩りである。

「はぁ……。そんで、サタン様。こっから先にはあなたが使ってらっしゃるお部屋もあるのでしょう? これじゃあ困るのでは?」
「私は飛べるけど……そのぉ、アルルやカーバンクルちゃんは飛べないだろぉ?」
「え? 何でそこでボク達の名前が出てくるの?」
「二人を特別なスッウィィィィトルゥゥゥムに招待するのに不便じゃないか!! まあ私が持ち運べば良いのだが、はーっはっはっは!!」

呆れるアルルの横で目を輝かせてサタンにすり寄る女が一人。ルルーである。

「まあ、サタン様ったら! そんな特別なお部屋があるのでしたらアルルなんかではなく、この私ルルーが喜んで招待を受けますわ! さぁ!!」

両手を広げてサタンにお姫様抱っこを求めるルルー。困惑するサタン。

「全く……外で田中が死闘を繰り広げてるってのに全然緊張感ないんだから……」

そして田中達。何を隠そう城に所々開いた穴から怪物どもを召喚していたのはこの魔神ヴゼルであった。

(おかしい……万が一をと思って怪物どもをかなりの数送ったが、一向に手応えを感じない。何故……)

ヴゼルはふと倉山の事を思い出した。さっき田中が倒したって言っても何故かそんなに気にならなかったが、今になって無性に嫌な感覚が襲ってくる。
しかもヴゼルも自身に漲ってくる本来の力の半分も出せていない状況。この時点で田中に猛襲をかけられればそれはそれでまずい。
だがこの違和感や不安、悪いことに的中している。ヴゼルの成長(本来の力を取り戻す意)はここから明らかに勢いが衰えている。それは彼自身も感じていた。
そこでふと田中に中山さんから通信が入る。

「田中さん、う゛っ、ヴゼルに対抗できるグッズ……があるんですけど、こっこれ送っちゃってへ、平気ですかね……」
「? ああ、送れるなら送ってくれ!!」

何か様子が変な中山さんに不信感を覚えつつ即答する田中。しかしヴゼルは覚悟を決めて、田中に必殺技を放つ!!

「田中、これで終わりにしよう!! デスシャイニングイレイザー!!」

ヴゼルの手から光弾が勢いよく発射される!! デスシャイニングイレイザーは標的にぶつかると光が四散するのと同時に容赦なく襲いかかる必殺技!!

「ウルトラサイキックストリーム!!」

田中も気付いて衝撃波を放つが!! 光弾はそれを抜けて田中のところまでやってくる!!

「くっ、くっそお!! ハッピーさん!!」

ハッピーさんはATフィールドを展開するが、これも粉砕!! ……した事で攻撃の威力は相殺できたのだが……!!

「ぐああああああっ……!!」

あまりの衝撃に田中は吹き飛び、しかも田中が纏っていたレインコートやガスマスクが消え、ダースベイダーではなくなってしまった!!

「やっべえ……!! あんなもん放たれてたら持たねえ!! 中山さん早く!!」
(フフ……、やはり魔力の消費が今の状態では激しくて使うのを渋っていたが、この状況を変えるには最高だな。しかも田中の忌々しい装備品も消せた……)

未曾有の事態に焦る田中とそれを見て微笑むヴゼル!! 続く!!(多分)
127:えころ :

2019/11/03 (Sun) 13:32:32

田中一郎、異世界へ行く109

~前回までのあらすじ~
ヴゼル様、田中を追い詰める!!
以上!!

ヴゼルが田中を追い詰め勝利を確信した瞬間!! 田中の周囲から強烈な臭いが発生する!!

「うぐぅ、何だこの臭い!! くっせえ!!」
「た、田中一郎……!! 貴様、やられ間際の最後っ屁というわけか……!!」

顔をしかめるヴゼルにキレる。

「ちげーよバカ!! 何だぁ!? どっから……!!」
「ど、どうした田中一郎……まさか実の方か……!! じゃあすぐに貴様ごと消し……、!?」

田中とヴゼルの目に留まったもの。それは何やら気持ち悪くブヨブヨ動く肉の塊だった。しかもちょうど田中に合うようにカッティングまでされている。

「な、何だ……そのまがまがしいものは……」
「知らねえよ!! これお前の仕業で出てきたんじゃねーのか!?」
「た、確かにそれっぽい怪物もアルル達に仕向けてたような気はするが……ここにも現れたのか!?」
「何ィ!? てめえこの後に及んでまだアルル達に何か仕掛けてやがるのか!!」

ついうっかり口を滑らせるヴゼルおじさんに怒りの目を向ける田中。しかしこれは何なのか。そこに吹き飛ばされたハッピーさんが戻ってきた。

「た、田中さん……それです……、それがヴゼル対策グッズです……」
「は?」
「そ、それを着さえすればですね……、ヴゼルからの攻撃を全て遮断できるんですよ……、本当に」

驚愕する田中。ヴゼルは何やら呆然としている。

「こ、こんなもん着れるかよ!! 臭すぎて身体に染みついて取れなくなんだろーが!!」
「世界を救う代償としては……十分かと……!! それに田中さんはなんというか……!!」
「ああ!? 何だよ!!」
「どことなく……汚物に似たような色してますし、きっと気にならないかと……」
「ぶっ殺すぞてめえ!!」

ヴゼルは大笑いしていた。

「はっはっは!! どんなもんが出てくるかと思えばそんな醜い物体とは!! 田中、着なくてもいい!! ここで消えれば何も問題ないぞ!!」
「うるせえ!! こちとらこんなもん着たら後々救世主として格好が……!!」
「選択する余地を与えん!! デェェスッシャァァイヌィングイィレイザァァァ!!」

ハッピーさんは間に合わない。攻撃を出しても防げない。もう余裕はない。着るなら今しかない!!
田中は勇気を振り絞って吐き気を堪えながら肉の塊を着用!! 田中にヴゼルの攻撃が直撃……!!

「ふっふ、やった……!! 一番厄介な田中一郎が消し飛んだぞォ!! 後はアルルどもを消せば私の勝利だーっ!! はっはっはっはっ、うわははははは!!」
「うっぷ……まだ、まだ勝った気でいるのははええぜ……ヴゼルのオッサンよぉ」
「!?」

勝ち誇ったヴゼルの前に肉の塊を着て顔色が悪くなった田中がいた。そう、攻撃は無力化されていたのだ。

「何ィ!? くそっ、ふざけたグッズじゃなかったのか!!」
「イメージが湧いてきたぜ……、こんな最低な状態だってのにお前を討てる希望ってやつがよ……」

田中は一瞬意識が飛んだかのように思い切り白目を剥き、一気にぶちまける!! ウルトラサイキックスプラッシュゥゥゥ!!

「うぉぼっろおおおおおっげえええええええっ!!」

田中の胃から与えられる恵み!! しかもその吐瀉は勢いを持った竜のように広がり、とぐろを撒きながらヴゼルを一瞬で取り囲んでしまう!!

「ぐぅ、だがこんなもんバリアで……!!」

ゲロはバリアを侵食し、じわじわとヴゼルに迫りつつある。たーんと召し上がれ!!

「行っけェェェェェェ!! 俺のゲロォォォォォ!!」
「くそ、田中はともかく……こんなもの私が召し上がれるか!! ホォォォルィィィジャアアアアッジルァイトゥニンングゥゥ!!」

虚しくかき消されるゲロ……!! だが、それは間違いだ!! ゲロは十分に仕事した!! 今の田中の叫びはゲロに意識を集中させるためのブラフ!!
がら空きになったヴゼルに繰り出される田中の奥義!! それは倉山のピストルから放たれる!!

「デストロイ・サイキック・バーストォォォォォ!!」

もの凄い焼夷弾がヴゼルの身体に直撃!! あっという間に爆風がヴゼルを飲み込み消滅魔導の発動も間に合わない!!

「ぐ、ぐぎゃあああああ!! ば、バカな!! このヴゼルが!! 運命に打ち勝ち世界を掌握せしめる私が!! うぐわああああああ!!」

悲鳴を上げて黒煙に包まれていくヴゼル。気分こそ悪かったが、田中に笑みがこぼれる!! (あとちょっとゲロもこぼれてるかも……) 続く!!(多分)

「一通り……怪物はやっつけたようだな……底から這い出てくるのも見えない……」
「じゃあ、橋を作ろう。ちょっと待っててね……そりゃーっ!!」

ふざけたかけ声とともに完成する橋。アルル達はルルーの強引な頼みもあってとりあえずサタンのお部屋に同行する事になっていた。
128:えころ :

2019/11/16 (Sat) 14:13:41

田中一郎、異世界へ行く110

~前回までのあらすじ~
ヴゼルおじさん、撃破……!?
以上!!

アルル達はサタンが作った橋(細い道)を超えて二手に分かれた廊下にやってきた。

「どっちだ? このまままっすぐ行きゃいいのか?」
「いやそっちは巨大プールへ続く道……だったが、今は天空に浮いてるから行き止まり。左に曲がるのだ」
「何でそんなもの作ったの?」
「エブリデイサマーバケーションだ!! はーっはっはっは!!」

はぁと呆れるアルルにウインクするサタン。仕方なく一行は左に進んでいく。
ちなみにウィッシュは村の住人やヴゼルが入ってこないか警戒すると言って入り口の方で待っていた。
そして草原らしきエリアにやってきたアルル達。サタン曰くこの右側に玉座へ続く近道があるとの事だが……。

「ガーン!! ウッソー!!」
「くっ、やっぱりさっきのとこみてーに沈下の影響受けてその非常階段はごっそりなくなってるじゃねーか、サタン!!」
「こ、こうなったら遠回りするしかないな……」

シェゾはため息をついた。

「ヴゼルの怪物に追い回されてるわけでもあるまいし、サタンの城なんか見て回る必要ねーな、俺は抜ける」
「あ、待ってよシェゾ!」
「あーらアルル、あんたも抜けていいわよ。どうせサタン様と愛し合うのはこの私なんだからね、おーほっほっほ!」
「サタンの城だってヴゼルの影響を受けてるのはさっきので分かったでしょ! 勝手な行動を取るのが一番危険なんだよ!!」

喧嘩するアルル達を尻目にウィッチがごっそりなくなった空間の一部に異変が起きていることに気がついた。

「ね、ねぇ……。あれ、何ですの……」
「えっ?」
「あれは……?」

ウィッチが指差した方向。そこには確かに見覚えはあるがそうであると認めたくないような……いや、信じられない者が存在していた。
ラグナスがサタンを引っ張ってそれを見るように促す。

「だ、誰だあれは……? ヴゼルの手先か……、いや、あれはゾンビでもなければ怪物でもないようだが……」
「なーんとなく誰かさんにそっくりよねえ? でもこんなに干からびちゃってるのって、アレよね、ミイラって言うんでしょ?」
「ウィ、ウィッチそっくりのミイラって事!?」

ドラコが張り上げた声に青ざめた顔をして否定するウィッチ。

「そ、そんなわけないでしょ! いくら悪趣味なヴゼルでもこんなものしかけてくるわけ……」
「お、おい……何か動いてねえか、あいつ……」
「!! みんな、逃げよう!! ヴゼルの事だからあの時戦った怪物と同じような罠があのミイラに仕掛けられてると思う!!」

サタン達は急いで先へ進むが、扉には鍵がかけられており、開かない!!

「くそ、何故だ!! こんな鍵をつけた覚えもないぞ!! 魔法で簡単に開くはずだ!!」
「あ、あいつが持ってやがるんだ……、あのミイラが……」
「う、嘘でしょ……」
「やるしかねえ……、どんな罠が仕掛けられてようがあいつから奪わなきゃどうにもならねえ……」

そして田中、ヴゼルを撃破して一息ついていた。

「田中さん、やりましたね……。ようやくヴゼルを撃破できました!! これでアルルさん達も助か……」
「待て中山さん、正史ではヴゼルはアルル達の命と引き換えに倒せたとあるが、今も各地で行方不明になる者が後を絶えないとあるな……」

イナシクサは田中の底にあった記憶を掘り起こして、中山大に質問を投げる。

「え、ええ……。そ、それが何か……?」
「奴の力は時空を超越して及ぶものならこの程度の事で完全に倒せてるわけがねえ、むしろ俺らが相手してたのがモノホンとも限らん、これもやつの罠だったんだ!!」
「ええっ!? じゃ、じゃあヴゼルの本体はまだ別のところにいるって事ですか!?」
「おそらくな、アルル達が危ねえ!!」

田中はサタンの城に入ろうとするが、結界で遮られて入れない!!

「くそっ、そういや部外者は立ち入れないように結界張ったって言ってたな!! それって俺もかよ!!」
「ど、どうすれば……。このままでは……」
「モルモンの悟りを開く。あんたはちょっと静かにしといてくれ……」

田中は瞑想を始める。そして髪が逆立ち、繰り出すはあの奥義!!

「神様<ゴッド・オブ・ウォーズ>パァァァァンチ!!」

結界をぶん殴るとピシピシとひびが入り、やがてガラガラとその無駄なバリアは音を立てて崩れ去っていった。

「っしゃあ!! 俺の考えが正しければ本物はこの中にいるはずだ!! 行くぜ中山さん!!」

サタンの城に侵入する田中!! ヴゼルは今どこで何をしてるのか!! 続く!!(多分)
129:えころ :

2019/11/30 (Sat) 10:29:14

田中一郎、異世界へ行く111

~前回までのあらすじ~
本当のヴゼルは何処へ!?
以上!!

田中は大広間にやってきた!!

「グォラァ!! 魔神ヴゼルゥ!! いるなら出てきやがれェ!!」
「何だこのガキは!! さてはお前もヴゼルの手先だな!!」

すけとうだらが田中を指さして叫ぶ!!

「あっそういやこいつはヴゼルに身体を乗っ取られて暴れたガキだ!! もしかしてこいつ……!!」
「は!? くだらねえ事言ってんじゃねえ!! 俺はヴゼルを倒しに来てんだ!!」
「そういう事か……!! 味方のフリして俺らを殺しに来たって事かよ!!」

構える村人達。そこにウィッシュの声が響く。

「やめなさい、田中さんは本当に私達の味方です。戦うべき相手ではありません」
「つったってよぉ……」
「田中さん、ヴゼルと戦ってくれて本当にありがとう。でもヴゼルを倒しに来たとはどういう事ですか?」
「おお、ウィッチのマザーじゃねえか! 話の分かる人がいてくれてありがたいぜ!」
「グランドマザーです」

田中はウィッシュに事のあらましを説明した。

「そんな事が……」
「ああ、俺が戦ったヴゼルは多分偽者だ。だからいるとしたらもうこのでっけえ城のどこかとしか考えられん、最悪この城自体ヴゼルの手に落ちてるかもな」
「……田中さん、ウィッチ達を追ってください。もしあなたの考えが正しければアルルさんも殺されてしまいます」
「おう任せとけ、そんじゃあ俺は行くからよ……って、ん!?」

田中はウィッシュの後ろにミイラがいるのが見えた。それはあのルルーを腐食させた出で立ちであった。

「てめえはヴゼルが生み出した魔物って事かよ……神様パァァァンチ!!」

田中のパンチ一発でミイラは完全に消滅した。

「な、何だよ今のぉ……」
「分かったろ、この城内も安全じゃあねえ、怪物が湧き出てくる。止めるにはヴゼルの野郎の息の根を止める必要がある」
「田中さん……」
「つーわけだ、ウィッシュのばあさん、ここは任せた。待ってろよアルル達!!」

そしてアルル達はとりあえずウィッチのミイラに魔法をぶつけてみるが、腕で振り払われてしまい、通用しない!!

「こいつ……やはり、ヴゼルが生み出したってだけあって魔法に耐性持ってるみてーだな……」
「おいお前ら!!」

突然の声とともにかき消されるウィッチのミイラ。
そこにいたのはダースベイダーでもなければ怪物田中でもない、チンピラ少年田中一郎であった。

「大丈夫か?」
「田中あああああああ!!」

田中はまた避けようとしたが、アルルにがっしり身体を掴まれ、抱きしめられてしまった。

「お、おい……マジで変な気分になるからやめろって……」
「ダメ、離さない……絶対に離さない!!」

それを見たシェゾは驚愕の表情を浮かべ、ルルーとウィッチはニヤニヤ笑い、そしてサタンはというと……。
鬼のような形相を浮かべ、田中をにらみつけていた。

「キミが田中か……、見た目によらず強いんだね」
「どういう意味だ、つーか誰だお前は」
「紹介が遅れたね、私は勇者ラグナス。キミと同じく魔神ヴゼルを討つためこの世界にやってきたんだ」
「まあ今は力衰えてそんな大層な事言ってられる身分でもないんですけど……」

ウィッチにツッコまれて頭をかくラグナス。
アルルに抱きしめられながらため息をつく田中!! ヴゼルを倒す前にイチャイチャするのか!! 続く!!(多分)

(そういや俺、肉の塊<グロスーツ>着てたけどあれどうなったんだ……。いつの間に影も形も消えてる上に匂いもなくなってるが……)

だが田中は自分を抱きしめて離さないアルルを見てちょっと顔をほころばせた。

(ま、いっか)
130:えころ :

2019/12/15 (Sun) 19:42:16

田中一郎、異世界へ行く112

~全開までのあらすじ~
田中、アルルとイチャつく!!
以上!!

「でっ!!」

開口一番にサタンから拳骨を食らう田中。

「いつまでそうしているつもりだ、アルルから離れろ」
「ちょっとサタン!! 田中はボク達を救ってくれた恩人なんだよ!!」
「……だがしかし……」

シェゾが笑う。

「ははは、嫉妬は醜いぜサタン。最終的にアルルをもらうのはこの俺だからな」
「あげないよ」
「んなっ……」

シェゾの顔が固まる。ルルーがサタンにすり寄ってきた。

「サタン様ぁ、あんなチンチクリンよりあなたにはこのルルーが永遠に側に仕えて差し上げますわぁ……」
「いやそれは……」

ため息をついたウィッチがふとミイラがいた場所に何かが光っているのを見つけた。

「何かしらこれ……」
「鍵……かな、これで先に進めるんじゃない?」
「で、でもさ……さっきみたいなのが急に襲ってきたらどうしよう……」
「大丈夫! 田中がいるから!!」

田中はため息をついて城内へやってきた理由を説明した。

「というわけだ、俺の予想が正しければヴゼルはこの中にいるって事になる」
「この中の中に!?」
「ああ、どっちみち危険だからお前達はここに残ってろ。今度こそ息の根止めてやる」
「待って!」

ウィッチから鍵を受け取ろうとする田中を制止するアルル。

「あ?」
「ボクも行く!」
「何言ってんだ! 死にてえのか!!」
「ずっと田中任せなんてそんなの嫌だ! ボクは行く!!」
「あ、アルルが行くなら私だって行くぞ!!」
「何言ってんだ、元々お前の城だろ。道案内のためにもお前は絶対ついてこい」
「ぐっ……」
「お前らはどうする。ここから先誰が死のうが責任は取らん」
「俺も行くぜ。ヴゼルの奴には恨みがある」
「当然私も行く。勇者だからな」
「さ、最期までサタン様の側にいられるなら光栄よ! もちろん私だって行くわ!」

急に青ざめた顔をするウィッチとそんな彼女に詰め寄るドラコ。

「ウィッチ、おばあちゃんのところに帰る? あたしが連れてって……」
「わ、わたくしも行きます! もし田中さん達と一緒にヴゼルを倒せば早く一人前に近づけるかもしれませんし!」
「……そうか、じゃあ全員ついてくるのか。はぁ、足だけは引っ張るなよ」
「と、ともかく田中さんに鍵をお渡ししますのでどうか私達を導いてくださいな……」

そして先へ進んでいく田中達、拷問のような道中はキング・クリムゾンの能力をぶち込みながらお送りいたします。
草原エリアを歩いていると目の前に眼球を失ったウィッシュのミイラが出現!! これをワンパンで沈める田中!!

「い、今のはおばあちゃん……」
「すっごーい! 田中強い!!」
「いや、敵が弱い。これはつまりヴゼルの力が衰えてきている証拠だ。倒すのもそれなりに楽かもしれん」

なろう主人公ばりの活躍を繰り広げていた田中であったが……!!
図書室で狼の本を入手し、ドラコミイラもワンパンで沈め先に進むと……。

「お、男の死体……そして、何だあの化け物は……」

田中達の目の前に大型肉食爬虫類型ハンターもどきが出現!!

「先手必勝!! 食らえマスターサイキックバーストォォォ!!」

倉山のピストルから必殺奥義を繰り出すが!! ハンターもどきはそれを吸収し放出してきたッ!!

「ちッ、こいつは手強そうだな……トリニティサイキックストリームゥゥゥ!!」

敵に反射された攻撃を相殺する田中だったが!! 目の前にはすでにハンターもどきがおり、一撃をもらう!!

「ぶっごぉ!!」
「田中!!」

ぶっ飛んで背中を強打する田中!! 奥への侵入を許すまいと立ちはだかるハンターもどき!! 続く!!(多分)
131:えころ :

2020/04/14 (Tue) 04:51:11

田中一郎、異世界へ行く113

~前回までのあらすじ~
久しぶりの更新!!
以上!!

「田中!!」
「ハッピーさん!!」

田中は咄嗟にハッピーさんをアルル達に投げ、ATフィールドを展開させる!!

「どういう事だありゃ……、今まで拍子抜けするほど弱い敵しかいなかったってのに……」

驚愕するシェゾに説明を始める中山大。

「あの敵はどうやらウイルスのようなものを打ち込まれて凶暴化した怪生物かと思われます」
「うわあああ、しゃべったああああ!!」
「あ、いきなりすみません。私は感田未来大学の……」
「いや自己紹介などいい、田中は奴に勝てるのか?」

冷静に田中とハンターの戦いを見て問いかけるサタンであったが、田中は押され気味であった。
無数に触手を伸ばして田中を絡め取ろうとしながら、口からは強酸が混じった光線を吐いて攻撃してくる怪物!!
身のこなしと鍛錬を重ねた(大嘘)奥義でそれらを捌いて行くも、田中には怪物に攻撃を当てる事ができていなかった。

「ボ、ボク達も協力したいよ! ハッピーさん! このバリアを解いて!!」
「ダメです」
「どうして!?」
「あなたがたに命を落とされては……きっと彼も悲しみます……、それに」
「それに……?」

田中が怪物に吹っ飛ばされて地面にうずくまる。

「おい本格的にまずいんじゃあねえのか!? こんなところで待ってたって田中がやられるだけじゃあねえか!?」
「……何だ!?」

ラグナスは田中の身体が光り始めている事に気がついた。

「な、何あれ!? もしかしてまたパワーアップするの田中!?」
「……打つ手がなくなって自爆でもする前兆じゃねえのか? でっ!」

冗談を言うシェゾに拳骨をかますルルー。
一瞬、凄まじい臭気が辺りを覆い、思わず鼻を摘まむどころか、涙さえあふれてくるアルル達!

「くっっさ!! 何よこの匂い!!」
「田中から出てるのか!? あいつ、ゲロ吐いた時でさえこんな匂いしなかっただろ!!」
「カオスアーマーが田中さんに完全に順応したのですよ! 彼の窮地に呼応して身体能力を飛躍的に向上させてくれるはず!!」

トドメを刺そうとしたハンターですらたじろぐ最中、田中を覆っていたグロい肉塊が紫に輝く鏡のような装甲へと変貌した!!
そしてそのままハンターに一撃をお見舞いする田中!!

「カオス・サイキック・パンチィィィ!!」

無抵抗になったハンターの腹をぶち破り、そのまま崩れる怪物を吸収していくカオスアーマー!!
どうやらこの肉塊は倒した敵を養分として田中に更なる力をもたらすもののようだが、問題はその異臭!!
田中はすっかり慣れているようだが、他のメンバーはその臭気に堪えられず、そのまま気絶していた。

「田中……おのれ田中……!!」

最深部で田中達を待ち受けるヴゼルのオッサンもハンターもどきが敗北した事を察する!!

「せっかく異世界の生物兵器技術を入手して凶悪に仕立て上げた怪物すらも負かすとは……!!」

どっかの世界で流行したウイルス(通称Vウイルス)をこの世界の生物に流用してここまでのものに仕立て上げたらしい!!
そして凶暴化した動く怪植物をもなぎ倒し、サタンの部屋までやってきた一行。

「ここは……私の部屋だ」
「何か暗いな、どうなってんだ? ライティングの呪文すら効果ねえし、まるで光を吸い込む強大な闇が拡がって……」
「しまった……こいつは罠だぜ!! おそらくこの空間を覆っている何かがいやがる!! 魔法が効かねえのもそれが原因だ!!」
「何だと!!」

目の前に拡がっていた闇の一部から不気味な笑みを浮かべた女性の顔が一つ……また一つと現れる!!

「な、なんだこいつは……」
「気持ち悪いじゃねえかオイ……」

無数に現れた女の顔が田中達を不敵な笑みで出迎える!! 田中達はこの罠がはられた部屋を突破できるのか!! 続く!!(多分)
132:えころ :

2020/04/19 (Sun) 23:08:03

田中一郎、異世界へ行く114

~前回までのあらすじ~
顔が増え増え増える!
以上!!

「とりあえず先手必勝だ!!」
「やめろ死亡フラグ立てんじゃねぇ……、つっ!?」

田中達は突然頭を抱えて苦しみ始める!!

「ど、どうした……お前達!?」
「ちょ、超音波みてえなのが頭にガンガン来やがる……、気……気が狂いそうだ……!」
「何!? こ、こいつらがそれを放っているのか……私が何とかするしか……!!」
「さ、サタン……こいつらに直接攻撃するのは多分危険だ……! ヴゼルの野郎の事だから罠を……」
「分かっている田中、私達はお前がいない間も色々な怪物と遭遇し、乗り越えてきた……」

しみじみ語るサタンだったが、別にサタンが役に立っていた場面はそう多くはなかった。

「だからこそ! 今こそ私が役に立つときなのだ! 行くぞカーバンクルちゃん!!」
「ぐ?」

カーバンクルも別にこの超音波の影響を受けているわけではないようだった。
不吉な女の顔に向かってサタンがカーバンクルを掲げて放つ!!
合体技!! カーバンクルちゃんラブフラッシュ!!
ルベルクラクから放たれる強力な光が不気味な女の顔を包み込む!!
女の顔は耳をつんざくような悲鳴を上げてそのまま光に吸い込まれるようにして消滅していった!!

「はーっはっは!! どうだ!! これが我々の力だ!!」
「すっごーい!!」

飛び込んでくるアルルを満面の笑みで受け止めようとするサタン……だったが、アルルはカーバンクルを抱きかかえていた。

「こんな事もできるんだね!! ありがとうカー君!!」
「ぐー!!」
「お、おい……これは我々の……」
「何が我々だ……ほとんどカーバンクルのお陰じゃねーか……」
「う、うるさいぞ闇の魔導師!! あのままじゃお前達がやばかっただろ!!」
「そうだ、田中!! 田中は大丈夫!?」

田中は横たわったまま目を覚まさない……。

「ど、どうした!? まさか強力な催眠でもかけられてるのか!?」
「起きてよ田中!!」

その時、田中の身体から謎の存在がふっと飛び出してきた。

「……てめえ、何者だ!?」
「た、田中から変な人が出てきた!?」

警戒するサタン達。しかしラグナスは彼が敵でない事を察した。

「……この人は敵じゃない……、田中という少年から出ていた強力な気はもしや……」
「おいお前、こいつが何なのか分かるのか!?」
「でも確かに。今まで田中がこれだけ強かったのは不思議だわ。この男が……」

目の前にいた若い男はゆっくりと口を開いた。

「私はイナ……」

が、その瞬間、アルル達の視界は強烈な光に包まれ、光が消える頃にはまた田中が目を覚ましていた。
しばらく呆然としていた一同だったが、田中はふっと笑ってこう告げた。

「そこの黄色い生き物は本当に何でもお見通しだな……、さて、ヴゼルを倒しに行くか」

そうして背を向け歩いて行く田中の背後を元気にくっついていくカーバンクル。
何が何だか分からぬまま追いかけるアルル達!! ヴゼルが待つ最深部はもうすぐだ!! 続く!!(多分)

「決着の時は……近いか……、誰も彼も役には立たなかった……、しかし」

ヴゼルはにやりと笑っていた。

「やはりあのガキではなかったか……。私に対する真なる脅威は……」
133:えころ :

2020/04/25 (Sat) 11:05:22

田中一郎、異世界へ行く115

~前回までのあらすじ~
ヴゼル様のところまでゴーゴーゴー!
以上!!

サタンの部屋を出た田中達は奇妙な空間へやってきた。
そこは一件薄暗い洞窟なのだが、急に寒くなったかと思えば蒸し暑くなったり、終いには雨まで降るという場所であった。

「……何ここ」

少し不安そうな顔をするアルルに説明を始めるサタン。

「ここはアルルのスウィートルームへ部外者を立ち入れないために作った険しいダンジョンだ!」
「で、そのダンジョンは今やヴゼルが時間を稼ぐための場所でしかなくなってるってわけだな」

田中が放った一言にむっとするサタンだったが、仲間達が頷いていたので言い返せなかった。
しかも立ち入った事が知られたのか急に登場!! 無差別殺戮マシーン!! オクトマンティス!!

「何だこいつは……、ヴゼルの手先か……」
「下が……」

目にも留まらぬ速さで投げられたナイフが田中の頬をかすって血が噴き出した!!
仲間が心配する余裕すらないと咄嗟に悟った田中!! もちろん抵抗する!! 重力で!!

「グラヴィティ・サイキック・ストリィィィム!!」

放たれた重力波が時間を歪め、オクトマンティスの動きが鈍ったその時!! 繰り出される!!

「トリニティ・サイキック・パァァァァンチ!!」

強烈な一撃がオクトマンティスの頭部にぶっささるが、なんと敵は破壊した部位を再生させ、これを耐え凌ぐ!!
しかも世にも奇妙な叫びをあげ、田中の背筋を凍らせるのも束の間、仲間と思しき個体が次々増援に駆けつけてくるではないか!!
田中はハッピーさんを使ってATフィールドを展開!! アルル達がようやく敵の攻撃を受けたと認知するまでの出来事であった!

「田中! 大丈夫か!! 全然見えなかったが……かなりやばい敵だな!!」
「ああ……だからこいつらを仕留めるには多少の時間が必要だ……この防御結界が崩壊し、奴らが乗り込んでくるまでのな……」

そして瞬く間に結界はぶっ壊され、オクトマンティスが田中を仕留めようとしたまさにその時!! 倉山のピストルからブチ放たれる!!

「マスター・サイキック・オーバー・バーストォォォ!!」

銃口から放たれた強烈な光の粒子がオクトマンティスどもを飲み込み、細胞を徹底的に破壊し尽くす!!
何度も何度も再生を試みるマンティスどもだったが破壊の粒子が再生に順応するかのように反応するため無駄無駄ァ!!
こうして敗北したオクトマンティスの体液がベチャベチャァ!! とブチ撒かれ、田中達は先へ進むのであった。
その後もグロテスクな敵やオクトマンティスどもを退け、ついに来訪!! サタンの元スウィートルーム!! ヴゼルの根城へ!!
念のためハッピーさんで田中達の位置に合わせて移動する結界を張りながら進んでいくのだが……。

「よく来たな田中!! だが私がお前と会う事などない!! 地獄へ帰れィ!!」

ヴゼルの声とともに超規模無差別殺戮マシーン・TAGLER-2020が出現!!

「貴様!! アルルと私のスウィートルームを返せ!!」
「そんな事はどうでもいい!! ヴゼル、こいつを屠った後はいよいよてめーの番だ!!」
「はっはっは!! やれるものならやってみるのだな!!」

自信たっぷりのヴゼルおじさんVS田中の皮を被ったイナちゃんの対決がいよいよ開幕!! 続く!!(多分)
134:えころ :

2020/05/16 (Sat) 15:34:39

田中一郎、異世界へ行く116

~前回までのあらすじ~
ヴゼルとの二度目の決戦が幕を開ける!!
以上!!

「はぁっはっっは!! 喰らええええええいっ!!」

ポチっと音が聞こえたと同時にがぱぁっと装甲から砲台が現れ、核ミサイルが撃ち込まれる!!

「危険だお前ら!! 早く避難を……!!」
「冥土の土産に教えてやろう、田中とサタン……このミサイルは発射されたと同時に既に高濃度の放射性物質がブチ撒かれる。従って……」
「ペラペラしゃべってんじゃねえ、ぶっ壊してや……」
「アルル……お前達!!」

サタンの声に振り向くとアルル達は肉体がドロドロと溶け始め、身体が崩れ始めていた!!

「なっ……、被爆してもいねえのにこんなバカな!!」
「ふっふっふ……余所見などしてる場合かな田中」

田中の眼前のすぐそこまでミサイルが迫り、そして……ミサイルは轟音を立てて爆風を放ちサタンも衝撃で吹っ飛ばされてしまった。

「田中あああああああ!!」

叫びも虚しく、サタンは崩壊した部屋から投げ出され、そのまま落下していった……。
しばらくしてTAGLERから降りて周囲を見渡すヴゼルだったが、そこに田中達の姿はなく、また周囲に生体反応がない事も確認した。

「はっっはっっは!! やはり私の勝利だ!! 目障りな虫けらどもを駆逐し、地球を浄化したあとすぐ我がモノとしてくれ……」

何かがヴゼルの身体を貫いた。恐る恐る後ろを振り返るとそこにはイナシクサがいた。

「貴様……田中の中にいた男……、そして私に近い何かというのは……」
「そうだ、私は貴様より生まれ出たものだ……」

ヴゼルは刃をへし折り、イナシクサに向き合う。

「ふん、私の一部が何故反逆をするのか理解に苦しむが、もはやそんな事などどうでも良い。障害になるなら貴様も始末するまでだ」
「それができれば……だがな」
「……!?」

TAGLER-2020が操縦してもいないのに勝手に動き始めていた。ヴゼルに向けて攻撃を放とうとしている。

「貴様……、何をした」
「……それは言えないな、終わりだヴゼル!!」

イナシクサは光の刃をヴゼルに向けて複数発射するもヴゼルは余裕とも取れる笑みを浮かべてホーリーなんとかかんとかをぶちかます!!
次いでにTAGLER-2020も動きを止め、再度ヴゼルは乗り込む!!

「終わるのは貴様だ、私の一部よ!! 所詮私の複製でしかない貴様が本体の私に適うほどの事などあるま……ほげっ!!」

ヴゼルの尻に激痛が走る!! そこには殺めたはずの田中がおり、ウルトラサイキックフィストがヴゼルの肛門を直撃していたのだ!!

「き、貴様……。バカな……どうして……複製がいなければただのクソガキに過ぎ……おげげげげげええええ!!」

田中は肛門に突き刺した腕をぐるぐると回転させ、ヴゼルの体内を焼き尽くす!! バーニングサイキックフィスト!!

「いい加減にしろ……デスシャイニング……」

瞬間操縦席のガラスをたたき割った光の刃がヴゼルの首をぶっ飛ばし、そのまま機外へと放り投げられるッ!!
ヴゼルの身体をそのまま消し炭にした田中はそのまま大技をぶちかましてTAGLER-2020をポンコツにする!!
そしてイナシクサは転がったヴゼルの首まで歩いて行く。

「今度こそ終わりだ……消えろヴゼル」
「ぐぅ、こんな事が……私は敗北するわけにはいかぬ……」

トドメを刺そうと歩み寄るイナシクサに対し、急に不敵な笑みを浮かべたヴゼルは何と……!!
触手を伸ばしてイナシクサを絡め取り、あっという間にイナシクサを吸収し、復活を遂げてしまった!!

「なっ……」
「田中一郎、私を追い詰めた気でいたが残念だったな……所詮私の身体の一部がどんな策を練ろうと私には届かんのだよ」
「てめえの肛門には俺の拳が届いてたんだがな……、まあそれなら仕方がねえ、俺がタイマンでてめえに勝つだけだ」

構える田中とヴゼル!! 一対一の対決を制し、歴史の勝者として名を残すのはどちらか!! 続く!!(多分)
135:えころ :

2020/07/01 (Wed) 03:07:10

田中一郎、異世界へ行く117

〜前回までのあらすじ〜
田中とヴゼル、最終決戦!!
以上!!

「行くぞ田中ァァァ!!」

田中に向かって攻撃を放とうとするヴゼルだったが、身体がボロボロと崩れ始めた!!

「だ、ダニィ!? ご、ごれ゛はぁ……!!」

そしてまた首だけになり、しかも消えかけていくヴゼル。

「罠だったのか……あの身体の一部はこうして私が吸収する事すら見越して……仕組んでいたものだというのか」

ヴゼルの前にいた田中が見る見るうちに姿を変える。目の前にいた田中こそがイナシクサ本体だったのだ。

「この城にいた生きとし生ける者どもは別の空間に転移させていたという事か……全ては貴様の見せた幻影……か」
「一人だけ……別の時空に移せなかった者がいる……まぁそれはもうどうでもいい事か」

イナシクサはヴゼルにトドメを刺した。しかしそれでも彼にはまだ違和感があった。

(おかしいな……こいつが消えたら私も……)

直後イナシクサの視界の光が消え、周囲が闇に覆われた。

「こ、これは……!?」
「はっはっは!! 私の分身よ!! まさか私と同じく複製を作れるまでに力をつけていたとは驚かされた!!」

声は天から聞こえてくる。とはいえ、上を仰ぎ見ても真っ暗な世界ではヴゼルの姿を目視する事すら叶わない。

「だが!! お前の茶番に付き合ったお陰で私もようやく本領を発揮できる!! 今のお前では決して届かぬ力を味わうが良い!!」

ファイナルセイントバーストォォォォォ!!

イナシクサは攻撃を感じる間もなくあっという間に消滅してしまった。だがヴゼルはもうこの世界には用はないと言わんばかりに身を翻す。

「ふっははは!! 今の私はスーパーヴゼル!! もう何が現れようが敵ではない!! この世界はもうすでに掌握したようなもの!!」

スーパーヴゼルは拳を振り上げ、空間に大きな穴を開けたかと思いきや、その中に勢いよく飛び込んだ!!

「今まで散々私を弄んでくれたアルルどもやあのクソガキも直接ぶっ滅ぼしてくれよう!! スーパーヴゼル、参るぅぅぅ!!」

欲が出てきたスーパーヴゼルおじさまはなんと別の時空へ逃されたアルル達を探し始めたのだ!!
その頃、田中とアルル達は時空を彷徨い、色々な世界に次々と飛ばされていた。

「イナシクサに任せてる間に一応俺達はヴゼルを倒す秘策を見つけなきゃならねえな……」
「ど、どうしよう……もしあの人が負けてたら世界はヴゼルのものに……」
「そりゃ最悪の状態だが、そうなっちまったら俺らがヴゼルを仕留めるしかなくなるな……」

スーパーヴゼルおじさまは本来田中がいた時代で田中やアルル達を探すも見つからない!!

「あのラグナスとかいう勇者はどこから来たか知らんが、あの世界に繋がっていたルートを虱潰しに辿れば奴らと合流できるはずだ」

スーパーヴゼルおじさまが田中達を追跡する!! 果たして田中達はおじさんに見つかってしまう前に強くなれるのか!! 続く!!(多分)
136:えころ :

2020/07/03 (Fri) 12:14:23

田中一郎、異世界へ行く118

~前回までのあらすじ~
スーパーヴゼル爆誕!!
以上!!

時間……いや田中(イナシクサ)がオクトマンティスどもをぶっ倒したところに戻る!!
スッと田中の中からイナシクサが現れる!!

「お、お前はさっきのイナとか名乗ってた男!!」
「キミはボク達の味方なの!? でもどうして田中の中に……!」
「伝えたい事は一つのみ。中山さん、アルル達とそして……田中を別の世界へ避難させて欲しい」

田中は目を覚まし、拳を怒らせる。

「はあ!? 何言ってんだよ!! ヴゼルの野郎をぶっ飛ばすしかねえだろ!! 何ビビり腐ってやがるんだ!!」
「田中……私は嫌な予感がするのだ。確かにこのままヴゼルのところまで向かえばそれを倒すこと自体は可能だろう……だが」
「だが、何だよ!?」
「さっき倒したヴゼルも偽者だった。という事はこの城に潜んでいるヴゼルでさえ影武者の可能性がある……」
「そ、そんな……」

田中は叫んだ。

「んなの関係ねえよ!! この先にいるのが偽者だろうが何だろうが、ぶっ飛ばせばいいだけだ!! そうだろお前ら!!」

田中はアルル達を見るが、誰もが俯いて首を縦に振ろうとはしなかった。

「な、何だよお前らまで……。ヴゼルはこの世界を滅茶苦茶にしてんだぞ!! 悔しくねえのか!! おいサタン!!」
「田中……。私達はお前やそこの男がいない間色んな怪物を仕向けられたのだ……」
「だ、だから何だよ……」
「怪物でさえも特異な能力を持ち、窮地に立たされた事が何度もあった……」
「知らねえよそんなの!! ぶっ飛ばせば良いだろうが!!」

イナシクサは田中の肩を叩いた。

「田中。私はヴゼルの囮になる。奴に勝利したら必ず合流する……。しかし……」
「しかし、……何だよ?」
「敗れたときはお前達が別の世界で奴に勝つ術を見つけてくれ。このまま全滅させる事を奴は目論んでいるかもしれん」
「……何だよそれ、ここまで来て逃げろって言うのかよ……!!」
「田中さん……。わたくしはその方のおっしゃる事に賛成ですわ……」
「はあ!?」

田中はウィッチをにらみつける。

「この先にいるのがまたそのヴゼルの偽者なら不意を突かれて敗北するだけ……それなら」
「どこかの世界に一旦は逃れてヴゼルに対しての有効打を見つけるしかねえって事だな」
「ふっざけんな!! そんなもんあるかどうか分かんねえだろうが!! お前らこの世界を捨てるつもりなのかよ!!」
「田中、ヴゼルの狙いはお前達だ。たとえ私が奴に敗北してもお前らが生きていると分かったら奴はそれを優先するだろう」

田中は黙り込んだ。そしてハッピーさんの手によって田中達は別の世界へ送られてゆき、イナシクサは田中に化けて見せかけの複製を作り……。

「おい……私はどうすれば良いのだ?」
「……!?」

イナシクサの後ろにはサタンがいた。彼だけは何故かこの世界に残されたままだった。

「……危険だから逃げた方がいいんじゃないか」
「断る。ここは私の城だ……。そこで好き勝手しているヴゼルに文句を言わなければ気が済まん」
「……そうか」
「それにお前一人に全てを任せて逃れるなど闇の貴公子の名が廃る!!」

もう既に廃れているのでは……と思ったイナシクサだった。
そして田中達は今もアテもなく異世界を彷徨っているわけだが……。
絶望的なニュースが飛び込んできた!! ハッピーさんから!!

「大変です!! 田中さん!! ヴゼルが……あなた達を追い始めています!!」
「はええよ!! くそっ!! どこがハッピーだ馬鹿野郎!!」

絶望的な状況だが幸いヴゼルおじさんは田中達を見つけてはいない!! 急げ田中!! 続く!!(多分)
137:えころ :

2020/11/27 (Fri) 12:26:27

田中一郎、異世界へ行く119

〜前回までのあらすじ〜
魔神ヴゼルはアルル達の世界を支配するに足る状況にあった。
しかし彼はそのアルル達や田中に執念を燃やし、彼らを滅ぼす事を決意。その後を追うため、世界を縦断する。

一方、田中達はヴゼルの一部であり、善の心を持つイナシクサの意思を継ぎ、ヴゼル討伐のため、複数の世界をあてもなく彷徨っていた。

ー以上ー

田中は様々な世界を彷徨うその間、ある事が脳裏を駆け巡っていた。
それはヴゼルの紛い物と戦っている間、身につけた強烈な匂いのする変なアーマーの事である。
いつの間にやら匂う事すらなくなったそのアーマーは果たして何かの役に立つのだろうか、そう考えていた。

「田中、どうしよう……ヴゼルを倒すためにはどこで力を身につければいいのかな」
「……分からねえ、だが単純に力だけで打ち負かすのは困難だろうな」
「じゃあ俺らはあいつに見つからねえようにどこまでも逃げ延びるしかねえって事か?」

田中は世界を跨いだ今の状況に意味があると考えていた。

「俺はあいつを信じるよ、……こんな状況でも反撃可能な機会が巡ってくる事をな」
「具体的にどうすればいいかも分からないのに、そんな悠長な……」
「今までだってそうだったろ、お前らも……俺も地獄に行った時はおしまいかと思ったがあいつと一緒に脱したんだ」

田中は決意めいた顔を仲間に見せた

「ヴゼルの野郎が俺らを追いかけてきているこの状況が、俺らが窮地から脱せる機会なのかも知れねえ」
「……そうだな、私は地獄に落ちた事がないから分からないが、そんな窮地から脱せた君が言うなら……あの男を信じよう」
「もちろんボクも信じるよ!」
「ちょ、ちょっと……信じるったって何の考えも方法もないんでしょ?」
「そんなもんはこれから見つければいいだろ、さっさと行くぞ」

それから数時間経ち、世界を跨いで歩き続ける田中達だったが、仲間が休息を訴えてきた。

「ね、ねぇ……さすがに休憩しましょうよ? わたくし足がパンパンですわ」
「あん? もうバテたのかお前ら?」
「はぁはぁ、田中はすごいな……、汗ひとつかいてないじゃない」

言われてみれば田中はいくら歩いても筋肉疲労どころか体温の上昇、発汗すらしていなかった。

「あんたもしかしてゾンビなんじゃないの?」
「馬鹿言うんじゃねえ、ゾンビだったらこんな意識がはっきりしてるわけねえだろうが」
「で、でも一度は死んだ身なんですのよね……?」
「てめえらの世界だって死んでも蘇生する術があるんじゃねえのか!? 今更何を不思議がってんだよ!」

田中はプイ、と向きを変えてズカズカ進んでいく。しかも気のせいか足がさらに速くなってるようにも見える。

「は、速いよ田中……、おかしいよその身体能力……」
「うるせえ、魔法が使えるならそれでも使ってついてこい、来なきゃヴゼルに追いつかれるだけだ」
「お前……今ヴゼルがどこにいるのか分かってるのか?」
「お前らには見えねえのか? 歩いてるといやでも奴の姿と場所が目に入ってくるんだが」
「見えねえよ! お前やっぱどこかおかしいぞ!」

アルルが目を輝かせていた。

「いいんだよ、おかしくっても!」
「は?」
「だってボクらにできない事を田中ができるんだよ? それってすごい事じゃん!」
「は、はぁ……まぁヴゼルがどうしてるかが分かるというのは心強いけれど……」
「だが、それだと俺らがこいつに追いつけなくなるかもだろ、何か釈然としねえなぁ」

シェゾは前にも田中が急に強くなった事を思い出し、これもそれと似たようなもんかと思う事にした。
だが田中がいくら変わろうとも事態が好転しているわけではない。果たしてヴゼルを撃退する術は見つかるのか。

ー続くー
138:えころ :

2021/02/23 (Tue) 13:25:58

田中一郎、異世界へ行く120

~前回までのあらすじ~
ヴゼルおじさんから逃げ続ける田中達。
田中はヴゼルの姿が見えていると言い始めるが……。

―以上―

一方、スーパーヴゼルこと魔神ヴゼルおじさんはケバブ売りの屋台が目に留まっていた。

「一つくれ」
「あいよ」

受け取ると同時に瞬時にいなくなるヴゼルおじさん。食い逃げである。

(先回りしたり、罠を張るなどということは奴らの居場所を特定してからでないと難しい……)

ケバブをもちゃもちゃ食いながら考えるヴゼルおじさん。

(私の分身は……田中に力を与えた挙句、何やら協力者のようなものまで用意していたが……)

ヴゼルおじさんはあることを閃いた。そしてケバブの残りを口に全て押し込んだ。
そして田中、異変に気付いたのはやはり彼だけであった。

「……」
「……お、おい……どうした田中? 急に立ち止まったりして」
「ハァハァ……、よ、ようやく休憩する気になりましたの?」
「……追ってこない」
「え?」

アルルは思わず聞き返した。

「ヴゼルの奴が俺達を追うのをやめて、どこかへ行こうとしている」
「……もしかして、ボク達を追うのを諦めたの?」
「本当か? ……しかしどうして急に」
「わ、わたくし達は助かったってことですか?」

田中は首を横に振った。

「……あいつがそう簡単に俺らを見逃すとは思えない。多分追うより良い方法を思いついたんだよ」
「……追うより良い方法?」
「追うより良いって何だよ……? あいつの狙いは俺達だろ?」

田中は踵を返した。

「ど、どこ行くんだよ……?」
「ヴゼルを追う。それしかねえ」

とんでもないことを言い出した田中を引き留める一行。

「な、何言ってんだよ! ヴゼルに勝つ方法だって分かってないじゃん!」
「そうですわ! せっかくヴゼルが追うのをやめたのですから、奴を倒す方法を見つけるのが先決……」
「お前たちに着いてこいとは言わん、ここは俺一人で奴を倒しに行く」
「正気かお前! それができたならお前の中にいた男だって望みを託して逃がしたわけないだろ!」

田中は構わず進んでいく。

「奴が最悪なことを思いついたなら……俺が止めるしかねえ、あいつだってきっとそれを望むはずだ」
「無茶だよそんなの! ねえ中山さんも何か言ってよ!」

ハッピーさんに映った中山大も重い口を開いた。

「……田中さんが正しいです。……ヴゼルはあなた方を追うより手っ取り早い方法を考え、それを実行しようとしているのでしょう」
「何なんだよ、その追うより良い方法って!」
「ヴゼルは誰かを利用する方法を思いついたのかと。そしてその誰かとは……」
「お前たちはここで待っていろ。……奴を止めて必ず戻ってくる」

田中はハッピーさんを持って走って行く。足が速すぎてアルル達でも追いつけない。

「田中!!」
「そんな……滅茶苦茶ですわ……、何のためにヴゼルから逃れていたと言うんですの……」
「田中……一体ヴゼルが何を企んでいると言うんだ……」

訳も分からないまま異世界に取り残されたアルル達。
田中はとんでもないことを思いついたかも知れないヴゼルおじさんを止めることにしたが、一体どうなるのか。

―続く―
139:えころ :

2021/06/07 (Mon) 23:19:06

田中一郎、異世界へ行く121

~前回までのあらすじ~
何やら悪い事を思いついたヴゼルは田中達の追跡をやめ、どこかへ去っていく。
しかし田中は悪い予感を覚え、ヴゼルの後を追う。

ー以上ー

「ククク……手始めに田中を絶望させるため、奴の元いた世界を滅ぼ……」

時空を越える穴を開いたヴゼルは閉口した。中に田中一郎がいっぱいいたからである。

「……!?」

思わず後ずさるヴゼル。だがいつの間にか背後にいた田中一郎から攻撃を受ける!

「エクセレント・サイキック・パンチィィィ!!」
「げぼわぁっ!!」

そして、ヴゼルは穴に吸い込まれ、中にいた無数の田中に取り囲まれる!

「な、何だこれは!! 全て消えろおおおおおお!! ファイナル・セイント…バーストォォォォ!!」

しかしヴゼルの攻撃は虚空に掻き消え、どんどん田中が押し寄せてくる!

「い、意味が分からん!! 何だこいつらは!! どうして田中がこんなに増殖してるんだ!」
「答えを知りたいかヴゼル」

ヴゼルを田中地獄に突き落とした田中が近づいてくる。

「こ、答えだと……? 貴様こんなに自分が大量にいて気分が悪くならないのか?」
「ならないな、ようやくお前を仕留められるんだからよ」
「舐めるなぁ!! いくら増殖しようがクソガキはクソガキ!! このスーパーヴゼルの敵ではないわ!!」

ヴゼルは高速回転を始める!!

「はあああああ!! ヘヴン・サイクロ・スプリンクルゥゥゥ!!」

ヴゼルの身体が光の粒子となり、たくさんの田中に襲いかかる!!
着弾した田中は次々と消滅していく!!

「はーはっはっは!! この状態の私を殴るしか能のない貴様が倒す事ができるかな!!」

最初こそ勢いよく暴れていたヴゼルおじさんも徐々に息を切らして技の勢いが弱まる。

「はぁはぁ、ふん……この程度か、何がきっかけでこうなったかは知らんが私の敵では……」
『エクセレント・サイキック・リンチ!!』

しかし田中の数は減ってなかった。むしろヴゼルが暴れた分だけますます増えてるようだ。

「ごぐわっげぼっぎゃばわあああ!!」

吐血しながらぶっ飛ぶヴゼル。

「ななっ……何がどうなって……ひ、ひとまずどこかに逃げなければ……」

しかしどこへ行こうとも目の前には田中がいる。どこにでも田中はいる。

「摂理だよ、ヴゼル」
「摂理だと!?」
「俺がお前と出会って、イナシクサと出会って、ついにはお前をも飲み込む、その運命の形が今お前が見ているものなんだよ」
「理解できるか馬鹿が!! こんな、こんなアルルどもですらない、汚物色のクソガキに好き勝手やられる運命などあってたまるかぁ!!」

ヴゼルは再びあの回転してから身体を光の粒子に変える技をやろうとするも、田中の放ったパンチ一発で無力化し、吹き飛ばされていく。

「ごはぁぁぁぁ!! な、何故だぁぁ!! 私は魔神、魔神ヴゼル!! 世界を破滅に導き、浄化する者!! それがこんな……こんな……!」
『終わりだヴゼルゥゥゥ!!』

グランドフィナーレ・サイキック・リンチィィィ!!

「オアアアアアッ!! む、むねえええええええん!!」

ヴゼルおじさんは苦悶の表情を浮かべながら、静かに、ゆっくりと消滅した。

……。
そして田中は気がつくと自分の部屋にいた。

「あん? 何だ? 俺は一体……」
「一郎!! 今日こそ学校に行きなさい!!」

呆然とする田中の前に母親が現れる。

「やだよ、だるい」
「殺す!!」

刃物を取り出して襲ってきた母親を避け、頭をかきながら渋々答えた。

「分かったよ、行くよ」

そして外に出た田中は見覚えのある少女達と再会した。アルル達である。

「お、お前ら……どうしてここに」
「田中あああああ!!」

飛びついてくるアルルを避けようかと思ったが、避けると電柱に確実に頭部をぶつけるので受け止めてあげることにした。

「う、うえっ……よかったあ!! 勝ったんだね!! ヴゼルを倒したんだよね!?」
「……多分な」

正直田中には自覚がなかった。あの後、ヴゼルを追ったはずなのに何故かこの世界に飛ばされていたからだ。
そして何故かアルル達もここにいる。
ポケットの中に入れていたハッピーさんは故障してしまったのか全く動かないし、反応すらしない。

「多分って何だよ、ともかくお前も俺達も無事なら世界は平和になったってこったろ?」
「田中さんはともかく、わたくし達はどうやって帰ればいいんですの? 何故田中さんの世界に……」

ふと田中達の前にボロボロになった老人が現れた。

「はぁはぁ……、田中……よくもやってくれたな……許さん……」
「その声は……」
「魔神ヴゼル!?」
「いかにも……あんなわけのわからん幻術でこんな見窄らしい姿になってしまった……」
「おう、似合ってんじゃねーか」

カチンと来たヴゼルおじいちゃん。

「黙れィ!! 私がむざむざやられに現れたと思うのか!! 覚悟しろ!!」

最後の力を振り絞り、田中達に勝負を挑んできた!

「ほあああっ!!」
「オラァ!!」
「ぐばっ!!」

ヴゼルおじいちゃんはそのまま地面に倒れ伏し、太陽光に焼かれながら、空へと昇華していった。

「何だったんだ、全く……」
「ん、ヴゼルがいたところに穴が……」
「うわああああ!!」

アルル達は穴に吸い込まれて消えてしまった!!

「お、お前ら……、くそっ穴が閉じちまった!!」

田中はしばらくしてハァ、と溜息をついて学校へ向かう事にした。
そしてアルル達は……サタンの所へ戻っていた。

「おおアルル!! お前達!! 良かった……本当に良かった……!!」
「うん、ヴゼルは田中が倒してくれた。だからもう大丈夫だよサタン」
「散り散りになっていた奴らもまたこの世界に戻ってきているな、本当に終わったんだな」
「ああ、私は元の世界に帰れないが、君達の世界に平和が戻って良かった」

そして田中、公園の前に"ウゼル"と文字が彫られた変な像が建てられているのを見つけた。

「……」
「こんなところにいたのかお前」

尻高だ。田中は思い出した。元の世界に帰ったらこいつに一発必殺技をぶちかます事を。

「バーニングサイキックパンチィィィ!!」

腕も拳も燃えない。ただ回転させたアッパーが尻高を捉えようとするも避けられる。

「……いきなり何しやがる、しかも何だバーニングなんたらって! 厨二病発症してんのかてめえ」
「はっ、発症してねえわ! 今度はこいつだ! スーパーサイキックストリームゥゥゥ!!」

地面を思い切り踏みつけるが、田中の足に衝撃がジーンと伝わるだけでやはり何も起きない。

「……分かった田中、お前は一度医者に見てもらってこい、夢と現実の区別もついてないんだろ」
「ちげーよ!! ガチで使えるんだっつーの!! 今は調子が悪いだけだバーカ」

尻高と田中は仲良く学校へ向かっていった。
その後、田中は数学のテストで55点を取って父親に焼肉屋に連れて行ってもらいましたとさ、めでたしめでたし。

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